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ケイシィ宅の顛末

 マスターは、エリカの家目指して走っていた。


 起こってしまった事はもはや仕方がない。

 とりあえず、原因を回収しなければ!


 現状を目にして、まず思ったのはそれだった。エリカがここまでで何かやらかしていないかも心配だ。彼女はあれで眠っているのである。一心不乱に物を追いかけるあまり、周りの出来事にはまず無頓着なはず。

 まあ、いかな寝ぼけていても、あまり深刻な被害は出ていないだろうが──。



「わ────!」


 マスターの悲鳴が響き渡る。

 甘かった。



 扉全開のケイシィ宅。まさかと思ってのぞいて見ると、ケイシィは真っ黒な水槽に頭を突っ込んでぷくぷくと泡を立てていた。部屋には異様な臭気が立ち込めている。周りの床できらきら光る魚の鱗……。

「けっ、ケイシィさん、大丈夫で……っ」

 叫びかけたところで、臭いにむせる。息を止めて部屋に踏み込み……マスターは、水槽を見て立ち止まった。

 真っ黒な溶液の入った水槽。見覚えがある。

(……これって、私がケイシィさんに貸した水槽ですよねぇ?)

 数日前、ケイシィの依頼で霊液を調剤し、それを満たした状態で実験用の水槽を貸した。生命系の霊液を何に使うつもりかは聞かなかったが、首を突っ込んでも溺れる心配がない、呼吸可能な物だったはずだ。

 が……それはこんなに黒くはなかった。

──もしや別物っ!?

「わわわあっ!?」

 慌ててケイシィの肩に手をかけて引き起こす。

「ケイシィさん、ケイシィさん、大丈夫ですかっ!?」

「……ぷしゅ……けふ……ほえ?」

 口や鼻から黒っぽい液体を吐き出し、ケイシィは何事もなかったかのように寝ぼけまなこを開いた。

 ほっとした瞬間、つーんと鼻を突く強い臭い。何の臭いかようやくわかった。ヤニだ。

「うぇっぷ……ケイシィさん、これ……何ですか?」

「あぁ……おはようございますー……」

 いつも通り目をこすり、ケイシィは自分の頭がずぶ濡れなのに気付いた。

「あれ? 何で……」

「ケイシィさん、後でお風呂に入っておいて下さいねっ」

 強烈なヤニの臭いに負け、マスターはその場から逃げ出した。何が何やらわからないが、とにかくケイシィは無事だった。結果オーライ、である。



 しばらくぼんやりしていたケイシィは、目の前の水槽を何となくしげしげと眺めた。

 薄蒼かったはずの霊液は、今や真っ黒になっている。

 どうやら、自分はこいつに首を突っ込んで眠っていたらしい。

 そして、立ち込めるヤニの臭い。

「……肺……洗っちゃったかな?」

 異様につるつるになった顔をなでて一人ごちるヘビースモーカーが、一人。


 この事件が、後日ケイシィが肺の洗浄機ではなく「美顔器」を発明する元となる。

 それが大ヒットして、彼がまさに「一生寝て暮らせる身」となり、企業の人に散々あれこれ言われてやむなく家に鍵をつける羽目になるのは、もう少し先の話。

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