血ぃすーたろかー4回目
さて、2週間の間全員がボールをふわふわ動かしたり何やったりする練習をした。指先から魔法(俺命名)を出す練習もした。ノンナはアホだが頭自体は非常に良い出来らしく一回教えれば直ぐに分かるように成った。ただし、それをもう一回口で説明させるのは不可能だった。
世に言う“感覚で覚える人”って奴だ。ファイアーボールを出せるように成ったのだが俺が手のひらの上に直径5cmから7cmのボールをイメージしろと言うのだが、どうにもうまくいかない。野球ボールだよ、野球ボール。
で、しょうが無いので俺が一回やってみせると何故か直ぐに出来る。ノンナに説明させると「こう、ギューってやってから、ガーって感じで、グッ!だ」だそうだ。アホなのだ。
まぁ、それで使えるんだから良いか。力も軽く握っただけで人間の数十倍以上の力がある。握力計で計った所、左手で図ったら軽く500kgは出た。利き手である右手でやったら計測不能、ノンナは馬鹿力を発揮して両手で計測不能、ヘルシングは両手で400kg程、ストーカーは利き手300kg反対150kgだ。
この時点で軽く「ストーカー君、力付けなきゃ~」って言ってしまい、ストーカー君もですねと笑っていたが、ハッと我に返って、握力100kg超って人間を超えてるってことを思い出す。
他にも身体能力が上がってるし、パワーも上がっている。銃とかぶっちゃけ要らないんじゃない?ってレベルに強くなってるのだ。で、そんな俺にとっては楽しい楽しい2週間を過ごして漸く外に出る。
情報は既に集めてあり、この研究所から大凡2km程言った先にエルフの集落が有り、其処には300人規模の小さな集落が有る。そして、そこのエルフは何やら恐れをなして日々、言い合いをしていた。研究所にあった一番でかい偵察ドローンは半径100km圏内を活動できる小規模な物しか無く、人工衛星と接続出来る端末を探して其処に接続出来れば世界中の情報をある程度は知ることが出来るだろう。
ノンナがその事については異様に詳しく、誰も触れない眠る前の地位に付いて薄々だが分かった気がする。多分、ノンナは軍人の、しかもかなり高位の軍人の家に生まれた一人娘だと思う。
「じゃあ、3千年近く経ってるけど、地下の軍事施設とか探せば生きてる通信器や送受信用のアンテナが有るかもしれないってことだな?」
「当たり前よ!
ヴラドが持ってる通信機は容量が小さすぎて衛生からの受容データ量は制限されてるわ!軍事施設の通信機は管区全体を指揮する必要があるから大規模なデータをやり取りできるから、衛生からのデータを受容してもまだまだ余裕が有るはずよ!
それに、そういう施設は自己保全機能が全て付いていて、自己保全機能が壊れて無ければ基本的にはどこかのパーツが破損しても修理して使えるわ!」
ノンナが自信満々に告げるので、俺達の当面の目標はその自衛隊、彼女曰く国防軍の通信基地を探して向かう。一番良いのがエシュロンとか言う世界中の情報を集めている通信基地の一端をになっている青森県三沢にある三沢基地だとか。
彼処は米軍の管轄下であったために警備も厳重で人間がいなくなってもロボットだけが動いて警備をしている可能せは大いにあるし、自己保全機能が働いているだろうから問題ないはずだ、とか。
なので、目指せ青森県。まぁ、他の通信施設があったら其処をハッキングして生きてるレーダー基地等を探せばよいのだがね。
「スカイツリーはどうなのさ?」
「ああ、あれ?
無理だろ。滅茶苦茶高いから地震とかで落雷とかで倒壊してるはず。自己修復機能が働けばまだしも、民間用は軍用に比べて人が動かすってのが前提の自己修復機能だからな」
ノンナの言葉に全員ががっくり来た。だって、スカイツリーの方が近いんだもの。まぁ、一応見に行くけどさ。
「では、朝食を摂ったら行くのでよろしいですわね?」
「よろしいですわ!」
「ああ」
ヘルシングの言葉に全員が頷いた。
装備は既にできている。因みに、外が眩しく感じられたのは俺達の目がアルビノレベルにメラニン色素が無いからだとか。なので、ナノマシンがメラニンを作るからそれに変わる何かをするまではグラサン必須だ。
俺はレオンでジャン・レノがつけたみたいな丸いグラサン。そしたら、皆が真似して俺と同じグラサンをした。あと、幅広の帽子も態々作った。ぶっちゃけ、真っ白アーカードみたいになり、ノンナだけアーカードではなくロリカードになっていた。
だれかジャッカル持ってこいよ。今の俺なら撃てる。
「取り敢えず、武器は護身用に拳銃だけな」
武装の妥協案は拳銃とマガジンを2個。腰に下げて、出来るだけビビらないように4人揃って外に出る。緊張の一瞬です。
例によって扉の前には何かすごい数のお供え物が置いてあり、ノンナがその一つを手にとって齧りやがった。
「バカ!落ちてる物を拾って食うなよ!」
「大丈夫だって、新鮮だって出てるんだから」
そういう意味じゃねーよ。体に毒になるかも知れねーだろうが。
「あ、これリンゴっぽい味がする」
「マジで?」
「マジマジ」
ノンナがほらと俺に差し出してくる。一応、回収した果物と同じ形で毒の検出も調べたけど出てこなかった。俺はリンゴモドキを小さく齧って口の中で暫く含み、脇に捨てる。体を張った薬物の調べ方。舐める。
「……甘いな。リンゴっぽい味だ」
「な?」
でも俺は2時間待つぜ!食べかけのリンゴもどきを脇に捨てる。ノンナは籠を抱え、他にバナナっぽいやつとかミカンっぽい奴を大量に抱えた。持ってくなよ。ヘルシングが置いときなさいよと言うが、ノンナは動物に取られるだろうがと言って抱えている。
どんだけ食い意地張ってんだよお前は……
で、4人でゾロゾロと歩いていると前方から何やらめかし込んで荘厳な面持ちのエルフ達が歩いてきている。想定外の出会いに俺達は勿論、向こうも動揺。
「あ~……
ハロー」
ハローと挨拶をすると、向こうもハローと返して来る。
取り敢えず、交渉が出来そうな雰囲気なのでゴリゴリいく。拡張現実に演説用原稿をアップ。内容は英単語をズラズラと並べて言いたいことを一方的に言うという物だ。
「我々、敵、違う。我々、平和、希望、とても。
我々、とても、強い。だが、我々、それを、使う、敵、だけ。
我々、貴方達、仲間、希望する。貴方達、我々、攻撃、無し」
OK?と尋ねると何やら長老のような奴が一歩前に出てきて深々と頭を下げて告げる。
「我々、貴方様、怒らせる、無し。我々、この娘、生け贄。
怒り、無し、希望」
何かよく分からんけど、生け贄とか言いながら一人のエルフの少女が前に出た。エルフの少女はガクブルしており、何か化粧とかまでしてる。
「……どういう事だ?」
「よく分からないのですが、エルフの少女をどっかに生け贄に出す様ですね」
「そう言えば、吸血鬼とか言ってましたよ?」
「分かった!
研究所に吸血鬼みたいな化物が住んでると思ってそのエルフを生け贄として差し出すつもりなのよ!」
ノンナがドヤ顔で俺達の方に見る。成る程な。ノンナにしては冴えてるな。
全員がノンナの意見に納得し、それからどうするのか?って話になる。
「取り敢えず、研究所には吸血鬼が居ないって教えてみては?」
「よし」
辞書を開いて単語をピックアップ。
暫くごちゃごちゃやってからヘルシングに推敲させて、OKが出た所で再び俺が代表に立つ。
「あ~……
彼処、吸血鬼、無し。彼処、我々、暮らす、家。家、危険、ある。貴方達、危ない。
近寄る、無し」
OK?と尋ねると全員がOKと頷いた。OKらしい。
で、話の続き。
「あー……
我々、貴方達、村、見る、希望。
我々、貴方達、友達、希望。
貴方達、我々、言葉、暮らし、教える」
OK?と言うと向こうは少し固まってから村長がOKと頷いた。よし、村への訪問の許可が降りた。
ちょっと予定とは違うが概ねやりたい事は完了したな。
「我々、今、村、見る、希望。
貴方達、我々、案内、希望」
OK?と確認すると、村長はOKと頷いた。よしよし、万事順調。レッツ・ゴー!
そのまま全員でエルフの村に向かう。道中2km程でお互いの会話がない。お互いの会話がないっていうか会話が出来ないから無理も無いんだけどね。
「ノンナ、体は何とも無いか?」
さっきからリンゴをずっとシャリシャリやってノンナを見る。俺は何とも無い。ノンナも大丈夫だと頷いている。なので、俺もリンゴを籠から取って齧る。
うん、甘くて美味い。で、リンゴを食べながら歩いてると、突然脇の茂みから何か猿みたいなのが数匹飛び出してきた。体の色は保護色なのか緑色っぽく、肩や腹、胸に毛が生えた動物が出て来る。完全な二足歩行をしており、手には太い木の棒や石を持っている。
やっぱり、未来には猿も居るんだな。俺の知ってる猿とは偉い違いだけど。
「何だあれ?」
「嫌ですわ、汚らしい」
「猿っぽいね」
「猿か!」
ノンナが籠を俺に押し付け、リンゴを一個片手に餌付けしに行こうとする。猿に餌やるなよ。まぁ、良いか。
エルフ達が何やら慌てていた。まぁ、猿っぽい奴にリンゴっぽい物を差し出した次の瞬間だった。猿はノンナに持っていた木の棒で殴りかかったのだ。
「ノンナ!?」
「うぉ!?」
ノンナは既の所で棒を避けると、懐から拳銃を引き抜いた。そして、そのまま殴り掛かってきた猿に弾丸を叩き込む。
その動きは自然なものであったが、如何せん5発程撃って2発しか当たってない。2メートルと離れてない距離で。俺はノンナのカバーをするために拳銃を抜いてノンナの襟首を掴んで猿どもの攻撃から遠ざけつつ銃撃を加える。
「お前、何でこの距離で外すんだよ!
下手糞!」
「私は確り狙ったけど、この銃が当てなかったんだ」
私のせいじゃねぇとノンナは言う。どんな理論だ。
俺はノンナが再び銃を構えようとしたのでそれを取り上げる。
「お前は撃つな!
俺に当たったらどうする!」
色々と危ないから下がってろと告げると、ヘルシングが前にやってくる。
「私も手伝いますわ。
こう見えても、射撃には心得が有りますの」
「そうか。助かる」
取り敢えず、ノンナに撃たれた猿は肩に2発食らって激怒してる。仲間の猿もギャッギャと酷い声を上げていた。
二丁拳銃。拡張現実が射撃の補填をする。視界には弾道が表示されており、俺はその弾道を手負いの猿と俺から見て右にいる猿に向ける。ヘルシングは左側の猿に狙いをつけたらしく、ヘルシングの弾道が示されていた。
で、お互いに狙いが定まったのでトリガーを引く。放たれた弾丸は問答無用で猿の頭蓋骨に入って後方から飛び出す。一撃で猿を仕留めたのだった。
「ノンナ、お前、拡張現実のサポートがあって何で外すんだよ」
「私の拡張現実は壊れてるんだ」
「見え透いた嘘をつくんじゃない」
全く。取り敢えず、倒れている猿に近寄って心臓にもう一発づつ撃ち込んでおく。
で、残った死体は不衛生だから燃やそう。掌を掲げて燃えろーと念じてみると猿の死体が一気に燃え上がった。火力強すぎぃ!?
「何やってるので?」
「いや、不衛生だから焼却しようと思ったら凄まじく燃え上がった」
「と、言うかこの猿にもナノマシンが有るのですね」
「え?」
ヘルシングの言葉に首を傾けるとヘルシングもえ?と首を傾けた。
曰く、発火の原因はナノマシンの暴走が引き起こす過加熱である。そして、手を翳しただけで燃えるということは猿はナノマシンを持っている、と言う事になる。そうでなければ、油を掛けて俺が創りだした火をそっちに引火させないかぎりはここまで燃え上がらないと言う事である。
「……確かに。
じゃあ、ちょっと待てよ?この猿はナノマシンを保有してるってことはどっかの研究機関や動物園から逃げ出した猿が野生化したってことか?」
「そういう事でしょうね。
ペットは勿論、人間の管理下に置かれていた動植物は皆一様にナノマシンを投与されておりましたから」
俺とヘルシングの言葉にストーカーがそう言えば、と前に出てきた。
「戦時中にナノマシンの工場だったか研究所が爆撃されて自己増殖型ナノマシンが自然界に大量に放出されたって聞いてたから、多分、その影響でこの世界にはナノマシンが溢れてるんじゃないでしょうか?」
「マジで?
それってヤバくね?大丈夫なの?」
「ナノマシンはいわばラジコンですわ。ラジコンはコントローラーが無ければタダの模型。適切なコントロールがなされなければ存在していても無価値ですので、大丈夫ですわ」
ヘルシングは猿を見ながら彼等はナノマシンの使い方を知らないようですしと肩を竦める。
「つー事はこのリンゴとかにもナノマシンが入ってるのか?」
「どうでしょう?ナノマシン自体は遺伝しませんが、経口摂取等で体内に入るし、植物も動物も同じですからね」
試しにノンナが抱えているリンゴの一つに浮かべと命じてみるとそのままフワリと浮かび上がる。
「……スゲェ」
「お、おぉ……」
ノンナも目の前でリンゴが浮遊しているのに驚愕した様子だった。そのまま軽く燃えろと命じると自然発火。そして、凍れと命じると凍った。凍った所で地面にゴロンと落っこちる。その後は命じても動かないのでリンゴの内部に有るナノマシンは全て消え去ったのだろう。
成る程なぁ。
「あ、このリンゴ美味い」
で、食い意地の張ったノンナは落ちたリンゴをシャリシャリやっていた。焼き冷凍リンゴって言う訳の分からないリンゴだ。
スゲーな。
で、其処から暫くどんな物にナノマシンがあってどんな物にナノマシンがないのかを確かめていたら、基本全てのものにナノマシンは有るらしい。で、この力をエルフ達曰く魔術と言うそうだ。進歩しすぎた科学は魔法と何ら違いは無いと言う言葉があったが、まさにそれだった。
ナノマシンパネェ。
ノンナの言葉遣いがまだ安定して無い+指花の名残が強い頃だね