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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第3部 〜ダンジョン ”テール” 攻略〜

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113 ライ麦畑で捕まって

 今回の探索場所はエリアA、ロガリエ時のエリアBよりレベルの低いエリアで、僕がいつも特訓しているエリアCよりも当然低く、このダンジョンでは一番レベルが低く設定されているエリアだ。

 このエリアはダンジョンのマザーポイントがある街から2kmほど行ったところにある近郊で、その特徴は一面にライ麦が生えていること、そして奥の丘には大きな風車が建っているというとても不思議で、長閑な風景が心に安らぎを与えてくれる。

 僕たちはそのライ麦畑の中をウォルターを先頭に、ラナ、レイア、僕&ティナ、フラジールの一列で行進している。


「ティナ・・・そろそろ離れてくれないと」


 マクレランドの商会にティナを迎えに行ってからというもの、彼女はずっとこの調子、僕の腕にしがみついたまま離れない。


「ですがあの人が・・・」

「大丈夫。もうしないって」

「・・・はい」


 ようやく、説得の甲斐あって僕の腕から離れ背後に回る。


「ちぇ・・・リアムばっかりずるいよ」

「いきなり出会い頭に知らない人が飛びついてきたら、誰でも怖いよ」

「だって可愛かったんだもん」


 妹のレイアの言葉につまらなさそうに返事をするラナ。彼女はマザーポイントの街からずっと不貞腐れている。


「おいラナ。頼むから魔力感知はしっかり頼むぞ?」

「チッチッチー! 魔力感知じゃなくて魔力探知! 頑張ってようやくスキルが進化したんだから、間違えないでよね!」


 前を行く兄に、間違えないでよね!と一転して自信満々に胸を張って威張る。ちょっとしたことで直ぐに調子に乗れる。これがラナの短所でもあり長所でもある。

 それから更に100mほどを歩いた僕たちは、ライ麦畑の中にぽっかりと空いた大きな円状の広場へと出る。その広場はとても広く、更にその中心には、可視できる大きな魔力壁のドームがあった。


「はいはーい。こんにちは! チームロガリエの皆さんですね! 私はギルドボスエリア管理部所属のエリアAボスエリア管理担当、イチカです!」


 とてもハツラツとした声で語りかけてくるギルドの制服を着た女の人の名は、イチカさん。


「おっすイチカさん。お久しぶりっす」

「おーおーウォルターくんじゃないですか! もしかして私が恋しくて戻ってきちゃったのかな?」

「いえ! 今日はロガリエの先導者として、そしてこのチームのメンバーとしてここにきました!」

「相変わらず熱いのに真面目ね〜・・・お姉さんちょっとショックだな!」


 ウォルターとテンポの良い挨拶を交わす。因みに先ほどイチカの言ったパーティー名は仮のもの。今日はレイアのロガリエ、そして僕たちのリベンジということもありこの名前で登録した。


「それでいきなりなんですが、リアム様はどの方ですか? あなたに用があるらしい方達がいるの。案内しますので、ついてきていただける?」

「はい・・・?」


 突然なんだろう。よくはわからないが、僕に用事のある人がいるらしい。一体こんなところまでわざわざ来るとは、何者なのだろうか。


「悪いけど、先に準備運動始めといてくれる? 僕も後から合流するから」

「わかった」

「はいはーい」

「ティ、ティナちゃん!?」

「ふぇ!?」

「私はレイア様とフラジール様と一緒に探索してご主人様をお待ちしています」


 告げるや否や、直ぐにレイアとフラジールの間につき、隠れるようにしてティナが返事する。まだラナを警戒しているのだろう。

 ここ半年、僕と一緒に特訓し、更にはほとんどもうこの国の言語をマスターしてしまったティナなら、レイアたちと別行動しても問題はないはずだ。

 子供の、それも獣人の子供というのは皆こんなにも学習能力が高いものなのだろうか。うーん・・・種族の神秘だ。


「そこの茂みの奥の方でお待ちですよ?」


 イチカに案内されたのは、僕たちが抜け出た場所からそう遠くない場所にある広場円周の茂みだった。


「ここの茂みの奥に?」


 一体何故こんなところに・・・もしかして、誘拐。でもこの人はギルド職員で素性が割れてるわけだし、僕に何かしようものなら、みんなの前で堂々と呼び出したりはしないだろうし──。


「いったい誰がこんなところで」


 謎が謎を呼ぶが、とりあえず僕は茂みの方へと近づいてみる。


「うぅ!? ・・・にゃ、にゃにを!」


 茂みに触れるや否や、口を塞がれた僕は、そのまま茂みの中へと引き込まれた。


「あれ・・・?」


 そこにあったのは、小さな麦畑の中にできたもう一つのサークルに、3人の人影だ。


「エリシア・・・アルフレッド、それに・・・ミリア!!?」


 人影の正体は、ここにいるはずのないエリシア、アルフレッド、ミリアの3人だった。・・・それにしても、珍しい組み合わせだ。


「お願いリアム! とにかく私にリカバリーをかけて!!」

「ばっ! ずるいぞ! ・・・リアム!先ずは僕を先に・・・!」


 ポカンと面食らう時間も僅か、エリシアとアルフレッドが僕の服を掴んでリカバリーを! と懇願する。


「でもエリシアはリンシアさんが・・・アルフレッドはフラジールが後でなんていうか」

「今ママのこと気にしたってしょうがないでしょ!? ・・・ほら、どうせここは周り麦で囲まれてるから見えやしない!」

「頼むリアム! 一生に一度の願いだ!早く治してくれ!」


 確かに、ここなら周りから何をしてようが見えないとは思う。


「わかった・・・《リカバリー》」


 必死な二人に圧倒され、仕方なくリカバリーを唱える。エリシア、アルフレッドの不調の原因は暴飲による単なる腹痛であるし、容易に治癒するだろう。


「た、助かったー・・・」

「もう二度とストロベリーミルクは見たくないわ・・・」


 猛烈に襲ってきていた腹痛が収まり、膝から崩れ落ちるようにヘタリ込む二人。


「・・・で、なんでみんなここにいるわけ?」


 ようやく落ち着いた二人を見て、本題を切り出す。


「なんで?・・・なんでですって?」


 それを聞いたミリアが、体をプルプル震わせとてもこわ〜い低〜い声を出しながら、その可愛らしい顔に影を落とす。


「み、ミリア! お、お、お、落ち着いて!」


 これには僕も、体は仰け反り気味に、尻の下に敷かれた藁をガサッと音させながら後ろにジリジリと引いてしまう。このとても嫌〜な何とも知れない空気で圧倒される感覚、この感じは過去に経験した記憶がある。


「な・・・なんでって・・・なんでってそれはあなたが私をのけ者にしたからでしょ! うわーん!」


 一変、声を弱々しく震わせ、彼女の頬を伝っていくいくつかの涙。

 そこからが意外だった。

 不安が噴き出したようにミリアは叫ぶと、そのまま大声を出して泣き出してしまった。


「泣いた!? ・・・お願いだから泣かないで? ちゃんと話を聞くから」


 急に泣き始めてしまった彼女を持て余しながらも、なんとか泣き止んでもらおうと必死になだめる。

 

 ──5分後。ようやくミリアの涙が止まってきた。


「それで、のけ者っていうのは?」

「ヒック・・・アルフレッドにフラジール、それに前のレッスンの時リアムがパーティーを組んでダンジョン探索とエリアボスの討伐に行くって言うから、私も突然行って驚かせようって城を抜け出してこいつの家に行ったんだけど・・・」


 ん?・・・抜け出して?・・・直ぐにでもその言葉の意味も問い質したかったが、話を遮るともっと長くなりそうだし、一旦、と話の続きを聞いてから考えることにしよう。


「なんかお腹壊しててフラジールに置いていかれたって言うから、無理矢理こいつを引っ張ってダンジョンに向かう途中でその理由を聞いて・・・」


 オイオイ・・・と、無理矢理病気のアルフレッドを引っ張ってきたという部分に思わず心の中で突っ込んでしまう。

 しかしなるほど、そういうことか。

 のけ者の意味については、大方、推測することができた。


「それで昨日の夜リアムが親しい友人知人を呼んでパーティーしたって・・・でも、でも私は呼ばれてなくて___!」


 再び、理性を閉ざして泣き出しそうになってしまう。・・・悪いことをした。故意に避けたこともあり、またその罪悪感が胸を異常に緊張させる。


「それはもちろんミリアだって招待しようとした! けどミリアはその・・・公爵家の一員で、仮に呼ぼうものならみんな緊張しちゃうし、それにミリアを呼んだらお父さんのブラームス様まで来るとか言い出しそうで・・・」


 実は、ミリアも呼ぼうと貴族街にアルフレッドたちを迎えに行った時に城の前までは行ったのだ。だがそこでふと、目の前にそびえ建つ城を見上げた時に、僕は彼女の持つ力の強さについて改めて考えさせられた。

 いい意味でも悪い意味でも、ミリア、そして彼女の家族は公爵家。爵位の影響力を考えると、招待した他の皆が率直な感想を言えなくなってしまうのではないか、などという懸念が生じたため、結果、彼女の招待は断念したのだ。


「そうね・・・確かにそう」


 ・・・あれ?


「私が偉すぎるのがいけないのよね! うんそうよ!」


 ちょーっと、その態度からは良くないニオイがする。


「リアム! 今回は許してあげるけど、でも次は絶対に私も呼びなさい!!」


 やっぱりそうなるか。いや、そうなるよね、うん。でもね、僕が言いたかったことはそういうことじゃないんだ。


「いやだからミリアは公爵家の人間で、ミリアならまだしもご両親まで来るとか言われると困るわけで・・・」

「偉い私の言うことを聞けないって言うの? それならお父様に泣きついて・・・」

「わぁー! わかったわかった! それじゃあもしお店が開店したら開店記念に招待してもらえるようアオイさんにお願いするよ! ・・・ただその時はブラームス様には内緒で、マリア様かパトリック様にだけ伝言するようにお願いね!二人にはその時3人分のお土産を持たせるから、それで手を打ってくれるよう頼んどいて!」

「うん! 絶対だからね!」


 これは余計なことを言ってしまったと後になって反省する。弁明するなら彼女の両親を引き合いに出さずに、きっぱりとお断りするべきだった。だがこれは致し方ない。全ては他に良案の思いつかなかった至らぬ僕が、悪いのだから。


「で・・・どうしてエリシアまで一緒にいるわけ?」


 ミリアの対応がひと段落したので、ここまでの成り行きにはでてこなかったものの、やはりここにいるエリシアへと切り替える。考えればおかしな話で、アルフレッドならまだしも、エリシアとミリアに直接の面識はなかったはずだ。

 もしあったとしてもそれはパーティーに参加した時に姿を拝見するぐらい、そこまで親密な関係にはなかったかと。


「貴族街を出ようとするところでこの子に会ったの。お腹を抑えながら苦しそうに歩いてたから、声をかけたらアルフレッドの知り合いだったみたいで」


 知っての通り、お腹を下していたエリシアは母親であるリンシアの看病の元、今日1日は家で療養をとっていたはずだ。  


「えっと・・・お母様が部屋を出た隙を見計らって家を出て、そのままここに来ようと歩いてたんだけどお腹が痛くて・・・」


 視線が集めたエリシアは気まずそうに目を逸らすと、どうやらリンシアが自分のために水を取りに行っている隙にベットを抜け出しここに向かって来たらしいことを説明する。


「エリシア!」

「だって!・・・リアムも知ってるよね? 今回だけはどうしても私は参加しないわけにはいかなかった。前回暴走してみんなに迷惑をかけた私は、今回だけは・・・」


 責めるように名前を呼んだ事に対し、彼女はビクビクしながら理由を陳べる。


「はぁ・・・わかった。今回はエリシアの気持ちに負けた。好きにするといい」


 初めはリンシアの気持ちを裏切った彼女に説教するつもりであったが、あまりにも切実で、はっきりした理由を述べられたため、これ以上責める気にはなれなかった。人生いろいろ。失敗は誰にだってあるし、どんなに馬鹿げた理由の失敗が、必死に心から挽回を願う時期に重なって立ちはだかることもあるだろう。


「ありがとうリアム!」


 許されたエリシアがとても嬉しそうに抱きついてきた。甘いと言われればそれまでだが、彼女の気持ちはよくわかる。僕もまた、前回の探索で失敗しているから。次から暴飲暴食もリスクリストに入れておくだろう。


「ちょっとあなたリアムから離れなさいよ! リアムは私の物なんだから!!」

「・・・リアム?」


 然も、ご機嫌なスキンシップを良しとしなかったミリアが慌てた様子で不服を申し立てる。それを聞いて、エリシアは不安そうに僕の名を呼ぶ。


「大丈夫。物と言っても雇われ家庭教師、報酬を貰ったからピアノを教えてるだけの者。ミリアの言葉遣いからして、商品みたいだけど、僕にとってはサービスの呼称の一つみたいなものだから」


 エリシアの不安を払拭するため、ミリアが使った物という表現についてわかりやすく説明をする。


「リアム!? そうじゃないでしょ!? ・・・いや違わないけれども!!」


 子供同士の会話にしてはあまりに淡白な回答に。更に慌てた様子で、ああでもないこうでもないと異論を唱えようとミリアは必死だ。遠回しにまるで自分が人を人とも見ていないようにこき使う価値観を持っているなんて説明をされれば、否定もするだろう。

 現に僕もいらぬ誤解を生まぬよう、彼女の言葉の揚げ足を取っただけだ。


『このままじゃこの女にリアムを取られちゃう・・・私の方が一緒にいて楽しいってもっとリアムに解からせるには・・・』


 この時、ミリアが何を考えていたのかは知りもしないが、難しい顔をして何かを考え始めたミリアを心配して声をかける。


「ミリア?」

「でもそれじゃあ露骨すぎるし・・・ああでもこっちだと・・・デヘヘ」


 僕の声は彼女に届かない。・・・デヘヘってなんだデヘヘって。


「これよ!・・・こうなったらこれしかないわ!」


 それから再起動まで1分ほど待っていただろうか。ようやく何かを思いついたらしい。とっておきの名案だと言わんばかりに拳を固く握り、嬉々として吠える。


「こうなったら私がどれだけすごいかあなたたちに見せてあげる! だから私も討伐に参加するわ!」


 可愛いだけじゃないんだからね! と、得意そうにビシッと啖呵を切り、エリアボス討伐に参加する旨を表明する。


「最初からそのつもりで来たのではなかったのか・・・馬鹿か貴様は・・・」

「なんですってェェえ!」

「待て! 今のはちょっとしたお茶目な高慢貴族ジョークというやつで・・・!」

「問答無料!」


 なんのためにここまで来たのか。隣でボソッと呟いたアルフレッドの言葉に反応し、ミリアの闘魂が爆発する。だが一つ訂正するならば「問答無料!」ではなく「問答無用!」だ。仮に前者のような言葉があるならば、無条件で問答するかなり慈悲に満ちた言葉になってしまう。


「だけど、アルフレッドはまだしも二人は家の人に黙ってここまで来たんでしょ?」


 そんなどうでもいいことを片方の頭で考えながら、もう片方を使ってミリアとエリシアに本当に黙ったまま参加していいのか、と質問する。


「う、うん・・・」

「え、ええ・・・」


 ミリアもアルフレッドを強襲するその手を止めて、こちらに反応する。先程は強い意志を見せたものの、母を騙したエリシアもやはり気まずそうだった。


「た・・・助かった」


 そんな中、脅威から逃れられたことに一人安堵するアルフレッド。本当にアルフレッドはこの両セットどちらでも犬猿の仲というか。本音ダダ漏れの素直ちゃん同士だ・・・本音が言い合えるほど仲がいいのだろう。そういうことにしておこう。


「だから僕が今から急いでお家に知らせに行くから、みんなは他のメンバーと合流して準備運動していてね」


 兎にも角にも、黙って家を出てきたのはまずい。こうなったら僕が()()()()()して、家の人に知らせるしかないだろう。


「リアム〜!ありがとう〜!」

「本当!? やったー!!!」

 

 つい先ほどまでビクついていたエリシアは、まるで救世主でも見つけ祈るように両手を合わせ目を潤ませ、ミリアは待ってましたと言わんばかりに両手を挙げる。


「言っとくけど叱らないであげてって説得しに行くわけじゃなくて、今ここにいますって報告に行くだけだから、勘違いしないように」


 まず感謝を示したエリシアはまだしも、嬉しそうにはしゃぐミリアは論外だ。ここはしっかり釘を刺しておくことにしよう。


「アルフレッドはフラジールがここにいるからしっかり絞ってもらってね。二人と違って多分執事さんや他のお手伝いさんたちはここに来てることを知ってるんだろ?」


 家に押しかけてきたミリアが無理やり引っ張ってきた。つまりは初めにミリアの対応をしたのは主人であるアルフレッドではなく執事か他の使用人のうちの誰か、ということだ。


「わ、わかった・・・すまないなリアム」


 今回は戒めとして、罰であった自宅待機が意図せず解消となったためにあえて彼のフォローをするつもりはなかったが・・・同情の余地はあるかな。


「いいよ・・・大変だったね」

「わかってくれるか? ・・・やはりお前はいい友達だ」


 言いつけ通りにしてはいた。酌量できるところも十分にある。だが今日の探索、討伐に参加できるようになった分、その清算は彼のお付きであるフラジールに任せるとしよう。


「それじゃあこんな狭いところじゃなくて広場に行こう」


 そうとなれば、他のみんなに合流して事情を説明しないといけない。

 エリシア、アルフレッド、そしてミリアを連れ立って、僕たちは、元の広いライ麦畑の中にぽっかり空いた広場へと戻ってくる。


「秘密のお話は済んだのかな?」


 ゾロゾロと畑から出てきた僕たちに気づいたイチカが近寄ってきた。


「はい。他のみんなは?」

「ウォルターたちは準備運動を兼ねて周辺の探索に出たよ? 方向はあっち、君がくるまで近くで探索するって言っていたから、大声で呼びかければ聞こえるんじゃないかな?」

「そうですか。・・・じゃあ3人とも、みんなと合流して探索しててね」

「はーい」

「わかったぞ」

「はーい!」


 どうやら既にウォーミングアップを兼ねた探索に出かけたらしい他のメンバーたち。

 それなら事情はここに残る本人たちから話してもらおう。

 僕は一緒に茂みから出てきた3人にこれからの計画を告げると、少し離れた場所に移動して魔法の準備をする。


「どうかしたのかな?」

「僕は少し街に戻ります。・・・あと危ないので離れておいてください」


 一人離れた場所に移動した僕を心配してくれたイチカに簡潔に理由を述べて、自分から離れるよう告げる。

 

「街の方角はこっちで・・・・・・レビテーション」


 方角を合わせて魔法鍵を唱え宙に浮く。


「ウィンドボール設置セット・・・ショット!」


 地面から垂直に浮いた状態で、両掌を後方斜め下に向けしっかり固定する。掌から出力した風属性魔力を制御して風球を作り出し、球に穴を空けて風を噴出させることで、一気に上空へと飛び立つ。


「ひゃ〜・・・あれがギルド長の愚痴聞き担当の剣狼と炎獄の息子か〜。やっぱり規格外だ〜・・・」

「私・・・ものすごい啖呵切っちゃったけど・・・・・・大丈夫かしら?」

「一々気にしていたら貴族のプライドなどズタボロになるぞ・・・」

「・・・かっこいい」


 ものすごいスピードで、空へと消えていったリアムを見送った4人は各々の感想を述べる。


「あれはリアムか?」

「だ・・よね?」

「うん・・・お姉ちゃん」

「ご主人様・・・」

「うわー・・・ティナちゃん!? それ以上強くしがみつかれると腕がちぎれちゃいますぅ!」


 ライ麦畑の中、モンスターを探して探索していた5人も急に広場の方から吹いてきた風に煽られ、上空を飛んでいく人影に気づくと、一時ポカンと見送って、一旦、広場へと戻る。


「イチカさんでしたっけ? ・・・この子も討伐メンバーに新しく登録できますか?」


 ウォルター達が合流するまでの間、エリシアがイチカにミリアのメンバー新規登録ができるかを尋ねる。


「はい、できますよ。後から登録する場合は、登録済みのパーティーメンバーの方からの申請で登録できます。お名前は?」

「ミリア・テラ・ノーフォークよ」

「・・・? 申し訳ありませんが、もう一度お聞きしてもよろしいですか?」

「ミリア・テラ・ノーフォークよ」

「・・・えっと」

「だから!・・・ミリア! テラ! ノーフォークよ!」


 名前を聞き、思考力が著しく低下してしまったイチカに自分の名前をこれでもかと大にして叫ぶ。


「・・・あの、間違いだったら申し訳ないのですが」

「多分間違えていない。そいつは領主ノーフォーク公の長女、ミリア・テラ・ノーフォークで間違いない」


 質問を・・・とイチカが口にした瞬間、すかさずその内容を察っして答えるアルフレッドであった。




 黄金色のカーペットを後に、町との間にある平原上空を飛んでいく。

 そもそも長距離移動なら、ゲートを使えばいいじゃないか!・・・と言う人もいるかもしれないが、ゲートの多用は危険だって昨日学んだばかりだ。


「やっふぅぅぅ!」


 ── 訂正。ただライ麦畑やら丘に立つ風車ののどかな風景に感化され、この広い青空を思いっきり飛んでみたかっただけだ。


「雑ですね。さっさと空を飛ぶ感覚に慣れればいいものを」

「うっさい・・・僕の三半規管は繊細なんだ」


 この飛び方が邪道だと批判するイデア。

 僕はこれに言い訳する。

 ジェットの他にも、僕は現在闇魔法を駆使した斥力飛行と、風魔法を駆使した風力飛行を使える。前者は目に見えないほど薄く密度を高めたレビテーション/空中浮揚の闇力子を繊細にコントロールすることで空を飛ぶ。宙に浮き続けながら斥力飛行する方法だ。後者は単純に風の力を発生、纏うことで空を飛ぶ風力飛行だ。だがどちらもこう、繊細な魔法操作に慣れていないとピタッと静止することが難しい。僕の練度ではふわふわ揺れる感覚がとても強い。そのため飛ぶとものの10分で飛行酔いし、必ずと言っていいほどダウンする。

 それに今回は急ぎ、この方法ならば体さえ固定していれば安定した推進力でそうゆらゆら揺れはしないし、スピードも出せる。


「ウィンドブレーキ、風力飛行」


 外に出る転移門のある建物の上空付近まできたところで逆噴射、推進力を風で殺し風力飛行に移行する。 

 もし、より高度な闇魔法の ”反重力子” を制御できれば、懸念される問題のほとんど解決、簡単な魔力調整だけで安定した浮遊が可能となるだろう。あとは練習を繰り返して己の三半規管を鍛えるだけでいい。


「着地」


 僕はまだこれが上手く生成できない。生成できてもせいぜい手に収まる卵程度、まだ体全体に作用させれるほど一度にたくさん生み出せない。これは魔力不足などではなく単純に僕の熟練度が足りないだけ、こればっかりは練習あるのみなのだ。


「わっ!」

「きゃ!」


 突如、子供が空から降りてきた。

 着地地点付近にいた人々が驚きの声を上げる。

 最近はもう色々ありすぎて、自重という言葉の意味を見失いつつある今日この頃。

 

「驚かせてごめんなさーい!」


 僕は着地すると同時に走り始めると、驚かせてしまった人たちに謝りながら急いで転移門へと向かう。


 ・

 ・

 ・


「わかったわリアムくん。わざわざありがとう」

「あの子は無断で家を出ただけではなく、討伐に参加しようとは・・・!」


 エリシアの母リンシア、ミリアの母マリアの反応はそれぞれこんな感じだった。リンシアの方は朝のことから部屋を抜け出したエリシアがどこに行ったのかも察していたみたいで落ち着いていたが、マリアの方は相当お冠で、どうやら城の使用人すべてに声をかけ一丸となって彼女を探していたようだ。今度アルフレッドたちとこういう事をするので、と、一応事前に、ミリアの脱走には気をつけるようマリアたちに前もって釘は刺していた。・・・のはずだが、もしも本当に誘拐だったら大変だからね。


「ミリア〜ッ! どこに行ったんだ〜ッ!」

「あれは気にしないでください。私が少し手が空かずその間ミリアの監視を頼みましたのに、うまく言いくるめられてその場を離れた挙句に──


『ミリアがこの世で一番大好きなパパをほったらかしてどこかに行くはずがない! これはきっと・・・そう!隠れんぼだ!』


・・・なんて言ってぜーんぜん見つからないから、誘拐の線とこじらせ始めて情緒不安定になっているだけですので」


 視界の端で号泣しながら庭を走り回るおっさんがいた。アレに訪問が気づかれるのは面倒臭い、改め、マリアの言葉に甘えることにして見なかったことにしよう。


「ミリアが討伐に参加する件ですが・・・」

「・・・許します。元々4年生に同じ歳の子たちが上がった時点で、後学のためダンジョン探索の実地訓練を始めようと思っていました。それが少し早くなったと思えばいいのです。それにリアムくんも一緒に参加しますでしょ? ミリアに気を遣わなければならない冒険者を雇うよりよっぽど安心ですもの」

「僕がついてて安心かどうかはわかりませんけど、経験者もいてギルド職員も側にいる討伐です。ただ、なるべく無理をしないようにだけ言っておきますね」

「ええ。あの子が言うことを聞かなかったら私がカリフラワーを片手に怒っていたとでも伝えてちょうだい。そしたら大人しくなるでしょう」


 ミリアはどうやらカリフラワーが苦手らしい。切り札を使わなければならない状況にならない事を祈ろう。

 そうして僕は公爵城を後にする。そして、再びダンジョンの方へと走る。


「あっ・・・ついでにちょっとうちに寄っていこう」


 キュッと体を方向転換。少しだけ寄り道だ。一つ用事を思い出したため自宅にちょっと寄り道をし、再びダンジョンへと戻ることにしよう。

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