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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第3部 〜ダンジョン ”テール” 攻略〜

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109 お店を作ろう 前編

「こんにちはー・・・アオイさーん!」

「・・・リアムか? いらっしゃい!」


 今日は東の方から商品を仕入れて販売している鈴屋に材料の買い出しだ。

 僕ももう直ぐ4年生になる。そして遂に、2年前森を半壊させた時に手に入れたダンジョンポイントが100万を下回っていた。そろそろ修行から攻略にシフトし、本格的に冒険者見習いを始めようとディメンションホールの貯蓄をしにきたのだ。


「今日は納豆が安い! おひとついかが?」

「それはいつも安いじゃないですか・・・3束ください」

「ナハハ、こいつは手厳しいね・・・はいよ」


 アオイの勧めで藁で包まれた納豆を3束購入する。相変わらずこれだけは、どうも異国の地で受けが悪いようだ。他に醤油、味噌、干物、梅干しなどのなるべく保存が利くものを購入していく。もちろん米もだ。


「最近はようやく買い手が増え始めてね、売り上げも伸びてきてるんだけどさー」


 注文された品を店頭に運びながら、店の近状を語る。


「店としてはまだまだ赤字、本店に比べると雲泥の差だ」


 店の経営は相変わらず厳しいらしい。彼女の両親が営んでいる鈴屋本店は貿易が盛んな港町にあるそうで、活気も儲けも雲泥の差があると嘆く。


「ここで一つ、何かいい案はないものかね〜」


 明後日の方を見て態とらしく悩みを溢す。


「今じゃそれを食べるためだけに他の街からも客が訪ね、毎日足しげく通う客で完売しない日がないノーフォーク1の名産お菓子を開発した期待の新星様から、アドバイスが貰えればな〜・・・」


 今度は完全に態と。こっちの方をチラチラ、チラ見しながら遠回しに長ったらしく助けを求める。


「・・・僕に言ってます?」

「うんうん! そう、そうだよ! ・・・ 何かいい案はないかな?」


 念の為確認を取った。アオイは僕から何か助言が欲しいらしい。うんうん待ってましたと言わんばかりに首を縦に振り、キラキラとした期待の目を向ける。・・・と言っても僕もその手の話は素人、統計学に始まり需要や供給、効用の求め方など多少の経済系知識はあっても実際に使ったこともないお粗末な知識、未知の領域なのだ。


「お願いします!神様仏様リアム大明神様〜!!」


 両手を合わせて神頼みをする如く拝み、懇願される。そこまで言われると、わからないの一言で片付けるのも躊躇われる。前世の故郷の味が買えるこの店にはとてもお世話になってるし、万が一にも潰れてしまったりしたらこちらもキツい。


「・・・そういえば、アオイさんのご実家って食堂をやってましたよね?」


 うーん・・・と首を捻り何か良いアイデアはないかと考えていた時、ふと前に聞いたアオイの話から、彼女の両親が貿易商、商店の他に食堂を経営していたという情報を思い出す。


「うん。確かにしていたし、食べられるものもウチで取り扱ってるもの使ったやつばかりだったよ」


 料理はからっきしで・・・と、バツが悪そうに答える。


「飲食物の商品を売る時、一つ有効な手段として ” 試食 ”というものがあります」

「試食? それは小分けにして商品を売るのかい?」

「いいえ。確かに、少量その分、割引したものを安く買ってもらい試してもらう・・・という方法もありますが、この場合は無料でお試し品を提供するものですかね」


 この世界にはまだ、試食のシステムは浸透していない。強いて挙げればリテールの最先端は魔道具の業界、しかしこれにも効果を知ってもらうために商品を使って実践する実践販売がある程度で、試食も試供品の概念はこれまで見たことがない。


「無料でかい!? そんなことしたら店はすっからかんで閑古鳥すら鳴かずに飛んでっちゃうよ!」

「いえ・・・実際には損が出ない範囲を推し測り提供するんですが・・・」


 試食の話を聞いたアオイの反応も予想通り、反発と驚きに満ちたものだった。

 これに関しては、やってみないとわからない。これは需要の問題である。僕はこの街において、どんな商品にどれだけの効用があるかなど知る由もない。ましてや異世界異国の、全く毛色の違う商品食材となれば尚更だ。


「話を戻しますね。要は、お客さんに味を知ってもらい興味を引くことが、リピーターをつけるにしろ、手に取ってもらうにも一番ということです」

「・・・だから父と母は食堂をしていたのか」

「かどうかは分かりかねますが、料理に食材が回せる分、廃棄も減りますし、現状の鈴屋を考えれば結構いい案ではないかと思いました」


 だからこそ、いっそのこと思い切って食堂をしてみてはどうかと思ったのだ。少し意味は違うが ” 毒をくらわば皿まで ” ”濡れぬ先こそ露をも厭え”・・・である。


「需要がありそうな商品に狙いを絞るべく、あれば参考にしたいんですが、ご実家の鈴屋がアウストラリアで商売し始めた頃の初期のデータ、および同様の食堂の品目や売り上げに関するデータはありますか?」

「・・・データァー?」

「ああ、情報のことです。この場合、帳簿がそれですかね」

「えっと・・・ごめん。こっちに来てから私がつけた帳簿ならあるけどそれはないな・・・2割はリアムが買ってくれた売り上げでスッカスカの帳簿だけど・・・見る?」

「・・・・・・」


 アオイから告げられたまさかの依存度に声も出ない。参考にできればかなり有効だと思ったためにダメ元で、実家の鈴屋本店の帳簿の写しがないかと尋ねてみたが結果は聞いての通り、どうやら寂しく心許ない事業計画となりそうだ。


「だっめだ。シーズン、販売数、 価格、どれからもあまり相関性が見られない。多くのお客が物珍しさで買っているのだとして、長期的な需要が見込めそうな素材はどれだ・・・リピーターは・・・」

「てへっ」

「僕だけかぁ・・・」

「あっ、そうそうお得意様のリアムといえば、あの人、よくうちに通っていろんなものを買ってくれてたんだよ。 リアムが目につけたものならヒット商品の原石があるかも知れないってさ。ピッグさん、昨日、王都から帰ってきたって聞いたんだけどまた買ってくれるかなぁ・・・」

「本当ですか!?」


 あーでもないこーでもないと心許ない帳簿を見ながら呟いていたら、予想外の情報が来たもんだ。

 ご存知テーゼ商会はこの街で手作り・丁寧ブランドを楯に、近年頭角を現してきたピッグさん筆頭の商会。そして僕の提案したアイスクリームの販売を委任している商会である。実は夏の城で開かれた交流会の後に、ピッグはエリシアの父ヴィンセントとともに王都の方へと出張していた。なんでもヴィンセントが持つ王都の支店で魔法箱の販売計画を立てるため、ついでにアイスクリームの方も王都支店で売り出すことにしたらしく、ここ半年ほどノーフォーク不在だったのだ。


「僕の方でも、もう少し考えてみますが、挨拶がてらピッグさんたちにも相談してみます。アオイさんもご実家の定食屋を思い出してみて、案をまとめててください」

「おうともさ!・・・って、ここはちゃんとお礼を言わないといけないね。ありがとう。 それじゃあまた!」

「ではまた!」


 幸先が良い。悩んでいるときに舞い込んできた幸運だ。

 ・・・もしかして狙ってた? ──なんて、アオイのことを疑ってみたりもするが、それならそれで彼女が上手かっただけのことか。鈴屋が潰れて現状一番困るのは、僕だ。


 ・

 ・

 ・


 アオイから情報をもらい、僕はそのままテーゼ商会に直行した。


「いいですか?」

「アイスクリームなら本日は完売いたしました。またのお越しをお待ちしております」


 レジに立っていたのは初めて見る女性の店員だった。恐らく新しく入った従業員だろう。パーティーの時に顔見知りになった店員達が見当たらなかったので、とりあえず彼女に話しかけてみた。


「ハハハー・・・いえ、アイスクリームじゃなくて会頭のピッグさんに取り次いでもらえないでしょうか」

「坊っちゃん、会頭はとてもお忙しい人なの。なにせ、まあ知ってると思いますけど? アイスクリームやパンケーキ・・・ああ、謙虚ながらに姿をお隠しなさっている麗しき仮面の君・・・が、私たち乙女のために作られたスウィーツを全面的に任されているのだから」

「はぁ・・・そうでしたか」


 碌に相手をしてもらえず、まだ見ぬ愛しの君に想いを馳せる。へい、ハロー。彼女の言うところの謙虚で麗しい仮面の君とは僕のことですよー。・・・パーティーの時、ピッグがアイスクリームを僕が開発したとブラームスの前で公言したが、その後一般公開の折にはエクレール発祥のスイーツの君、性別以外は全て謎で隠された通称”仮面の君”が作った、女性にオススメのお菓子と銘打って売り出された。

 最近はエクレール唯一の男性店員であるリゲスに幾つものファンレターが届く始末、それほどまでに前世からレシピ輸入してきたお菓子たちは、爆発的人気を博していた。


「では店長さんはいらっしゃいませんか?」


 作戦変更。この調子だと会頭であるピッグはダメだと思った。僕は、顔なじみである店長はいないのか尋ねる。


「・・・しょうが無いわね」


 仕方なさそうに分かりやすく両の手の平を天井に向け、ヤレヤレと首振りジェスチャーをする無作法さ。この人、接客業でこれからやっていけるのだろうか。


「店長・・・なんかどこぞの平民の子供が会頭を出せってうるさいんですけど」

「ん?・・・平民の子供が?」


 店長は店の奥にいた。会頭のピッグはダメであったが、この店を仕切る店長であれば面会を求めている客を門前払いすることはない。そのための店長だ。ああ店長、偉大なる店長。


「店長さん! こんにちは・・・?」

「シーッ!・・・こちらに」


 店の奥から出てきた馴染みの顔。僕はいつものように彼に挨拶しようとしたのだが、店長は急いで僕の元に駆け寄ると声を顰めるように言って、そのまま店の奥へと連れて行く。


「・・・こんにちはリアム殿、会頭に会いに?」

「はい。先日お帰りになられたと聞いたので」


 一息吐くと、店長は小さめの声で僕と言葉を交わす。


「会頭はエクレールに行かれてますよ。帰還した報告と、なんでも白パンの専属販売契約をしたいそうで・・・」


 ピッグはエクレールにいるらしい。うん、ならこの後出向こう。だが一つ、いつもと違う店長の対応が気がかりなのだ。


「何かあったんですか?」

「あちら・・・見えますか?」

「はい。あの方達がどうかしたんですか?」

「あそこにいるのは、恐らくウォーカーという商会で雇われた方々です・・・」

「ウォーカー?」


 男3に女2。こっそりと店員が出入りする勝手口から、店の中にいる複数の客を指してみせられる。


「2ヶ月ほど前に、アイスクリームを求める客足が少し落ちて、私から相談させていただきましたよね?・・・覚えておいでですか?」

「もちろん。寒さ対策で粉雪パンケーキを作って、アイスクリームと紅茶をセットに売り出した時ですよね?」

「そうです。実はあれからお菓子を扱うウォーカー商会からパンケーキの製法についてしつこく教えろと要求がありまして、これまでは会頭がいないため許可できないと突っぱねていたんですが、昨日どこで嗅ぎつけてきたのか王都から帰ってきた会頭に直接文句を言いにきたのです」


 店長は固い握りこぶしを作ると、忌々しそうに、しつこく何度も何度も、と、繰り返してその時のことを振り返る。


「ですが舌戦は会頭が圧勝、商人の心得えがどうあるべきか、礼儀がなっていないと散々叱られ返り討ちにあったんです」


 あの時はスカッとしました・・・ざまあです。と、一転して昨日のことを語る店長はかなり嬉しそうだ。


「もちろんレシピは全て特許を取られたリアムさんのもの、いくら要求されようが開示しませんがね」


 ガッシリ腕組みすると、フンッ! と荒い鼻息で一蹴する。この店長は感情が態度に現れやすく見ていて非常に面白い。

 店長の言った通り、アイスクリーム然り、魔法箱然り、新しく作ったパンケーキのレシピについても特許所得していた。同時にパンケーキの特許申請にあたり出願した特許は二つ、パンケーキのレシピ商用特許と重曹と酸による中和反応の論文だ。

 前者は文字通り、発明物の特許権を認められるものだ。

 後者は論文といっても、まずアルカリと酸という性質を石灰、重曹、または酢などの代表的な物質で分類分けした一覧を作り、その中から強い酸性のものと重曹を混ぜ合わせれば中和作用によって発泡するという変化を記しただけのものだが、研究開発の結果として認可された。


「特許を役所に問い合わせて、生地に重曹を混ぜこむところまではしたみたいなんです」

「ヨーグルトを加えてないんでしょうね。論文名には酸としか表記していませんでしたから」


 酸といえば酢、またはレモンなどがそれにあたるが、そこからヨーグルトにたどり着くのは難しいだろう。それらで代用しても生地は膨らむはずだが、香りは酸っぱく、とてもではないが調整が難しすぎて現在売り出しているパンケーキには程遠い出来となるはずだから。

 また、一応はその特許や論文から僕の名前を知ることはないはずだ。既に一部商会には僕が仮面の君であることがバレ、独占販売権を所有していることも承知であろう。しかし念には念を入れて、権利者の名を匿名とし、代理人としてピッグ、あるいはヴィンセントを登録してある。


「ぷくく・・・ホント間抜けな奴らです」


 すっごい嬉しそうに嘲笑うなぁ。相当ストレスが溜まっていたのだろう。ピッグが忙しいなら、この件の愚痴を吐き出せる相手は僕くらいだ。


「それでは、僕はピッグさんに会いに行きますね」


 テーゼ商会の近状も聞けたことだし、そろそろ僕はエクレールに向かうためにお暇しよう。


「ぼく・・・何かあったのかな?」

「・・・」

「店長さんとお話ししていたようだったから。おじさんたちは別に怪しいもんじゃないんだ。ただもし何かあったのなら、ちょっとおじさんたちにも教えて欲しいかなって」


 店を出ようとしたところ、あれだ、例のスパイたちの一人につかまってしまった。皮切りに、店の中にいた数人の男女が群がってくる。


「クレームを言いにきたとかではありません。勘違いだったらごめんなさい」

「クレームって何? 勘違いかどうかは置いといてさ、この店で売ってるクズみたいな菓子よりもっと美味しい菓子があるんだ。おじさんたちと一緒にお茶しないか?」


 クレームが通じない男にその一行。いちゃもんと言ったほうがよかっただろうか。


「ナメてかかってると痛い目みますよ? あなた方がしている行為は立派な営業妨害です。衛兵さんに通報すれば即逮捕ですね」・・・とか言ってやりたい。自制心も鈍く、男が言った言葉にプツンときてしまった。この店で売ってるお菓子より美味しい、冗談じゃない。この店で今売り出しているお菓子はエクレアさんたちが一生懸命作って卸しているものだ。ここは品評会場ではない。仮に本当に美味しかったとしても、わざわざ他の人が汗を流し作って売っている物を引き合いに出して比較するなど、性根が悪い。不味いならまずいと堂々と評価して欲しい。完全に万人受けする物を作り出すのは難しいが、レパートリーを増やしたり研究改良したり、努力はできる。それに・・・なんか僕だけじゃなくて、前世の世界まで否定されたみたいでムカついた。でも肝の小さい悪意に正面からぶつかるほどアホらしいこともない。怖いよ助けてって泣くか?・・・泣くぞ?


「営業妨害がどうしたって・・・?」


 ・・・最初のアレ、声に出てた。口が滑ったとは言わないが、聞こえないよう掠れるくらい窄めたつもりだった。


「誰が好き好んでおじさんみたいな人とお茶しますか?  仮にそれが後ろのお姉さんたちからのお誘いでも、僕はお断りします」


 聞こえてしまったのならしょうがない。初めはあまり関わり合いになりたくないため一歩引いて客観的に話を聞いていたが、冷静なところに熱湯を注がれ堪忍袋の緒は割れてしまった。・・・くちがへらない。標的になった女は、生意気なクソガキだ、と上唇を尖らせた。


「あなたたちみたいな卑怯愚劣な者のお誘いは鼻っからお断りだ。雇い主の方から情報が得られなかったら弱みを握れ、不評を広げろとでも言われましたか? 愚かだ」


 彼らは店長が僕を隠すように奥へ連れて行ったのを見ていたのだろう。

 ここからは憶測、とはいえ9割方自信を持って言えるが、僕が不良品を買ってしまったクレーマー、あるいはその類の弱みを持った客だとでも思ったのだろう。でなければこんな平民の子供に今大躍進中の商会が経営する店の店長が、セールスへこへこはしても、このくらいで勘弁してください御代官様隠しはしない。ありもしない妄想による愚行、本当馬鹿馬鹿しい。


「その薄汚いクズを小鴨の行進みたいに集めて、オレンジソースを上塗ったらとっとと母親の腹の中に戻ってから出直すといい。次の人生はましな見栄えになるだろう」

「ガキがッ!」

「バースト/ 《威圧》」


 耐えかねたリーダーと思われる最初に話しかけてきた男が動いた。拳を振り上げられたなら、威嚇するくらいはしてもいいだろう。

 雷と火の国でオレンジは半端者の揶揄になり得る。今、僕がそういうことにした。その色のソースを何度もつけて恥をうわ塗る暇があるなら、さっさと皿に収って食われちまえってことだ。次いでに今のお前は必然的に巡ってくる次の人生以下だと皮肉った。覚悟の上だ。

 僕の罵倒の意味はわからなくても、悪意を向けて馬鹿にされれば、一丁前にわかる。そういう状況だ。だが、みてくれよこの店内を。僕の皮肉は最高にイカしてた。こんなに店の中の空気が冷める事になるなんて、あんたたちのやってることはギャグでも笑えないって話だ。


「ば・・・」


 煽ったなんて言ってみろ。なぜ煽られたのか、周りに知られる羽目になる。 


「「「「ヒィッ」」」」


 今にも殴りかかろうと腕を振り上げていた男が急激に勢いをなくして、一歩後ずさる。同時に情けない声を上げる取り巻き達。

 《威圧》は半年前、ティナが攫われた後に覚えた。魔力と生命活動には密接なつながりを見出す事ができる。火魔法なら費やす魔力を増やすほど燃え広がり、回復魔法なら傷は早く塞がる。はたまた、純粋な大量の魔力ならば圧倒的力差のある弱者を威圧することができる。この圧倒的力差というのが大体魔力数値でいうと対象魔法防御値の約100倍、魔法防御のステータスは当人の保有する魔力量1/10に当たるため、計算すれば対象保有魔力の10倍の魔力を体に纏った時にはじめて効果を期待する事ができる。


「あ・・あああ・・・あ」


 何かを叫ぼうとしているが、体の震えのせいでそれを言えない。彼は僕が悪魔だとでも言いたいのだろうか。失礼しちゃうが、気持ちはわからなくはない。恐らく僕の両目には魔眼が発動しているはずだ。なにせ左目は青白く、右目は元来魔族が契約に使う印が刻まれ、紫色に光っているのだから。

 よりおどろおどろしく飾ったことに他意はない。これは意図した自発的な発動とは少し違う。体内に保存されている魔力を爆発的に引き出し体に纏う、それがバースト/《威圧》当て字の所以であり、この特性ゆえに目にも魔力が誘導されて魔眼が併発してしまう。


「これ以上僕に手出ししたら、本気で拘束しますよ? ・・・言いましたよね、痛い目を見るって」


 今のは・・・他意ムンムン。とびっきりの笑顔で男達に語りかけた。これでも商いの世界に片足突っ込んでいる人間だ。望まぬ客でも、笑顔で対応する実に優良な対応だと自分ながらに感心する。どうぞ御引き取りください。


「化け物だ! 殺されるーっ!!」

「拘束って言ってるのに殺すって・・・」


 残念、答えは化け物で悪魔じゃなかった。


「「「「・・・・・・」」」」


 後ろの取り巻きたちは皆、男が言葉を絞り出すまでの間に泡を吹いて倒れてしまっていた。纏った魔力は数値にして1万弱、一般平民の人種に当てはめれば大人の平均魔力が約千であるから、意外にも、リーダーっぽい男は平均以上の魔力を持っているのだと推察できる。こんなつまんないことしてないで、冒険者でもしてればいいのに。金払いがいいのか、それとも悪趣味なのか。


「何かお困りではありませんか?」


 リーダーっぽい男が店を逃げ出たのを見計らい、タッタッタと何事もなかったかのように軽い足取りで近づき御用聞きされた。


「すみません店長さん、この人たちの後始末をお願いできますか。あと居合わせたお客さんたちのアフターケアも。今度出す予定の春のパンケーキストロベリーセットの無料券でも作って渡してあげてください。あと遠方のお客様には何か商会の方で見繕ってお土産に、ただどちらにするかはお客さん次第、代金は僕が払いますから」

「了解でありますリアム殿!」

「それじゃ」

「いってらっしゃいませ」


 力強い敬礼で見送られながら、ピンピンしている彼に内心少し驚いていた。威圧は込めた魔力に対して一定以上の魔力を保有しているほどこの通り、効果は愕然と弱まっていく。現に店内に残る他のお客さんや従業員たちは敵意を向けられていなくとも、逃げ出すこともなければ、店長とのやり取りの間も呆然としていた・・・店長すげぇ。


「誠に申し訳ありませんでした。皆様方、あの方は公爵家にゆかりのあるお方です。ご安心ください」


 まずは店内で腰を抜かしているお客様方を安心させよう。このことはノーフォークの目星い商会に属しているものならば誰もが知っている情報だ。言っても今更だと彼もきっと許してくれることだろう。


「よいしょっと・・・」


 その後、店長は事後に来店するお客の印象を悪くしないために、気絶した荒くれ者共を店の奥へと運んだ。


「ててて店長!・・・あ、あの子は一体!」


 腰を抜かしていた彼曰く無作法な新人店員はなんとか動く足で気絶した荒くれ者を運ぶ私の元へと歩み寄り、ついさっきまで自分が接客していた子供の正体を確かめたがる。


「パピスさん。あなたももうこの店で一緒に働く同士、知っていてもいいかもしれません」


 気絶している荒くれ者を放り投げ、パンパンと手を叩いて気を引き締めよう。


「彼があなたの恋焦がれる仮面の貴公子であり、アイスクリームやパンケーキの発案者、リアム殿ですよ」

「えぇーーーッ!?」


 サラッと商会の重大機密が告げられた。それがあまりにも唐突であっさりしていただけに、パピスは一度は驚き声を上げてみせる・・・が、あんな冷たい目を見せたあの子が、と、考えると怖がればいいのか畏れればいいのかわからない不思議な気分にさせられる。

 この街の領主様はあんな化け物のような殺気を放てる子を御しているのか。これまで抱いていた甘く優しい世界にいた偶像の彼と、先ほど見た冷たく強烈な殺気を放つまだ幼い子供・・・今にも殺されてしまいそうな殺気に当てられたばかりだと言うのに、心臓は興奮しているとはっきり分かるほどに拍動し、体はポワンと火照ってくる。・・・吊橋効果で吊り橋に好意を持ったなんて話は聞いたことはない。


「さあ、これからご迷惑をおかけしたお客様の接待です。あなたも惚けてないで手伝ってくださいね」

「は・・・は〜い」


 これが世に言う一目惚れというやつだろうか。恋の類いとは言い難い。しかし、彼からはただならぬ将来性が漂っていることは、明らかだ。今は売り子の一人だが、将来は市場を分析して適切なリテールをするプランニングを学ぶために大きな商会の本店に見習いとして入った。


「ファン・・・そうファン!! 今、私に天啓が降りました!! 私はリアム様のファンとして、ファンクラブを設立します!!!」


 ふと、脳裏に浮かんだファンという言葉。この世界でのファンとは主に闘技やダンジョンのコンテストなどにおいて人気のある格闘家や冒険者、パーティー、チームにつくものだ。


「こうなったらぶっちゃけ色々話したいことはありますが、とりあえず早く手伝いなさい!!・・・あと、そのファンクラブ第一号はこの私で」

「ダメですよ店長! ファン第一号はこの私です!!」


 本人の知らぬ間にファンクラブが立ち上がった。まあ成り立ちの初めはみんなそんなものだろう。とにかく、彼の役に立てることから始めなくては・・・今は目の前の仕事に集中集中!

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