115 保護者たちの参観
「おっすアイナにマレーネ!お待たせ!」
「どこにいても忙しないねお前は」
「早かったわねウィル。走ってきたの?」
「愛する息子の晴れ舞台だからな! 速攻で仕事終わらせて飛んできた!」
ここは不思議な魔道具の力によって流れるダンジョンの中の映像を、現在進行形で楽しめるコンテスト会場の観戦席。今の客入りはまばら、まあこれから始まるのは初めてボス戦に挑む新人のコンテスト、モノ好き以外は昼間っからこんなところにはいやしないだろう。
「お隣、いいですか?」
「おおっ! 昨晩ぶりっすヴィンセントさんリンシアさん! どうぞどうぞ」
「ありがとう・・・昨晩はお恥ずかしいところをお見せしました」
「こんにちは、マレーネさんアイナさんウィリアムさん。今日も娘がリアムくんやウォルターくんたちにご迷惑おかけしております・・・」
愛する妻とマレーネに合流し着席して早々、見知った顔から声をかけられ相席することになった。
「テーゼ商会出張!パンケーキにアイスクリーム、そして本日の主役でありパーティーリーダーリアムのイラスト入りグッズはいかがですか?」
隣に座ったヴィンセントたちと世間話をしていると、食べ物を売る売り子の声がまばらな席の空間を真っ直ぐに耳へと入る。
「パンケーキにアイスクリームは分かるがリアムのイラストってのはなんだ?」
「良くぞ聞いてくれました! 私はテーゼ商会従業員にしてリアムファンクラブの会員第一号、パピスと申します!」
息子のイラストという言葉に反応してしまった俺に、パピスと名乗った少女が盛大に見えをきる。
「それで? リアムのイラストってのはなんなんだ?」
「お客さんなんか妙に親しげですね・・・はっ!もしかして仮面の君でもあるリアム様を狙う悪徳商人の手下!? それとも私を・・・」
「んなわけないだろ。そりゃあなんて言ったってリアムは俺の息子だからな、気にもするさ」
「へ?」
俺がリアムの父親だと名乗ると、パピスは一時的に硬直してしまった。
「なんとリアム様のお父様でいらっしゃいましたか! 私はリアム様が親衛隊にしてリアムファンクラブの会員第一ごうパピ」
「ちょっと待った!それはさっき聞いたって!!」
「そうでした。失礼しましたお父様」
「ははは・・・お父様か」
調子の良い具合にハイテンションな子だ。俺が育てるに、リアムはこうガンガン行こうぜ的なキャラじゃない。繋がりといえばテーゼ商会、しかしどうしてこんな子がリアムのファンクラブを創設するに至ったのか・・・謎だ。
「このイラストは私のお手製です! 昨晩夜なべして作り上げ、今朝私がギルドへファンクラブ申請に行った折そこに居合わせたギルド長ダリウス殿とノーフォークスクール学長ルキウス様からもお褒めいただいた逸品! 仮面の君にふさわしい仕上がりとまではいきませんが、それでも自慢の商品です!・・・お父様には布教用として数枚、お渡ししておきますね」
とても自信ありげなパピスに、イラスト入りの数枚の紙を手渡される。
『結構似てる・・・』
描かれていたのは、いろんな角度、表情をしたリアムのイラストだった。だがパピスちゃんが言ったその仮面の君ってのは確か、リアムの情報を管理するために会頭のピッグさんが作ったネームじゃなかったか?・・・我が子よ、お前の個人情報がここからダダ漏れだぞ。
「「「ザワザワ・・・」」」
俺がそのイラストを見て、息子の個人情報の行方を心配していると、場内が妙な騒がしさに包まれる。
「ウィル・・・あれ」
「なんだ?・・・おい嘘だろ」
「偉いというのも中々疲れる」
「仕方ありませんよ。今日は緊急のお忍びです」
「既にお忍びになっていません、父上母上」
隣に座るアイナに促され、俺が見た視線の先、そこにいたのは、会場の観客たちに手を振る公爵一家だった。
「なんであのクソジジイがここにいるんだ?」
「ウィル、クソはダメ」
「・・・公爵様の事をそのように言えるのはこの街で貴方ぐらいでしょうな」
「いや、裏じゃみんなそう呼んでるよ」
「そうですかな?」
「そうさ、ヴィンセントさん」
ここは庶民の娯楽施設、といっても貴族がコンテストを観戦しにくることもしばしばあるのだが、彼だけは別格、頭百個ぐらい突き抜けた権力を持ち、そこらの中途半端な貴族とは訳が違う。
「みなさんこんにちはー! 本日の第2幕目! チームロガリエ対エリアAのボス”トードーズ”の司会進行を担当します、今日がデビューの期待の新人! 司会者のナノカでーす!」
公爵登場かと思うや否や、今度は会場中央が賑やかしくなる。映像が流れる魔道具下のステージに現れた司会が場内にアナウンスする。
「始まったか・・・」
こうして始まってみると、感慨深いものがある。会場の多くはまだ普段目にすることも滅多にない公爵一家に注目しているが、俺にとってそんなことはどうでもいい。今から始まるのは、俺の息子のダンジョン攻略だ。
「本日トードーズに挑戦するチームロガリエは玄人ウォルターを加えた期待の新星リアム率いるルーキーチーム!・・・メンバーはアルフレッド・ヴァン・スプリングフィールド! ラナ!エリシア!フラジール!レイア!ティナ!・・・ そして──!」
ナノカという司会の女の子が、今からコンテストをするメンバー紹介をしていくのだが、なんともらしいタメを最後に作る。
「 我らがノーフォークの領主様! ブラームス・テラ・ノーフォーク様が長女! ミリア・テラ・ノーフォーク様だぁー!」
「「「ワァーッ!!!」」」
タメから一気にテンションを爆発させ、未だ会場入り口がある上階近くで動けなくなっていた公爵一家を指し、パフォーマンスする。それを皮切りに、会場のボルテージも一気に最高潮にまで爆発した。
「マジかよ、リアムはそんなこと一言も言ってなかったが?」
「私も聞いてないわ」
「私もだよ」
「エリシアも言わなんだ」
「ええ、まさか・・・」
俺やアイナにマレーネとヴィンセント、そしてリンシアは全員、そのことを知らなかった。俺たち5人に衝撃が走る。
「・・・頭痛い」
「あの馬鹿!露骨すぎんのよ!」
会場の舞台裏では、公爵様をあろうことか取って捕まえそれを聞いていたイツカとリッカがナノカの進行に頭を抱えていた。
「ダァーッ!」
「「「ウォーッ!」」」
皆の注目を集めたブラームスが、会場の熱気に答えるようにガッツポーズをとって吠える。
「なんだあのポーズは・・・?」
「茶目っ気があるところは昔から変わらないわ」
右手を挙げて手を振るジジイを見ていた俺は良い歳してと呆れる訳だが、アイナは手を合わせてフフッと笑い、なんだか楽しそうだ。
「ああ・・・だがこっちに来始めたぞ? 最悪だ」
最愛の妻の笑顔にいつまでも、いつまでも見惚れていたかった。
「なんでこんなところに領主様がいるんですかね? 公爵様?」
「邪険にするなウィリアム。今日だけ特別にお前は私の護衛だ」
「チッ・・・喧嘩売ってるのかよジジイ」
「そうとも。お前の古い心の傷に比べたら、私はもっと深い傷をお前の息子に負わされた」
「なに?」
それから俺はブラームスのジジイに今日起きた出来事、つまりミリアがどうして討伐に参加しているのかを聞いた。
「私の心は深く傷ついた! だがパトリックも成長した今、ミリアは・・・ミリアだけは!」
「完全に自業自得だろうが! とばっちり以外の何物でもないぞ!」
「私には娘の晴れ舞台を見届けなければならぬ義務があり、貴様には私を護衛する義務があるという訳だ。わかったら大人しく我らを護れ」
「どんな訳だよ!こっちの話ちゃんと聞いてるか!?」
「この人は、もう・・・ウィリアム、後で私がこってり絞っておくので、今のところは形だけでも護衛してくれないかしら?」
・・・ああそうだった。昔から俺はこのジジイに振り回されっぱなし。だけどそんな時はいつも俺の代わりに、奥さんのマリアが叱ってくれる。
「マリア様がそうおっしゃっるなら・・・形だけでいいんだろう? 俺もリアムの晴れ舞台を見に来てる。それで勘弁してくれ」
「だな! 当然の贖ざイタイッ!」
「ありがとう、ウィリアム」
「ああ・・・モグリ」
夫人の頼みならば仕方ない。どうせ今垣間見た通り、後からジジイはシバかれる。体裁を取り繕うくらいの形だけだったら、護衛を引き受けてもいい。
後ろからぞろぞろと十数人ほど正規の護衛がついてきていることだしだ。それに護衛の中には珍しい人物達も混ざってる。
「まあお久しぶりです学長先生! カリナの壮行会以来かしら」
「ご無沙汰しておりますアイナさん。1年ぶりでしょうか」
「久しぶりっすねアイナさん。いや相変わらず美人さんだ」
「本当に久しぶりね。元気にしてたダリウス」
アイナと親しげに挨拶を交わす二人は、ジジイ一家の次くらいの公権力と強さも兼ね備えているこの街の総合実力者ツートップだ。彼らがいるからか、彼らがいるにも関わらずか、俺に護衛を頼むは、きっと彼らが俺らと並んで観戦するための建前に過ぎないのだろう。
俺はこの人たちに返しても返しきれない大恩がある。押し売りされたり偽りの恩ではない・・・ただただ純粋な恩が。
相棒のモグリを呼び出して一応周りを警戒をしておこう。
「なんか公爵様とあそこに座ってた奴言い争ってなかった?」
「バカッ! もしあれでやんごとなきお方だったらどうすんだ!不敬罪になるぞ!」
「ん?・・・あれってスクールの学長にギルド長・・・それに剣狼と炎獄ではないか? 二人とも少し年取ってるが、間違いない!」
「本当だ!年取ってるがアリアの剣狼と炎獄だ!」
会場のざわつきが俺とジジイの関係に向けられる。一部の古参の奴らは俺とアイナを見て古い二つ名を引っ張り出す・・・年を取っているは余計だ!
「おーっ! 映像が届いたようです! それでは音声、映像、そして私の実況をお供にコンテストをお楽しみください!」
ステージ中央から会場中に響くアナウンスが入る。実に良いタイミングだ。
『一瞬で釘付けね・・・』
アナウンスと同時に、魔道具に映る世界に釘付けになるウィルの横顔を確認して、アイナも正面へと向き直る。
「リアムの晴れ舞台、しっかり応援してあげましょ!」
私も、懐かしい目をした夫の姿に感化され、年甲斐もなくドキドキしながら魔道具の映像に集中することにする。
頑張れ、みんな。頑張れ、リアム ──── 。
・
・
・
── sideリアム。
「ここがボス戦の・・・」
ドームを潜った先、目の前に広がるのはゆったりと流れる白い雲が印象的な晴れた空に、果てしなく続く草原。
「昼寝に良さそう」
ふと呟く。エリアAといいここといい、どうしてこうも昼寝に良さそうな環境なのか。昼食後である事がまた、安眠に誘惑される気持ちを一層助長させる。
「こんなところで昼寝したらスポーンしたボスたちに食ってくださいって言ってるようなものだ」
「ごめん。圧倒されてた」
先頭の自分に続いて転移してきたウォルターに笑われた。
「実際ここはあの広場程度の広さしかない。直径で100mちょっとといったところだ」
「そうだった、確か見えない壁があるんだった」
「ああ。ボスがスポーンすると薄く見えるようになるからな」
この草原は走れば永遠にどこまでも続いているわけではない。
「ここで追いかけっこしたら永遠に終わらなさそう!」
「でも隠れんぼはできませんね」
「本当にすごいですね、アルフレッド様」
「ああ、この草原はどこまで続いているんだ?」
「スゥー・・・ハァー・・・すぅ」
「ティナ!? 寝ちゃダメよ!?」
後ろから、賑やかな声が次々に現れてくる。
「先頭のリアムが入ってそろそろ1分だろ? もう魔法文字が浮かび上がってきてボスがスポーンすると思うんだが」
唯一のボス戦経験者であるウォルターは、緩んでいた気持ちを容易に警戒へと移す。
「おっ! 出たぞ?」
ウォルターの言う通り、戦いの幕開けは直ぐだった。オレンジ色の魔力で、イチカに教えてもらった通り空中に文字が描き出される──Are you ready ?
「あれが魔法文字?」
「そうだな。博士持ちの学者が昔翻訳したことがあるができなかった謎の魔法文字だってさ。今も誰も読解できないから、あれは解読できないほどずっと昔の古の時代にあった滅んだ言語か、はたまた神様たちが使っている言語だと言われてる」
ちょっと待って。僕にはあれがはっきりと読めるんだけど・・・しかも英語だ。
「ウォルター、もしかして帰還の転送陣を生む魔法文字・・・!」
「くるぞ!みんなしっかり備えてろ!」
時間は混乱する自分を待ってはくれなかった。到着がこれなら、帰りはどうなんだとウォルターに聞こうとした途端、空中にあった魔法文字が花火のように弾け、そこから散った魔力が地上に降り注ぐ。
「ゲコッ」
「グコッ」
「グゲッ」
地面に降り注いだ魔力はそれぞれ集まり、十一匹の大きな影を作り出す。
「あれがこのエリアAのボス。異なる属性種のジャイアントトードたちの群れ“トードーズ”だ! 一匹一匹はランクD〜C程度のモンスターだが、なにせ数がいる・・・気をつけろよ!」
ウォルターの呼びかけによって先ほどまでのほほんとしていたメンバーたちに気合が入る。戦闘態勢だ。
「ウォルター、あれの属性は右から・・・」
「火、水、雷、風、土、光、闇、空間、無、回復、そして毒だ。カラフルだからわかりやすいだろ?」
確かにわかりやすい。例えば火は赤、水は青といった具合にトードたちはカラフルな色によって色付けされていた。
『毒もいるのか。初めの10匹は魔力属性の10大基礎属性だからわかるけど、どうして毒も混じって・・・』
ここで不思議なのが、初めの10属性トードに混じり、毒属性のトードがいること、毒属性はスクールではモンスターのみが持っている属性で死に繋がる恐ろしい属性とだけ習う、解明もそんなに進んでいない対処の難しい属性だ。
「ほらリアム。試してみたかったことがあるんだろ?」
いつまでも悠長なことを考えてはいられない。初めの打ち合わせでみんなに ”戦闘前に” とお願いしていた実験を始めねば。
「ごめんね。すぐ終わらせるから、みんなはできるだけ離れてて」
実験のために、皆をトード達からできるだけ離れさせる。
「ティナちゃん速! もうあんなところまで行ってるよ」
ティナは今から使おうとしているスキルにいち早く反応し、後退する。なにせ彼女はこのスキルが大の苦手、魔法を使わず闘気や精気といった特殊な力を使う獣人種はどうやら、魔法防御以上にこのシンプルな力の差に敏感らしい。
万が一にも、昨日のゴロツキみたいに気絶したら大変だ。
「いいよリアムー! やっちゃって!」
エリシアから、少し響いて聞こえる準備OKの合図が距離を置いて届く。
「鑑定・・・魔力は5千、魔法防御は500程度。魔力を4万くらいに絞って・・・」
この実験は、実行するならば今回が一番ベストだと僕は思っている。コンテストの映像に映ってしまうことだけが気がかりだが、だからこそ、なにせ出てきたボス達の中には僕が特訓をしていたエリアCより先のDに出現するCランク級モンスターが複数いる。
「「「ゲコッ?」」」
一人だけ、自分たちに近づいてきた僕にトードーズが興味を見せる。これは今、僕がどのくらいの位置にいるかを確かめるための一石、測ればこれから先の攻略につながる。
「バースト」
スキル《威圧》、通称バーストの発動。この後の戦いのため気絶させないよう、沸騰させる魔力は抑えてやる。
「「「・・・!」」」
うん。ちゃんとCランク、そしてボスの彼らにも威圧は通用したようだ。
「「「ゲコーッ!ゲコゲコゲゴッ!」」」
威圧はトード達が僕の目の前から一目散に逃げ出し、戦闘エリアを囲む不可侵の壁に次々と激突していくぐらいには、十分な効果を発揮した。普通乗用車くらいの大きさの彼らが、脱兎の如く逃げて壁にぶつかる様は中々見ごたえがある。
『実験終了。結果、Cランクには威圧は通じるし、ボスだからといって特別な裏設定はなし』
『記憶。後の参考のために記録を記憶しておきます』
頭の中を読めるイデアは、結果を記録したことを内内に告げる。現在の僕の魔力は40万を超えており、約1/10の魔力の無駄遣いとはなってしまうものの、十分な成果が得られた。
「終わったよみんな。それじゃあ討伐を始めようか」
実験が終わった軽い足取りで、トード達がへばりつく壁とは反対の壁付近にいたみんなの許へと帰る。
「それじゃあ今後、ホント〜・・・に!リアムをキレさせるようなことだけはなしで!」
「おう」
「ええ」
「うん」
「はい」
(コクリ)
「し、仕方ないわね」
「・・・キレたらカリナよりヤバイ」
皆が丸まって円を作り、秘密の内緒話をしている。
「みんな・・・終わったよ?」
魚の泳ぐ池にソッと餌にならないコンパクタベリーの実を投げ込むように、実験が終了したことを告げる。
仮にもボス戦中だというのに、こんな隙だらけの格好をとるなんて・・・それにキレるはないだろう。
「あっうん。今みんなで改めて配置を確認してたところなの」
「そうとも。決してお前をキレさせてはならんという秘密の同盟を結成していた・・・というわけではないから」
「この馬鹿!」
「アルフレッド様!」
気の利いた嘘をついたエリシアと、それを見事に水の泡にしたアルフレッド、そして全力でミリアとフラジールが叩きにいく。
今後の関係も考えて見ざる聞かざる言わざる、何もなかったことにして話を早く切り替えよう。
「トードーズを分断させた後はアタッカー/サポートの順で、ウォルター/アルフレッド── 」
「おう」
「よし」
「ラナ/エリシア──」
「よろしく〜」
「よ、よろしく」
「ティナ/レイアとフラジール──」
「よろ・・しく」
「うん、回復は任せてね」
「私も一生懸命サポートします」
「そして僕とミリアの4班で各班行動、ティナ班は2匹、他3班は1班3匹がノルマだから」
「交代してもいいのよ」
「・・・後で話そうミリア」
最後にもう一度、それぞれの役割を確認である。
役割交代を願うミリアを一旦抑えて、一通りみんなの顔を見渡した。
「それじゃあ・・・」
ウォルターが真っ直ぐこちらを見据えて、合図を送る。これから、人生初の緊張のボス戦を始めるための口火を切る──。
「ボスとの!」
「素揚げの!」
・・・あれ?
「戦闘開始?」
「「「材料調達!ウォォー!」」」
この時、自分の言葉にみんながかぶせてきた言葉に対して疑問符を浮かべるも、既に勢いづいていたその掛け声を止めることは叶わず、間の抜けた”戦闘開始?“に対し、“材料調達”というとんでもない四字熟語を叫んで班ごとに飛び出して行ってしまった。
「えーっ・・・」
一人、草原に立ちすくむ。
「って! ミリアはサポートでしょ!!何で僕を置いて突っ走ってんの!?」
初っ端から出遅れてしまうという締まらないボス戦デビューとなってしまった。形式も格式もあったものではない奔放な開戦の、その5秒後には、サポートという役割を破ってトードに向かっていってしまった彼女を追いかける。




