素敵な染師と永遠のキャンバス
急に立ち止まったあなたが零した。
「永遠のキャンバス」
何かすぐに分からなっかたから、俺はあなたの視線を辿った。そこに在ったのは、空。紺色な空。あなたの方にもう一度目を向けるけど、あなたは気づかない。うっとりと眺めるあなたの目には空しか映ってない。もう周りが見えてないのか。あなたの癖はいつものことだけど、少し悔しい。だから、空を睨んでみる。
「もう帰ろっか。」
あなたの言葉が俺の時を動かす。瞬きして、見えたのは黒くなった空。もうこんな時間か。さっきまではあんな紺色の空だったのに。空ってこんなに綺麗だったんだな。また、空を見上げてみようかな。
陽が落ちる前の数十分。綺麗な群青が空を染める。あと少ししたら、黒に染まるのが惜しくて。何もない空を見つめる。
「永遠のキャンバス。」
ふと零れた言葉に君は首を傾けた。空はどこまでも続く。飽きっぽい私達のために毎日何度も違う色に染め直す。幾年経っても一つも同じ色はない。移りゆく色を私は眺める。ああ、もう塗り直されてしまった。さっきの私達を包む色とは完全に変わった色。私はまだ飽きてなかったのに。あなたの色をもっと見ていたかったのに。誰かが飽きてしまったのか。でも、この色も素敵だ。
「もう、帰ろっか」
「……うん。」
冷たくなった風が私を撫ぜる。ああ、もう時間が。早く帰らないと。これ以上いれば空の魅力に囚われてしまうから。そうならないよう屋根の下に行こう。少し名残惜しげな君。少しは空に興味持ってくれたのかな。冷たくなった手を擦り合わせてる君の手をとって歩いてく。
素敵な染師と永遠のキャンバスに別れを告げて。
寒い冬のふとした1幕。
美術部の先輩と運動部の後輩ですかね。