血ぃすーたろかー12回目
「か、彼等が案内人になります」
よろしいですか?と言わない辺り、このギルド長は一応の区分を付けているらしい。俺達を立てつつも自分達がルールだと言わんばかりだ。
「そうか」
おい、とヘルシングを見るとヘルシングはハイと頷き、5人に付いて来いと告げる。因みに、この武器弾薬製造機から製造した銃は遺伝子登録しておくとその人以外は銃が扱えないと言う個人IFF機能が搭載されている。で、彼等5人の銃に彼等の遺伝子を組み込んでおく。それ以外の人間がトリガーを引いてもハンマーは落ちないと言う仕組みを組み込むのだ。
勿論、リボルバーは構造が簡易なのですぐに取り外せるらしいがグリップ部分は一体型に近い物にして本当に外側の薄い部分に取り外し可能なグリップを付けている。
俺も、持っている拳銃よりかっちょええ拳銃を見つけたのでそっちを製造することにした。.500SW弾とかなんとかと言う弾丸を発射可能な装弾数13発の超重量級ハンドガン。全長が33cmで重量が2kg。
製造する際に《サイボーグ化がされていない者が使用した場合の負傷の責任は一切問わない》と表示された。製造時間は3時間掛かるらしい。で、青銅パーティーもさっきの今で出発は無理だから明日の朝でお願いしますと言う。調度良いので2丁が完成する明日行くことにした。
「そんな馬鹿な銃を作って撃てるので?」
「6kg近くあるスレッジハンマーを片手で持ち上げてみたがまるで重さを感じなかったから大丈夫だろ」
夜、俺達は帰るのも面倒だからとギルド前に停めた多脚装甲車の兵員室で寝ることにした。
で、寝る前のお話し合い。明日は取り敢えず全員が魔術、正確にはナノマシンでの攻撃方法を理解する。因みにゲイリーとトーキンは明日の朝一番で来るよう呼びつけてあり、連中に魔術とやらを教わるつもりだ。
「私のハンマーもカッコいいのが欲しいわ!」
「なら、お前、絵を描いてみろよ」
拡張現実の自由帳をノンナに教えてノンナに絵を書かせる。ノンナはグリグリと絵を描き始める。これで暫くは静かになるだろう。
「魔術って言うか言っちまうと空中や物質に有るナノマシンを操作するわけだろ?」
「そうですわね」
「魔導甲冑に関しても魔力、つまりナノマシンを動かすらしいのでやろうと思えば無人でも動かせるんですよね。
ただし、甲冑だけだとバランスが悪いので攻撃を受けたりするし、何よりも単純な動きしかできないので人が中に入るそうですよ」
成る程な、ナノマシンの精密な指示がこの世界では出来ないのか。ナノマシンの概念がないから何と無くで使い始め、そして試行錯誤しながらナノマシンの操作を覚えている訳か。ヘルシングがトーキン達から魔術の行使に当たって何をするのか?と尋ねたら、魔力を溜めてから呪文を唱えるそうだ。この呪文はこっちの言語であるために理解は不能であるが、ファイアーボールを例に取れば手の先に炎の球体を集めて飛ばすと言うイメージを口に出すらしい。
つまり、ドラクエのメラとかみたいな単語系ではなくFateの満たせ×5みたいな文章系らしい。
で、思い込みは思考を狭めるとはよく言うが俺がそうだったようにこっちの世界の人間はこの呪文が出来なければ魔術は出ないと思ってるらしい。
また、自分が保有している魔力は限量が有り、それを超えると魔術は使えない。無くなった魔力は休養するかポーションと呼ばれる物を飲むと回復するらしい。
「で、こっちの世界の人間は生まれながらにしてナノマシンを自己製造できる機関がある、と?」
「ええ。我々のように凄まじい数を量産するのではなくゆっくりゆっくり、それこそ精巣が精子を作るように作り上げているのだと私は考えていますわ。
また、此方の世間一般では女性のほうが男性よりも魔力量は多いそうですわ」
「あ~……つまり?」
ヘルシングは珍しく恥ずかしそうにゴホンと咳をする。
「つまり、女性には生理があるためにそれが魔力生成、つまりナノマシン生成に何か関係しているのだと私は思います」
「……その理論で行けば男の方がナノマシン生成は激しそうだがな」
な?とストーカーを見ると首を傾げられた。何だよ、純情君かよ。
しょうが無いので男の精子製造に関して俺が議論をしてやろうとしたらヘルシングが俺にカップを投げ付けてきやがった。イッテぇ!?
「兎も角、やりたいことを明確にイメージすればナノマシンは使えるはずですわ!」
ヘルシングがそう言うとノンナが出来たわ!と俺にデータを飛ばしてきた。
何が?データを見ると棘の生えた丸い物が2つ付いたハンマーの絵が描いてあった。ああ、ノンナの考えるカッコいい武器か。
「これ、プリントアウトしてやるからトーキン辺りに作れと見せてみろよ。多分、作ってくれるぞ」
「分かったわ!」
データを多脚装甲車のブレインに飛ばし、そのままプリントアウト。それをノンナに渡してやる。ノンナはそれを抱えて寝ようとしたので、慌てて止める。そのまま寝たら寝てる時の洗浄でぐしゃぐしゃの上に多分綺麗に処分される。
だから、ノンナのカプセルの脇に置いておく。
「それじゃあ、明日は旧名古屋市地下街にお買い物と洒落込むか」
「ええ、そうですわね」
「おやすみ、諸君」
激動の一日でした。
◇◆◇
翌朝、起きると8時だった。武器達は既に出来上がっており、着替えを済ませて俺の旦那銃みたいな銃を両脇に下げ、10丁のリボルバーと単純計算で1万発の弾丸を撃てる分だけの火薬と弾丸に雷管を携えて外に出る。
外には既にゲイリーとトーキンに冒険者達が揃っていた。
「先に貴様等にこの銃を渡しておく。
この銃は貴様等にしか反応しない。つまり、誰にか奪われたりした場合、貴様等にその銃口が向いたとして撃たれる可能性は0だ。裏を返せば他に売ることも出来ない。
先にそれだけ言っておくぞ、土人」
5人に銃と弾薬等を渡して荷物を軽くする。トーキンとゲイリーも武装をしている。因みに、銃を渡す前の5人は危険度低レベルだったが銃を二丁渡してからは中レベルに上がった。
で、案内せよ。命じて出発。悠然と歩きながら変わり果てた名古屋市街を眺める。木々はないが高層ビル群の密集地帯は一切無い。
見えるのは日光江戸村と明治村を足して割ったような珍妙な街が並んでいるのだ。個人的にこの街並みは好きだ。明治村は何か全体的に臭かったけど。防腐剤掛け過ぎて屋敷とかの中に入ると気分が悪くなる。
んで、結構な数の人々が賑わっており、歩いていると案内役のパーティーが此処はスリが多いから気を付けて下さいとか言っていた。
で、言うが早いか一人の男が脇からふらっと出て来て俺にぶつかるとそのまま済まねぇと言って立ち去ろうとする。勿論、ヘルシングがそれを阻止する。具体的には男の目玉を燃やすという俺がゴブリンに仕出かした所業を男でやった。
「ツェペシュ様から物をスろうとは良い度胸ですわね」
ヘルシングはゲイリーに男の身包みを全部剥げと告げる。ゲイリーは大急ぎで身包みを剥ぐと、俺が胸ポケットに指していた4色ボールペンが出て来た。
「……コイツ、ボールペン盗んだ対価に両目失ったのか?」
「馬鹿だな!」
ノンナは大爆笑していた。ヘルシングはボールペンを拾い上げて俺に恭しく献上する。
「ボールペン程度なら別に騒ぐ必要なかったのに」
俺はヘルシングに小声で告げると溜息が返された。
「そういう訳には行きませんわ。予防策です。
私達から物をスるどうなるのか、それを知らしめる必要があります。何時もの私は寛大だ、で宣言しなさいな」
まぁ、昨日は私は寛大だを連発しまくってたけど、それって俺の決め台詞みたいに成ってるの?ねぇ?
「ふむ、たかがボールペンの為だけに命を張るとは良い度胸だな。
本来ならば、八つ裂きにして町の入口にぶら下げておくところだが、私は寛大だ。人間は誰しもが過ちをする。土人であろうと、我々であろうと」
チラッと周囲に居る連中を見ると何だ何だと止まって此方を見ている。男の目は完全に焼けて何かドロドロと溶けてる。滅茶苦茶怖い上に黒いんだけど……
「貴様等土人に言っておくぞ。
我々から物をスるならば誰にも気づかれるな。気付かれたら最後、命はないぞ。この者は最初の一人故に命までは取らぬが、次の者からは殺す」
俺は行くぞと案内人達に告げると青銅パーティーは頷いて先を行く。その後数ブロック歩いた先でまた別のスリが今度は有ろうことかヘルシングから物をスろうとして体中の穴という穴から炎を吹き出して死んだ。
因みに、ヘルシングからスろうとしたのは端末だった。
曰く、端末が私の体から非登録のナノマシンに接触した状態で2メートル以上離れると自動的にそのナノマシンをハッキングして全ナノマシンを燃やす、という末恐ろしい細工を仕掛けてたそうだ。
で、これの後にノンナからスろうとして懐に手を入れた瞬間、咄嗟の事で力加減をしない握力で腕を握りつぶされた上にノンナが引っ張ったせいで腕がブチッと千切れた。ノンナはそのままアームロックをしようとしたらしいが、腕だけではアームロックは出来ない。スリ犯は腕が引き千切られてオレノウデガーと叫びながら血を大量に吹き出しながら地面に倒れる。
ヘルシングはその光景に眉を顰め、ストーカーも苦々しい表情を浮かべた。
で、ノンナは何を言うかと思ったらあっけらかんと告げる。
「腕取れた」
取れてねーよ、お前が引き千切ったんだよ。
「見苦しい、楽にしてやれ」
「おう。犯罪者でも無用な痛みは可哀想だもんな」
止血とかしてやれって意味で言ったのだが、次の瞬間、ノンナは背負っていたスレッジハンマーで男の頭を潰した。ストーカーがオェッと脇に吐き、案内人のパーティーも何人かが同様に吐いた。ゲイリーはまぁ、しょうが無いよなと言う顔をしつつ俺を見、トーキンは完全に肝を潰した様子で固まっていた。
ノンナは何故か満面の笑みで楽にしてやったと俺に親指を立てる。
「……お前の殺し方は見苦しい」
「返り血が汚いですわ」
「暫くお肉は要らないや」
それから少し休憩しましょうとゲイリーが告げるので俺達は脇にあるカフェみたいな場所に入った。これ以上歩くと犯罪は撲滅するだろうが死人が多すぎると判断したらしい。
「まぁ、犯罪者が私刑で殺されるのはよく有りますが、流石に同じ集団に1時間と経たずに数人殺されると……ねぇ?」
俺達とゲイリーは少し休んでいますと別のテーブルでダウンしている案内人とトーキン達を尻目に話をする。
「ノンナ、お前、力加減を覚えろ。
ヘルシングはホラーだがお前はスプラッターだ」
「ほ、ホラーって、私だってまさかああなるとは思わなかったんですわ」
突然男が変な声を上げたと思ったらボフッと目や口、鼻の穴に尻の穴といった場所から炎を吹き出して燃え上がるっていう凄い光景な。
俺やヘルシングは勿論、周囲に居た人間も一瞬何が起こったのか理解できずに佇んでしまったからな。で、ヘルシングがハッと我に返って自身のポケット探り、漸く事の顛末が発覚した。
「つーか、スリ多くね?」
「ええ、人が多い場所ですからね」
それにしたって数百メートル歩くだけで3人にスられるってどういうことだよ。
それを言うともう少し警戒をして歩いて下さいと言われたので、ヘルシングが日本のまちなかを歩く気分で歩いてはいけませんねと溜息を吐いた。
で、20分程してトーキンと案内パーティーのリーダーが復活して此方の席にやって来た。因みに俺達は紅茶みたいなのを飲んでいる。
「漸く復活したか、トーキン。
無様だぞ」
「え、ええ。ちょっと、ああ言うのには慣れていませんで」
トーキンはゲッソリとした顔でそう告げる。
「ラーキンの阿呆に言っておけ。
犯罪者の数=治世者の無能さを表している、と。我々の日本はこうも酷い国ではなかった。平民に教育を施し、国力増強を上げると同時に人間として最低限の弁えを付けさせろ。ノンナよりも酷い有様だ」
ノンナがあ!と思い出したように懐から紙を取り出し、トーキンにこのハンマーを作れと昨晩のノンナの描いたちょうかっこいいハンマーの絵を突き出した。
「ああ、それか。
ノンナの為にその形のハンマーをしつらえてやってくれ」
「は、はぁ、その程度ならお安い御用ですが」
トーキンは銃があるじゃないかと言う顔をするのでノンナに銃を持たせると弾が見当違いの場所に飛んでいって逆に危ないのだと告げる。ヘルシングがノンナが命中弾を出すには殴った方が早い距離でなければ当たらないだろうとも言う。
ストーカーもその意見には賛成だという感じに苦笑していた。
ノンナはそんな事はないと言うも、俺はあのノンナの恐ろしく酷い命中率を知っている。ノンナに銃は持たせない。