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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第3部 〜ダンジョン ”テール” 攻略〜

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117 襲来 キングトード

「あいつらの戦闘は・・・まだ終わっていない」


 それは討伐事例は過去に2、3件ほどで、滅多に姿を現さない幻のモンスター。


「最後のトードを倒してから出現までには5分ほど、俺とアイナも遭遇したことのない本当に珍しいモンスターだ。それにこのモンスターに一番詳しいのはおそらく・・・」


 俺は、後列ベンチに座る一人の人物に視線を移す。


「・・・僕かな?」


 そしてその視線の先にいたのは、この街のスクール学長であるルキウス・エンゲルス。


「はい、ルキウスさん。実は俺も、半年前にリアムから話を聞いて気づいたんですが、俺たちがパーティーをまだ解散していなかった頃、まだダリウスが副ギルド長だった頃の話です。こいつは更に昔から、ウチのパーティーメンバー数人とは面識があって、俺たちがこの街に来てからというものはよく飲みがてらに、仕事の愚痴をこぼしに来てました」


「だからアリアのメンバー方達には頭が上がらねぇんだよな〜。だが今ではリアムに愚痴を聞いてもらっている。あいつと話してると昔の皆さんと飲んでるみたいで、楽しいんだよ」


「今度またみんなで飲みましょうねダリウス。どうやらリアムが今度、新しい居酒屋?・・・というのを作るらしいわよ?」


「いいんすかアイナさん! いや〜そりゃあ願ってもないお誘いでさ〜」


 アイナの誘いにとても嬉しそうに賛同するダリウス。俺も酒飲みついでだったら、それも悪くないかもしれないが・・・──


「話を戻すと、このダリウスが副ギルド長だった当時、こいつがある問題をギルド長から任されたと嘆いていました。それが ──」


「ああそうか!そう言えば俺が対処する羽目になったあの時、原因を作ったこいつが入り浸っていたのがエリアAのボス戦場だったな」


 どうやら俺の想像は正しかったらしい。因みに当時、ダリウスがこぼしていた愚痴と言うのが──


「聞いてくださいよウィリアムさん!ギルド長から面倒臭い仕事を押し付けられて!」

「おうおう聞いてやれよウィリアム! 」

「うるせえぞカミラ! こいつはどちらかというとお前の担当だろうが!・・ッてか酒飲みすぎだっての!」

「ああ?うるせぇなぁ・・・あ、酒がない。お代わり!」

「エドガーちゃん止めてあげて? 私たちじゃ聞かないから」

「わかったよリゲス。・・・カミラ、飲みすぎだよ? お酒の飲み過ぎは体に良くない」

「はーい! エドがそう言うんならもうやめる〜」


 っと少しだけ戻りすぎた。ダリウスの愚痴はこの後・・・


「・・・あいつはお前の同輩だからなんとかしろってボス戦の慣習を破って半年以上もエリアAを占拠している馬鹿を納得させる管理体制を提案した上で、その決まりを成文化してこいって言うんすよ!? 普通特例で副ギルド長に就いたポッと出の俺にやらせますか!?」

「おう大変だな・・・まあ気張れや」

「頑張ってねダリウス!」

「そんななげやりな!・・・アイナさんまで〜」


 とまあこんな感じで、回想から解説ありがとう、過去ダリウス。


「で、そこでだ。俺がリアムから聞いた話だとなんでも時限式の魔法陣の実験も兼ねて、金も入るわであんたがボス狩りしてたって言うが、実はもう一つあんたには狙いがあったんじゃないかってな。流石に半年以上も魔法陣の研究だけでボスエリアに篭ったりはしねぇだろ・・・どうだろうか、ルキウスさん」


 俺はルキウスに自分の想像を伝える。もしこれが妄想ではなく事実だとしたら、彼はきっと──


「・・・フフフ」


 すると、何かを堪えるように苦しそうな声を漏らすルキウス。そして──


「アハハハハッ正解ですよウィリアムさん! 全くあなたもダリウスから話は伺っていましたが興味深い方ですね! もしリアムくんやカリナさんのお父様でなければ、私は今、あなたに是非一度お手合わせをと願っていたでしょう!」


「それは光栄だが、こちらからもそれは丁重にお断りさせていただこう。俺も子供達が世話になってるスクールのトップと妙な小競り合いをするのはゴメンだ。それに今はあまり時間もない。できればあいつらが戦闘に入る前にあんたの知ってることを、教えてくれないか?」


 俺はルキウスに再度尋ねる。


「わかりました。隠しボス・・・と言っても別に隠しているわけでもなく、僕も論文として提出している内容でありますからね」


 すると、この事実は既に論文として国に提出したと言うルキウス。


「そ、そうか・・・それは頼もしい」


 これは俺の怠慢だった。幾ら本格的な冒険をやめたとはいえ、今の俺の本業は探索者、他にも色々と雑用を引き受けたりしているが、未知のモンスターの情報が公に出てたってのに調べていないのは不覚だった。


「エリアAのみで確認されているこの現象は襲来と呼ばれ、突如嵐のように襲ってきては、挑戦者を一段なんて通り越して数段も上のステージへと引き摺り込む。まず初見でなんの対策もしてなければ、必ずと言っていいほどにその挑戦者達は死にます」


「おいおい、それは流石に過大評価なんじゃねえか? あそこは初心者用に設定されたエリアのボス戦場、そんな初見殺しで死んじまうなんざよっぽどメンドくせえ奴か、Aランク以上の強さを持つモンスターだぞ?」


 ルキウスの話に待ったをかけるダリウス。確かに、あの初心者用のエリアでそんな怪物が出るとは信じがたい。


「そうだよダリウス。そして後者が正解、僕が奴につけたランクはAで実際に僕も初見で殺されてる」


「マジかよ・・・」


 これにはダリウスを始め、話を聞いていた全員が戦慄する。なぜならルキウスは18でスクールの学長に就任したほどの実力者だ。当時は街中の話題となり、その噂は興味のなかった俺の耳にも入るほどだった。


「情報が極端に少ないのはこのせいかな。なにせほとんどの遭遇者は晴れてトードーズを倒し中級に上がったばかりの冒険者だし、抵抗する間も無く一瞬でやられる。そして何よりも出現確率が極端に低い。それを拝める機会は1年に2、3度、ボス戦は1日1回しか挑めないし最近はギルドの規制がきつくなったからね〜・・・、かなり珍しいんだ」


「遠回しに批判するなっての!・・・しかしおかげで話だけが錯綜していて、どれが本当の話かギルド長の俺ですら把握できてねぇのが現実なんだよな・・・」


「・・・とまあ、サボリ魔でよくコンテスト会場にも入り浸っているダリウスも見たことがない幻の怪物なわけだけれども・・・」


「おい語弊のある言い方をするな! 俺のはあれだ・・・ちょっとした休憩だ!」


 ルキウスとダリウスの話を聞き、俺は息を呑む。そりゃあ俺だって過去には仲間達とともにAランクモンスターなんてしょっ中狩っていたし、Sランクモンスターまでも何回か倒して、挙句一時期かなり持て囃された時もある。


「言い訳にもなっていない反論は無視して、ウィリアムさんアイナさん、あなた方に引・・・」


「オイ見ろ! 映像が揺れ始めたぞ!」

「オォーット! 転送陣がいつまでも出現しないと思ったら、突然映像が地平線と挑戦者ともに揺れ始めました!」


「・・・僕としたことが余計な話をしすぎた。もう5分経ってしまっていたとはね♪」


 5分、既に経ってしまい全てを説明できなかったルキウスが自身の不覚を嘆く。だがその表情に浮かべていたのは決して悲観ではなく、満面の笑みだった。


「こら離さんか! 私はミリアを助けるためにあそこへ行かねば!」

「マリア様、ご命令通りブラームス様を拘束して参りました。後はいかように・・・」

「そのまま元の席に座らせてください。ご苦労様」

「いえ、我々の仕事はあなた方をお守りすること。引き続き警護を続けさせていただきます」


 すると、どこからともなく護衛に拘束されたブラームスが、喚きながら連行されてきた。


「ヤケに静かだと思ったらあのジジイ、いつの間にか脱走してたのか」


「クソッ! これでは私がミリアの元まで助けに行けぬではないか!」


 そして再び、俺の隣に座らせれたジジイがいつまでたっても喚いているわけだが・・・──


「おいジジイ。落ち着けって」


「これが落ち着いておれるか! ルキウスの話では初見者は確実に死んでしまうのだろう? そんな危険な場所に我が娘がいるというのに、黙って指をくわえてそれを傍観してろとでもいうのか!お前の息子もあそこにおるだろうに、見損なったぞウィリアム!」


 ・・・うるさい。こんだけ過保護なくせによく子供に煙たがられないな。いや、そう言えば今日もジジイが出し抜かれたせいでこんなことになってるんだったな。だったら既にミリアはジジイのことを煙たがって・・・──


「別にテメェに見損なわれようが俺は痛くも痒くもねえ。それに、これはあいつらの戦いだぞ?」


「だが・・・」


「黙って見てろ・・・。子供を信じてやるのも親の務めだ」



 ・

 ・

 ・


「ねえリアム。そう言えばさ、イチカさんの話では討伐が終わると直ぐに、転送陣を作る魔法文字が現れるって言ってなかったけ?」


「えっ? うんそのはずだけ・・ど・・・」


 おかしい。確かにボス戦前の説明では、全てのトードを倒すと潜入時同様に転送陣を形成する魔法文字が、空中に描き出されるという話であったが、これは・・・──


「ウォルター・・・これってまさか」


「ああ、もしかするとそのまさかかもしれねぇ」


 勝利の喜びから一変、エリシアの発言からパーティーメンバーたちの間に不穏な空気が流れる。


「やべえな・・・リアム。とりあえずポーションを飲んでいない全員に魔力回復のポーションをやってくれ」


「わかった」


 僕はウォルターに言われた通りに、既にポーションを飲んだエリシアとレイア以外の全員に魔力回復ポーションを配る。


「やっと気分も良くなってきたのに・・・うっ」


「そういえばラナは酔ってたんだよね、・・・リカバリー」


「おっ? ああ!ありがとうリアム!・・・はぁ生き返った〜」


 これでラナも復活。後は・・・──


「なるべく壁際に。確かあいつはエリア中央から現れるって話だからな」


 僕たちは倒したトードーズを回収したのち、急いで壁際へと避難する。


「アルフレッド、エリシア、ミリアは先制攻撃の準備を。ダメ元だが、流石に何もせずに黙って指をくわえていてやられるわけにもいかねぇ。魔力が多くて遠距離魔法が得意なお前らが頼みだ。頼んだぞ!」


 するとウォルターが、メンバーの中でも並以上の魔力を持つ3人に遠距離での攻撃魔法準備を指示する。


「よし、僕が使える最大の炎魔法を・・・」

「火魔法で・・・」

「なんかよくわかんないけど!この籠手の錆に・・・」


「ちょっと待った!」


「「「えっ?」」」


 しかしここで僕は待ったをかけ──


「イデア。この魔力壁の解析データをまとめて」


『了解』


 イデアにこのエリアを囲む魔力壁の解析をさせる。


『・・・出ました。どうやらこの魔力壁は空間属性が混じっており、かつ自然的に発生した魔力や空気などは外内ともに一定量が通過するようですが、先ほどミリアが使った雷砲のような魔法や生物を通すことのない構造になっているようです』


 そしてその解析結果が出ると──


「ごめんね出鼻を挫いて。もう確認したいことは終わったから続けて」


 皆に続きを始めてくれと伝える。


「あ、ああ・・・いいんだよな?」


「多分・・・でもきっとリアムのことだから、何か意味があったんだと思う」


「またまたなんかよくわかんないけど・・・」


 その後、僕からの突然の中止と再開の声に戸惑っていた3人だったが・・・──


「表面を大火力でカリッと!」

「中までしっかり火が通るまで!」

「全てを焦がす雷で!」


「「「素揚げにしてやる!」」」


 直ぐに調子を取り戻し、魔力を練り上げて襲来に備える。


「リアムさん、一体何を調べていたんですか?」


 すると、そんな3人の後ろで手持ち無沙汰となっていたフラジールが先ほどの僕の行動について尋ねる。


「あれはね、このエリアが魔力壁によって完全に密閉されていないかどうかを確かめたんだ」


「・・・密閉、ですか?」


 僕はフラジールにその行動の意図について簡単に説明をしようとするが・・・やはりこれだけじゃあ伝わらないか。


「リアム・・・もしかしてそれって前に教えてくれた酸素のお話?」


 すると、なんとそれを隣で聞いていたレイアがその答えを言い当てる。


「そうだよレイア! よく覚えてたね」


「へへへ」


 褒められて嬉しそうに微笑むレイア。やはりこういう照れ笑いは、普段大人しくて優しい女の子がするからこそ映えるというものだ。


「ヘクチッ・・・なにかしら」


「風邪か? なんならお主は引っ込んでてもいいのだぞ?」


「何馬鹿なこと言ってるのよ! あんたのヘボ魔法なんか私の足元にも及ばないくせに!」


「なんだと!・・・言わせておけば」


「あら、別にアルフレッドがいじめた〜!ってお父様に泣きついてもいいんだけど?」


「ぐッ!」


 何故か始まってしまった口喧嘩、そしてその軍配は当然のように、ミリアに上がっていた。


「とにかく、今は時間がないから後でみんなにも説明するよ」


「わ、わかりました」


「うん。それじゃあ僕もそろそろ準備を・・・」


 とにかくフラジールにも後から説明する旨を伝え、僕はこれから自分のできることをなそうと準備を始めた・・・途端 ──


・・・ゴゴゴゴゴ。


「うわッ!」「ゆ、揺れ!」「なんなの!?」


 突如襲ってきた地震。その揺れはどんどん大きくなっていき──


「やばい! 思ったより早かった!」


 同時に焦る。実は僕たちはこの現象について、全く未知というわけではなかった。その理由は、ここに入る前にイチカからあった説明の中に答えがあったから。


「確か出てくるまでに5分かかるんじゃなかったけ・・・!」

「時間が経つのが早いな・・・もうそんなに経っていたのか」

「ウォルター兄さん・・・ラナ姉ぇ・・・お婆ちゃん・・・」

「ゆ、揺れてますー!」

「・・・ご主人様ぁ」


 比較的冷静なラナとウォルターに、3人固まって蹲っているレイア、フラジールにティナ。


「上下左右・・・前だけ開けて後ろにも!・・・ 魔法壁!」


 一方で僕は、この地揺れの中、前衛で構える3人以外を囲むように無属性魔法の壁でボックスを形成していく。前を開けたのはその3人が直ぐに後退できるようにするため。

 そして──


「ゲゴォーッ!!!」


 エリア中央、地面から飛び出してきた巨大な影が、僕たちの目の前に立ちはだかる。


「今だ撃てーッ!」

「ちょっとあんたが命令してんじゃッ!」

「ないわよッ!」


 途端、アルフレッドの号令で放たれる3つの魔法が空中に直線を引く。更にこれらの魔法は途中で混ざり合い、ものすごい威力の魔弾砲が一箇所に集中して襲いかかる・・・が──


「ゲゴッ」


 その魔法は着弾することもなく、何やらヌメッとした液体を纏う分厚そうな皮膚に弾かれると、天井の魔力壁へと衝突する。


「はぁ!?」

「嘘でしょ!?」

「私の雷砲が効かない!?」


 そして驚愕する3人。


「ミリア、エリシア、アルフレッド! 今直ぐ後退しろ!」


 すると、驚愕で固まってしまった3人を叱咤するようにボックスの中からウォルターが叫ぶ。


「鑑定」


 そして僕はその合間に鑑定を使い、敵の正体を見定める・・・が──


ーーーーーー


Monster Name:キングトード 

Age : ? Gender : ♂


- アビリティ -

 《生命力(HP)》5万6000 / 5万6000

 《体力(SP)》5000 / 5000

 《魔力(MP)》5000 / 5000

 《筋力(パワー)》 5000 / 5000 

 《魔法防御》500

 《防御》50

 《俊敏》10

 《知力》8

 《幸運値》ー


 《属性親和》火 水 風 雷 土 光 闇 

       空間 回復 毒 無属性


- スキル - 

《全属性魔法》

  《火魔法Ⅱ》《水魔法Ⅱ》《風魔法Ⅱ》

《雷魔法Ⅱ》《土魔法Ⅱ》《光魔法Ⅱ》

《闇魔法Ⅱ》《空間魔法Ⅱ》《回復魔法Ⅱ》

《毒魔法Ⅱ》《無属性魔法Ⅱ》


  《魔力操作Ⅲ》

  《蝦蟇の油》


- EX スキル -

 なし


- ユニークスキル -

《極彩色の油》


- オリジナルスキル -

 なし


- 称号 -

《極彩色蛙の王》《油使い》《厚皮》

《隠しボス》《エリアAの覇者》


ーーーーーー


「体力が5万6千!? 魔力が5千・・・」


 僕は垣間見えたその異常な体力値に目をみはる。だがそれよりも厄介な能力がもう一つ──


「で、出たー!! トード達が王にしてエリアA幻の隠しボス! キングトードだぁ〜ッ!」


 実況のナノカがその巨体の登場に、興奮気味に会場中にコールする。


「おいなんで魔法が弾かれちまったんだ!?」

「ていうかデカ過ぎだろ! 坊主たちがまるでありんこじゃねぇか!」


 騒つく観客達に──


「私が待ち時間の間こっそり教えてやったってのに本当、お調子者よね!」


「でも唯一の可愛い妹がデビューから成功気味で内心嬉しかったりして」


「はぁ!? そんなわけないわよ!!!」


 舞台裏でもう一人の新人である妹を見守るその姉達。


「まさか魔力が5千、体力が5万6千もあるなんて・・・」

「あれは想定外の強敵だな」

「エリシア達は大丈夫かしら・・・」

「これはちときついの」

「一体どういうことだ!? なぜ眷属魔法が弾かれる!!」

「あんなの初めて見たわ・・・」

「ルキウスから話は聞いたことがありましたが、まさかここまでとは」


 そしてアイナを初めとする保護者メンバー達が、それぞれの感想を──


「お、おいルキウスさん・・・あれはもしかして・・・」


「いいえ。確かに似てはいますが、あれはあなたの思っているような代物ではありません。どちらかというとあなたの想像しているものを連想するのであれば、息子さんのリアムくんの方が、本質的には近いのでは?」


 俺はトラウマを刺激する動揺を何とか抑えつけながらも、なるべく冷静にルキウスと言葉を交わす。


「ルキウスさんは知っていたの?・・・その、私たちがパーティーを解散した理由を・・・」


「アイナさん。あなた方のパーティーの解散のきっかけとなり、引導を渡したモンスターには私も興味がありましたから。コンテストでアリアの戦いを拝見させていただいた後は一度、一人で挑みに行きましたよ」


「そ、それってかなり無謀じゃねぇか?」


「ええ。おかげさまで瞬殺されました」


 これは更なる驚きだった。ルキウスは笑って瞬殺されたと言っていたが、アイツらのところへ一人だけで辿り着くだけでも相当の実力がないと無理な話、本当にこの人は一体どれだけの実力を隠し持っているのか・・・未知数だ。


「ただ今はそれより・・・」


 だが話の途中、映像が流れる魔道具の方へと視線を移して意味深な呟きを零すルキウスに、俺もまた、リアム達の戦況を見守るべくはやる気持ちを押さえつけて、静かに視線を戻す。


「グゴゲェーーーッ!!!」


 開戦早々、普通のトードならば跡形もなくなるほど強力な魔法で強襲を受けたキングトードが、体の芯、臓器までもが揺れていると錯覚するほどの低く大きな喚き声で大気を揺らす。


「うへぇーッ!なんか気持ち悪いぬめぬめが飛んできたーッ!」


 そして同時に、何やら粘性のある液体をキングトードが体を身震いさせてエリア全体に飛ばす。


「危なかったな・・・間一髪だ」

「こんな気持ち悪いの受けたら髪を洗うのが大変」


 なんとかギリギリセーフでボックスに駆け込んだアルフレッドとエリシアだったが──


「イタッ!」


 後退するために振り返った瞬間、ミリアが転倒してしまう。おそらく普段つけ慣れない重い籠手を片腕に嵌めたままだったから、バランスを崩したのだろう。


「ミリア!」


 僕はそんなミリアを降り注ぐ液体から守るため、自らボックスから飛び出して──


「ごめんね」


 身体強化で一瞬で筋力を強化した後に彼女の体を抱えると、直ぐにミリアをボックスの中へと放り込んでその蓋を閉める。


「リアム!!!」


 箱の中へと投げられ、無事避難できて態勢を立て直したミリアがボックスの壁を内側から叩く。


「あーあ、これで僕も二度目の・・・ってあれ? これってただの油?」


 しかし、ミリアの心配と勝手に体が動いてしまい謎の液体を被った僕の覚悟とは裏腹に、僕はなんの状態異常もダメージもなく、ただ蝦蟇から飛び散った油をかぶっただけだった。


「ミリア・・・ちょっとどいてくれない?」


 一方、飛んできたミリアの下敷きとなったエリシアに──


「ッー・・・ツツツー! 籠手が頭に! 後頭部に・・・!」


 まあまあのスピードで投げられたミリアの腕に嵌った籠手がもう一人、ミリアの下敷きとなったアルフレッドの後頭部を強打してしまっていたようだ。


「あっ・・・ごめんなさいエリシア」


 下敷きにしてしまったことを、エリシアにだけ謝って二人の背中から降りるミリア。


「あ、アルフレッド様!」

「グ・・・グォーッ!頭が割れるー!」


 そしてミリアが二人の背中から降りると、従者のフラジールが診断のためにアルフレッドに近寄ろうとするが、如何せん後頭部を抑えてのたうちまわる彼に及び腰である。


「ははは・・・ごめんねアルフレッド」


 これはもう、笑って謝るしかない。まさかこの油に何の害もないとは、僕も予想外だ──


「り、リアム!? トードの腹が・・・!」


「えっ?」


 この時、ウォルターに言われトードの方を振り向いた僕は、改めてボス戦前にイチカから聞いていた話を走馬灯のように思い出す。


「じゃあ、これでトードーズについての説明は終わったんだけど・・・」


 説明が終わったことを告げるイチカ。しかし語尾にしろ態度にしろ、歯切れが悪い。


「あの、何かまだあるんですか?」


 僕はそのイチカの態度が気になり、尋ねる。


「えーっとエリアAではね。ホントー・・・に! 偶に何だけど 、”襲来”っていうイベントが起こるの」


「襲来・・・ですか?」


 それから、僕たちがイチカから聞いたのは2つ。


「そうね。実はこのエリアAには隠しボスっていうとてもレアなトード達の王がいるんだけど・・・」


 トード達の王。名前はキングトードといったところか。


「あの、それは乱入とは違うんですか?」


 僕はイチカに再び質問する。実はこの世界でも、ゲームのように乱入という予期せぬモンスターが戦闘中に乱入してくるイベントがあるらしいのだ。まあこちらのモンスター達は実際に生きているわけだから、獲物の横取りなんかを考えればプログラムなんかより余程、現実的な確率になるわけだが。


「うーんちょっと違うかな。乱入ってのは戦闘中に、予期せぬモンスターが文字通り乱入してくることをいうけど、そのキングトードはさっき話したトードーズを倒した後に地面の下から現れるわけ。微妙な違いだけど、襲来はより強力なモンスターが戦闘後に出現してきて第2回戦が始まるような・・・そんな感じかしら?」


 少し首を傾けながらも、何とか自分のイメージを伝えようとするイチカ。しかしそのイメージだけでも、違いは十分にわかった。


「キングトードはね、別名初心者殺しって言われているの。突然やってきたかと思えば、初心者用ボスのトードーズを倒して舞い上がっている冒険者達を一瞬でリヴァイブ送りにしちゃうから」


「い、一瞬で・・・」


 その言葉に、僕は生唾を飲む。そして他のメンバー達の空気も一気にドヨンと落ち込む。


「でも安心して! 確率的には100戦に一度とも200戦に一度とも言われるほどで、遭遇確率は1%以下、よほどの幸運を持ってない限り遭遇できないから!・・・あっ! でも倒せなかったら不運になっちゃうけど、気にしない気にしない!」


 そんなメンバー達を必死に鼓舞しようと励ますイチカ。ただ最後の一言だけ余計、フォローどころか泣きっ面に蜂である。


「でも知っていれば、その奇襲にも対応できるんですよね?一体どんな攻撃をしてくるんです?」


「あぁー・・・率直に言わせてもらうけど、君達じゃあれを防ぐのは無理ね」


「へっ?」


 しかしイチカから返ってきたのは更に厳しい言葉だった。


「キングはね、とても広い範囲に向けて強力な魔法を放つことができるの。ボス戦が行われるエリアは魔力壁で囲まれているから、どこにも逃げられない。そしてそれをまともにくらえば、どんな高ランク冒険者だってただじゃすまないわ」


 回避不可の一撃。エリアの特徴が逆に、その難易度を上げているということか。


「でもイチカさん! そのキングトードの攻撃っていうのは回避不可でも防御不可・・・ではないんですよね?」


 僕はそこに、一つの可能性を見出す。もし防御不可でないのならシェルターを築けばあるいは・・・──


「そりゃあそうだけど・・・とりあえず、私のアドバイスとしては、キングトードが出すもの全てに一切触れないこと、受けないことね」


 しかしキングトードの話において、イチカが自分の見解を変えることはなかった。


「それじゃあ他に質問は・・・ないみたいね!ではこれに最終チェックのサインをしてください!」


 最後にはアドバイスもくれたが、きっと彼女はその裏で、僕たちが勝てるとは本気で思ってはいなかったことだろう。

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