朝御飯、逃亡。
エリカはふにゃふにゃと家に帰ってきた。一歩入ると、中は程よく香ばしい匂いでいっぱい。
「や~け~た~ぁ」
扉よりもお魚優先。ドアを半開きにしたまま、ててて、と台所へ。火を止めて、あじをお皿に乗せる。
こんがりつやつや、あじの開きはおいしそう。
ごはんをよそって、おつゆをよそって。
「いた~だき、ます☆」
あじに、おしょうゆを、かけて。
あじの鱗が、きらりと光った。
しょうゆがかかった場所から、みるみるうちにピンクがかった肉と半透明の骨、輝く鱗が蘇っていく。
「えへへ☆」
エリカが箸であじをつまもうとした、その時。
ぴちっ
「?」
ぴちぴちぴちっ
あじが、跳ねた。
さっきまでおとなしくあじが食べられるのを待っていたお皿に、お箸が当たってかつんと鳴る。
エリカは思った。
……どうしておさかながないのかにゃ?
不思議に思って顔を上げると、あじは半開きになっていた玄関のドアから、朝の最初の光を浴びてぴちぴちと出て行くところだった。
開きのまま。
「……あ……」
かたん、とエリカは立ち上がる。
大きく見開かれた寝ぼけまなこが、壁に隔てられて見えない通りに沿って泳ぐ。
そして。
「……まってえーっ。あたしのー、あーさーごーはーんーー……」
お箸を片手に、通りに飛び出す。
エリカと朝ご飯の追いかけっこが始まった。
あれは、あたしのあさごはん。
『食べ物』なのかは、アタマの外。




