血ぃすーたろかー1回目
「……糞、寝過ごしたか?」
日曜日の午後に起きたような妙にお目目ぱっちりかつ何処か焦燥感のある景色が目の前に広がっていた。四方を赤い光が埋め尽くしている。夕日が部屋に入り込んでいるかのようだ。ただし、寝ていたのは布団ではなく酸素カプセルみたいな中だ。顔の部分には透明のガラスが嵌め込まれている。
上半身を起こそうにも、このカプセルの蓋を開けねばならない。取り敢えず、グッと押してみるがうんともすんとも言わないのだ。
下の方を見ると金属の取っ手が付いており、其処を押してみると、ガチャリという音と共にプシューッとエアーロックが外れて蓋が動いた。
扉を開けて上半身を起こしてみると、俺が最後にしていた格好、検査用のシンプルな下着のままだった。上半身は裸で、下半身もパンツのみ。周囲は俺が最後に見た光景よりかなり劣化しているが、確かに前のままだ。
カプセルの蓋、外側を見ると凄まじい数の傷跡が付いているが、まだまだ使える。
俺が最後にこのカプセルに入ったのが2200年の8月だった。新型ナノマシンの検体に応募して2ヶ月間の冬眠装置で過ごすだけ、と言う奴だ。協力金として200万という破格の金が貰えるのでフリーターだった俺は応募したのだ。
応募したのだが……2ヶ月経ったのか?2ヶ月どころか200年以上経ってますというレベルで周囲が劣化してる。
「……誰か居ませんか!」
試しに声を出してみる。2ヶ月間寝てたというのにすんなり声は出るし、活動できるのに驚いた。新型ナノマシンの力のお陰かな?まぁ、良いや。
暫く待ってみるが誰も来ない。取り敢えず、着る物が欲しいので脇においてある机の引き出しを開ける。引き出しの中には1冊の本が密閉して入っていた。Diaryと書いてあり、表紙には1枚の紙が貼ってある。
“目覚めたら、必ず開けて読むように!”
俺宛かな?密閉している袋を開けて中に入っている手紙とともに日記帳っぽい本を取り出す。
紙はこの研究施設の名前が入ったメモ用紙だった。取り敢えず、それを脇においてページをめくる。1ページ目には“これを読んでいるということは無事に起きれたようだね”と始まった。
俺は机の前にある椅子に腰掛けてそれを読んでいく。最初の一ページ目には俺の置かれている状況が記してあった。俺が冬眠に入った1ヶ月後、突然隣国が戦争を仕掛けてきた。問答無用で核ミサイルの飽和攻撃を行い、防ぎきれなかったミサイルの一発が原子力発電所に命中、日本の中部より東は原子炉爆発と放射能汚染で住めなくなった。
その後、核ミサイルを放ったせいで各国も報復措置としてミサイルを撃ち合う凄まじい戦争になった。で、俺の居るこの場所も高濃度の放射線に汚染されており、俺の救出は技術的に不可能であり周囲の汚染が消えるまで俺の冬眠は延長されることに成ったそうだ。
冬眠装置ごと動かそうにも、隣国の侵攻が始まっておりそういう訳にもいかないのでこのまま俺には寝てて貰う事にしたそうだ。
冬眠活動中はナノマシンが俺の体内で自己保全をするので、問題ないはずだろうとのこと。まぁ、現に俺の体はなんともない。ただ、何年日にあたってないのか知らんが、肌の色が黄色人種どころから白人超えてアルビノっぽく成ってる。
日に当たれば良くなるかな?まぁ、良いや。
1ページ目から5ページにかけてそんな事が書いてあった。日付は2200年である。で、6ページ目からは行き成り日付が飛んで2250年だ。おい、50年経ってるぞ!?
“済まない、世界は滅亡するが、君はそうではないようだ”
いや、この50年で何があった!?
“君も驚いているだろう。私は博士の研究を引き継いだ者だ”
簡単な自己紹介があり、50年の歴史が纏めてあった。言ってしまえば2200年に起こった核戦争は2225年に一応の決着を見せたが世界はぐっちゃぐちゃで難民だの何だのが生まれて、最早国家という存在は体をなさなく成ったらしい。
そして、世界は小規模なコミュニティーがより集まり、戦国乱世も顔負けな武力闘争が起こっているそうだ。で、世界では武器兵器の管理運用の為にナノマシンが使われており、俺の体には新しくそういう奴に適応できる環境適応能力ってのをバージョンアップさせたと書いてある。
この環境適応能力がバージョンアップしたことで俺の体はカプセル外にある情報収集装置によりあらゆる情報を集めて俺の体を起きた時に戦前と変わらぬ様にしてくれるそうだ。
具体的に言えば、現在は高濃度放射線下でありこの博士の弟子達は適応したが俺は適応していないので起こせない。体が完全に適応するまで冬眠は解除されないと書いてあった。
成る程ね~
んでもって、この研究所は存在自体が隠匿され、発見されても凄まじくデカイ金庫レベルのセキリュティーなので資格のない人間は入ってこれないし、出てもいけない。2250年代における最新のあらゆるコンピューターから相手のナノマシンに至るまでハッキングできる素晴らしい物を入れておくから、起きたらそれを使って研究所から出て来いと書いてあった。
で、以降は研究所の見取り図とか俺が使えるであろう能力とかが日付毎に書いてある。で、最後は2290年。つまり、40年間、数カ月ごとに更新される形であるが書いてある。最後の方には殴り書きで“君が最後の人類になるようだ”と書いてあり“サヨウナラ”と締めくくられていた。
「……マジで?」
俺は慌てて扉のロックパネルに手を押し付ける。したいことを考えながら端末に体の一部か体液を飛ばすと作動できると書いてあったのだ。で、やってみると、扉がピピピピーっと電子音をさせて開いた。因みに建物内部の環境は全て全自動ロボが保全管理しているそうだ。
扉が開き、俺が最後に見た質素なリノリウムの廊下が続いている。廊下の隅にはお掃除ロボが居り、定期的に掃除をしているのかウィンウィン音を立てて動いている。俺は様々な部屋を見て回った。隣の部屋にもカプセルが会ったが、中に入っていた人間は干からびたミイラの様になっていたり、骨だけだったりと様々な形で残っていた。
多分、機械が誤作動か何かを起こしたのだろう。中には必死になってカプセルの蓋を開けようとしたのか取っ手を掴みながらガラスを叩いていたと思われる物まである。
「嘘だろ……おい」
で、パンツ一丁で研究所を1時間程走り回り俺の他に3人の人間が生き残っていたのを見付けた。1人は男、と言うか少年で、もう2人は女だった。女の片方はめっちゃ美人でもう一人は子供であった。
3人共まだ寝ており、俺が勝手に開けるのも何だから取り敢えず、放置しておいた。
他にこの研究所を探し回った所、食料生産装置と武器弾薬生成装置に衣服生成装置が見付かった。何方も国防省と書いてあったプレートが貼られており多分、防衛省は名前を変えたのだろう。
脇にはマニュアルまで置いてあったので、多分博士の弟子が俺達の為に残しておいてくれたのだ。どういう原理で動くのかは不明であるが、武器生成装置は鉱物や石等から武器弾薬を作り上げ、衣服と食料の生成装置は木々や他の生き物を入れることで食事を作るらしい。
一応、相応の資材も置いてあり、実験参加者200人が3年は暮らしていける計算で地下に資材が備蓄されているそうだ。
何かもう、昔NHKで見た学生達が無人惑星でサバイバルするアニメみたい。あれよりは優遇されているけどね。
まぁ、装置を使う前に保全装置に入っている衣服や武器、食料とかを使おう。パンツ一丁は流石にアレだからな。
真っ白い軍服みたいな服が大量に入っていたのでそれを着る。鏡を見ると、俺の目は赤く、髪もプラチナの様に白に近い金色だった。
「俺は本当に日本人か?」
まるで外人だ。よく見れば骨格とかも変わってるんじゃないか?俺、もっと指は太かったし、腹は出てたよな?
うーむ、よく分からなさすぎて恐ろしい。
テレビが置いてあったので付けてみるが、砂嵐。外に出ようと言う気は一切起こらない。怖いので使ったこともない銃を手にして残り3人の部屋をウロウロ回る。時計を見る限りは現在は夜の8時で、年は5015年の4月となっている。9999年の12月31日23時59分59秒まで表示出来るという壁掛け時計で、どんだけ生きてるつもりだよと笑ったが正直、そのお陰で俺は今の年を知れている。
軽く3千年近く寝てたらしい。寝坊とかそういうレベルを超越してる。俺、浦島太郎ってレベルじゃねぇよ。ファラオだよ、ファラオ。ツタンカーメンとも友達になれるよ。寝友?
この研究所の外ってあれかな?猿が人類飼ってる世界かな?ンで、紙飛行機作ったら驚かれるの。
「……あ、プレステ」
研究員の部屋っつーかそういう感じの所を見て回って居たらプレステが見付かった。それを引っ張ってきてテレビに繋ぎ、起動してみると普通に動いた。スゲー、三千年前のゲームが普通に動くよ。何でだろ?空気とかで劣化しないのかな?湿度0パー?まぁ、良いや、動くし。
で、ネットワークに繋がりませんと表示される。そらそうだ。多分、ネットワークなんて便利なものはこの世から消滅してるよ。ゲームソフトは有名なFPSゲームっぽい。ゲームでの時代設定は2280年。近未来をモチーフにしているが、今の俺からすれば古代エジプトレベルの昔になるんだろうな。
ゲームの冒頭トレーラー見ていたら、急に視界が滲んでいた。慌てて目元を抑えると涙が溢れていた。
「ああ、畜生!
俺、世界で一人ぼっちだよ!」
母さん!親父!嘘だろう?なぁ?
俺が2ヶ月で200万稼いでくるって言ったら大笑いしてたよな!昨日だぞ!2ヶ月間会えないからって母さんが俺の好物の唐揚げアホみたいに揚げて、結局食べきれずに親父の弁当にまで入れれたよな!
親父!あんた、最近太ったとか言いながら運動もせず、ブツブツ文句言いながら唐揚げ食ってただろう?なぁ!嘘だろう!何かの悪い夢だよな!?
ドッキリだろ!!
「誰か居ないのかよ!?なぁ!!
本当に……本当に戦争で世界は滅んじまったのか!?」
あの3人の部屋の内、一番近くにあった部屋に飛び込む。
「なぁ!起きてくれよ!おい!なぁ!!」
ガラスをドンドン叩くもヒビが入るどころか、傷がつく事すら無い。
ガラスの下ではネーチャンが静かに眠っている。胸が僅かに上下に搖動しているので生きていることは確かなのだ。
「なぁ!もう起きろって!!
びっくりだろ!?お前、何かのアイドルでその下にプレート持ってるんだろ!?どっかに監視カメラも有るんだろ!?俺の降参だって!
200万も要らねぇよ!だから……だから、ドッキリでしたって言ってくれよ……なぁ?」
ホワイトさんに多大なる感謝を!