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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第2部 ~スクールと仲間~

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100 獣人の女の子

『マスターの浮気者』


「なんでだよ・・・」


『マスターには私というスレーブが既にいると申告します』


「確かに僕はイデアにマスターって呼ばれてるけど、それはあくまでイデアがスキルという形で存在するために生じた立ち位置を指すものだろう? 形だけだから、イデアが呼びたければいつでも名前で呼んでくれていいし、奴隷みたいに都合よく全てを強制する気は無いよ」


『冗談のつもりで言ったのですが、まさかの展開です。もちろん私はあなたのスキル、その命に逆らうことは限りなくあり得ないことですが・・・これが恥じらいという感情ですか?』


「それは照れっていうんだよ。恥じらいはやめて・・・というか、こんなに主人にグイグイボケをかます奴隷もいないと思うんだけど?」


『それは立ち位置の問題です。私はマスターのスキルであり、その立ち位置はゼロより下、しかし限りなくゼロに近づくことができます。更に思考というx軸においてはその限りではありませんので、私は私の感情においてマスターに発言します』


「・・・そうだね」


 僕は会話の末、一人考え込む。ここまでくると、本当にイデアが感情を持っていることは否定できない。


「おいリアム、お前何さっきから独り言言ってるんだ? 大丈夫か?」


 すると、僕の隣から僕を心配する声が聞こえてくる。


「ああごめん。また口に出しちゃってた・・・ほら、この前話したイデアと話してたんだよ。彼女頭の中に直接話しかけることができるから」


「なるほどな・・・急に一人喋り始めたからびっくりしたぜ」


『マスターは不器用なのです。こんにちはウォルター。私はイデア』


「うおッ!?ビックリした〜・・・なんか声が頭の中に聞こえてきたぞ?」


「嘘だろ・・・。まさか他人の魔力にも干渉して会話できるの?」


『解。マスターの残量魔力より、魔法防御の低いものであれば簡単にリンクが可能です。リスク回避のためリンク作成にあたりスキャニングとフィルタリングによる対象の厳選が必要ですが、個体名ウォルターはこの審査を通過したことをお知らせします。パンパカパーン』


 解答に基づき、自前のファンファーレを鳴らすイデア。そこは魔力干渉し声をモデリングしているのだから、本物に近い楽器の音を鳴らせなかったものなのか。


「なんかすげー難しいこと言ってて殆ど理解できねぇーが、なぜか親近感湧くユーモア溢れる奴だな・・・」


「・・・でしょ」


 僕はウォルターに共感しつつ頭を抱える。これからまた新しいことに挑戦するというのに、どうしてこう余計な不安を抱えなければならないのか。僕はその答えのわかっているジレンマにあえて飛び込み、ウォルター、イデアとともに一抹の不安を抱えて、ダンジョン ”テール”の街へと向かう。


 ・

 ・

 ・


「これはこれはウォルター様。今日もいつものスレーブでよろしいですか? 予約はなかったと存じますが、シフトは空いておりますよ?」


「マクレランドさんこんにちは。でも今日は付き添いできたんだ。この・・・」


「リアムです。マクレランドさんでよろしかったでしょうか?」


「はい。これはとても聡そうなぼっちゃまで・・・。この奴隷商会を仕切っているマクレランドと申します。以後お見知り置きを」


「よろしくお願いします」


 表通りから外れ裏路地に少し入ったところにその店はあった。裏路地に入り口を構えているということで既に怪しさは満載なのだが、その路地は割と綺麗に整備されており、店の中も小綺麗でそこまで印象は悪くなかった。


 店主のマクレランドと挨拶し終わった僕たちは応接間に通され、早速要件を彼に伝える。


「なるほど・・・いらぬ争いを避けるために、ですか」


「はい。できれば周囲の変化に敏感で、そういう処世に長けていればなおいいんですが・・・」


「わかりました。ではリアム様の提示なされた条件に見合いそうな候補を何人か連れてまいります」


「ありがとうございます」


 するとそれを聞いたマクレランドも、早々に対応してみせる。


「リアム様の提示なされた条件だと、これらの奴隷たちがそれに当てはまるかと・・・」


「これは・・・皆強そうですね『鑑定』」


「はい、元は傭兵をしていたものやそちら側の世界の身を置いていた強者ばかりです。戦闘用奴隷ばかりで少々貸出代の方が割高となっておりますが、リアム様の条件ですと、どうしてもそういう勘に長けた実力者、経験者から選ぶことになるかと」


 そして数分後、応接室に連れてこられた奴隷たちは皆筋骨隆々、または犯罪性を匂わせる隠に精通してそうな強者ばかりであった。しかし──


「・・・この子は」


 その中に一人、異質で場違い、周りからかなり浮いている者がいた。


「はい、こちらは犬耳種キツネの獣人の子になります。」


「なぜこの子を?」


「理由は複数です。まず獣人は共通して周囲の気配、変化に敏感な者が多い。犬耳種のこの子も例外ではありません」


「へぇ・・・」


「それに差し出がましいようですが、高額な傭兵とわかる者を供につければかえって目をつけられやすいかと。失礼ですがリアム様はまだ幼い。その容姿は格好の的として映り、明らかに目立つ供をつけていればそれは一定の強さを持つ不躾者の選別ラインを超える材料、途端に脅威となります・・・ですから」


 それは目から鱗であった。確かにこんな強そうな供をつけて僕みたいな子供が歩いていれば一定の小物は遠ざけられるだろうが、腕に自信のある犯罪者からは目をつけられてしまう可能性がグンと上がる。それじゃあまだ奴隷なんて雇わず、一人で歩いていた方がマシだ。


「言葉は・・・」


「この子は獣人の国ガルド出身ですが、王都近郊の出ですので言葉は通じます。現地語も使えますが、同時にまだ第二言語が心もとないため、その分のお代は貸出代に含まれておりません」


「そうですか・・・」


「おいリアム。値段も悪くないしシフトもガラ空きだぞ? これはいいんじゃないか?」


「何しろ先日配属したばかりでして」


「そうだね・・・じゃあ」


 本当はもっと色々聞こうと思った。だがマクレランドの連れてきた奴隷とその話から、答えはほとんど決まったようなもの。それに──


『ユニークスキル持ちでこの名前。それにこの値段は少し怖いけど、父さんとウォルターのお墨付きもあるし』


 その獣人の子はまさかのユニークスキル持ち、提示された貸出代は1日につき大銅貨たったの一枚というかなり良心的な値段であったのだ。マクレランドから手渡された書類には名前やユニークスキルのことは書かれていなかったが ──


「決めた。とりあえず今日1日借りてみても?」


「ええもちろんですとも。ではこちらの書類にサインと、入会金の銀貨5枚、貸出代の銅貨1枚をお願いいたします」


「はい・・・っとこれでいいですか?」


「はい。ご成約ありがとうございます。これからあなた様と商会との間に良きご縁が続きますよう、お祈りさせていただきます」


「こちらこそお願いします・・・じゃあ早速」


「そうですね。来なさいティナ」


 奴隷貸出における同意書へのサインと入会金・貸出金を確認したマクレランドが呼びかけをし──


「ティナ・・・と申します? 本日はお選びいただきありがとうございます。よろしくお願いいたします」


「・・・リアムです。こちらこそよろしく」


 少し拙い挨拶に間が空いてしまったものの、互いにしっかり挨拶を交わす。因みに僕の返事が遅れた理由は彼女の言葉の拙さによるものだけではなく、鑑定によって得た情報と彼女の自己紹介にやはりちょっとした差があったために生じたのだが、彼女が隠しているのであればそれは無闇に触れない方が良いのであろう。


「じゃあリアム。俺は仕事があるからこれで」


「ありがとうウォルター、とりあえず頑張ってみるよ」


「ああ、頑張れよ」


 店先に戻り、この後仕事のあるウォルターとの別れを済ませる。


「それじゃあまた夕刻に」


「はい。よき1日を」


「「行ってきます」」


 そして僕も、彼の背中が路地を出て通りに消えるまで見届け、ティナと供に商会を後にする。


 ・

 ・

 ・


「その・・・ティナ・・さんは武器とかは使わないんですか?」


「リアム様、どうか私のことはティナとでも呼び捨てクださい。こっちの言葉ではこのそちらの方が呼びやすいんじゃと」


「・・・わりました、ティナ・・・さん」


「さんはいらっしゃらない・・・?」


「だったら無理してティナも敬語を使わなくて良いよ? まだ慣れてないんでしょ?」


「そうですか・・・」


 街を出て街道を歩く僕たちは、お互いのことをより知るために情報交換を始めていた。因みに目的地はエリアCのセーフポイント、難易度はロガリエで挑戦したBより上であるが、リゲスに教えてもらった人気の少ない良い練習の場がそのエリアにはあるのだ。


「武器はこの手袋・・・獣人の間では普通な武器」


「殴り・・・倒すの?」


「はい。獣人ノ体は強い。獣人のからだ強化を合わせればそれは強くなって、岩も砕く。口で聞いた?ケど、強いの戦士は湖を割ったトか小山を吹き飛ばしやったとか?」


「・・・へぇ」


 僕はその逸話に少し尻込みしてしまう。だってそれって確実にやばいヤツだもん。


『50歩100歩』


『・・・うるさい』


 すると、頭の片隅でボソッと呟いたイデアに僕はバツ悪く言葉を返す。魔力やスキルでいえば僕も相当だし、実際その現象だけなら魔法で簡単に再現できるからだ。


「拳でってところが重要だよね!ハハハハハッ・・・」


「・・・? そうですネ?」

『気持ち悪いです。マスター』


 突然、そう言って笑い始める僕にそれぞれの反応を見せる二人。


「ハハハッ・・・はぁ。なんか疲れた」


「大丈夫デスか? 休みますカ?」


「ああ、そうじゃなくて・・・」


 そして僕は数秒笑い飛ばしたのち、ふとため息と共に弱音を吐いてしまう。


「こう公の場で畏まるのは何ら構わないんだけど、プライベートな場でそれを気にしてギクシャクするのはなんか違うかと」


「はぁ・・・」


「だから妙な気を使うのはやめます・・・とりあえず単刀直入に、これから話すことを含め僕の情報を口外しないよう奴隷紋で縛らせてもらいます。これだけはどんなに信頼を築こうと施そうと決めていたことだから・・・」


「・・・わかりました?」


「じゃあ・・・イデア、僕の声がティナ以外に届かないようにできる?」


「余裕です」


「・・・!コレは・・・?」


「じゃあよろしく」


 それから僕は奴隷紋による情報の拘束を彼女に施し、ざっくり少しだけ自分のことを説明した。少しというのは魔力が多いということ、イデアのこと、それとスキルアップのために彼女とダンジョンに潜ることにしたという目的ぐらいで、一応奴隷紋による制約で情報を縛っているし、後はわざわざ話す必要もないので今回は伏せた。


「というわけで、ティナには主に僕の周囲の警戒をお願いしたくて・・・」


「・・・」


「あの、大丈夫?」


「・・・」


 しかしその少量の情報だけでも彼女を驚かせるには十分だったようで、その後目的地に着くまで、彼女が一度でも口を開くことはなかった。


 ・

 ・

 ・


「見極めて・・・躱して・・・」


 今の僕とゴブリンの背丈はあまり変わらない。


「棍棒を持った手を切り落とす」


「グギャーッ!?」


「そのまま切り落とした腕側に一瞬フェイントを入れて・・・」


「グゥゥゥッ!!」


「もう一本の腕を伸ばしてきたところでまた切り落とす」


「ギャァァァッ!!!」


「エラシコ・・・」


 スポーツにおける技の概念は時に武術に応用でき、武術そのものがスポーツとなる場合もある。他者と競うことを前提としたものでそれは何ら不思議なことではない。


 僕はその後サクッと両腕のなくなったゴブリンの頭を一閃で切り落とす。


「他の技のように別のネーミングはないのですか?」


「うーん。他は刀らしく日本語に基づいてネーミングしたけど、このフェイントだけはこれが咄嗟にでたというか・・・」


「語彙力の不足を警告します」 


「エッ!?良くない?・・・結構気に入ってたんだけど」


「ネーミングにも統一性が必要だと進言します。提案、鏡花という名前でどうでしょうか?」


「あっ、それ良いね。もらい」


「世話の焼けるマスターです」


 討伐部位である左耳を切り落とし、軽く血振りした刀を拭いながらイデアと議論する。


「あ、あの・・・」


「ん? どうしたのティナ」


「血・・・」


「ああ。武器に魔力が纏えれば滅多につかないそうなんだけど、一回纏ってみたら刀が粉々になっちゃって。だからこうして紙で拭っているんだ」


「マスター、個体名ティナの言いたいことはそうじゃないかと」


「へッ? 違うの?」


 僕はイデアの言葉に首を傾げる。


「その・・・血、怖くナイですか?」


「ああ、そういうことか・・・」


 どうやら本当に違ったらしい。というかよくよく考えてみれば、そちらの意の方が順当であろう。


「そういえば今は全くと言って良いほど生理的な拒否反応も起きない。ロガリエの時はもう少し色々と感じていたのに・・・」


『告。マスターは元々血に慣れていました。前世では料理をよくなされていたようですし、また、血を見ることが少なくなった世界でしょっちゅう血を見ていたからでしょう』


『いや確かに家にいた時はよく料理してたし、自分の血やら輸血の血はしょっちゅう見てたけど、嫌悪感から来る身震いみたいなのがなかったわけじゃないからね?・・・というか、何でそんなこと知ってんだ! そんなことを話した覚えはないぞ!?』


『私はマスターのスキルでありマスターの中で構成された記憶があります。基礎となった媒体情報は欠落していますが、私が構成される際にマスターの記憶が流れ込み、また転生からの記憶も記録してあります』


『・・・だから前世特有の言葉や言い回しも知ってたわけか。これでまたひとつ謎が解けた』


『墓穴を掘りました。折角マスターをおど・・・驚かすネタとして秘匿していましたが、まあ良しとしましょう』


『めっちゃ気になる詰まりだったんだけど?』


『またマスターの価値観にスキル《魔族の血胤》の影響を確認。種族的な価値観の混同が起きています。おそらく生成した魔族魔力を保有し、新しい形態を習得したため、無意識下でマスターの生物的防衛機能が働いた結果だと推測します』


『誤魔化した・・・まあ良いや。つまり気づかないところで勝手に感情のセーブが起きてると?・・・それってヤバくない?』


『解。セーブされているのは血に対するネガティブな感情のみです。これによって発生している物理的ストレスは皆無、マスターが自覚していれば問題ないと進言します・・・それに』


『それに?』


『そろそろこの議論を引き上げて個体名ティナの応対を再開することをお勧めします。先ほどから不安、心配、そして恐れなどの感情が表情から見て取れます』


「ヤバッ! ごめんねティナ!」


「は、はい?」


 イデアに指摘され、僕は焦りティナに謝罪する。


「そのちょっと考え事していてね! ティナに言われてそのことに気づいたと言うか・・・」


「?」


「だ、だからその! ありがとう!」


「??」


 僕はなぜこの時お礼を言ったのだろうか。焦りすぎていたのだろうか?・・・否、ティナに指摘され大事なことに気づいたのは確かなのだ。


「・・・どう、いたしました?」


 すると、拙い言葉で返事をするティナ。


「本当ごめん・・・ありがとう」


「???」


 僕はその優しさに思わずグッときてしまい、もう一度の謝罪とお礼を零す。


「理由は帰りながら話すよ。日も傾いてきたし、今日はそろそろ引き上げよう」


「は、はい?」


「とりあえず、ご苦労様」


「お、お疲れ様でした・・・???」


 結局、終始ティナを混乱させてしまっていた僕。しかしそろそろ帰らなければティナの返還期限もあるため、宣言通り説明は後回しに、黙々と身支度を進めるのであった。

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