【短編】その生徒会長の、家族事情 (5)
短編5。短編4からの続き。
集書き方の練習中です。
深夜になって家に帰る。
部屋に入ったところで、普段とは違う違和感に気付いた。
ベットを見ると、布団が盛り上がっていて誰かが寝ているようだった。
「……」
掛け布団をめくると、そこには一人の少女が横たわっていた。記憶が確かなら、妹の柚希である。
どうしたものかと迷ったものの、メールや電話を無視し続けて、怒っているのかもしれない。
今の季節は夏だけど、少なくとも春からずっと会話をした記憶がない。
「柚希……起きなさい」
「ん……むう……お姉ちゃん?」
妹の柚希は、何度かまばたきを繰り返し、眠そうな目を擦っていった。
私の枕を抱きしめて、少し涎を垂らしていたものの、身を起してこちらを向いた。
「もう部屋に帰りなさい」
「え?」
はっとしたように、柚希は周囲を見回して、そこが自分の部屋で無い事に気がついた。
夜中の一時を過ぎていて、いい加減に私も眠りたかったので、早く自分の部屋に帰って欲しかった。
「あのね……お姉ちゃん」
「なに?」
中学三年生になった柚希は、私と一歳しか離れていない。
去年までは同じ中学に通い、私にべったりとくっついてきて、根っからのお姉ちゃん子と言ってよかった。
それでも友達がいない訳でなく、家族との仲も悪くないはずだ。
高校に入ってからは、私は一度も柚希と会った記憶はない。避けていたというより、帰りや外出の時間が合わなかったので、顔を合わせなかっただけ。
「少し、お話してもいい?」
「いいけど、何?」
出来る限り自然な態度を装う。本当はこうして会話するよりも、早く寝てしまいたい。
「少し、雰囲気が変わった? なんだか大人びてるみたい」
「そうかしら。前までは、子供っぽかったの?」
こんな感じで軽口を挟むのが、私だったと思う。
「……そうじゃないけど」
不満そうに、なかなか本題を切り出そうとしない。
両親に何か、言われているのだろうか。
「あの、えっと……今日ね、久しぶりに一緒に寝ても良い?」
「駄目よ。もう疲れているの。早く戻りなさい」
結果的に素っ気無くなってしまったけど、突き放すように拒絶する。
私はシャツのボタンを外しながら、タンスから寝巻き取り出して、柚希に構うことなく着替えを済ませる。
「何で? 半年前までは、一緒に寝てくれたのに」
「もう貴女も、来年には高校生でしょう。我侭をいわずに、部屋に戻りなさい」
脱いだスカートをハンガーにかけ、しわにならないよう引き伸ばして固定する。
私の言葉が届いてないのか、柚希はそれでも、食い下がってきた。
「駄目? 私、避けられてるの?」
柚希の顔を見ると、目に涙が浮かんでいた。
前から添い寝を要求してくる子ではあったが、ここまで酷いのは『私』の記憶には無い。
どうしたものか。
さすがに泣かれてしまうと、対応に困ってしまう。
「分かった。朝は起さないから、そのつもりでね」
「ありがとう!」
何がそんなに嬉しいのか、姉妹でもここまで露骨に、愛情を示すのも珍しいと思う。
前世では姉妹がいたけど、そもそも一緒に寝たのなんて、三歳か四歳までだった気がする。
「ねえ、お姉ちゃん。最近は何でこんなに遅いの?」
「……家に帰りたくないから」
さすがに夏の夜は暑くて、部屋にあるクーラーを付ける。柚希が抱きついてきて、余計に暑さを感じる。
それでも、目を閉じて眠気に身を任せる。
「父さんと母さん、凄い怒ってたよ」
「知らない。何も言われなくなったから、大丈夫よ」
懐かしいような、そうでないような。記憶に感情が引きずられるのか、不思議な気分になる。
「あのさ……」
「もう寝ろ」
時計に塗ってある蛍光塗料のおかげで、電気を消した部屋でも時間が分かる。
もう二時になっていて、さすがにこれ以上は起きていたくない。
鋭く、怒鳴るような口調になってしまうと、息を飲む音が隣から聞こえてきた。
これ以上は気に掛けることもなく、無言で目を閉じた。
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私は夢を見る。
痛い、苦しい、熱い、熱い、息が出来ない。
手に食い込んだロープのせいで、血流が邪魔されて腕の先が赤黒く変色している。痺れたたような痛みを感じ、腕がもう使い物にならないと分かってしまう気持ち悪さがあった。
(神様、助けて)
私が信仰を捨てたのは、この時の叫びに対して返ってきた言葉を理解したとき。
そこには、神に仕えるべき神聖な神父様がいて、醜く歪んだ顔で、私に説法を聞かせてくる。
「魔女が神に縋るのか。お前達の存在自体が、神に仇なす罪であるのに」
なんで、生きているだけで罪なのか。
そんな事が許されるなら、最初からこの世界には、天国と地獄が用意されていることになる。
サイコロを振り奇数が出れば天国に、偶数が出れば地獄に生み落とされるように。自分では決められない理不尽を背負うことと同じだ。
私は夢を見る。
置かれた篝火から火種を取って、火刑に処される秒読みが始まる。
その時に思ったのだ。
この世界では、生まれることは選べない。神なんて存在が居たとして、サイコロと同じ役割を持っただけの無機物と一緒だと。
人が作る幻想こそが神であり、未知に対して都合の良い解釈が『神様』と呼ばれる。
理解出来ないことが恐怖なのであり、その弱さを正当化するための理由がソレなのだ。
「ああ……助けてっ!」
誰か。私を。
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夢から覚める。
時計を確認すると、午前五時になる前だった。
寝汗が気持ち悪くて、シャワーを浴びようと心に決める。
腕には柚希が巻きついていて、起さないようにそっと引き離す。
私は着替えを持って洗面所に向かうと、服を脱いでお風呂場でシャワーを浴びる。
その後にドライヤーを使っても、寝室となる部屋は遠く離れているので、音が届くことはない。
最後に部屋に戻って、バックと学生証を持つ。
「……」
部屋を出る直前、寝ている柚希が目に入る。
仕方がないので、時計の目覚まし機能を六時にセットして、枕元に置く。
そして、私は家を出る。
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