血ぃすーたろかー3回目
彼等の後をつけると、彼等は研究所の前で固まっていた。偵察ロボットの映像を通してみると彼等は俺が動かした祭儀場っぽいのを見て何やら騒いでいるのだ。
ヤベェ……すっかり忘れてた……
エルフの女が手にしていた果物っぽい何かが入った籠を地面に落とし、二人に今まで来た道を指差しながら何か言いつけて走りだす。少年と少女はそれに頷き、少年は担いでいた弓に矢を番える。また、少女は少年の腰に下がっていた剣を抜くので、一気に脅威度が低に上がった。
俺氏、心臓バックバク。心拍数の急増と呼吸が荒い、そして極度の緊張状態であると目の前にワイプが出る。
ウルセェ、わかってるよ!畜生、どうする?
悪い事したら先手を打って謝罪しよう。そうしよう。
「……よし!来いや!」
アサルトライフルを片手に茂みから飛び出る。すると、少年が弓矢を構えるし、少女も剣を構える。矢は木材で出来ており、鏃はエナメル質、つまり歯で出来ているとご丁寧に記された。剣は鉄製なので脅威度は低。弓矢の脅威度は低のまま。
「俺、それ、やった。
悪気、無い。謝罪、許せ」
日本語の単語オンリーでそう宣言しながら脇に動かした祭壇を指差す。すると、二人が何言ってんのか分からんらしくお互いにヒソヒソ話し始める。
俺がゆっくりとジリジリと研究所の扉に歩みを進めると彼等は動くな!と叫んだ。英語も入れた方が良いのか?今度は英語の単語で叫んでみると、彼等は驚いた顔で俺を見る。
《これ、お前、動かす》
《お前、何処、来る》
エルフ達が告げるので、俺は後ろの建物を指差した。
《お前、この祠、寝る、吸血鬼》
何やねん吸血鬼ってお前。まぁ、外見は吸血鬼みたいだけどさぁ……
何て返事をしようか考えていたらエルフ達は弓矢をほっぽり出して逃げていった。俺が待てよと追い掛けようとしたがその足の速さたるたサル並み。しょうが無いので、俺は落ちていた弓矢とか剣とか果実とかを拾い上げて研究所に入れておいた。序に、祭壇も元の位置に戻しておく。
彼等と対話するにはもう少し情報を集めにゃいかんね。
裏口から出て偵察ロボットで情報を集めよう。UAV等は全て揃ってるんだ。
◇◆◇
研究所に戻って今あった事を三人に話すべく取り敢えず、ヘルシングさんの部屋に飛び込んだ。
「うぉ!?誰だお前!」
部屋に入るとヘルシングさんが周囲をキョロキョロと見回して立っていた。ヘルシングさんは俺を見るや否や両手を上げて、中国語で私に敵意はない、降伏すると言っていた。
ヘルシングさん、まさかの中国人!?
「あ、あ~……
ニーハオ」
「は?」
「え?」
「……日本人なので?」
「日本人です」
どうやら、ヘルシングさんは日本人らしい。良かった~すっかり、日本人だと思ってたからこれで中国人ですとか言われた超ビビッてた。
「あ~え~っと、ヘルシングさん」
「は?」
「あ、えっと、ヘルシングさんってのは俺が勝手に名前を付けて呼んでいたんだよ。取り敢えず、部屋を出て貰えれば、何処に何が有るか分かるように成ってるから」
他の部屋に向かうとヒラコーがガンガンカプセルの上蓋を殴っている。やっぱりコイツはアホだった!
取り敢えず、カプセルの内側にあるノブを指差す。
「何やってるので?」
「ああ、ヒラコーが蓋が開かないって扉を叩いてたから開け方をな」
ヘルシングが俺の隣に並び、カプセルの中を覗いている。ヒラコーがノブをガチャガチャと上下に動かすもんで俺はそれは手前に引っ張るのだと教えると、漸くカプセルの上蓋が空いた。
「あーヒドイ目にあった!」
「いや、お前、入る前に自分でロック掛けただろうが」
「覚えてねーもん!
せんそーは勝ったのか?」
馬鹿だなコイツ。
「そうですわ!
戦争はどうなりましたの?我が国は勝ちましたので?」
ヘルシングもそれが一番聞きたかったことだと言わんばかりに俺を見る。
「まぁ、待てよ。
それについてはもう一人の奴を見てからだ」
多分、この調子だと彼も起きているだろう。
二人を連れて外に出る。すると、ストーカー君も部屋から出てきたようだ。ヨタヨタと壁に手を置きながら歩いている。
「おぉ!ストーカー君!
やった!やったぞ!これで俺はたった4人の同胞を手に入れた!」
1ヶ月ぶりの会話。嬉しくて涙が出てきた。万歳三唱もしちゃう。
俺につられてヒラコーも万歳三唱し、何故か二人がバンザイしているのでストーカー君も万歳三唱。そして、ヘルシングも取り敢えずバンザイしていた。
◇◆◇
それから、俺は3人に被服、つっても白色の軍服を渡してやり着るように告げた。靴も軍靴しかないのでそれを履いてもらう。全員の準備が終わったら次に飲み物と食事を用意し、序に例の日記帳も3人の部屋から回収した。
三人は研究所の会議室みたいな場所に連れて行き、食事を差し出しながら今置かれている現状に付いて話すべきか、どうするべきかを考える。
「あ~……
取り敢えず、自己紹介する?」
「そんな事は必要ありませんわ。
我が国は戦争に勝ったので?」
ヘルシングさんは俺に詰め寄るように告げるので、俺は落ち着けよとヘルシングさんを椅子に戻す。戦争云々言ってるから、コイツは俺が寝た以降に冬眠に入った人ってことだよな?
ヒラコーもそんな戦争について言及していたし。ストーカー君は戦争って?言う顔をしているので、俺と同期かもしれん。
「取り敢えず、だ。
俺は戦争については一切知らん。2200年の戦争が始まる1ヶ月前に新型ナノマシンのテストって事で此処で冬眠に入った人間だ」
俺の言葉に三人は驚いたように立ち上がった。
「あ、貴方が第一期なのですね?」
俺が頷くとヘルシングが失礼致しましたと深々と頭を下げる。取り敢えず、俺は被っていたガスマスクを脱いでヘルメットも取っておいた。
「えっと、ヘルシングさんは?」
「私は2220年に冬眠に入った二期生ですわ」
そうなのですか。知りませんでしたわ。
「え?
僕、2230年ですけど……」
ストーカー君が手を上げて小さく言った。
「お前ら馬鹿だな!
今年は2290年だぞ!じーちゃんが言ってたもん!」
ヒラコーはバッカだなーと大笑いして言う。三人が三人とも首を傾げているので俺が何故か一番古い時代の人間たる俺が説明をすることに成った。
「あ~……
結果から言うと、事は西暦換算で5015年の5月だ。俺もお前らも3千年程寝坊している。俺の体は全てナノマシンで構築されているからお前らもそうだろう。戦争に関して言えば、日本は一応、勝ち組に入って終戦協定を結んだらしいが国内外がひっちゃかめっちゃかだしぶっちゃけ、戦後賠償だの何だのとかは分捕るどころの騒ぎじゃなく、全世界で戦国時代みたいな感じになってたらしい。詳しくはその日記帳を読め。
色々聞いたり、言いたいことは有るだろうが、全てにおいて、まずそれを読め。話はそれからだ」
OK?と告げてから、全員に日記帳を読ませる。日記帳を読ませるのだが、如何せんヒラコーはアホっぽいし、ストーカーも中学生っぽい。唯一大学生っぽいヘルシングはすらすらと読んでいるが、二人は5ページあたりで普通に止まってる。
「読めない感じがあったら拡張機能使って調べろな。辞書機能ぐらいあるから。
自動翻訳や読み上げ機能もあるから」
俺の言葉にストーカーは驚いた顔を、ヒラコーは意味分からんと言う顔をしていた。使い方が分からんようだが、拡張機能の使い方を説明するのは無理なので、俺はヘルプの呼び出し方を教えておいた。するとストーカー君もヒラコーも驚嘆の声を上げており、こっそりやっていたらしいヘルシングも同様だった。
うん、それで遊びたくなるのも分かるが、先ずは日記帳を読もうか。
それから2時間程してヘルシングが読み終えたらしく日記帳を閉じると、目を固く閉じフルフルと震えていた。
「お疲れ様」
「外は、どうなっているので?」
「それについても後で話す。
ヒラコーとストーカーが読み終わったらな」
「その、ヒラコーとストーカーと言うのも貴方が勝手に名付けたアダ名なのでしょう?」
ヘルシングが眉を顰めて告げるので、おうと頷いておく。
「じゃあ、貴方は?」
「あ~……ツェペリ?
ん、そら吸血鬼を退治する方だからツェペシュ。ヴラディスラウス・ツェペシュ」
「誰ですの?」
「ヴラド・ツェペシュだよ。ワラキア公国の串刺し公。ツェペシュ、ヴラド3世、ドラキュラ伯爵の元になった奴」
そこまで言ってそう言えば授業で聞いたことが有りますわと頷いた。
「では、私のヘルシング、とは?」
「ヴァン・ヘルシングって言う吸血鬼を退治するハンターだよ。
どっちかって言うと、ヘルシングって漫画に出てきた登場人物の一人に似てたからそのままヘルシングって付けた。ヒラコーはその原作者のアダ名で、ストーカーはドラキュラの原作かいたブラム・ストーカーから」
「ヘルシングのフルネームは?」
「あ~……
ヴァン・ヘルシング。エイブラムス・ヴァン・ヘルシングだったはず」
「では、私はアビゲイル・ヴァン・ヘルシングと名乗りましょう。
政府も家名も意味を成さないこの時代に本名は意味が有りませんわ」
「いや、そこは少しでも日本人らしさを残して、ミドルネームには下の名前を入れようぜ。
俺ならヴラディスラウス“ユウ”ツェペシュだ」
俺の意見にヘルシングは頷いた。
アビゲイル“友梨佳”ヴァン・ヘルシング。ヘルシングは友梨佳と言うらしい。ヒラコーが私はノンナ・ヒラコーだな!と言った。
「ノンナってお前の名前か?」
「そうよ!
私の名前はノンナ!ママがロシア人だったからノンナって名付けられたわ!ノンナって呼んで良いわよ!」
「なら、お前はノンナ・ヒラコーだな。ストーカーは?ブラム何ストーカー?」
「えっと、ブラム“達也”ストーカーです」
達也か。よし来た。
「じゃ、ノンナとストーカーは本を読んじまえ。
俺はヘルシングに外の世界に付いて軽く教えているから」
俺の言葉に二人は頷いた。それから1時間程ヘルシングに偵察ロボットの映像や彼等の言語について見せたり聞かせたりして、お互いにどうするべきかを話し合った。ある程度の言語が通じるのだから会って話し合おう。どうやら、向こうは此方を怖がっているようだから、下手に出て行ったら殺されるんじゃないか?我々は一応、不死身ということらしいから弓矢程度の攻撃なら死にはしない。
などなど、様々な意見を出して話し合っていた。1時間でこの話し合いが終わったのは単純にヒラコー、ノンナとストーカーが読み終えたからだ。二人共、それぞれ思うことがあったようだが特に何も言うこともなく、言ってもしょうが無いと思われたのかもしれないが、俺とヘルシングの話に付いて耳を傾けた。
「こっちには銃も有るんだし、打って出よう」
「打って出ようってお前、戦争しに行くんじゃないんだぞ。
本当に戦いになったら困るだろうが。非武装で話し合いの席に臨むべきだ」
「僕もえっとツェペシュさんの意見に賛成です」
それから4人で話し合い。ノンナはもうガンガン行こうぜ!派、対してヘルシングはまだ時期尚早で自分達のナノマシン操作を十分に出来てから行くべきと言う慎重派、俺とストーカーは非武装でお互いを刺激しあわない程度に話を聞くべき派に分かれている。
「ガンガン行くにしたって情報が足りなさすぎるし、攻撃するにしたってお前、ナノマシン操作上手くないだろ。見ろ」
例の球体ボールを7つ呼び寄せ、それぞれを浮かばせてくるくる7色に光らせながら回す。一人エレクトロニカルパレードである。それをやると全員がおぉ!と驚愕した。
「この位は一ヶ月間やれば誰でも出来る様になる。他にも見てろ」
裸足になって壁を歩いたり、手を炎に変えたりしてみせる。
で、ノンナは折れてヘルシングと俺達の意見の折衷案で2週間、全力でナノマシン操作をしつつエルフ達の情報を集める。情報を集め、ある程度のナノマシン制御が出来るように成ったら対話に臨む。この方向で決定した。
異世界転生でもなければ召喚ですら無い。こう言うのってタイムスリップって言って良いのかな?タイムマシンって映画が大体、こんな感じだったよな。どちらかと言えば、俺達は図書館の案内役に近いけどさ。
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登場人物
・ヴラディスラウス“ユウ”ツェペシュ
2200年に2ヶ月で200万という検体バイトに参加した結果様々なナノマシンを投与されて3千年後の世界で起きる羽目になった幸運というか悪運というかの主人公
一番の年寄り
名前の元ネタは、吸血鬼のモデルに成った串刺し公のヴラド3世
・アビゲイル“友梨佳”ヴァン・ヘルシング
2220年にコールドスリープに入った美人さん
怒ると怖そう怒らなくても怖そう
名前の元ネタはアムステルダム大学で名誉教授してる爺
ヒュー・ジャックマンがやると若返った上で死ななく成る
どっちが吸血鬼だよって話
・ノンナ・ヒラコー
2290年にコールドスリープに入った少女
パンプアップ!パンパップ!パンパ!パパ!バカ!
名前の元ネタはHELLSINGの作者の相性から
・ブラム“達也”ストーカー
甲子園に行った方
特徴が無いのが特徴でノンナの保護者候補
名前の元ネタは吸血鬼ドラキュラの作者