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ネタは尽きない短編集

聖剣使いのプロポーズ

館から一歩外に出た途端に、がくりと力が抜ける。

どうにも、お偉いさん方と話すのは疲れてしまう。


「大丈夫か?」


心配なんて微塵もしていないような声音。

いつも通りに聞こえるその声に、少し安堵する。

同時に、少しだけ気を持ち直す。


「大丈夫だよ。君と違って笑えるからねー、まっかせってねー♪」

「ふん……恥を知れ」


おどけて見せれば、”聖剣”は鼻を鳴らして顔を背ける。

今一番緊張して、疲れているのはこの子だ。

そう思うと、脱力なんてしていられない。

しゃきっと、持ち主らしく……いや、担い手らしくしないとね。


「じゃ、あとはどこだっけ」

「もうない。まったく、鳥頭の主人を持つと大変だ」


小柄な体躯に似合わない尊大な口調。

彼女らしさが戻ってきたようだ。


「おー、それじゃ。戻ろっか」

「ふん、日も高いというのに出不精か」


いちいち文句を言わなければ気がすまないのかな。

なーんて、思うほど短い付き合いじゃない。

嬉しそうな彼女の顔を見て、少しだけ微笑んだ。


________________


僕たちの出会いは、ダンジョンの奥深く。

冒険者らしく、一攫千金を求めた結果だ。

そこで彼女と出会い、危機を逃れて、地上に戻った。

実に物語調で、いかにも英雄譚だ。

おかげさまで、有名人にはなったけど。


「連日お偉方との話し合いとは疲れるねー」


これも有名税、だろうか。

高名な冒険者とつながりを持てば得がある。

そう思う人間は少なくないらしい。

実際には、もうダンジョンに潜る気はないのだけど。


「ご主人……」

「んあ、ごめん。少し考え事してた」


不安そうな声で僕を呼ぶ声に目が覚める。

もじもじとする彼女は、なかなか珍しい。


「ご主人は……私を拾ったこと、嫌か?」

「まさか、そんなことないよ!」


即答。一度も、そんなことを思ったことはない。

さっきの独り言を聞いてたのかな。

愚痴も、TPOをわきまえたほうがいいらしい。


「それなら、いい」

「……よくないかな」


背を向けて部屋から出ようとする彼女を抱きとめる。

背中に張り付くように抱え込んで、うなじに顔をうずめる。

奇声をあげて体をよじるけど、体格差はどうにもならない。


「どういう、つもり?」

「んー、落ち着くから? 嫌なら……剣に戻っても、いいよ?」


少し卑怯かな、なんて。

言ったあとで思っても遅いけど。

僕の思った通りに、彼女は不満げに鼻を鳴らすだけだった。

すこし、勢いが足りなかったけど。


「……逆に聞くけど、僕が担い手は、嫌?」

「嫌じゃ……ぅ……ない、けど……」

「けど? やっぱり、不満かな?」


少しずつ、押し込んでいく。

彼女の心の隙を突くようで、少し申し訳ないけど。

やっぱり、ちゃんと通じ合いたいから。


「意地悪……」

「ごめん」


そっと、彼女が僕の手に触れる。

一瞬、彼女の体が光り輝いた。

目を開くと、僕の手には銀の光を放つ剣が。


「そっか……」


ひとりごちても、返事はない。

柄を強く握り直し、構える。

そして、振る。


室内でも関係なく、剣閃がうなりを上げる。

動きを止めて、一拍。

ひとつ頷いて、剣を腰に収める仕草をする。


「一つだけ、言わないといけないね」


決心は付いた。

だから、臆すことはない。

それでも、簡単には言えない。


「僕は……」


未だに口を閉ざしたままの聖剣に軽く口付ける。

眩い光を放ったかと思うと、

顔を真っ赤にした彼女が現れる。


「好きだよ、君のことが」

「なっ……!」


背中を向ける暇も与えず、言葉を重ねる。

彼女は、耳から首まで、さらに真っ赤になってうつむいた。

じっと、彼女を見つめる。

何秒か、何分か、いつまででも。

彼女の答えを待ち続けた。


「私は……っ! でも、そんなこと」

「できるさ。いや、する」


だから、言い訳なんか、聞きたくない。

そう言いたい気持ちを押さえつける。

彼女だって、悩んでる。

それを受け入れないほど、狭量にはなりたくない。


「そ、んな……こと」

「今は、まだ……だから、」


言い終わる前に、衝撃。

彼女にキスをされた。

胸に飛び込んできた彼女を抱きとめる。


「私……待ち、きれないと……思う」


彼女が、耳元で囁く。

真っ白な頭の中に、するりと入り込む。

歓喜が胸に溢れる。


「ありがとう、嬉しい」


強く、彼女を抱きしめる。

絶対に、彼女を幸せにすると誓いながら。


_登場人物_


主人公

いつも明るく、ふざけた印象を受ける。

やる時はやる男で、聖剣はダンジョンで手に入れたもの。

有名な冒険者だが、本人は受け入れている様子。

かなり聖剣のことを気に入っており、少し将来について考えている。


ヒロイン(聖剣)

冷静で少し世間知らずな面もある。

分析力は高く、主人公のバックアップをしている。

ロリ体型を気にしており、口調は少し高圧的。

ひとつ前の主人に乱暴に扱われたことがあり、人間不信。

主人公に対しては心を開いてもいいかも、という気持ちを持っている。


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