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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第3部 〜ダンジョン ”テール” 攻略〜

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129 毛並み

 始業式の会場である魔法練習場に向かうために、廊下歩き移動するリアム、アルフレッド、エリシア、フラジール。


「僕が助けるまでもなかったな・・・」

「いいや。僕は助けられていたよ、アルフレッド」


 なにせ、貴族である彼がそばにいるというのはこの上なく頼もしく、ああいう揉め事においては最強のアドバンテージであると言ってもいい。


「どうしてあんな無意味な嘘をついたの? きっとみんなあれが嘘だってわかってるわ」

「ううん。あの時あそこで言ったからこそ、あの嘘は別の意味を持つんだよ」


 どうやらあの威圧は、その魔法防御の高さ故に威圧が効いていなかった彼女には一つ強さに欠ける理解しがたい行動と発言だったようだ。


「多分・・・フラジールならわかるかな?」

「・・・はい。おそらくエリシア様とアルフレッド様は臨戦態勢をとっていた程度のこと、あまりお気に止められてはいなかったのでしょうが、あの時リアム様は、私たちにとってはぶつけられると少し恐怖を抱くくらいの魔力の圧を発しておいででした」

「2人はは魔法防御力が高いから気にもしなかったかもしれないけど、あの時魔法防御力100ぐらいの貫通を目安にした威圧を発していたんだ」


 あの場で唯一、このメンバーの中で僕の威圧を受けてしまったフラジールの解説を含め、僕はエリシアの質問に肯定して答える。


「ごめんねフラジール。巻き込んで」

「いいえ。咄嗟のことでしたから結果論になってはしまいますが、ああやって釘を刺しするのは有効な手段であったと私も思います」

「ありがとう」

「あっ! つまりリアムはその情報にあえて触れた後で嘘だと言って、脅したわけね!」

「なるほどな・・・しかし、それってデマか? あながち嘘ではないだろう?」

「いいやデマだよ。抗議に来た彼の父親が侮辱され、追い返されたってところがね」


 あの時の、ゲイルの言葉を思い出してみよう。


「それじゃあ貴様はどうだっていうんだ! 知っているんだぞ!新たに生み出したアイスクリームやパンケーキの菓子レシピを特許で占有し、あろうことか独占状態となってしまっている事を嘆き抗議に行った父を侮辱したことを!」


 相手の悪意に憤慨したように見せるも、周りを巻き込みながら横暴な行動だったと思う。それでも、認めてはいけない一線は守る。第一に、巻き込んだのはあちら。第二に、火蓋の切られた悪意には限りなく故意的に対処しなければならない。見て見ぬふりで先送りすると、どんな実効理屈を持ち出されるかわからない。


「『侮辱した』という部分と、『抗議に行った父をもてなしもせず足蹴に──』っていう部分に輪をかけて『デマ』って言ったんだ。別に誰も、僕が『レシピ特許を所得したことがデマである』なんて言ってないでしょ?」

「人が悪すぎるぞ・・・いや、しかしあの場では妥当であったか。にしても、どこでそんな知恵をつけてきたのだ?」

「ピッグさんからの受け売りでッ」

「・・・そうか」


 舌略を褒められた矢先、僕は彼の方を見て答えることはできなかった。本当は積んできた精神年齢自体が違うんです・・・なんて言うわけにもいかない。


 ・

 ・

 ・


「ほらほら! あそこにいるの、ティナとレイアじゃない?」

「一緒のクラスだったみたいだね」


 集会用に整えられた魔法練習場につくと、二年生が集まる集団の中に特徴的な紺色の耳を尻尾、そしてその隣に白く揺れる髪に新緑のような瞳の映える少女が周囲の友人たちと仲が良さそうに会話している姿を確認した。


「やっぱりティナはSクラスだったか」


 まぁ、それも当然といえば当然。ティナにはこの半年でこの国の言葉とともに、足し算引き算はもちろん、割り算引き算までを教え込んだ。学校側の計らいで留学生用の編入試験となったし、クラス認定試験でSクラス判定をもらってもおかしくはない。

 先生がよかったからね、先生がね、先生は誇らしいよね、生徒が順調な道を歩いて前を向いているとさ。

 微笑ましい光景を遠目に、先ほどまで抱えていたモヤモヤも忘れて、ただただ感傷に浸る。もし僕が飛越の特別入学をしなければきっと、あの輪の中に混ざっていたはずだから。


 ──午後。


「そうして、勇者として配下の竜を大量に率いる竜王に立ち向かったベルと十の精霊王だったわけだが、熾烈極めた戦いの末に竜王の魂を次元の狭間に封じ込めることで勝利した。しかしこの後にベルが姿を消したことから、いくつかの本でも様々な推測がなされており、その中でも『次元の狭間に竜王を封じ込める際の道連れとなった』あるいは『神の神域に招かれ箱庭の住人となった』という伝承が有力と見られているわけだが・・・」


 始業式を終えると、また、いつもの日常が帰ってくる。


「この時、次元の狭間に竜王の道連れとなった精霊王がいるのは知っているかな・・・ではリアムくん、答えたまえ」


 今、受けているのはアランが担当するダンジョン学の応用授業。今回の題目は100年前の聖戦の謎に歴史からのアプローチを試みるもので、基礎科目の全てを修了してしまった僕が受ける数少ない特別授業だ。


『いっそブラームス様に助力を願うか? いやしかしそれじゃあ・・・はぁ・・・』


 晴れた春空の照らす陽気な窓の外の光景にジッと視線をやりながら、僕は考える事に疲れていた。

 今日は朝から色々とあった。ティナの初登校日だったし、校門で知らない生徒に絡まれるし、一段落ついたと思ったらまたいるし、空の青色ってのは溜息に渇いた喉を水みたいにゴクゴク飲んだら潤してくれないかなだとか妙な感傷に浸ってしまうくらいに、僕の心は疲れている。


「リアム・・・リアム!」

「なに、エリシア?」

「何って・・・今は授業中でしょ、大丈夫?」


 ちょっとした哀愁を感じていると、突然の揺れが僕を襲った。揺れの原因は隣の席に座っていたエリシアだった。


「君が授業中にボーッとするとは珍しい。体調が悪いのかな?」


 前で教科書を片手に教鞭をとっていたアランも、ボーッとしていた僕の体の心配をする。


「・・・大丈夫です! すみません、ボーッとしてました!」


 数秒の間をおいて、ようやく状況を理解した。慌てて席を立ち、自身の健康状態を報告すると、クスクスと、教室のあちらこちらで席を立つほどの慌てようを笑うの声が聞こえてくる。

 僕は内心穏やかに腰を下ろした。

 特別授業は他のクラスも合同である。今朝のあれを見ていない彼らの純粋な反応は、僕には安心を与えてくれた。


「そうか。では改めて続きを ──で、百年前の聖戦で竜王を道連れにした命の精霊王であるが、先ほど例に出した有力説の前者は実はこの話をモデルとした想像であるという声もあり、結果、今一番有力な説はベルが箱庭の住人となったという説だ」


 授業が再開される。アランが深く追求しないのは、生徒への信頼がある故の気遣いあってのことだろう。


「このベルの昇格と精霊王のお隠れがオブジェクトダンジョンの発生の仮説にどうつながってくるかというと──」


 後ろから、アランが授業を再開しても、僕から外れないニヤニヤと不快な視線が一つある。


『ボーッとしてた僕が悪いけど・・・気持ち悪い』


 授業の声に耳を傾けつつ、気持ち悪さを紛らわそうとノートを確認しているフリをして無視を続ける。


『・・・外れた、か』


 後に外れた視線に安堵し、こちらも顔を上げて視線を前の黒板へと戻す。


 ・

 ・

 ・


「げ・・・ムム」

「?」

「なんでもない。それよりティナ、今日はどうだった?」

「はい。レイアのおかげで、上手くクラスに馴染めそうです」

「それは良かった」


 リビングのテーブルで広げた宿題ノートと隣り合わせに開いた虫食いのような板書ノートとにらめっこしながら、ティナにクラスの様子を尋ねる。


「明日は午前中特別授業がないので僕はダンジョンに行くから別々になる。ティナは今日みたいにレイアとラナと三人で登校するといいよ」

「はい。明日から楽しみです・・・」


 練習した文字の列を見ながら、優しく相好を崩す。インクのスクリーンに映して、今日のことを思い出しているのだろう。


「何かあったの?」

「そんなに大したことじゃないんです・・・」


 僕はほんの一瞬だけ、彼女が相好を崩す前の表情がこわばったのを見逃さなかった。


「スクールには他にも獣人の子がいて・・・その・・・」

「嫌なことでも言われた?」

「いえ!・・・みんな私に優しい人たちばかりでした・・・でもその・・・毛並みが・・・」

「毛並み?」

「はい。みなさん毛のお手入れが行き届いていて・・・だから」


 恥ずかしそうにモジモジしている。どうやら彼女が気にしていたのは毛艶のことらしい。

 寝食の環境も整って、最近はだいぶ血色も毛艶も良くなっきている。他の獣人の子との違いは僕にはかならずしも、わかるわけではない。色の違いで光の反射の仕方も変わる。きっと彼らにしかわからない微妙な差というやつがあるのだろう。


「私の手の届かない尻尾の毛並みを整えてもらえたら・・・嬉しいです」

「櫛で手入れするくらいなら、構わないよ」

「・・・ありがとうございます!」


 終始、言いづらそうにしていたが、ティナが新しい生活に馴染んできているようで、かなり嬉しかったりしてね。


「ふぅ・・・」

「痛くないかな?」

「・・・はぃ。気持ちいですぅ・・・」


 ふんわりもふもふとした尻尾を手に、櫛で毛並みを整える。

 櫛を入れるとビクッと体を小さく震わせるのだが、流すように櫛を動かすとふにゃーっと和らぐ表情がなんとも言えない。


『・・・こっちまで、穏やかになるよ』


 毛繕いの裏で、心を開いて豊かな反応を見せてくれている彼女に癒されていたことは、絶対に内緒である。





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