②発見者
「きゃっ」
「おっ」
突然の大きな音に、伊藤夫妻は揃って驚いた。夫妻は顔を見合わせると、ゆっくりと窓の方に首を回した。
伊藤夫妻の住居はA公園の東に位置する。妻の伊藤愛子は派遣職員。夫の伊藤正一は紡績会社の職員。妻は21歳、夫は24歳。若さ真っ盛りの二人だが、ここ数日の暑さに夫婦共に根を上げ、今日は二人で休暇を取り、だらだらとテレビを見ていた。
そこで、先ほどの音が鳴った。その音は、テレビを見ていても気付くほどの強烈な音だった。
「今の・・・銃声・・・?」
音がした方向・・・窓へ顔を向けながら、愛子が夫に尋ねた。
「じゅ、銃声!?いや、そんなはずは」
ここは日本である。銃声など聞こえるはずがない。正一は愛子の疑問を鼻で笑いたかったが、笑えなかった。
確かに今、窓の外から聞こえた音は、普段の生活で聞かない類の、激しく、大きい音だったからだ。
正一が首をかしげていると、愛子はソファから立って窓の手前まで行った。
「お、おい。危ないぞ」
「何が危ないのよ」
「だって、もし本当に銃声だったら」
「そんなこと言ったって、とにかく音の正体を確認しないわけにはいかないでしょ?」
愛子はカーテンを開き、窓を勢いよく開けた。
開いた窓から、A公園の全景が見えた。
やや錆付いたブランコと滑り台。こちらも古めかしいベンチに、ここだけ小奇麗な水飲み場とトイレ。ゴミ箱は横倒しになっており、中から銀色に光るお菓子のパッケージやペットボトルの蓋が周辺に広がっている。黄色いスコップに青色のバットにピンク色のホッピング・・・そして。そのすぐ横に。
男が仰向けに倒れていた。
男は、口と目を大きく広げ、倒れたままピクリとも動かなかった。
「きゃああああああ」
愛子の悲鳴が、公園中に響き渡った。