ギャル、旅立つ
「……ん、うが」
真っ白な空間。際限など無く、どこか永遠と言う言葉を沸騰させるその場所に、場違いな女の声が響いた。
「やあ、起きたかい」
そしてこの場所にはもう一人。男の姿があった。
女はゆっくりと起き上がり、辺りを見渡す。そして、その視線はやがて男の元へ行き--
「ぷはっ」
女は思い切り吹き出した。
「え、ちょ……あんた顔にモザイクかかってるんですけど! え、まじっ! ちょーうける!」
「……」
げらげらと笑いこける女と、無言を貫くモザイク。しかし、女の言っている事は正しく、男の顔には確かにもやのようなモザイクがかかっていた。
声質からして男だと判断できるが、それ以上の事は分からない。
「これはマジヤバ。写メんなきゃっしょ!!」
そう言って懐から携帯を取り出そうとする女を、、モザイクが止めた。
「止めておいた方が良い。私の姿はそのような物には映らない」
しかしモザイクの言葉も虚しく女は止まらない。無駄に派手な装飾の施された携帯を取り出して、モザイクに向けた。
――パシャリ
無機質な音と共に、シャッターがきられる。女の持つ携帯の画面に一枚の写真が浮かび上がった。
「あれ?」
そこで困惑の表情を見せたのは女だった。
男の言っていた通り、携帯には何も映っていなかったのだ。
「やばっ、ちょーやばいんですけど!」
「ほら、言っただろう」
どこか誇らしげな声音で男が言った。
「あんたまさか空気君? キャハッ、存在感薄いってか」
「……」
再び黙りこむモザイク。
「うけるwww」
げらげらと笑う女を見て、モザイクは早くも戦意喪失状態だ。
女は一生知る事は無いが、このモザイクは俗に「神」と言われる超常的な存在であった。本来は死ぬ運命に無かったが死んでしまった女をこの場に呼び寄せたのも、男だ。
しかし、女は自身が死んだ事にも気付かない。
男としてもとても不本意だが、彼は素早く事を終わらせることを決めた。
「君は死んだ。他の世界に転移させるが何かと不安があろう。そこで何か一つだけ願いを何でも叶えてやる」
「――あっ、くそ! 充電無くなっちった……んあ? 願い?」
携帯を弄る事に集中していた女は、その言葉の前にもっと重要な事を言っていたのに気が付かない。そして、男の言っている願いと言う意味すら理解していないのだ。
「願いとかウケル。それなら携帯充電してよ! あ、モチ満タンね」
「分かった」
軽々しく言った女に、それを真剣に受け止めた神。
次の瞬間女の持つ携帯が薄く光を放った。光が晴れた後の携帯を見て女は愕然とする。
そこには、今までLOWと表示されていた充電残量の場所が∞になっていたのだ。
「テラかっこよすwww」
女は再び笑いの渦にとらわれる。
その間に神は次元の扉を開いていた。扉と言われるが、それは一般に呼ばれる闇の様なもので、場所も女の足元に設置された。
「それでは、良い人生を」
「無限とかwwwマジやばいwww」
女--空野 天子は落ちていった。まるでエコーのように、やばい……やばい……やばい……と反響する。
女--空野 天子はギャルである。これはそんなギャルの異世界での物語だ。