プロローグ
手を握って声をかけてくれている
でもあまり耳には入ってこない
「あぁ、そんな、に・・・かなし、い・・・かお、を・・・しな、いで。だい・・・じょう、ぶ・・・ぼく、はしあわ、せだった、から。だから・・・ね?」
握られている感触が少し強くなったような・・・なっていないような・・・・・・。
するとのぞいている顔はみんな少しだけクシャッとしながらも笑顔になった気がした。
「まん、ぞ、く、、、あ、りがと、、、____ 」
だめだ、体が怠くなって手に力が入らないーーー。
最後に少し嘘をついた。
まだまだやりたいことがあった。
ましてや心残りが多すぎるくらいの人生だった。
でも愛していた人たちに笑顔でいて欲しくて・・・・・・
我儘かもしれない。
それでもやっぱり・・・・・・。
▽ ▽ ▽ ▽
ーーー目の前が真っ暗になった。
頭の中にたわいもないこれまでが浮かんでくる。
享年19歳か・・・。
長くも若い人生だった。
元々病弱で、他と比べると持てた時間も、機会も、経験も圧倒的に足りなかった。
歯痒く思いながらも外から見てそれができない自分を慰みーーー
本やタブレットでそれを想像しては虚しく憂う___。
しかし諦め悪くベットの上で、その日得た知識を巡らせながら幻想に浸っていた。
ーー本当に長くて足りなかった。
治療を受け続けられたその環境に感謝している。
命の選択を考えることもあった。
それでも希望と絶望の繰り返しにバラバラにされそうな心を引き止め保ってくれた家族にも・・・・・・。
そう考えると、最後は愛していた人たちに看取られて幸せな終わりだった。
呆ける思考が人生を締めくくり始める。
そう、もう終わった。
あぁ、幸せだった。
もう、満足だーーー
ーーー本当に?
次の瞬間心停止した時のモニターのような緑の一本線が走り、空っぽの不安を感じさせるあの音が鳴り響く。そして音がどんどん小さくなり、視界と聴覚をノイズが覆い始める。
何かがマスキングされていくような感覚。
変な感覚だ。
視界のノイズはだんだんと白んできてやがて完全な白となり、それと同時に聴覚を支配していたノイズも止んだ。
やがてぼんやりと色々な色が移り始める。
それは移り変わりながら徐々に鮮明になっていき、やがて知らない天井が視界に映った。
わけがわからなくて放心する。
その束の間、目の前に一人の女性の顔が横から現れた。
すると体が持ち上がる感覚とともに女性の顔が少し近くなり・・・・・・
「・・・ィル、ーーーが少しぼーっとしてる様なんだけど大丈夫かしら?」
少し心配そうな顔をする女性の声が徐々に鮮明になりそれがだれかへの問いかけだとわかる。
「本当か?」
と、どこからか男の声が聞こえた。
返事から数秒がたった後、女性の顔の反対側に男の顔が現れた。
その男の方に僅かに視界を移すと思わず声が漏れる。
「ぁう・・・」
すると二人とも相好を崩しこちらを見ている。
この見ず知らずの二人のことを僕は知らない。
でも僕を見るこの優しい顔は知っている・・・・・・
そう、、、父さんと母さんの顔だ。