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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第3部 〜ダンジョン ”テール” 攻略〜

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134 ガスパー・ウォーカー

「リアムだと! あの忌々しいテーゼの小僧か!」


 突然、城に帰ってきたパトリックの背中から顔を出し僕をガキよばわりする影。よく見ると、その影は少し輪郭が小太い。


『だれ・・・』


 僕は目の前に急に姿を現した人物に、ポカンとクエスチョンマークを浮かべる。同時に、その不躾でいかにも高慢そうな声色から嫌な予感も・・・。


「ああ、リアムくんこちら。ウォーカー商会の会頭であるガスパー氏だ。ガスパー殿、彼がリアムくんです」


 すると、出会い頭にあんまりな挨拶をするその人物を見兼ねてか、はたまたそんな態度を取られた僕へのフォローか。しかし、ガスパーをズイっと前に誘導したその後ろで、誰にも聞こえないような小さな嘆息を「ふぅ・・・」と吐き出したことを僕は見逃さなかった。


『ウォーカー?・・・どっかで聞いたような聞かなかったような・・・』


 同時に、僕はその聞き覚えがあるようなないような性に首を傾げかけるのだが。


『ああ・・・ゲイルか』


 ほんの束の間、記憶を思い起こす必要はあったが、なんとかその性と同性であるゲイルとの連想に至ることに成功した。しかしなんだ・・・クラスメイトである彼の名前が直ぐに出てこなかっただけでなく、それを連想してめんど臭いと瞬時に身構えてしまうのはどうなのだろうか。顔には出さないが。


「・・・リアムです。よろしくお願いします」


 そして、僕は裏でウォーカー検索するデジャヴを感じながらもそれが余計なことと実感しつつ、なんとか面には出さずに顔を作ってガスパーに挨拶するのだが──


「フンッ! パトリック様、私もそう暇ではない。できれば早々に場を然るべき場所に移して()()したいのだが?」


 ガスパーは、「フンッ!」とただ僕の挨拶を一蹴し、不機嫌そうに場所の変更をパトリックに願い出る。年下に、それもまあまあの年の差があるというのにその態度は器量が小さすぎるだろう。内面はどうであれ、見た目はまだ十分に子供である。


「そうですね。確かにここでは()()()()()()()をするには些か機密性に欠ける。客間にご案内しましょう。あそこなら、外に無闇矢鱈と会話を漏らすこともない」

 

 しかしパトリックはあくまでも、今目の前で起こっている異常自体には第3者として冷静に対応するようである。それにガスパーと彼の使用した言葉の齟齬も気になる。また、些かというのはこの場にいるここを駐屯所にしているジュリオに気を使ってのことだろうが、それがますます話をきな臭くさせる。


 ・

 ・

 ・


「それはおかしい。話に僕の記憶との繋がりが見出せない。何より息子さんの言い分だけで、正当性が全くない」

「ではまさか、うちの息子が嘘をついたとでも?」


 場所は変わって城の応接室。話の冒頭、つまり今回どうして自分が呼ばれたのか、そしてガスパーがどうしてこの場にいるのかの説明が済んだところで、即、反撃に出る。


「これまでの話を総合すると、そう判断するのが妥当かと」

「ふ、ふざけるな!それを言うならば、貴様の発言こそ正当性がないであろうが!」


 唐突の奇襲になんとか食い下がって反論するガスパー。しかしそれでは、自分で墓穴を掘っていることに気づかないのだろうか。自分で自分の言っていることに正当性がないことを最早証明している。彼も大商会を率いる会頭として、一代でこうして縁も所縁もほとんど皆無である僕をパトリックに呼び出させるくらいには力のある地位を築き上げたらしいので、ある程度の資質はあるのだろうが・・・やはり、僕みたいな子供からいきなり図星を突かれるとは思っていなかったのだろうか。


「では、僕が恣意的にウォーカー商会を無碍にして目の敵にしていることも、他商会と結託してガスパー様を陥れようと策略していることもないとをこの場で宣言しましょう」

 

 当然、なんのリアクションもなく彼らを陥れる理由も必要性もない。仮に僕がウォーカー商会をよく思っていなかったとしても、それは彼らの行動があってのもので、あくまでも正当防衛である。


「ぐぬッ!それは・・・!」


 それを聞いたガスパーがたじろぐ。ポイントは、「この場で」だ。


 今回の話の顛末はこうだ。ウォーカー商会の会頭であるガスパーがとある情報筋から得た情報で、僕が贔屓にするテーゼ商会や同じクラスに在籍するエリシアとの繋がりから、彼女の父であるヴィンセントと結託し、今やノーフォーク1となったウォーカー商会を恣意的に陥れようとしているという。それを知ったガスパーは、公正取引に反すると領地の機関に抗議し、そこを管理しているパトリックが対応、彼の商会は前述した通り今やノーフォーク1大きな商会。そんな彼の妄言を無碍にすることもできず、白羽の矢が立った僕をこうして城に呼び出したというわけだ。 


「それに魔法箱然りパンケーキアイスクリーム然り、それぞれ開発理由は様々ですが、そんな未知の物に価値を見出して販売を決意したブラド商会とテーゼ商会には先見の益があってもいいでしょう。彼らはまだこんなに小さな僕が提案した商品を信じて、商品化した。そして僕にも、報酬として利益をもたらしてくれた恩人でもある」


 しかし、その情報筋というのもある程度想像ができるからため息が出る。どうやら、彼の息子であるゲイルが、僕の有る事無い事をこの父親に吹き込んだようで、今日は僕に抗議をしに来た・・・というところであろう。そしてあわよくば、自分の商会にも僕が特許を持つ商品の融通してもらおうと。


「どうやら、一段落つい・・・」


 そして、状況を見計らって話の行方を見守っていたパトリックが、この話し合いを締めようとするが・・・


「いいや待ってくれパトリック様。ほらみろ! 今貴様は奴らを恩人と呼んだ!であれば、奴らにとっては目の上のタンコブである我が商会を結託して陥れる理由があるではないか!」

「それは・・・」


 唐突なストップをかけられたパトリックが、困惑気味に眉をひそめて呟く。あまりの根拠もない言いがかりに、しかし、この場ではあくまでも第3者としてどちらにも傾きなく振舞わなければならない彼は否定することもできず、ただ当事者であるリアムとガスパーの話を審議する必要がある。


「妄言です。あなたは何を持って私の恩人たちがあなたを陥れようとしているとおっしゃっているのですか? 不正取引でもありましたか? それともあなたの商会にとって不利な交渉を無理やり強いられでもしたのですか?」


 ここで、僕はもう一押し、というか諦めの悪いこの大人に嫌気がさしていた。


「もしあなたがそんな根拠もなく彼らの名誉を傷つけるのはあまりにも自意識過剰。それこそ恣意的な発言です。取り消してください」


 言葉を大にして、打って出る。


「貴様一体何様の」

「言葉には気をつけたほうがいい。これはあなたの息子さんにも同じようなことを言わせてもらった記憶がありますが、あなたのその発言は、国の定める特許法そのものを否定するものだ。それだけ大きな商会をお持ちなら、特許の一つや二つはあなたの商会にもあるのでしょう?」


 そして、僕の反撃に逆ギレしようとしたガスパーに隙も与えずトドメの一撃で試合終了である。


「・・・今度こそ決まりですね。ガスパーさん。あなたの話は信憑性に欠ける。そして何より、そのような憶測だけで他の商会と交流を持って商売する彼を非難するのであれば、あなたの方が公正取引の規律に反することになる」


 完全に決まった。僕は少なくともこの時、そう思っていた・・・のだが──


「一つ、質問させてくれ」


 諦めの悪いガスパーは、話を簡単に終わらせようとはしなかった。ここに来て、僕に一体何を質問しようというのか。


「これは、数ヶ月ほど前のことだ。我が息子が、貴様がズルをしてスクールで特別な措置を受けていると言っていた。それはもう悪知恵を働かせて、親の立場を利用し、所得した特許も他人に開発させたもの。それを掠め取りその権益でデカイ顔をしている挙句、スクールでSクラスに上がれるはずの生徒を自分含めて虐げていると」


 どこの暴君だ、それ。言いがかりも甚だしく、聞いているだけで身に覚えがなさ過ぎて逆に頭がオーバーヒートしそうだ。

 そもそも親の立場ってあれか? でも昔人気だった冒険者組、旧アリアに所属していただけで昔ならいざ知らず、今の父さんたちにはそんな裏でブラームスの運営するスクールに不正取引を持ちかける力なんてないはずだ。 


「そんな現実性に乏しい発言を鵜呑みにしていたのですかあなたは・・・はぁ、それは」

「パトリック様。無礼は承知であるが、最後まで私に質問をさせてくれまいか」

「・・・いいでしょう。今、口を挟むのは余計でした」


 話を遮ったことを指摘されたパトリックが、会話から一歩退く。


「・・・そして、今度はスクールどころか学生の枠を超えて、成績優秀で己を脅かしかねない息子を標的にして、私的な場でも自分を虐げ始めるつもりだと。その手始めが、我が商会への恣意的な取引の制限であるとも。だから私は、図々しくも面会の約束も取らずにテーゼの会頭であるピッグ殿が商会へと帰ってきて早々に抗議に赴いたのだ。結果は散々であったが」


 果たして、パトリックの口出しは余計であっただろうか。こんな馬鹿げた話なら、パトリックが言ったように現実性も乏しく価値もない。聞く必要もないと思うのだが。


「しかし今こうして話せば、貴様はどうやらそれほどの愚か者ではないようだ。確かに、それだけ頭が働くのであれば十分な悪知恵を働けるかもしれぬが、知識においても今の地位にいるのが妥当に思える」


 急に大人しく、方向転換してきたガスパー。


「私はどうやらあまりにも熱くなり過ぎていたようだ。しかし分かってくれ。私も一代でしがない布売から落ちぶれていた我が家を立て直し、ここまでの地位と名誉を築き上げた。それがたった十にも満たない子供に脅かされそうものだったので、焦っていたのだ」


 さっきまでのあの偉そうな態度はどうした。


「その上で答えてほしい。この、次期領主候補であり、あらゆる領地の公的機関の重役を務めるパトリック様の前で」


 やりにくい。


「あなたは親バカなのですね。そこまで突拍子もない話を裏もなく信じてもらえて、ゲイルくんはとても幸せでしょうね」


 一気に立場が逆転した。これでは僕の方が嫌な奴だ。


「だいたい、今の話だけでは辻褄が合わない部分ことがある」


 しかし、今更僕までも物腰を変えたのであれば、話が一気にうやむやになってしまいそうだ。ここは己の態度を貫き通す。


「僕も会話の内容など詳しいことは知りませんが、先ほどあなたが話してくれた件の概要だけは聞いています。そしてあなたは今、自身が公正な商界を守るために動いたような口ぶりでお話ししてくれました。であれば、その後日にテーゼ商会運営の店で起こったいざこざはどう説明されるのです?」

「なんの・・・ことだ」

「とぼけないでください。あなたが商会を訪ねられた後日に、迷惑にもテーゼ商会でたむろし、商会の粗探しをしていた数人の男女のことですよ」


 反問。


「待てリアムくん。そんな話、テーゼ商会からは挙がっていないぞ?」

「それはそうでしょうね。あの時会頭であるピッグさんはその場にいませんでしたし、追い払ったのが従業員でもない僕です。黒幕がウォーカー商会だと決め付けたように言いましたが、実はその雇用主がはっきりとしたわけでもないんですよ」


 こうした商会間の揉め事を仲裁する機関に所属する、パトリックからの質問に答える。


「そうですね。なら今の発言は訂正させてください。ガスパーさん。あなた、その件に関して心当たりはありませんか? テーゼ商会を嗅ぎまわり、実質店を貶めるような行為を命令した記憶は?」


 しかし、ここはあえて話を踏み込むとしよう。もしこの黒幕が彼だったとして、一纏めにうやむやにされると後の祭りだ。ピッグには悪いが、手遅れにならないうちにカードを切る。


「それはない。この身に誓って・・・だ」


 が、なんとも予想外。ガスパーは返事に苦しむこともなく、自らの潔白を宣言する。 


「リアムくん。悪いが私もガスパー殿がそのような暴挙に出るとは考えにくい・・・というのが見解だ。何せガスパー殿のウォーカー家はオブジェクトダンジョンの登場による魔法革命の波に苦しめられた商家の一つだ。今でこそノーフォーク1の大商会となっているが、それはガスパー殿の手腕あってこそのことで、彼は他領から流れ込んでくる莫大な恩恵を様々な街の事業に投資する慈善投資家でもある」


 そして更に、パトリックまでもがそれに追随したのだ。


「だからなんだと・・・」

「だからこそ、私は表で堂々と胸を張れないような取引をするのが大嫌いなのだよ。もちろん、商売戦略として策を張り巡らせ機密にしておくことを悪とはしないが、それはあくまでも関係者全てに真摯であるべきである・・・と」


 僕はそのあまりにも斜め上な展開に、沸騰しそうになる。話を遮って、暴言を吐きそうになってしまうほどに。


「その昔だ。我がウォーカー家が布や衣服を売り生計を立てていた頃。オブジェクトダンジョンの出現によって起こった魔法革命により物の流通が格段に円滑になったのが、私の祖父が会頭だった時代だ」


 しかし、僕の今にも飛びかかりそうな姿勢も他所に、それから昔の回想に入るガスパー。


「その時だ。他領から商品を輸入する業者が一気に増えたこの時に、新規参入して来た商会の中でも一際際立っていた商会があった」

「その商会は、だ、リアムくん。王都に拠点を持っていて資金も潤沢で、あらゆる商品を仕入れては地元の商家よりも圧倒的に安い価格で商品を販売し始めた。均衡価格なんて一切無視してね」

「それに対抗するため、皆は知恵を絞った。しかし結局、ブランド、価格競争に挑み戦った者も次々と店をたたんだ」

「いわゆる寡占、いや独占状態だったんだよ」


 きっとパトリックも次期領主として、この領地の経済の歴史を学んだのだろう。ガスパーの話に合わせて、僕に必要であろう情報をちょこちょこ補完してくれる。


「そこから・・・どうやって現在の市場を築き上げたんですか?」


 僕はこの時少しだけ、冷静さを取り戻してその昔話に興味を持った。正直いって今はこのガスパーの態度の急変ぶりといい、気になることが多すぎるが、だからこそ、話を遮らないパトリックをここは信じることにする。


「・・・これは少々私としても自慢なのだが、私には空間魔法の才があったのだよ」


 その言葉を受け取り、話の続きをするガスパー。


「商人としてはこれさえあれば揺るぎない地位と報酬が得られるとさえ言われる希少属性だ。なんでも、ゲイルの話では君も使い手らしいが?」

「・・・はい」


 使い手というほど空間属性を専門にしているわけではないが、確かに僕も空間属性・・・というか全属性の魔法が使える。


「空間属性は魔法革命が起きて流通革命が起きた後でも重宝された。なぜなら、確かに魔道具によって移動時間の短縮は実現されたが、空間属性の魔石や魔道具はそれでも希少だったからだ」


 なるほど。確かに先日、僕がパッと即興で作った空間属性の魔石を見ただけでニカが取り乱して驚いていたのは記憶に新しい。


「それに対して人であれば人件費だけで話が済む。少々高い給料になることに違いはないが、それでも圧倒的に空間属性の魔道具を購入するよりも費用が安く済む」

「・・・・・・」

「だから私は、一人で運送業を始めたのだ。といっても、6割方は雇われだったが・・・」

「ガスパー殿は、家の商品に他領からの輸入品を仕入れ、地元の製品も扱う2足のわらじで商売を始めた・・・と私も聞いています」


 運転手、兼、倉庫といったところであろうか。魔法によって人の労働的価値がぐんと上がるのは、この世界では当たり前のことだ。


「はい、パトリック様。当時、私の家も落ちぶれていたから資金がない分どうしても仕入先と店を往復すれば、亜空間に無駄な空きができて効率が悪かった。そこで、余った空間を分譲してその商会に運送の話を持ちかけたのです」

「それから、その後の話は簡潔になるが、競争相手があらかたいなくなった頃にその商会は急に商品の値段を釣り上げ、悪評がたつようになった。最も、テコ入れすれば経済に大きな揺らぎを与えかねないと、機関が手出しできないくらいほどの勢力を一時期は保っていたんだけど、少し経てばこの街は自給自足できる町だし、テールもあった。極度な依存は避けられて、資産価値も業績も急激に下がって追い詰められたところを、それまで地道に資金を貯めていたガスパー殿がトドメを刺すように買収したんだ」


 それは鮮やか・・・と言っていいのか。逆境にも負けず、敵陣に潜り込みせっせと下積みをして、ついには下克上を果たしたというわけだ。


「・・・であればこそ、尚更納得がいかない。否定された後で失礼ですが、仮にこの事件の黒幕があなたでなかったとしても、どうしてあなたはこうして僕に八つ当たりするような真似をしたのです? そんなにも公正な取引を愛するあなたが」


 が、だからこそやはり分からなかった。そんな苦労を経て今や有数の企業家である彼が、こうして呼び出すまでして、僕を目の敵にしたのか。


「それは・・・ここまで仰々しい自論を語っておいて恥ずかしい話だが、きっと君の言った通り、私が親バカであったのだ」

「・・・は?」


 いや待て。このおっさんはここまできて一体何を言っているんだ?


「実の息子が可愛いばかりにその言葉を鵜呑みにし、こうして君の貴重な時間を奪う羽目となった。お二人の指摘した通り、私が冷静でなかった。許してほしい」


 ・・・ん?


「そして遅くなりましたが、パトリック様。途中、話を遮りダシに使うような真似をしたこと、深くお詫び申し上げます。お許しください」


 って!なに急にしんみりした話から一気に締めようとしてるの!?


「貴殿にはいつもお世話にもなっていますし・・・」


 ガスパーから謝罪されたパトリックが──


「リアムくんにも、妹が大変お世話になっている。であればこそ、両者の誤解が解けたのであれば、一先ず安心です」


 謝罪それを受けた。


「それから、先ほどリアムくんの話してくれた一件を調べたい。持ち上げておいて済まないが、やはり話しの流れからして現状一番疑わしいのは貴殿の商会であると言わざるを得ない。できれば、全面的に調査に協力してもらえるとありがたいのですが?」

「それはもちろん、全面的に協力をさせていただきます」


 が、同時に大事な約束も取り付ける。


「では、こう私の方から持ちかけておいてなんですが、このあと大事な仕入れがありまして・・・」

「調査の件は追って連絡しますので、その時はよろしくお願いします」

「はい。では失礼します・・・」


 そして、ガスパーは僕が唖然としていた間にいつの間にか去っていた。


 その後、ガスパーの見送りのためついていったパトリックも退室し、一人ポツンと残された僕はハッと正気に戻り、胸に不愉快にも残る靄を想起させることとなる。

 しかし──


『『どうして彼(私)は、あんな態度をとったん(の)だ?』』


 その靄を抱えていたのは、早々に部屋を退室したガスパーもまた、同じであった。

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