血ぃすーたろかー11回目
「そう土人をイジメてやるなよ、ヘルシング。
可哀想ではないか」
フハハハっと笑ってヘルシングに告げる。
「しかし、ツェペシュ様。
この土人はツェペシュ様を有ろうことかお前呼ばわり致しました」
「私は寛大だ。
土人程度にお前呼ばわりされて怒る事はない。それに、それを言うならばノンナもそうだろう?」
俺達のやり取りに一切興味無く黙々とケーキだのクッキーだのを食べまくってるノンナを見やるとヘルシングは彼女は土人ではありませんと告げる。因みに、銃口は今もラーキンに向いている。銃口はピッタリとラーキンの眉間に合わされており、一切の揺動も無い。
「先進人は土人共の言動を寛容する必要がある。
帝国主義は自分を押し付け過ぎたのが敗因だ。新・帝国主義は相手を認め自分を認めさせるのだ。それが我々先進人のやるべき在り方だぞ、ヘルシング。
最も、相手が増長するようであれば殺せばよかろう。土人なぞ、腐る程居る」
俺がそう笑って告げるとヘルシングも分かりましたと銃口を下ろして、ホルスターに収めた。
何か小難しい言葉を並べ立てて言うとヘルシングは何の反応もしなかった。
「それで、ラーキン。
何用だ?私に会いたいという事は、私に用事があると言う事だろう?」
「まぁ、大した用事ではないが、私はお前達と話をしたいと思ってな」
俺は特に話す事なんか無いけどな。
「そうか。なら取り敢えず、殺しても良い生き物は?
エルフの村に居た猿、ゴブリンだったか?あれらを数百匹用意しろ」
「ゴブリンは飼育していない。あれは魔物と言って害獣の一種だ。
魔物を討伐する組織を冒険者と言うのだがな。それらの様に外に狩りに行くしか無い」
出た冒険者!イイね!楽しそう。思わずニヤけちゃう。
「つまり、我々を害獣駆除を手伝え、と?」
俺の言葉にラーキンは一瞬怯む。何で?
「土人、ツェペシュ様の言葉を忘れたのか?鳥頭が。
ブチ殺すぞ」
ヘルシングが今度は殺気を纏わせて拳銃を抜く、ヘルシングのガチ激怒に呼応するようにノンナも脇に立て掛けたスレッジハンマーか取り、ストーカーも拳銃を抜いた。
ゲイリーはヒェッとその場に尻餅を突き、トーキンは姉さん!と叫ぶ。
「止せ、お前達」
取り敢えず、立ち上がって窓際に。落ち着け、冷静になれ!皆、冒険者嫌なの?!俺結構そう言うの好きよ?ドラクエみたいなもんだろ!ちゃうんか!
窓の外を見ると学園の教師達が俺達の乗ってきた多脚装甲車の周りに囲いを置いて近付く生徒を追っ払っていた。
そう言えば、この国ってどんぐらいの規模なんだろう?
「ヘルシング、我々の生きていた日本の人口は何人だった?」
「はい、正確な数字は不明ですが、確か1億人程世界人口は100億を超えて居た筈です」
「ラーキン、この国の人口は?」
えーっととラーキンはトーキンを見る。トーキンはゲイリーを見てゲイリーは把握している人口は2千万ほどですと告げた。
俺は拡張現実に江戸時代の人口を出す。大体3千万程らしい。もうちょっと多いかもしれないとかだが、記録では3千万程だとか。
「盛者必衰の理をあらわすとはよく言ったものだ。
我々の信じる日本は滅びた。我々が生まれ、生き、愛した国はもう無いのだ……
家族も死に、無残に残った我々には、我々の愛し信じた国がどう死んだかを克明に記憶する義務がある。その為には我々はこの国の文化を受け入れる必要がある。
諸君、我々は我々の国を取り戻すことは出来ないが、どう死んだかを知ることは出来る。そして、その為にはまず力を付けねばならない」
新・帝国主義だと告げるとヘルシングは銃を下ろし、ノンナはクッと涙を堪えた。ストーカーも自身の手を見詰めていた。うん、マジでどんな状況これ?
「それで、その猿共が居る場所を教えろ。能力を完全に使い熟せねば、我らとて北海道には行けん。
彼処は嘗て試される大地と呼ばれた。今、あの大地を踏み締めるにはそれ相応の力がいる」
「あ、ああ。
概ねこの辺りに地下街や地下道が掘り巡らせており、そこを魔物達が巣食っているのだ」
ラーキンが地図で名古屋市市街地を指差す。概ね、中区の栄とか大須があった周辺である。つまり、地下街や地下鉄、地下駐車場がまるごと占拠されてるってこと?
東京とかヤベェじゃん。
「東京はどうなっているのだ?」
「と、とーきょー?」
地図を指差してやるとエッドかと頷いた。此処は冒険者のメッカであり、未だ多くの魔物が生息しているそうで中々全貌が掴めないとか。地下奥深くや一部、古代の遺跡には足を踏み入れることすら出来ないそうだ。
多分、東京地下と皇居だろうな。皇居とか完全防御だろうな。陸の大要塞だろうな。
「横須賀の造船ドッグ行けば軍艦残ってねーかな?」
「あ~……あるかも」
ノンナがそう言えばと頷き、ラーキンに横須賀はどうなっていると尋ねるとやっぱり殆どの港は制圧したが一部、大きな倉庫街やドッグには制圧できていないそうだ。警備ロボがヤバいんだろうな。
ノンナ曰く陸軍と海軍と空軍の大きな基地は基本的に独立した防御力が有り、コンピューターも隔離管理してあるそうだから、名古屋にある総まとめのコンピューターで把握出来ない今は各個に訪れて管理するしか無いらしい。
取り敢えず、名古屋市地下街で能力を把握し、準備が整い次第、横須賀に向かって船を入手しよう。軍艦なら北海道に行くにしても安心だよな?
◇◆◇
で、取り敢えず4人で名古屋市、いや旧名古屋市市街へ向かう。トーキンとラーキンも着いて来る。冒険者ギルドなる場所があるのでそこに顔を出しましょうと言われたので冒険者ギルドへ。
ラーキンは俺の一歩前をトーキンは三歩前を歩き、ヘルシングが俺のすぐ後ろを、ストーカーとノンナは更にその後ろに居る。
「薄汚い場所だな」
「しかも臭い」
ギルドの入り口、俺は中に入るのに少々勇気がいる小汚さだ。
「人材云々の前にこの汚さをどうにかするべきだな。これが官営の施設か?」
「官営と言うか、ギルドなので冒険者同士の寄り合いで……」
トーキンが冒険者ギルドの話を始める。
「馬鹿にするなよ、土人。
ギルドの制度は知識にある」
拡張現実の百科事典にも書いてある。
「組合は国王の制限した限定的な経済活動下において組織運営されていた職業経済体系の一種だ。
お互いにお互いを縛り合う自由経済のない社会を構築するに相応しい経済体系だな。つまり、ある意味で国が認可した職業統括組織だ。俺が国王ならば官営に近い組織は小奇麗にする。少なくとも、このような組織にはしない」
俺の言葉にヘルシングが全くですわと頷いた。
で、俺達が入り口から進まずに居ると向かいから男達がやって来る。
「おいおい、アンタ等が誰か知らんが随分な言い草だな、モヤシ野郎。お前みたいな真っ白い大根野郎が来る場所じゃねぇぞ、帰りな」
「そして、下品だ」
指を鳴らし、大きく空いた口そこから見える赤い舌を凍結させてやる。アガッと変な声を出して男は突然口を抑えその場に蹲った。この程度なら治療すれば問題なくは喋れるだろう。
ヘルシングが拳銃を引き抜くので、俺はそれを止める。
「止せ。私は寛大だ。男は寛大に、女は慈悲深く。誰かの言葉だ。
この土人も口が災いの元だと知っただろう」
マジで何かすえた臭いがしているので口元をハンカチで覆いながらカウンターに向かう。カウンターには一応制服っぽいお揃いの衣装を着た女達が座っており、俺達を訝しげに見ている。
彼等が声を掛けて来ないは多分、隣にトーキンとラーキンが居るからだろう。ふむ、一般冒険者はトーキンとラーキンを知らんらしいが、ギルド職員は知っているのか。
「国民が自国の王の顔を知らんらしい」
「江戸時代ですわね」
「とりあえずビール!」
「ノンナちゃん。君は少し黙ってようか」
ラーキンがギルド長を告げると直ぐに脇に居た男が前に出る。こっちは人間の男と同じだった。
「これはようこそラーキン様、トーキン様、そして……
初めまして、ですね?」
「如何にも。
初めまして、だな。土人にしては礼儀正しいな。ラーキンとトーキン。貴様等もこの土人を見習うと良い」
俺の言葉にラーキンはフムと不満そうに頷き、トーキンはハイと頷く。
「土人、案内を一人寄越せ。
我々はこの地下に潜る」
「は、はぁ……
ダンジョンに入るということはえっと、その冒険者登録はなされているでしょうか?」
「しているように見えるのか?」
「い、いえ。ダンジョンに入るには冒険者である必要があります。
理由はダンジョンに出入りする人間を管理するからです。ダンジョンは知っての通り古代遺産の宝庫です。そこから持ちだされる物はこの国の根幹を揺るがす物があるかもしれません」
そんな大層なものが市街地地下にあるのか?軍事施設ならまだしも。まぁ、この国じゃレシプロ機関を積んだ自動車ですら国の根幹を揺るがしそうだな。
取り敢えず、どうでも良いけどな。
まぁ、人間殺しあうなら何でも使うのでそうなのだろう。
「ならば、我々が地下に入っている間に貴様が作っておけ。
私は時間の浪費は好まない」
「いえ、登録はすぐに終わります。お名前と、使用する武器、住所、クラス、種族等を書いていただければ完了致します」
これにお名前をと差し出された紙。材質は極めて悪い。和紙みたいに木の繊維を解して水につけて固めた感じのやつ。
「ふむ。我々と貴様等土人の使う言語は違うが、それでもよいのか?」
「ええ、貴方方の文字を翻訳して冒険者の証を造りますので」
取り敢えず、英語で書くかカナで書くか考えているとノンナがカナで全て書き上げたので、俺もカナで書くことにした。
名前はヴラディスラウス“ユウ”ツェペシュ、使用する武器は銃と魔術、住所は研究所の住所、クラスは……クラス?ノンナを見ると2-3と書いていたので高校の時のクラスだった2-5と書く。種族は人間だ。
ノンナは住所の所を俺やヘルシングのを覗き見しながら書いていく。性格に違わず豪快で少々汚い字だ。枠からハミ出してるぞ、ノンナ。
で、それぞれ書き終えてからギルド長に渡す。ギルド長はそれを受け取り、名前とクラス以外の全てを一通り俺に聞くのでヘルシングがそれに答えた。それからホールに居る全冒険者に向かってダンジョンへの案内をするパーティーを募集すると叫ぶ。
「報酬はどうしますか?」
「報酬?」
「はい。案内を頼む報酬です」
「我々を案内できるという名誉以上の物を望むというのか?」
俺がDIO様なら言いそうなセリフをチョイスして驚いた顔を造りギルド長に答える。ギルド長は一瞬詰まるとにっこり笑って告げた。
「冒険者は名誉もそうですがそれ以上に金を望みます。
故に、金や物品を報酬となされるのが一番かと」
スゲーな、俺の冗談に俺を立てつつしっかりと自分の要求を伝えて来やがった。
「フム、成る程。
おい、トーキン」
「はい!」
俺の言葉にトーキンが直ぐに前に出る。
「この世界の銃とはどういう物かを教えろ」
「はい!」
トーキンの説明をノンナに聞かせ、ノンナがふむふむと理解する。どんな銃だ?と尋ねると前装式の17,8世紀に使われているような古臭い銃だと答えた。火縄銃を思い浮かべればよいそうだ。火縄銃と違い発火はナノマシンを多く含んだ石、魔石を叩き潰してナノマシンを燃やし、それで火薬に火を付けるのだとか。パーカッション式と言う銃にそっくりらしい。
で、今の所、筒が一本の海賊が持ってるタイプの銃しかないそうだ。そもそも、銃本体も非常に高いので一部の特権階級かかなり腕の立つ冒険者が持っているそうだ。威力は魔弾と呼ばれる魔術を封じ込めた弾丸を発射するので弾代も馬鹿に成らない為、本当に奥の手レベルの代物だとか。
つまり、俺達が最初にゲイリー達に出会った時に見た奴だ。
「パーカッション式のリボルバーとかライフルとかってあの装置に有るのか?」
「有るわよ!
南北戦争で使う銃は基本的にパーカッション式よ!」
取り敢えず、遠隔操作で多脚装甲車を呼び、荷台に有る武器弾薬製造機で調べる。すると普通にパーカッション式のリボルバーが本当にあったので、トーキンに面白いものを見せてやるから鉄屑をバケツいっぱい持って来いと告げる。
トーキンは直ぐに何処かに走って直ぐにバケツどころかリアカー一杯に持って返って来た。
「これだけの材料だと何丁作れるんだ?」
試しに試算すると1200丁程作れるそうだ。
「そんなに要らないでしょう」
ヘルシングが呆れた顔で告げる。俺もそう思う。
なので取り敢えず、1丁お試しで作って弾薬も製造。ノンナに装填させてからギルド長の元に。
「これを案内人に二丁づつやる。
序に余った材料で火薬と弾薬もくれてやる。そこな阿呆がバケツ一杯で良いと言うにリアカー一杯に持って来たのでな」
ギルド長は銃を眺め、これはどう使うのか?と訪ねてくる。なので、俺は脇にテーブルに置いてあった酒瓶を無造作に狙い、拡張現実で確りと弾道計算をさせてトリガーを引く。初弾は見事瓶に直撃し粉砕、次弾からは脇のショットグラスや灰皿を撃って行く。
装弾数は6発で、全弾撃ち終わったので再びギルド長に渡してやる。
「さ、流石に報酬と内容が釣り合いません!」
「フン、土人の尺度で我々を図るな。
我々を案内するという名誉はこの端金以上に勝ちのある物であることを知れ」
さっさと案内人を集めろと告げるとギルド長が報酬をこの銃だと告げた。すると凄まじい数の人数が手を挙げる。
しかし、ギルド長が無情な宣告をする。ダンジョン案内は青銅ランクの依頼である!と。それは何だ?と尋ねると冒険者はランクごとに分かれており一番最初が錫、青銅、銅、銀、金の5段階に分かれているそうだ。
で、俺達は初心者だから錫ランクだとか。で、錫から青銅に上がるにはゴブリンを1体でも倒せれば良いらしい。つまり、基本的に誰でもクリアー可能なのだとか。
問題は青銅から銅に上がる際。これはギルドが出す所定の依頼を熟しつつ幾つかの依頼を達成する必要がある。
その一つに“錫ランクの冒険者を案内する”と言うのが有り、これは青銅ランクの依頼でしかない。で、錫ランクはこの青銅ランクに付き添われてゴブリンを退治していき、青銅ランク昇格の証言としてゴブリンの一部と共にこの付き添い冒険者がそれを保証するのだ。
不正が発覚すれば青銅も錫も罰金と降格、錫は下がりようがないので実質罰金のみで一定期間の昇格はなしと言う罰らしい。
で、今、この時に青銅ランクで尚且つ錫ランクの案内をクリアーしていない冒険者となると1つのパーティーしかなかった。
パーティーを組むとバラバラのランクが集まるので、そのパーティーで最も低いランクの人間を基準にパーティー自体のランクが決まる。つまり、錫ランクの新入りを入れたパーティーは金ランクの人間が居ても錫ランクになる。
で、青銅ランクパーティーは若い少年少女達が5人集まったパーティーで、彼等が我々の案内人になるのだった。