血ぃすーたろかー13回目
で、それから30分程お茶をした後外に出ると周囲の人々が完全に俺達に道を開けた。どうやらさっきの話が広がったらしい。
俺が睥睨するように周囲を見ると全員顔をそらしたりする。
アホらしい。
「で、此処がダンジョンの地下か?」
幾つかある内の一つの入り口、最も頑丈で保存状態が良かったとか言う入り口らしい。それを広げて穴を大きくしたのだそうだ。
で、入り口に入る前に軽いレクチャーがあり、本来であったら必要な物とかの最終確認をするらしい。
「ダンジョン地下は薄暗いですので、基本的には明かりの携行は必須ですが……」
ありませんよね?と言いたそうな顔で青銅パーティーのリーダーだ俺達を見る。
「明かり?貴様等には暗視目が使えないのか」
嘆かわしいと例の光る眼を発動。明るい場所だと周囲は殆ど真っ白だ。
俺達の目を見た青銅パーティー達がヒィと小さく声を上げる。トーキンがどの様に!?と俺達に詰め寄ろうとしてゲイリーに抑えられた。
ヘルシングはその目で周囲をキョロキョロ。ナノマシンに寄る状態保存の技術があったお陰かなんとか形を保ち、辛うじて非常灯等は非常設備は残っているようだ。
「非常用設備の一部が生き残っているかもしれませんわ」
ヘルシングはそう言うと指を鳴らす。すると何処からとも無くクグモッた機械音が響きバンバンと音が聞こえてきた。青銅チームは勿論周囲の冒険者達も何だ何だと騒ぎ出す。暫くしてから非常用ではなく本来のLED照明が灯った。
一部は通電していないようだったが、これで暗視を使わずとも済んだわけだ。また、ヘルシングが発電機を動かしたせいで一部稼働停止中だった通路用BGMが途切れ途切れかつ間延びしたような音を出しながら流れ始める。
ノンナは顔を顰めてヘルシングの横から介入する。
「ちょっと!」
「こうか?」
するとBGMが和やかお買い物ムードから一転、激しいメタルロックに変わった。デスボイスがギターの激しいメロディーと機関銃のように連打されるドラムに混じって聞こえるともはや阿鼻叫喚だった。
魔王が復活しただの化け物が出ただのと大騒ぎで冒険者達は逃げていく。ヘルシングは完全に顔をムッツリとした表情でノンナの手を制御盤からはたき落とし、デスボイスからクラシックに変えた。イギリスって感じの曲。
「何の曲だこれ?」
「神よ女王陛下を守り給え、イギリスの国歌ですわ」
ノンナは突然気を付けをして胸に手を当てる。
「何やってんだお前?」
「国歌が流れたらその場で姿勢を正して国歌が終わるまで動かないのが決まりよ!」
常識でしょ!アンタも帽子とグラサンを取りなさい!と言われたので俺も帽子とグラサンを取り、曲が終わるまで動けなかった。
曲が終わってから国歌は止めろとヘルシングに注文を出しておく。暫くしてからビックカメラのテーマ、正確にはブリティッシュ・グレナディアーズが流れだす。イギリスの行進曲らしい。もう、それで良いわ。ノンナのデスメタルより数百倍マシだわ。
で、“暗い”から“薄暗い”に変わった地下街を歩いて行く。で、歩いていると青銅パーティーが止まれと俺達に指示を出す。
見ると、前方にゴブリンが3体、水溜まりの周りを囲んで何かやっていた。
「ゴブリンとスライムです」
「スライム?」
「あの水たまりの様なものです」
ナノマシン保有量を確認すると確かにナノマシンの塊みたいに緑色だった。
「スライムは核を破壊すると体液がポーションの元になります」
そら、そうだろうな。ナノマシンの塊なのだから。
コアはなんぞ?と探すと水たまりの中に紫色の小さな珠があった。あれがコアか。脇から拳銃を抜きゴブリンの一体に狙いを付ける。
「醜穢な猿が日本三大都市を数えた一都を闊歩するとは、嘆かわしい」
トリガーを絞るとドンと銃声というよりも砲声に近い発砲音がし、ゴブリンの頭部は綺麗に弾け飛ぶ。
次いで左に持った銃で別のゴブリンを撃つ。予期せぬ襲撃に驚いたゴブリンは完全に無防備であった。次の一体は頭部ではなく胸部に狙いを付けて撃つ。だが、威力が大きすぎて胸にはソフトボール大の大きさの穴が空き、そのまま絶命する。
残った最後の一体は直ぐに逃げようとしたので脚を撃ってそれを阻止。
「では、この猿で魔術とやらを試してみるか」
一先ず、這いずって逃げようとするゴブリンの背中を踏んで押さえつけ、ゲイリーに落ちた脚を持って来いと告げる。
「足と足をくっつけてみよう」
「ツェペシュ様、些か脚が短いような気がしますが……」
ヘルシングが俺に告げる。暗に別の脚を繋げる実験をしろと言っているようにしか聞こえない。
俺は脇に居た青銅パーティーの案内人の一人が持っている斧でゴブリンの大体膝から数センチ上を切り取るよう告げる。
斧を持った冒険者は直ぐに作業に取り掛かり、エイという気合とともに振り下ろした斧で頭部を失ったゴブリンの脚を切り取り持って来た。ゴブリンの脚はゲイリーが受け取り、大体の位置に置くと確りと足を抑えて俺を見上げる。
俺は掌向けて脚の血管や神経、筋、筋肉に皮膚がくっつくのをイメージしてから掌をゆっくりと握る。すると、傷口が凄まじい速さでくっ付いて行くではないか。
「フム、成る程」
「流石ツェペシュ様ですわ」
足を退けるとゴブリンはそのままくっついた足を不思議そうに見ながら俺達から逃げていく。なので、トーキンの腰に下げていたナイフを引き抜いて、そのまま投げ付ける。投げる際にもナイフがゴブリンの背中から心臓にまっすぐ突き刺さるイメージで投げてナノマシンに力を入れた。すると、ナノマシンが僅かにナイフの回転やその他角度等を調節して俺の想像通りにゴブリンの背中にナイフが突き刺さった。
ゴブリンはそのまま前のめりに倒れ、ピクリとも動かない。即死したようだ。
「死体を動かせるかやって見るか」
試しにゴブリンが立ち上がってその場でラジオ体操をするのをイメージしてナノマシンよ飛んで行けと手を突き出す。すると、ゴブリンが少々緩慢ながら立ち上がってそのままラジオ体操を始めた。
さすがの俺もビックリだ。ヘルシングやストーカー、ノンナもサングラスの奥の目を見開いて俺を見ている。
三人がそうなんだから後ろの7人なんか驚天動地の大騒ぎだ。
「し、死体が立ち上がって動いた!?」
「変な踊りをしているぞ!」
「きゅ、吸血鬼の秘術だ……」
「喧しいぞ、土人共。
この程度の事でガタガタ喚くな」
俺は俺も動揺を鎮めるべく敢えてゆっくりと冷静に言葉を出す。
「流石ツェペシュ様ですわ。
もう既にネクロマンシスを扱えるとは……」
このヘルシング感服致しましたと俺の演技に追従する。
「この程度、我等には造作も無い事。
お前達は出来んのか?」
俺はトーキンを見ると、トーキンは恥ずかしながらと頭を下げて告げた。まぁ、俺も出来たら良いな~程度でやったら出来ちゃったんだけどね。
「最も、この技は死んで直ぐの死体か、死んで腐敗が始まりだした位の死体でなければ出来ない」
そこにヘルシングが説明を加える。理由は死後硬直だと言った。この時代にそんな概念はないので何だそれは?と言う顔で全員がヘルシングを見る。
ヘルシングは拡張現実でウィキペディアを読んでいるのであろう。へぇ~死後硬直ってお湯で解けるんだ。じゃあ、死後硬直してる死体は関節部分のナノマシンに発熱させて温めれば……って何で死体を動かす事前提で考えてるんだよ。
此処はこんな面倒臭い物を使わずとも倒せるから滅多に使わんと言わなければいけない。
「まぁ、ネクロマンシスなんぞ、己の技量を誇示するだけで一切の戦力にならんから誰も使わんがな」
「ツェペシュ様の言う通り、このネクロマンシスは単純な命令しか出来ないので敵の動揺を突いた攪乱戦術や囮にしかなりませんわ」
「我々はその様な小細工をせずとも敵を殺せるだけの力量が有る。
正々堂々、正面から無駄のない一撃で敵を叩き潰すのもまた先進人による特権だ」
ラジオ体操を終えたゴブリンはそのまま俺の指示待ちと言わんばかりに猫背で気を付けをしていた。取り敢えず、さっきからずっと動かないスライムも気になるのでスライムに近付くよう命令する。ゴブリンはそのままスライムの前に行く。
スライムの前にたどり着いたが何も変化がないので取り敢えず、踏ませてみた。その瞬間、まるで捕食する際のクリオネの様に突然グワッと周囲に水の触手が立ち上がりゴブリンの手足に絡み付く。ゴブリンはそれを振り解こうと藻掻くがあっという間にスライムはゴブリンの体を登って頭部に取り付いた。
「スライムは獲物をああやってジッと待つのです。
そして、獲物が自分の上や下を通る襲い掛かって相手の顔、正確に言えば鼻や口を塞ぎ窒息死させて獲物を捕食するのです」
ゲイリーが解説してくれる。因みに、ゴブリンはもう呼吸をしていないのでスライムが完全に頭部に移動すると、ゴブリンも藻掻くのを止めてその場に気を付け。其処には顔にスライムを纏わせたゴブリンが立っていた。
なにこれ凄いシュール。
「……どうするので?」
「え?」
「この惨状と言うべきか珍妙な自体ですわ」
スライムはジワジワとゴブリンの顔を溶かしているのかフツフツ泡立っているが、ゴブリンは微動だにしない。
つーか、ゴブリンで操れるんだからスライムも操れるだろう。ヘルシングにスライム操ってみろと告げるとヘルシングは掌をスライムに向けた。するとそのままスライムはゴブリンの顔から降りて此方の方にするすると水が流れるようにして滑ってくるではないか。
そして、ヘルシングは何を思ったかいきなり拳銃を抜いてスライムを撃つ。放たれた弾丸はバチョンと水面を叩いたような音がしてスライムに着弾する。しかし、弾丸はスライムに少し食い込んだだけで後はゆっくりと沈んでいった。
「……スライムは意外と便利ですわね。
これ、ダイラタンシー現象でリキッドアーマーになりますわよ」
「……そうか」
ごめん、何言ってるのかさっぱり分からん。
「ダイランタンシー現象って?」
良いぞ、ストーカー君!
「ダイラタンシーよ!アンタそんな事も知らないの?
良いわ!教えてあげる!」
おい、ノンナが知ってるみたいだぞ。何だ、ノンナの癖に。生意気な!
ダイなんちゃらしー現象ってのは普段は流体、つまり水なのだが一定の圧力が加わることで水の中にある物質同士が塊、固くなる現象を指す現象だ。
水と片栗粉を1:1で溶いてその水溶液の上にゴルフボールを落とすと一瞬だけ止まってそのままゆっくりと沈んでいく。拳で殴ると拳は跳ね返されるが、優しく手で押すと沈んでいくのだとか。
へ~初めて知った。
「ならば、スライムを服の内側にでも纏わせておくか?」
俺がそう笑うとヘルシングはまさかと笑った。
「そもそも、攻撃をされる前に此方が仕留めますもの」
うん、そうだね。君、わりとノンナに近い考えだもんね。先手必勝かつ無慈悲。
それからヘルシングはスライムを数体ほど探し出して持って来ると武器にならないかしら?と模索し始めた。また、俺達もナノマシンを使ってこの地下街に生息するゴブリンやスライム達を隈無く探しだして魔術という名のナノマシン操作を際限なく実験し、扱いを覚えていくことにした。
昇格に際しての討伐に関しては1体で良いとか言う話だったが別に昇格が目的ではないのでゴブリンの死体を量産し、スライムのコアを数体分抜いてからは大量に合体させて連れ回している。
「スライムはアメーバ系の生物から派生していったと考えられますわ」
「オスメス無いっぽいしな」
「ええ、無生殖生物でしょうから分裂する筈です。そして、このコアが高純度のナノマシン生産器官であることは間違いないはずですわ」
小さなガラス瓶に入れられたコア達をヘルシングが俺に見せる。彼女、結構マッディーな科学者の血が流れてますわ。ゴブリンの体内から魔石とか言う要はナノマシンを大量に含んだ石を取り出させてそれをスライムに食べさせてT-1000を作ろうとしているんだもの。
液体金属が動く奴ね。ターミネーター2の敵。
俺は好きにしてくれと言わんばかりにヘルシングの行動に口は挟まない。で、青銅パーティーがそろそろお昼ですから一端上がりましょうと俺ではなくゲイリーに告げる。ゲイリーはトーキンに上がりましょうと告げ、トーキンは俺にお伺いを立てる。
「つ、ツェペシュ様。
その、鍛錬中に申し訳ありませんが、そろそろ昼食のお時間でして。一旦地上に上がり食事になさっては如何でしょうか?」
「フム、もう、そんな時間か」
時計を見ると確かに12時を少し過ぎている。
「別に、此処で食べれば良いじゃない!」
ノンナが元々は何かの飲食店だったのだろう店を指差した。ショーウィンドウには既にガラスはなく吹き曝しだったはずなのだが、当時の椅子やら何やらがちゃんと形として残っており、強度も十分だった。
3千年も劣化せずに残ってる理由は後から入り込んできたナノマシンが自己の保全能力を有したからだとかなんとかとヘルシングがナノマシンを解析しながら俺に教えてくれた。
なので表面を空気中の水分から抽出した水で洗い流し、綺麗にした後で座る。弁当を広げるのだ。まぁ、弁当と言っても俺達はゲイリーとトーキンが全て用意して二人と青銅パーティーのメンバー達が分散して背負っているのだがね。
で、ゲイリーとトーキンが大急ぎで支度をする。紅茶のセットにサンドイッチやら何やらの支度だ。彼等は料理人ではないので料理はできないために全て出来たものを持って来ている。勿論、ベーコンやウィンナー等を焼いたりすることは出来るのこの場で焼き、野菜達も敢えて切らずに食材ごと持って来てこの場で調理して俺達にサンドイッチ等を提供するのだ。
トーキンが総括をしゲイリーと青銅のパーティーメンバーがせっせこせっせこと料理をしていく。本来はこんな場所で料理をする予定ではなかったらしく周囲警戒をする人員も裂いていたが、周辺の5kmには敵となるゴブリンやスライムは発見出来ないと教えて料理人を増やした。
それに、襲ってきたとして指を鳴らすだけで悲鳴すら上げる間も無く燃え尽きるか凍結するか感電死するのだから警戒した所で余り意味が無いのである。
なので俺達は悠然と彼等がせっせこ作った料理を食べるのだ。彼等の食事は何か?と尋ねると干し肉だの何だのとまずそうな物を言っていたので今日一日の褒美と言う体裁で同じ飯を食わせてやることにした。トーキンやゲイリー、青銅のメンバー達は本当に何もしていないので恐れ多いと言ったが、ヘルシングがツェペシュ様の好意を無碍にするつもりか?と睨み、ストーカーが地位の高い人間はそれに仕える人間に対してもそれ相応の格好と言動を求めるんだよと告げ、僕達に一時的とは言え仕えている土人がそんな貧乏臭い食べ物を食べるのは僕達のプライドが許さないと言って俺達と同じサンドイッチを食べさせた。
まぁ、自分達で作って食べるんだけどね。
で、お前等は何人分の食事を作るつもりなのだと言うレベルで食材を持って来ていた。俺達は本来ナノマシン体であるためにほぼ食事はいらない。正直、大きめのサンドイッチを3個も食べれば腹一杯、と言うわけではないが満足はする。と、言うかナノマシンが食べた側から分解していくので此処一ヶ月間満腹とか空腹とか鈍感になってきている。
食べても太らないし、食べなくても餓死しない。それなのに軽く20人分位の食材持って来てるんだからアホじゃないかと言う。それらを減らす為にも彼等に食べさせたのである。まぁ、ノンナに関しては平然とバカ食いしてたけどな。
ウマイウマイと言いながら。
普通に忘れてた