Halley,Halley,Halley!
『Halley,Halley,Halley!』
零
ああ早く早く、早くしなければ早く!
これじゃ全然収まらない。
これじゃ全然納得できない。
ちゃんと仕舞わなければ。
しっかり閉じなければ。
そうすべきなのは
そうすべきだから!
ああ早く早く、早くしろよ早く!
せかせかとその手は動く。落ち着きなくそれは呟かれる。
*
こんなニュースだった。
とある会社員の男が上司である男を殺したのだという。
テレビの奥ではコメンテーターらしい男、専門家だという女が熱く弁論を交わし、司会者の男がそれを煽り立てていた。
上司と部下。この関係性は非常に映える。
それだけで上司である男のパワハラ、もしくはもっと大きい所にある会社と言う組織の圧力が考えられる。その圧力に耐えかねた部下が、上司を殺したのでは?と推測する民衆が殆どだろう。そう思うのが普通だ。
ニュースはまだ続いている。どうやらこの話題で暫く引っ張るようだった。
『■■社、殺人事件。▲▲▲▲▲容疑者が抱える心の闇とは』
そんなテロップが画面を覆っていた。
これはまた典型的な、と思う。正直見るのはもうやめてしまおうか、とさえ考えてしまった。
成る程犯罪者の多くは「心の闇」を常に持っていなくてはならないらしい。ニュースを見ているとそんな風に思わされる。
溜息を吐きながらも、その特番を眺める事にした。今日は暇だ。どうせならその闇とやらを見てやろう。
画面が切り替わった。まずは容疑者の生い立ちからだそうだ。
一 容疑者、志村義春(仮)の生い立ち
志村義春の生い立ちは、至って普通。それ以外に答えようがない。
田舎の村で生まれ育ち、中高共にそこそこの成績で卒業している。大学は東京の●●大学へ入学し、卒業までの四年間寮で暮らしていたようだった。志村はサークル活動にも熱心で、交友関係はとても広く、中々に充実した大学生活を送っていたらしい。ここまで見ているとそこまで不自然な生い立ちではない。普通か、それなりに幸福で幸運な人生に見える。
クローズアップされたのは、彼の幼少期の事だった。彼の父親はとても厳かったようだ。おまけに几帳面で潔癖ときている。父親の性格に、母親も苦労が絶えなかったらしい。
数センチのズレ、数ミリの汚れ、その全てが気になってしまう程のものだったようだ。
物心ついたばかりの志村に、父親はまず徹底的に清掃を教え込んだ。
「使ったものは元の場所へ片付ける」
それはお決まりの文言に聞こえるが、その物自体を象った枠内にいちいち納める事を「片付ける」と言うのであれば、少々気味の悪いものだと感じるだろう。
志村の父親はきっちりと、みっしりと、ぴったりと片付いた物を見る事が好きなのだ。子供の玩具であろうと、何であろうとそこに大きな違いは無かった。
志村少年はその指導に従った。寧ろ従う以外、彼に選択肢は無かった。
その経験からか、彼の手荷物、デスク、部屋全てが驚くほど綺麗に整頓されていた。ベッドのシーツには皺ひとつなく、フローリングは顔が映る程美しく磨かれていたらしい。
確かに幼少期という多感な時期には酷な経験だったのだろう。その経験で自身も潔癖で几帳面であると演じなければならなくなったのだから。
しかしこの話がクローズアップされたのはそれだけが理由ではない。
何故なら被害者である上司は、バック一つ入れるのがやっとの社内ロッカーの中で、ぎゅうぎゅう詰にされて死んでいたのだ。
二 志村の母親
「あの子は悪くないんです」
画面に映った初老の女性がそう呟いた。手にはハンカチを握り、申し訳なさそうに顔を俯かせながら、しきりに涙を流していた。
まるで遺族のそれだな。
そんな事を思っていると、彼女はぽつぽつとこんな事を語り始めた。
志村は大学を出た後、希望していた会社に就職した。それが今の会社だった。中小企業の中でもそれなりに大きい方で、何よりもアットホームで有名な会社だったという。志村は内定が決まったその日に母親に連絡をしていた。
「上司になる人も、周りで働くパートさん達も、とてもいい人ばかりだった!」
そう鼻息荒く、興奮したように話してきたという。それを親として喜ぶのは当たり前の事だろう。彼女は彼に「良かったわね」と告げたらしい。すると志村はこう返した。
「しかも、僕が最初にやる仕事は書類の纏め作業だそうだよ。纏めたり、仕舞ったりするのは得意だから、ここは父さんに感謝しないとね」
この言葉に対して、母親は何も答えられなかったという。
父親は彼の幼少期を終えてすぐ亡くなっていたが、彼に大きな影響を与えていた。それが、母親として少し悔しかったのだと口に零していた。
「幼いあの子に、私があげられたものなんて本当に僅かだったんでしょうか」
母親は涙ながらに続けた。
「私がもっと、あの子を人間らしく育てていたならば、あんな、あんな事には……」
あんな事、というのは単なる殺人という意味ではなく、あんな殺し方を、という意味だろう。間違いなく猟奇殺人の類に入るだろう方法だった。
「だから、あの子は悪くないんです……悪いのは、私……私なんです」
彼女はそう言って泣き崩れてしまった。そこに何度もフラッシュを浴びせるマスコミはどうにかならないのだろうか。
流石に同情してしまう。
「許されない事は解っています……。でも早く……早くあの子と話したい……。ごめんなさい、ごめんなさいって……」
そのあとの言葉は残念ながら拾われなかった。口の動きからしてこう言っていたように思う。
「わたしがわるいんです」
泣きながら顔を覆う彼女に無数の光が飛び交う。その場面が数秒続いた後、また違う画面へと切り替わってしまった。
今度は志村の職場が映されている。
三 職場の受付嬢
「志村さんの事はよくわからないんです」
流石に顔までは映されないが、鼻から下だけ見えていれば大凡の性格が解る。
真っ赤な唇に、きついパーマの茶髪、ピンク色のカーディガン。これはまた派手な格好だ。聞けば、この会社はそこまで規則に厳しくはないらしい。だからといって、結構な格好だとは思うが。
「志村さん、凄く元気で、多分いい人なんですけど、時々凄く怖いというか、ぶつぶつ何か言うっていうか」
彼女は髪を弄びながら言葉を続けた。間延びする話し方に少々苛立ちを感じながらも、彼女の唇が少し震えている事に気が付いた。
良く見れば、髪を弄ぶ指先も震えている。
「でも上司の●●さんはすっごくいい人でした。あの人が何でこんな目に遭わなきゃいけないのか……私には、解りません」
彼女はそう言って、大きな溜息を吐いた。成る程、その上司は相当慕われていたらしい。彼女の発言を見て抱かざるを得ない可能性はたった一つ。
彼女は、彼の愛人なのではないか?
被害者には子供も妻も居たので、それ以外だとすれば愛人としか言いようがない。だとすれば、彼女の不自然な仕草にも合点がいく。
まぁもしかしたら、単純に慕う人間が亡くなって悲しいだけかもしれない。それもある。
彼女は震えた指のままくるくると髪を弄び言葉を続けた。
「志村さん、ぶつぶつ言う時は決まってA(名前は伏せられている)さんと話してからでした。Aさん、きっと、志村さんに良く無い事沢山吹き込んだんだと思うんです。だって、その後の志村さん、すっごく気味悪かったから」
マスコミが彼女にこう尋ねた。
「あなたと志村容疑者は話した事はありますか?」
彼女はあからさまに厭そうな顔をした。それが顕著に唇に現れる。
「そりゃあ、仕事で話す事はありますけど、食事とか、世間話とかは全然しませんでしたよ」
彼女は髪を弄ぶのを止めて、腕組みをしながら言葉を続けた。
「だって、志村さんきっちりしすぎて近寄りがたいんだもの」
彼女は「もういいですか?」と不機嫌そうに言った。そんな彼女にフラッシュが振りかかる。
彼女は煩わしそうにカメラを押しのけた。その唇が大きく歪む。
「早くしてよ……もう……どっかいって」
彼女の声は明らかに焦っているような声色になっている。無理もない。身近で殺人事件が起きたというのに、わざわざ表でこんなに話さなければならないのだ。世間からどう思われるか解ったものではない。
そうしみじみ感じながら見ていると、また別の場所が映される。画面ではがたいのいい男性が、迷惑そうにカメラを見詰めていた。
四 被害者の同期
「……何で俺が? は? 俺が志村をいじめてたって? 冗談止せよ。どうせ受付が何か言ったんだろう?」
男は乱暴な口調でそう言っていた。やはり顔は映っていない。首元でネクタイが粗末に結ばれている。几帳面なタイプとはお世辞にも言えないだろう。男は背が高く、肩幅が広い。常に口をへの字に曲げて、時折項を撫でていた。
「俺は寧ろ、あいつに色々助言をしてやったんだよ。こういう所で働くのって大変だろ? アットホームって言えば聞こえはいいが、要するに距離が近い職場なんだ。良くも悪くもな」
男はやはり何処か鬱陶しそうに顔を歪めている。しきりに歯ぎしりを思わせるような動作をしているし、落ち着きが無い。
勿論、こんな大勢のマスコミの前で堂々としている方が不自然ではあるのだが。
「何か愚痴ればあっと言う間に広まる。ある時は歪んで顔を出す。たまったもんじゃないだろう? なに、そんなのはうちじゃなくてもよくある話だ。壁に耳ありってやつだな」
男はそう言ってぎこちなく笑って見せた。その笑顔も非常に無理がある。彼を焦らせるのは何なのだろうか。ふとそんな事が気になった。
男は一つ息を吐いて続けた。
「とにかく噂やらなんやらが気になるなら、それこそお局というのを調べて欲しいもんだ。まぁ、この会社にどれだけお局がいるんだかしらねぇけど」
彼は頬を伝う汗を拭いながら、ふと思いついたかのように口を開けた。そしてその唇は緩やかに笑みへと変わる。
「そうだ。俺も一応いい噂は知ってるぜ。●●(被害者)はある女に言い寄られていたらしい。それも結構面倒な女だったみたいでな。本当に苦労してたみたいだ。俺も一応あいつの同期だから、色々話を聞いてたんだよ。あいつは上司だけどな、それ以前に同期だから」
男は満足したのか「あとは自分たちでどうにかしてくれ」と言った。しきりに頬や首の汗を拭いながら、彼は大きな溜息を吐いていた。
「早くしろ……早くしろよ……」
ぶつぶつと面倒そうに首を振りながらそう言っていた。
場面が瞬時に切り替わった。今度は少し小太りな女性が映っている。流石に顔は隠されているが、本人は別に隠さなくてもと言いたげな表情をしているように思う。
五 会社のお局
「志村さんと●●(被害者)さんの関係はそんな悪くなかったのよ? 全然。それよりもAさんよAさん! あの人、●●さんと同期のくせに階級的には下じゃない? それをね、あの人凄く気にしてたみたいなのよね。時々愚痴ってくるもんだから、あたし鬱陶しくて鬱陶しくて。まぁあたしに直接愚痴ってたんじゃないのかもしれないけど、それでも聞こえたもんは仕方ないわよねぇ? そもそも聞かれたくなかったらこんな狭い会社で話さなきゃいいのよ」
彼女の口は止まらないようだった。丸で今、この瞬間の為に、丁寧に丁寧に書いてきた台本を熱弁しているかのような仕上がりだ。聞いていて非常に興味はそそられるが、その実何処までが嘘で本当なのかは見当が付かない。
「あの人相当●●さんの事苦手だったと思うわよ? 志村さん、いっつもいっつも愚痴聞かされてたし。志村さん? 志村さんはねぇ、ほんっとに几帳面な人だったわ。なんでもかんでも分類して、所定の場所に戻さないと気が済まないって感じ。仕事は勿論出来るんだろうけど、いやよねぇ、それなのにあんな事したんでしょう? 世の中怖くて出歩けないわよ全く。あたしもいい年だから、狙われたらひとたまりも無いわよね。あっもしかしたらあたしが殺されてたかもしれないの? やだわぁ。ほんとに怖いんだから」
女性はそう言っていた。その語り口は見事としか表現できないが、唯一気になったのは、その汗だ。
何故こうやって話してくる会社の人々は汗をかいたり、口元を震わせたりしているのだろうか。特にこの女性は話す事こそ生きがいだと言わんばかりに話しているというのに、その心は何処か焦っているように見える。
「志村さん、本当に几帳面で、記憶力がいいから、ほんと……仕事出来る人だったのに、残念ねぇ……。ああ! そういえば、そうそう! 一回志村さんが凄く驚いた事があったのよ! ●●さんにデスクの事を言われた時だったかしら」
彼女は本当に思い出そうとするかのように首を捻った。
「何だったかしら、邪魔ならしまえばいいだろうって、机の上にあった何かを小突いたのよね! そしたら志村さん本当に驚いてて、すっごく焦ってたのよ。意味が解らないでしょう? ああ、そうねぇ、それを思い出すと何もかもが怖いわよあの人。この前だって……」
それ以後も彼女の熱いゴシップトークが繰り広げられていた。
ぼんやりと見つめながら、私は少しだけ考えていた。
彼は何を焦っていたのだろうか。特におかしなことは言っていないだろうに。それに何故この誰もがあの言葉を言わないのだろう。
普通はそれを一番に言うはずなのに、頑なにその言葉を言わない。
「んもう! いいから早くしなさいよ」
テレビの向こうであの女性が声を荒げている。何か気に障る事でもあったのだろうか。
しかし、やはり妙だ。何故誰もが「早く」と急かすのだろう。何を急かしているのだろう。
そして誰もが何故こう言わないのだろう。
「あの人が亡くなって悲しい」と。
*
僕はこの会社が大好きだ。書類を纏めるだけで良い給料がもらえる。そこそこの残業はあれど、それは給料にしっかり反映される。
上司もいい人だ。
受付の人とも時々食事をしている。
先輩は少し乱暴だが悪い人ではない。
噂好きのおばちゃんは世話焼きだ。
そこに何も不満は無い。とりあえず僕は僕の出来る事をやろう。しまう事もとじる事も、纏める事も僕は得意だ。父さんが教えてくれたから。
父さんは本当に厳しい人だったけれど、僕に色んなことを教えてくれた。母さんは少し心配そうにしていたけれど、ちゃんとこうやって働けているのだから、その内それでも良かったと言って貰えればいいんだ。
母さんは父さんの葬儀をする時も、酷く大変そうな顔をしていた。
その時何かをしきりに呟いていたけれど、流石に思い出せないな。
受付の女の人が、しきりに泣いていた。
「何で私がこんな思いしなきゃいけないの!」
それを偶然見てしまったその日から、彼女の愚痴を聞く様になってしまった。これも会社の人間関係、しっかり聞いてアドバイスしてあげないと駄目だよね。
けれど僕では経験不足というか、やはりよく解らない話ばっかりで、けれど彼女が上司の●●さんと付き合いたいことは解った。
やはり僕には解らない。●●さんには家族が在る。
「●●さんには家族があるんですから、あなたが諦めないと」
僕がそう答えると、彼女は心底傷ついたような顔をしていた。
「ごめん。僕じゃよく解らないから、ちゃんとまた相談したら話を聞くよ」
「相談? 相談って何よ?」
「え? だから、他の人に相談を」
「あんた……言いふらす気?」
「言いふらさないよ……、そんな事」
「言いふらす気でしょ? 何なの? どいつもこいつも!」
そんな事を言って彼女は何処かへと走り去ってしまった。
職場の先輩は物知りだ。けれどどうにも不満が多いらしい。
●●さんの悪口ばかりを聞かされる。●●さんはいい人だから僕は特に言い返したりはしない。
「何せあいつは細かいんだ。何もかもが細かい。細かいと言えばお前も細かいのかもしれないが」
先輩は聞いているだけでも構わない様子だった。
僕は曖昧に笑って見せて、しどろもどろに返事をする。ただブツブツ何かを話しているようにしかきっと見えないだろうけれど。
「ああいう出来る奴は邪魔だよな。ほんと邪魔だ。世の中は事なかれ主義。全てはタラレバでどうにかなる。曖昧こそが美学だろうに」
俺はああいう奴は嫌いだよ。先輩は長々しい溜息を吐いてそう言った。
「ああいう邪魔なのは誰かがきっちり処理してくんねぇかなぁ」
「先輩、少し言葉を変えないと」
「何でだよ。愚痴なんだからいいだろ?」
「でも誰かが聞いてるかもしれないって言ったのは先輩じゃないですか」
「そうかもしれねぇなぁ。あーあめんどくせぇ」
「先輩もほどほどにしないと」
「ぁん?」
僕がそう言うと、先輩は急に訝しむ様な視線をさせて僕を見詰めてきた。
「「も」? へぇお前結構いろんな奴と話すんだ?」
先輩がそう言うので、僕は意味も解らず頷いた。
先輩はニヤニヤ笑っているが、何処か口元は不機嫌そうだ。
噂好きのおばさんは、今日も僕の世話を焼いてくれる。
いい人なのかもしれないが、あれやこれやと一辺に色々言ってくる。それがどうにも煩わしい。よくもまぁこんなにも話してくるものだな、と寧ろ感心してしまうくらいに。
「志村くん沢山話してるのね」
「え?」
「いや、ね? すっごい色んな人と話しているように思ったから」
「あ、ああ。そうですね。皆さん沢山話してくれるから」
「あらやだ、どんな話?」
「え? え……、そりゃ色々ですよ」
「なぁに? あたしにも話してくれないの?」
「え? だって……」
僕はずっと気付いていた事を伝えた。
「いろんなところで話を聞いてるじゃないですか……?」
「え」
「よく、色んな所で立ち止まっているのを見るので」
「あら……」
おばさんは急に冷や汗を流しながら後ずさりをし始めた。僕にはその行動の意図はよく解らない。
「●●さんの事もよく話題にしてらっしゃいますし、あなたの方が情報通じゃないですか。僕なんかの話、きっと面白くないですよ」
僕は彼女を気遣うつもりでそう言ったが、おばさんは余計に顔色を悪くした。
「あんた……最低ね……」
上司はいい人だ。仕事を褒めてくれる。
そんな上司がこういった。
「邪魔ならしまえばいいだろう」
そう言って机の上の物差しを小突いた。枠線から物差しがはみ出る。
途端に思い出すんだ。
母さんあなたが言った呪詛のような言葉を。
あなたは同じ言葉を父さんの棺が仕舞われる時に呟いた。
そうだね、そうだ。僕の世界は少しだけ壊された。
他の人も●●さんは邪魔だと言っていた。
これが利害の一致!
なんて素晴らしい!
だったら早くしないとね!
*
ああ早く早く、早くしなければ早く!
これじゃ全然収まらない。
これじゃ全然納得できない。
ちゃんと仕舞わなければ。
しっかり閉じなければ。
そうすべきなのは
そうすべきだから!
ああ早く早く、早くしろよ早く!
綺麗に納めてあげなきゃいけないんだ!
邪魔なものでも綺麗にしないとならない!
綺麗につまった。最後は蓋を閉じないと!
これで皆の邪魔者は消え失せた!
早く早くと皆がきっと願った事だろう事を僕はやったんだ!
**
「早くしてよ……もう……どっかいって」
あいつが話すとろくなことが無い。悩みの種はすぐ潰さないと。
「早くしろ……早くしろよ……」
裁判とかどうでもいい。●●が死んだからってそれ以外でとやかく突かれたくねぇんだ。
「んもう! いいから早くしなさいよ」
盗み聞きしてたなんて知れ渡ったら、あたしの居場所なんてなくなるじゃない!
Halley,Halley,Halley!
早く、早く、早くしろよ早く!
さも自分には関係の無い事だと言わんばかりに
さも自分は善人だと宣言するかのように
呼吸をするように急かす、それを他人と自分の中で垣間見た時
酷く息が上がるのです。