血ぃすーたろかー17回目
で、出てけと言われても俺達にはやることがない。しょうが無いので一緒になって出て来たトーキンを見る。
「な、何でしょうか?」
トーキンは俺の視線に気が付いてヘコヘコと頭を下げながらご機嫌伺いをし始める。此奴も大変だな。
「さっさと本業に戻れ。
貴様も暇ではあるまい」
「は、はい。ありがとうございます!それでは失礼をして」
トーキンには端末を渡してある。と、言うのもゲイリーが何時も暇という訳ではないのでもうトーキンに渡しとけばよくね?と言う事で渡したのだ。まぁ、悪用するにも通訳機能にのみ特化させているので悪用しようがないのである。
ノンナは装甲車に戻り武器の完成を待つというのでストーカーに監視を頼み、俺はぶらぶら。校舎に向けて歩き出すと俺の後ろをニーニャがスラミネーターを連れて付いてくる。
「……貴様、授業はどうした?」
「あ、えっと、その、行っても宜しいのでしょうか?」
「此処は学校ぞ。勉強をするための場所である」
俺の言葉にニーニャはでは失礼して、と頭を下げて歩き出した。その直ぐ後ろをペタペタとスラミネーターが付いて行き、その更に後ろを俺がコツコツと付いて行く。ニーニャが目的の教室に着くとソロソロと後ろの方から入って行く。
教師がニーニャに一瞥をし、その後ろに付いているスラミネーターを見、俺を見てからニーニャに事情を説明しろと言う顔で見る。
「えっと、ヘルシング様から頂いたスライムの……新しい兵器だそうです。
私やヘルシング様、ツェペシュ様達に危害を加えないかぎりは安全だそうです」
教師はニーニャの次に俺を見る。俺はその通りだと頷いてから、黙って一番後ろの開いている席に座る。
「授業を続けろ、土人」
「は、はい。では……」
暇潰しのために授業見学。俺の隣には猫耳の少女が突っ伏して寝ている。
気持ちよさそうに。見ればしっぽも生えているらしくユラユラとゆっくり左右に揺れていた。うむ、完全に熟睡しているようだ。授業内容は魔力基礎概論と言う授業で、魔力とは何ぞや?って感じの内容を小難しい言葉とオカルティックな内容を掛け合わせて喋っている。
教師はチラチラと此方を見ている。使っているのは黒板とチョークで、其処に俺は未だに読めない文字を書き連ねている。因みに、こっちの文字を翻訳するソフトもヘルシングが開発してるらしい。彼奴、スゲーな。
取り敢えず、本を読み朗読させて単語を聞き取るとかそういうのをやるらしい。文字を覚えて単語を読ませ、最終的には俺達が本に目を向けると拡張現実が自動的に翻訳してくれるし、文字を書く際は其処に文字を投影して上からなぞるだけで字が書けるというソフトにするらしい。
因みに、自動翻訳ソフトも慣れてくれば使わなくても会話が出来る様になるそうだ。
寝ているネコ娘が広げている教科書を拝借し、中を見るがまぁ、中は読めないな。
次に、ヨダレでフヤケているノート。ネコ娘の上半身を軽く浮かせてノートだけを抜き取る。こっちは鉛筆で書かれている様だ。ただ、非常に薄い。
「……これが鉛筆か?」
脇に転がっていたペンを拾い上げる。タッチペンをデカくしたような物であり、タッチペンと違い、先端が金属で出来ている。何だこれ?
試しにネコ娘のノートの端に線を書いてみた。書き具合は普通に鉛筆だが、こすっても消えない。力を入れてかけば濃くなるし、力を抜けば薄くなる。スゲーな、これ。何だろこれ。周りの連中も使ってるし。
これ欲しいな。何処で買えるんだろう?つーか、トーキンも羽ペンじゃなくてこれ使えば良いのに。
誰かに聞こうかと思ったが周囲の連中は一心不乱に教師の言葉を書き留めているので何か話しかけるのも躊躇われる。
しょうが無いのでネコ娘を起こそう。
「起きろ」
肩を揺すってみるがヨダレを垂らしてむにゃむにゃしてるだけだ。
しょうが無いので上半身を少し浮かせ、その状態から突然浮遊を切る。ゴン!となかなか良い音が教師の言葉だけが響いていた教室に広がった。全員此方を振り返る。
「構わん、続けろ」
俺はそう答えると全員何事もなかったように前を向いて授業の続きをしていた。ネコ娘はウゥ…と小さく呻いてから頭を抱えながらまだ意識が覚醒していないのか起き上がらずに告げる。
「だ、誰ニャ、ウチの頭を殴ったのは……」
「私だ」
「何処の誰だか知らにゃいが、いい度胸ニャ」
必殺猫パンチと言わんばかりに俺に殴り掛かってきたが、次の瞬間、シュバッと伸びて来たスラミネーターの腕がその猫パンチを防ぐ。ちょっとビックリしたが、猫娘はもっとびっくりしていた。
「ヒェッ……ツェペシュ様にゃ……」
「如何に。私がツェペシュだ。
猫土人。このペンは何処で買える」
「こ、購買でか、買えますにゃ」
「そうか」
ペンを返して立ち上がる。俺が立ち上がるとスラミネーターは猫娘の手を開放する。ちょっと購買まで行って来る!で、意気揚々と購買に行こうとするが立ち上がった所で俺は購買までの道のりを知らない。立ち上がった手前、全員が俺に注目し、固唾を呑んで俺の次の行動を見詰めている。
此処で座ると俺が恥ずかしいので、適当に教室内部をウロウロとすることにした。
「気にするな、続けろ」
全員に告げて一人、教師に成ったつもりでウロウロ。
ウロウロしてると一部の生徒はちゃんと羽ペンとインキを使う。ニーニャも羽ペンとインク派だった。で、他に見ていると羽ペンインク派は貧乏っつーか不思議ペン派と違って服がボロかったり安っぽかったりする。
つまり、羽ペンインクは安く、不思議ペンは高いのだろう。個人的には羽ペンインクの方が高いイメージ有るんだけどね。
まぁ、良いか。
で、ウロウロしていると一部の生徒はやっぱり寝てる。書いてるふりしてる寝てる奴も居る。概ね不思議ペンが多い。つまり、貴族とかの子供だろう。対して、羽ペンインク派はちゃんとノートを取っている。寝ている奴等から不思議ペンを没収してちゃんと勉強している奴に渡してやろう。その方が絶対良い。
で、二度寝に入ったネコ娘や他に寝落ちている奴等から不思議ペンを回収し、羽ペンで手を真っ黒にして字を書いてる奴に渡してやる。
「これを使え。
持ち主は要らん様だからな」
で、再びネコ娘の隣に戻り席に着く。授業内容は魔力は心の臓から生まれ生命の源であるとか何とか言っていた。魔力の多い少ないは生まれながらにして決まって居るが、これは努力次第で増減するので日々精進するようにとか。
普通にナノマシン保有量の話ならそうなんだろうね。
日々摂る食事等から微量ながら摂取されるから魔術使わずに居れば溜まってく一方だろうね。まぁ、俺等と違って排便をするのでどのぐらい減るのかは知らないけど。
で、教師が話していると教師が時計を見て今日は此処で終了としますと告げた。鐘とか鳴らんのね。
全員がガタガタし始めると寝ていた連中も起きる。ニーニャを筆頭に羽ペンインク派の連中が俺の元にやってきて不思議ペンをありがとうございましたと差し出してくる。
「私のペンにゃ!?」
「俺のペンが無いぞ!」
で、用具を片付けていた居眠り組が起き上がり自分のペンを探している。脇のネコ娘も同様だった。
「貴様等にペンは必要あるまい?
ペンとノートは授業の内容を筆記し記憶するために有る。人間は睡眠をとることで記憶した物を脳に定着する。つまり、貴様等は記憶という手段を飛ばしていきなり定着させようと言う学習方法をしているのだろう?
だったら、貴様等の様な者にペンもノートも必要あるまい。そして、一々羽ペンにインクなどという手も汚れ効率の悪い道具を使っている者くれてやれ。その方が殆ど筆記をしない貴様等よりも効率的だし合理的だ。そうは思わないかね?」
「お、恐れながらツェペシュ様」
そこに出てくるはニーニャの件で第四の提案をした少女だ。金髪でくるくるのチョココロネヘアーのお嬢様。オーッホッホと笑いそうで笑わないタイプのお嬢様である。笑えよ。
「どうした土人」
「それらの道具は彼等が彼等のお金を出して買ったものです。そして、その道具はその、非常に高価な物ですので……おいそれと人にあげるという訳には……」
少女の言葉にペンを取られた連中がウンウンと頷いていた。
「ふむ。貴様等、貴族か?」
俺の言葉にほぼ全員が頷き、一部は大商人の息子だの娘だのと言った。
「貴族なのであるならばこそ、だ。
ノブレス・オブリージュと言う言葉があるように、貴様等は国の為に義務を強制される。そして、この学校は国の発展と繁栄のために設立された筈だ。
国の発展と繁栄のために、より効率的で合理的な方法を選び、実施するのが貴様等貴族の役目であり使命である。そして、このペンを羽ペンとインクを使う者に渡すことは、この学校に来て学び知識を習得し発展させようとしている彼等に対してより一層の援助になることは間違いない筈だ。
そうだろう?」
「……仰る通りです」
「ならば良いではないか。
貴族諸君は睡眠学習という手段で知識を習得し、発展する。平民諸君は必死に紙とペンで覚え、夜に記憶を定着させる。
ペンを貰った者はペンを渡した者に感謝し、より一層の勉学に励め。ペンを渡した者もより一層の睡眠学習に励め」
ニーニャ達は戸惑った様子でありがとうございますと礼を言い、居眠り組は当たり前の事をしたので問題無いと答えて席に戻っていった。
「そこの娘」
「はい、ツェペシュ様」
「次は何の時間だ?」
「昼食です」
時計を見ると12時だった。ふむ。午前中はヘルシングとニーニャの件で使ってしまったのか。
「ならば食堂に行くか。
案内せよ」
「分かりましたわ」
此奴は此奴でヘルシングっぽい感じよな。お嬢様だし。食堂に着くとやっぱりごった返している。全員が我先にとカウンターに群がり、列というものを作ろうとしない。で、5分ぐらい待っていると喧嘩が始まる。
理由は簡単。抜かした抜かしてないと言うクソ下らない物だ。もう3分程待つその喧嘩が周囲に広がる。広がった所で、俺は銃を取り出して一発空に。
「喧しいぞ、貴様等。
全員一列に成って並べ。其処で喧嘩をしていた阿呆共は一番後ろだ」
食堂も食堂でメニューやら何やらが一切無い。食事はその場で2つから選び取っていくだけなのだがそれでも時間が掛かる。今日のメニューを入り口にデカデカと貼りだして並んでる最中に考えさせるべきだな。
監督に居るらしい教師の一人を呼び付け、トーキンを呼べと告げる。暫くするとトーキンが大慌てで走ってくる。
「お、お呼びでしょうか」
「ああ。
まず、この学校では生徒達に集団生活を教えるべきだな。列すらも作れんような連中が優秀な訳がない。それと、列を作って並んでいる間にメニューを決めさせろ。このアホのように群がりようやく辿り着いてから今度はそこでメニューで悩む。馬鹿の極みだ。
どうにかしろ」
「は、はい!勿論です」
トーキンは周りに居た教師達を連れて何処かに走っていった。列に並ぶこと5分、俺はようやくカウンターに辿り着いた。
「な、何になさいますか?」
今日のメニューは何かの煮物とパスタだ。なのでパスタを選ぶ。パスタが乗った更にパンと何かのサラダを取ってトレーを選び、フォークを探す。
「フォークやスプーンは無いのか?」
「えっと、スプーン・フォーク類は自分で持って来るのが基本です」
成る程。食事を持って適当なテーブルに行き、俺の料理を見ているように告げて大急ぎで多脚装甲車に戻る。で、其処から食器を生成。
んで俺は直ぐにできたそれらを抱えて食堂に戻る。因みにストーカーとノンナは寝てたので起こさずに置いた。
「私を待たなくても良かったのだぞ?」
「いえ、そういう訳には行きませんわ」
さぁ、食べましょうと言われた。パスタ、何か旧名古屋市の為かあんかけスパゲティみたいだった。皿も気持ち深めだし。あんかけ過ぎのつゆだく。スパゲティーって言うかラーメンの麺がなかったからパスタで作ってみましたレベルだ。フォークよりも箸で食べたほうが食べやすそう。ラーメンパスタ?パスタラーメン?なんでも良いか。
頂きますと手を合わせてから食事をする。
食べているとドリルヘアーが何やらなにか言いたそうな顔で俺を見ている。
「何だ」
「いえ、その……それはフォークに巻いて食べる食べ物でして……
そして、その、食事は音を立てずに食べるのが此方のルールです」
「これはラーメンだろう?
ラーメンをフォークで巻いて食べるような不味そうな食べ方は日本人である私には許されん行為だ」
改めて此処は日本ではないのだと感じるよ。ああ、涙が出そう。
「何たる事か……
私の知る日本はもはや無い。国破れて山河在りとは言ったが、山と川しか残らず、文化も文明も歴史も残らぬか。哀れなり」
諸行無常だな。ちょっとホームシックになりそう。
「因みに、物を啜って食べるという行為には熱を冷ますがありますわ。麺を啜ると、冷たい空気と熱い麺を一緒に口腔内部に取り込み麺が冷やされますの。
より多く空気を取り込めば、麺がもっと冷えますわね。つまり大きな音を立てて啜るほど冷える。
そして、麺は熱いと風味が損なわれませんの。ゆっくり冷えると唾液の酵素と反応して分解するほどの熱がなくなってしまいますわ。ですが、急速に冷却されますと、麺に含まれるグルテンと酵素が分解するのに十分な熱を保ちますが舌や口内の他の筋肉を刺激、つまり熱いと思う程では有りません。酵素によって多量のフラボノイドが分解されるとその際に分泌される物質を舌が感じ、脳へその食べ物はおいしいと判断するのですわ。
まぁ、私は食品科学を専攻している訳では有りませんので、論文に書いてあった事を説明しているに過ぎませんが」
唐突に現れたヘルシングが訳の分からんことを言いながら俺の横に座ってラーメンモドキを食べ始めた。食べ方はやっぱり啜っている。
「こ、これはヘルシング様。御機嫌よう」
ドリルヘアーが頭を下げ、何と無く着いて来たニーニャもそれに倣ってぎこちなく頭を下げる。
「御機嫌よう、ドリルヘアーさん」
「ど、どりるへあ?」
「貴女の髪型ですわ。
ドリル、岩や地面に孔を開ける際に使われる道具に似ている髪型なので私達の時代では一般的にドリルヘアーと呼ばれましたわ」
おーう、俺が敢えて言わなかったのに平然と切り込んでいったよこのマッディーさん。パネェ。
「は、はぁ……」
ドリルヘアーは想像がつかないらしく首を傾げていると、騒々しい声が聞こえて来る。
「危なくお昼御飯を食べ逃がす所だったわ!」
「うん、でも僕達お昼ごはん食べなくても生きていけるよね」
「ダメよ!食事は行動の活力源であると同時に士気を高めるにも必要なのよ!
腹が減っては戦は出来ぬって言うでしょ!」
「ノンナちゃん。君、何処と戦争をしているのかな?」
ストーカーとノンナがやって来て俺達の隣に座る。図らずとも昨日と同じ構図だった。
「ノンナさん。貴女もう少し声を落として喋るべきですわ。
五月蝿過ぎます」
「私の何処が煩いのよ!」
全体的にだよ。お前の声ボリュームはOFFとMAXしか無いのかよ。
やれやれ。