血ぃすーたろかー2回目
それから1週間。俺はこの世界がドッキリでも何でもない事を知った。
3人は未だに起きない。理由は不明だ。200人の部屋全てに俺が呼んだ日記帳が入っていたので多分、俺達200人が最後の日本人、いや、人類だったのだろう。
しかし、その内の196名は死亡した。カプセルの中に遺体が残ってたのが196人中たったの5人。他の191名の死体はチリ一つ残っていなかった。多分、数百年前に死んで骨とかが無くなったんだろう。
カプセル内の正常化を保つために自動洗浄するっぽいし。
それと、ナノマシンは色々と便利だった。まず、なんちゃって魔法が使える。指先に炎よ灯れと思えばナノマシンが自動的に自動発火して燃え上がる。凍れと思えば凍るし、電気も同じだ。
俺達の体内にはナノマシン自動生成組織と呼ばれる物が構築されており、そこから無尽蔵にナノマシンを作っているそうだ。また、あらゆるナノマシンを入れたので人間なのかサイボーグなのかわからないレベルでナノマシンが体内にあるらしい。
例えば、腕を切り落とされても腕はくっつければ治るし、切り落とされた腕を放っておいても生えてくる。ただし、滅茶苦茶痛い。銃で撃たれても、瞬時に弾丸は摘出されて治療されるし、火傷を負っても数秒で治る。
勿論、痛いし熱い。痛覚は感知信号の一つとして残っているらしい。日記帳に書いてあった。
また、ナノマシン自身も電波を発せるので5,6メートルの距離ならば電波を飛ばしてナノマシンを保有している人間や機械を操作、ハッキングすることが可能なのだとか。
例えば、相手が銃を持っていれば銃をハッキングして一時的に使用不可能にさせる事で射撃を封じ、反撃に出るか逃亡するかを選べるそうだ。
同時に、機械をハッキングし、誤作動を誘発させたり色々できるそうで、博士の弟子は俺達に何としてでも生き延びて欲しかった様だ。まぁ、3千年も経ってればハッキングするコンピュータも残ってないだろうな。
外はアホみたいに巨大な木とか恐竜が闊歩してるやもしれん。
また、俺の体内にいるナノマシンのせいで、事実上不老不死不死身になってしまったそうだ。人間的な感覚、つまりは飢えとか性欲とか残っているらしい。ただし、排便はナノマシンが全てを解体吸収して消滅させるので無いのだとか。
「美人さんよ。アンタ、ウンコも小便もしないってよ。
昔のアイドルはうんこしないって信じてたらしいけど、アンタも俺もウンコしないからアイドルだな」
日々の日課になりつつ有る寝てる3人に話しかけ。一人ぼっちは寂しいもんな。魔法少女も言っていた。
で、此処1週間何で不死身である俺達が生きていて他の奴等が死んだのか?っていう疑問が出たのだが、その答えも研究所施設を漁って調べたら分かった。俺等3人には自己増殖型ナノマシンに適性があり、それが最大限に作動していたこと。同時に、自己増殖型ナノマシンは環境適応能力が非常に高いので将来性が見込めること。なので、俺達3人は途中で起きても溶岩の中とか海中や宇宙空間でなければ自動で目覚めるだろうとのこと。
ただし、それが何時かは分からない。
「……いい加減起きてくれよ。
起きてくれたら何だってしちゃう」
頼むよ。
◇◆◇
更に1ヶ月が過ぎて、俺は外に出ようかどうかを考え始めていた。
武器、銃は勿論、爆薬や手榴弾、ロケットランチャーまで置いてあった。多分、此処も一時期軍事基地の何かとして使われていたのだろう。
200人どころか千人規模の部隊に配れるであろう銃やヘルメット等が置いてあった。まぁ、俺は一般人だったので銃の使い方はしらんけど、銃の取扱説明書から何まで置いてあったので問題ない。取説だけで120ページとか普通にある日本人舐めんなよ。
因みに、銃の取説は980ページでした。何がそんなに書いてあるのかって?Yes,Noチャート式でそれぞれの問題を考えていくし、YesだろうがNoだろうがその事象について2ページぐらい割いているので分厚い辞書れべるの取説になっているのだ。
リングで止められており表紙には“これを読めば誰でも銃を扱える!”と書いてあるんだから恐ろしい。で、実際、俺はそれを読んで誰でも銃を扱えるように成った。これさえ有れば基本操作はバッチリですよ!
取り敢えず、日課の3人のカプセル回り。それぞれの名前を調べても分からなかったので、俺が勝手に名前をつけた。まず一人目は、ヘルシングさん。理由。ヘルシングに出て来るインテグラに似てて怖そうだからヘルシングさんと名付けた。次に少女。こっちは少しアホそうによだれの跡があったのでヒラコーさん。そして最後にヘルシング、ヒラコーと吸血鬼繋がりでドラキュラ。ドラキュラだとそのまんま過ぎるし、少年どっちかというと細いもやしみたいだからその作者のストーカーさん。
ストーカーさんって昔病弱だったらしいから。研究員の持ってた本に書いてあった。
「今日も元気かい、ヘルシングさん」
カプセルの中を覗き込むが相変わらず一定毎に上下する胸以外の変化はない。
1人10分ぐらい部屋に留まり、何をするでもない脇の椅子に座って待っている。目を閉じて精神を統一してナノマシンで出来ることを探すのだ。
今までに分かったのは魔法、火、氷、雷の魔法が使える。魔法っつかー科学だな。また、自分の血、唾、汗に小便を使っても機械を操作できる。小便をスイッチに掛けたらお掃除ロボットが血や唾の時以上に素早く飛んで来たけどな。
後はナノマシンのお陰で体が非常に軽やかに動くし、どういう訳か壁や天井を歩けるのだ。ただし、裸足に成らないと無理みたいで、靴のままだと歩けない。色々と体が軽やかに動くので中国雑技団ごっこが捗る。燃焼系アミノ式も出来る。
目指せ、仙人。精神統一をして浮くのを目指すのだ!
10分経ったのでヒラコーさんの所に。
「よぉ、ヒラコーさん。俺は何時か、アンタのヨダレ跡を拭いてやりたいよ」
床に座って座禅をする。胡座を組み、指を合わせて黙想。姿勢を正しつつ、自己暗示。俺は浮かべる、俺は浮かべる。ただそれだけだ。
で、これを10分間やる。10分間やって、浮ければ誰だって苦労しない。俺だってそうだ。次はストーカー君。ストーカー君の部屋ではカップやボールペンを浮かべと命令する。勿論浮かばない。
だが、これがピカピカ光る球体ボールだと浮く。このボールが入っていた箱には“ナノマシン制御訓練器具”と書いてあり、多分フォースを扱うジェダイの騎士の卵を育てる際に使ってアレ的な感じだろう。で、これを使って浮けだの光れだの転がれだのを練習するのだ。
色は7色あり、虹と一緒だ。赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫で赤が一番簡単に光り、紫は一番難しい。まぁ、1週間ずっと操ってたからふっつーに紫までピッカピカ光るけどな。これを7つ引っ張りだしてきて手を触れずにそれぞれ別の色に光らせて浮かばせながら回したり、転がしたりして遊ぶのに此処一ヶ月間ご執心してた。
大の大人がソフトボールより大きな道具を片手にはしゃいでいるのはそれはもう恥ずかしい光景だろう。
「これってどんなことが出来ればクリアーなんだろうか?」
装置の説明はあってもそれを使って検査する項目とかの説明が一切無いんだよな。多分、別研究って事でその資料が置いてないんだろうけど。
この研究所自体、最初はナノマシン研究みたいな感じだったみたいが、戦争が混沌化して行くに従ってナノマシン研究よりも軍事司令部的側面が大きくなり、最終的には俺達専用の保護シェルターみたいにな感じになっていたからな。
お陰で食料や武器とかは潤沢にある。取り敢えず、7つの球体ボールが扱えるのが分かったのでファイアーボールやアイスボール、エレキボールを作ってみたい。
体に纏わせたりするのは意外に簡単に出来るのだ。火傷もしないし。今の所、指を炎に変えるっていうのが出来る。将来的には体全身が炎になるのも可能なんじゃないか?と思っている。最早人間じゃねーけどな。
でも、全身ナノマシンだし髪の毛一本からしてもナノマシンで構築されてるんだからしょうがねーよな。そこまでわかると俺って本当に人間なの?って疑問が出る。が、まぁ、深く考えると精神的にヤバそうなのでレット・イット・ビーの精神で落ち着きたい。
ビートルズが入ったiPodがあってそれを流してるのだ。
今も2000年代アニソンシリーズと呼ばれる枠組みに入ったアニソンをずんずん流してる。
「……外、出てみるか」
アサルトライフルに拳銃を持ち、ヘルメットを被ってガスマスク。後は環境感知装置を起動してから、最後に偵察ロボットを起動。このロボット、虫のように足がついており、ゲームのようにその視覚を俺に伝えてくれる物だ。
ナノマシンのお陰で俺が生きていた時代よりも凄い拡張現実が再現されており、何もない壁に指でも文字を書き留めておけばどこでもメモ代わりになるし、道具や人物の個人的なタグを付けられ、人の名前や簡単なプロフィールを設定できるのだ。
ゲームでNPCにカーソルを合わせると名前や階級、クラスが出るみたいな感じである。
見回りも終え、装備も整ったのでいざ行かん、三千年も経ってれば放射能も中和されてるよな?よく分からんけど。
「いざ行かん!」
気合を入れて研究所の外に出る。扉を開けると凄まじい光量が俺の目を襲う。慌てて部屋に戻る。サングラス必須。ガスマスク用サングラスって言うか目のガラスに入れるフィルターを付けるだけだけどね。
それを装備してから再び外に。環境感知装置も何の反応もしない。外に出ると何か、不思議な祭壇が行く手を邪魔するように置いてあったからちょっと退いて下さいって事で脇にズラす。
研究所の外見は完全に綺麗な鏡みたいな外見をしており、作業用ロボットがガシャンガシャンと動いて補修作業をしている。周囲はビルなど無く、林って言うか森になっていた。
視界の端には衛星通信受託とあるので、試しに無線を開いてみた。背中に背負ってるアンテナが突き出たのが衛星通信機一体のリュックなのだ。
「誰か居ますか?」
砂嵐しか聞こえない。人類は衰退しましただな。
俺は偵察ロボットを先行させながら拡張現実の案内に従って歩いて行く。最も、拡張現実はデータリンクをされていないので俺が視線を向けると未登録のデータですとしか表示されず、それが植物なのか動物なのか最低限の憶測情報しか現れない。つまり、名前をつけてデータ化しなければ意味が無いのだ。
暫く歩いていると、偵察ロボットが何かを見付けたらしく俺に警告を出す。IFFにデータ登録してないと敵とみなされるのである。偵察ロボットは直ぐに身を隠し、敵のデータを詳細に俺に送り付けて来た。俺は林道から外れて木々の中に飛び込み、偵察ロボットが寄越した情報を読んで行く。
女が2人、食事のような物を運んで居る。女達の耳は長く、エルフにそっくりだ。外見もスタイルもめっちゃ良いし。何かを会話しているらしく、二人の口は動いている。武器は持っていないようだ。偵察ロボットを女達の後に付けようと前進命令を出したら新しく接近してくる存在を感知したとかで命令を拒否しやがった。
そして、アップされたのは腰に短い剣と弓矢を背負った男だ。手にはツボを持っており、女を追いかけている感じだった。男もやはりエルフである。
偵察ロボット曰く、女達の脅威度は小であるがこっちの男は低と分析されていた。小と低の違いがややこしいのだが、小は抵抗されないか抵抗されても無傷で制圧できる、低は抵抗はされるが無傷で制圧できると言う判断だ。
つまり、危険度最小が小、その上が低なのだ。
会話を聞き取るように偵察ロボットに命令を出し、俺は三人が通り過ぎるまで木の影で小さくうずくまり震えていることにした。
アサルトライフルを胸の前に抱きしめて歯が鳴らないようにガッチリと食い縛る。三千年後の人類でエルフ、話しかけていって殺される可能性は果たしてどれだけ高いのだろうか?アサルトライフルの安全装置を解除して、弾丸を込めておく。
偵察ロボットが彼等の会話を拾い上げて俺に音声と言語表示の同時で伝えてくるが、喋っていることは意味が分からないし、言語もかなり古い時代の翻訳機械の様に滅茶苦茶だった。
ただし、ベース言語が日本語っぽく所々で日本語っぽい単語が混じっているが、文法は英語らしく翻訳では“日本語と英語の造語言語の可能性があります”と表示されていた。
なので、俺は彼等の会話を文章ではなく、単語として採取して表示するように設定し直す。すると、会話が聞こえるではないか。
《私達、仕事、終了後、狩猟、する》
狩猟?
《私、貴方、発言、許容、する。不明:人名の可能性アリ、可能ですか?》
《もちろん、可能》
人名の可能性アリって事で、弓矢と剣を持った男が頷いたので男の名前はガガなのだろう。
《不明:人名の可能性アリ、不明:人名の可能性アリ、二つ、何する?》
ガガが多分、モモとメメと言う名前らしいエルフの少女二人に尋ねた。
それから暫く三人の会話を聞いていると何やら狩りに行くが、何を狩るかで話をしているようだった。俺の直ぐ側の道を通って研究所まで向かっていった。俺は彼等を後ろからそっと追いかけて行くことにする。
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登場人物
・ヘルシングさん(仮)
今の所一番の美人
怒ると怖そう
怒ってなくても怖そう
・ヒラコーさん(仮)
ヨダレ後がある子
アホっぽそうな寝顔
・ストーカー君
これといって特徴がない男の子
主人公以外の男
シンジ君っぽそう