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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第2部 ~スクールと仲間~

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104 ケイブゴブリン

「それにしても、もう少し応用がきくものだと思ってたんだけど」


 僕は、森に作り出した一本道を駆けながら、ふと奴隷紋の制約について考える。


「今度は分化させた上で明確にした情報に変えないとな」


 まさか奴隷紋が名前の情報まで縛ってしまうとは思わなかった。それに──


「まさか対象に人間以外も含まれるなんて、本当予想外だったよ・・・」


 そう、それは本当に予想外だった。しかし今思えば、ティナはあの制約を施した後僕の名前を街や街道でも呼ぶことはなく、完全に二人森の中で安全な時しか呼ばなかった気がする。


「これはなんでもしてくれる便利なものに慣れ過ぎてしまった弊害かな?」


「反論。 どんなに便利な道具があろうと、それは所詮道具に過ぎません。使い手が道具に責任転嫁することはエゴであり、ナンセンスだと愚考します」


「使い手次第か・・・って普通の道具に意思とかないからね? だから道具に対してエゴってのは・・・」


「ではクズで」


「ぐぬぬ・・・」


 ちょっと気分転換にイデアをからかってみるが、見事に倍返しの往復ワードビンタを食らう。しかし──


「付き合ってくれてありがとう・・・少し元気出てきたよ」


「私はサポートですから。ですがそろそろ──」


「っと、偵察かな。やっぱ派手にやって正解だった」


 走りながらイデアと言葉を交わしていると、前方に数匹のゴブリン達の集団が見えた。だが同時に、イデアとの会話のおかげで、僕の心持ちは少しだけ軽くなった。


「グギャギャッ!」


「悪いけど、刀で呑気に相手してる暇はないんだ・・・ショックボルト」


「「「ギギャーーーッ!??」」」


 まだ昼過ぎなのに、はっきりと見える光の乱撃がゴブリン達を襲う。広範囲かつ一撃で仕留めるため力のセーブは50%ほど、それでもいつもと比べれば大分強く、ショックボルトとは思えないほどの威力と範囲で繰り出された魔法は、確実にゴブリン達の命を奪っていった。


「もしかしてまた魔力上がってるかも。最近またコントロールがきつくなってきたんだよな・・・」


 僕はその強すぎる電光にため息を吐く。魔力でいうと100使ったかくらいの程度で、魔法も初級のショックボルト。それなのに雷のような音を轟かせ、ゴブリン達を襲ったそれに嫌気すら感じる。だって僕の保有魔力は30万越え、それに関わらず成長の限界が全く見えないのだから。


「・・・イデア。あれかな?」


「おそらくそうかと。中に個体名ティナの魔力反応とともに複数の生体を感知しました」


「よし。それじゃあ──」


 偵察のゴブリン達の屍を超え、途切れた道から再び森の中へと入った僕は、ようやくそれらしき洞窟を発見する。そして──


「魔族の血胤」


 右目に魔力を集中し、魔眼を発動させる。僕の目には今、紫色の光とともにエリシアとの契約印が浮かんでいるはずだ。


「これで暗闇でも大丈夫。念の為左目の後魔眼も発動させてっと」


 それとついでに、左目の魔眼も発動させておく。魔族の特徴を捉えた右目の魔眼の能力は今の所、体の一部の霧化、そして暗闇での視覚補助だ。視覚補助については後魔眼にもその効果はあるのだが、消費魔力に関しては段違い、かなり省エネな仕様となっている。吸血種はその昔、夜に活動する種だったらしく、この能力もその名残だそうで──


「ダークローブ」


 そして僕は最後に、闇魔法の闇の衣を唱える。この魔法は単純に体の周りを闇属性の魔力で包むというもので、光のあるところで使えば真っ黒な人型が出来上がるのだが、洞窟のような暗がりで使えば効果は抜群、周りの光を吸収し、闇に溶け込むことができる。しかし消費魔力が激しく、また上級程度の魔法のため使用者は少ないのだが、傭兵時代にしばしば夜営してモンスターと戦っていたジェグドがお前なら大丈夫だと教えてくれたのだ。


「やはり不気味ですマスター」


「そういうなって。これが確実なんだから」


 全身黒で包まれた人型。そしてその目の部分からだけ紫と青の不気味な光が覗いている。ローブというかスーツだろうか、まあとにかくこれを不気味と言わない人はおそらくいないであろう。


『じゃあこれからは頭の中で会話な。道案内よろしく』


『了解。真っ直ぐです』


『・・・それはわかるよ。分かれ道に当たった時だけよろしく』


『真っ直ぐです』


『・・・』


 そして準備を済ませた僕は、いよいよイデアのナビを携え洞窟の中へと侵入していく。


『拍子抜けするくらい何もなかったな』


『はい。あとはこの壁をよじ登るだけです』


『・・・』


 ここまで5分、洞窟の攻略は呆気ないほど何事もなく進んだ。そして僕たちは今、10mほど上にぽっかり穴の空いた壁を目の前に、立ち尽くしていた。


『ここから約20m先、5mほど下方の大きな空洞の中心に目的の人物がいます。しかし入り口を探すにも遠回りです』

 

 そして最初で最期の難関がこの壁となったわけだが ──


『この衣便利だよな』


『そんな使い方をするのはマスターくらいだと思います』


 それも難なく攻略してしまった。このダークローブの特性は闇の属性そのもの、魔力濃度を上げ光を吸収する闇力子の引力を応用し壁に吸着、そのままペタペタと両手両足をくっつけ這い登っていく。そして──


『いた!ティナだ!!』


 そのぽっかり空いた穴から中を伺うと、数十匹のゴブリン達が囲うように警戒している空洞の中心に、ティナはいた。ティナは縄のようなものでぐるぐる巻きにされ、体を拘束されていた。おそらくゴブリン達が、彼女が自害できないようにそうしたのだろう。また、そこには他のモンスターの死骸や武器なども大量に積まれていた。ここは貯蔵庫、ゴブリン達が戦利品や食料を貯めておく場所なのだろう。


『良かった・・・どうやら作戦はうまく機能していたみたいだ』


 それは初めの風の砲弾、僕があれだけ派手に魔法をぶちかました理由は道を作るためとそしてもう一つ、ゴブリンに危機を悟らせ警戒状態に移行させるためだ。しかし確証はなかった。流石に多少脳のあるゴブリン達なら、警戒中まで事に及ぶということはないだろうと推測していたが、もしもってこともある。だが作戦は見事に成功。偵察部隊のゴブリン達を引き寄せ一網打尽、入り口の警備がなくなった洞窟に忍び込むことは容易となり、更に残りのゴブリン達は自分達の資産を守るためにここに集結しているという棚ぼたまで。

 

『それじゃあイデア。会話の橋渡しよろしく』


『仕様が無いマスターですね』


『もしもしティナ・・・ティナ聞こえる?』


 そして僕は、イデアに魔力リンクによる会話の橋渡しをしてもらう。


「ッ!・・・この声はリッ!」


 すると、それが届いたティナが声をだして辺りを見回そうとするが ──


『ダメダメッ! 頭の中で話さなくちゃ!・・・制約のせいで、僕の名前が口に出せないんだろ?』


 ティナが僕の名前を声に出しかけた瞬間、彼女の首元から不気味な魔力が現れ、その口を塞いだ。その光景を確認した僕は慌ててティナの行動を止め、頭の中で会話するように促す。


『は・・・はい。すみませなでした』


『いい?これから簡潔にティナが取るべき行動だけを伝えるから、それに従って・・・』


 そして不幸中の幸いか、口を塞がれたことが幸いし、ティナも周りのゴブリン達に気づかれぬ内に落ち着きを取り戻した。僕はそんな彼女にこれからの作戦を伝え──


「右目をダークローブで完全に覆って・・・『よし、それじゃあ・・・3・・2・・1』」


 準備を済ませ、カウントダウンを唱える。そして──


「や・・・やーいやーいゴブリンの弱虫阿呆おたこんなすーッ!!」


「「「ギーギーギーッ!!!」」」


 僕から教えられた言葉を、ティナがめいいっぱい空洞に響き渡る声で叫ぶ。やはり少し誤字っていたが、それでも無駄にプライドのある空洞内のゴブリン達は一斉にティナに注目した。同時に──


「閃光弾!」


 僕は即座に右手のダークローブの一部を形態変化、その中に限界まで光の属性魔力を注ぎ込むとそれをもぎ取り、ティナの近くに投げつける。


「グギャギャ?」


 ティナの近くに落ちてきた謎の黒い物体に、ゴブリン達がこれまた不思議そうに注目する。


「ギャーギャ?」


 そして、1匹のゴブリンがそれを確認しようと近づいてきた瞬間 ──


「ギャ!?── グギャーッ!!!」


散乱する閃光。その1匹のゴブリンの苦痛の叫びを皮切りに、洞窟中のゴブリン達が自分達の目を両手で覆い、悶え苦しむ。


反転リバース・・・よっと」


 僕は直様ダークローブの性質を引力から反転、斥力に替えて跳躍する。


解放リリース・・・あーッ!・・・漏らしてないよね?」


 そして着地の瞬間、ローブの魔力密度を少し濃くすると、それらの解放を伴い重力・勢いを殺した。


「ティナ、もう目を開けてもいいよ」


 ティナの目の前まで無事辿り着けた僕は、閃光が弱くなり始めたのを見計らい、ティナの開眼を促す。これは作戦計画の段階で、彼女には悪口を大声で叫んだ後、直ぐに目を瞑るようにと指示していたからだ。


「はい、ご主人様・・・」


 恐る恐る、目を開けるティナ。因みに、彼女が僕のことをご主人様と呼んでいるのは応急処置。因果応報のため、呼び名はモブの如くAさんやBさんでいいよとこれも作戦計画の段階で言ったのだが、どうしても彼女がそう呼ぶと譲らなかったのだ。


「ご主人様!」


 そして、その開いた黄色の透き通った目を涙で滲ませると束の間、ティナは勢いよく僕の胸に飛び込んでくる。


「こ、怖かったです・・・」


「ごめんね、僕がもっとしっかり確認していれば」


 何時もは無表情に近いティナが、ここまで感情を顕にしたのはそれこそ、サンドイッチに入っていたジャムの砂糖に驚いた一度っきりではなかろうか。

 そんな彼女を、僕は一先ず受け止め慰める。本当に情けない。自分の不甲斐なさを嫌という程痛感させられたが──


「でもちょっとだけ待っててね。ティナを攫ったゴブリン達に、お仕置きしなくちゃ」


 僕はティナの頭を2、3度撫でると、彼女を胸から離し周りを見渡す。


「グギャー・・・ギャギャギッ!!」


 どうやら数匹だが、徐々に目が回復してきたようだ。ケイブゴブリンは洞窟に住むため比較的目の良い種族、そのため暗がりでの閃光弾はかなり効果があったであろうが、タイミングよく瞬きをしていた奴が何体かいたのだろうか。


「僕も同罪かもだけど、これは一先ずの贖罪──」


 そんな彼らに反撃の余地を与えないため、僕は間髪入れずに杖を取り出すと──


「グレイシア」


 辺り一帯の時間を堯博、無慈悲な氷の牢獄へと閉じ込める。


「す、しごいです」


 空洞内を大きな振動と共に覆い尽くした氷の塊。それをみたティナからも、感嘆の声が漏れる。


「ちょっと寒いけど、我慢してね。火は燃焼するから危ないし雷は論外、風や土は崩落の2次被害が出そうだったし、固定のできる氷魔法が一番だったんだ」


 僕は自分達の半径5メートル程を残し、全てのゴブリン達が凍ったのを確認すると、せっせとティナに断りを入れながらゴブリン達の資産を亜空間に放り込んでいく。


「ファイアーブレード」


 そしてそれらを全て仕舞い終わると、今度は手から伸びて縦に恐ろしく長い火の性質を持った剣を作り出す。


 全方位に向け手加減なく放出された氷は分厚く、ゴブリン達が使っていた出入り口まで塞いでしまっていたからだ。


「切り口が雑です。それじゃあまだまだ一人前とは言えませんね」


「別に目指してないって・・・」


 くり抜くように切られた氷の切り口を見て、イデアから厳しい評価が降る。しかし僕は溶接工、ましてや氷の切り出し職人なんて目指した覚えはない。


「解放・・・よし、溶けた」


 最後に、切り抜かれた ∩ 型の氷の中心にその剣を突き立てると魔力を解除し、一気に残りの氷を溶かす。


「足元濡れて滑りやすいから気をつけて」


「は・・・はい」


 そして溶けた氷により濡れてしまった地面に気をつけながらも空洞を抜け出し、遂に僕はティナの救出を成功させた。


 ・

 ・

 ・


しかし──


「困った・・・もうすぐ夜だ」


 僕たちが洞窟の入り口についた頃、既に日は落ちかけ、ダンジョンは夜を迎えようとしていた。


「戻りにたくさんゴブリンに遭遇したのはこのせいか」


 洞窟の戻り道、行きとは打って変わって何回か遭遇したゴブリン達のことを思い出しながら、僕は頭を抱える。恐らく彼らはティナを攫ったゴブリン同様、探索に出かけていた者達で、夕暮れを迎え拠点に戻ってきたのだろう。


「仕様が無い。とりあえず訓練場に戻ろうか、ティナ」


「はい」


 夜をダンジョンの中で迎えるのは危険だが、ここからセーフポイントまでは3kmほど、とてもではないが僕たちの足では途中で完全に日が落ちてしまう。一方、リゲスと使っている秘密の訓練場は500mほどであろうか。あそこは森の中にぽっかり空いた空き地で、休憩用の丸太なんかも常備している。

 本当はこの洞窟で一泊できれば一番いいのだが、まだ戻ってきていないゴブリンもいるかもしれないし、日の変わる時刻を境にモンスター達はダンジョンの復元力によりリスポーンする。どこかの鬼畜学長先生のように、洞窟に罠を張り巡らせて時限式に駆逐するのも一つの手だが、流石にそれは面倒すぎる。

 無事、洞窟から抜け出した僕たちであったが、これからが土壇場、長い夜を森の中で過ごすことになりそうだ。


 

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