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妖怪青年  作者: 彩陶美登
1/1

零壱

 週が明けた月曜日の昼休みになってやっと聞いた話だけど、どうもあいつは幼少期から野山を駆け回っていたらしい。栗や木の実を食べることは無かったけれど、花の蜜は頻繁に吸っていたと、例の爽やかなんだかニヤけてるんだか判別できない笑顔で話してくれた。

 日が昇れば、山の中へ。

 日が沈む前には、街中に戻ってくる。

 特に、素行不良で悪目立ちすることは無かったようだ。

 原っぱを全力疾走して、大木は跳躍で飛び越える。

 ん・・・?今何か可笑しな表現が無かったかな?

 とりあえず話を進めてみよう。友達とは何をして遊んだのか聞いてみた。

 幼稚園の時は、おままごとやかくれんぼ、それに鬼ごっこ。

 小学生になるとテレビゲームが加わったと、楽しそうに語ってくれた。楽しそうなのは何よりだが、トークに小粋なジョークとかツッコミとか使ってくれよ。そんなに淡々と話されると、本人は楽しいかもしれないけど、嫌われているのかと感じてちょっと壁つくっちゃうだろう。

 まあ、こいつにとって友達に、悪意や敵意などを向けることなどありえないのだろうけども。あまつさえ、自分の家に押しかけてきた強盗にお茶菓子なんか出しそうだな。

 こちとら花の女子高生なんだぞ。スマホ使ってキャハハ、ギャハハと女友達とたむろするかわりに、

お前と軽快とは言いがたいトークを繰り広げてるんだから。さんまみたいに話せとは言わないけど、もうちょっと話題を広く振ってもいいんじゃない?

 そもそも女の子が話しかけてきて、テンションが上がったりしないのかよ、お前は。

 不満が顔に出ていたらしい、あいつが不思議な顔をしてこちらを見ている。ちょっと丁寧に文句を、

(つまりいちゃもん)言ってみた。ああ、なるほどと納得した後に、昨日見たテレビの話を振ってきた。

 「プロフェッショナル 仕事の流儀」

 うるせー!高校生が見る番組か?エンタメとか見ないのかお前は!

 AKB48とか、嵐とか、歌って踊ってエンジョイできそうなものが沢山あるだろうが。

 何故教室の片隅でお前と、おっさんの生き様、詳しく言えば、中年男性の涙と波乱の半生と越えてきた荒波について語り合わなきゃならんのだ。おい、わかったから、右手を握り締めて腕に力瘤をためながら主題歌を歌うな。皆が注目するだろうが。え?君が僕の過去の話を知りたいというから話していたんじゃないかって?そりゃそうなんだけれど、あまり直接に聞くのも憚れるからちょっと遠まわしに聞いてるんだよ。こっちもガサツなだけの女の子じゃないんだよ、デリケートなお年頃なの。あんたは、男子だから知らないかもしれないけど、女子のグループで話を盛り上げるのってすごく気を遣うんだからね。昨日見たテレビ、夕飯、好きなもの、遊び、なんにせよ共通事項が存在しないと、仲間と認められないんだから。その点男子は楽よね、変な関係が存在しないもの。いや、女子からみると男子の関係こそ変な関係か。こっちが正しい。何故なら、目の前にいる男はとても人間関係を上手く構築するような機敏な性格ではなく、どちらかといえばヌポーっとしたおっとり系の性格をしている。これじゃあ、社会に出ても人間関係で通用しないだろう。今から空気を読むことを鍛えている私たち女子が正しい、はいQED。・・・ごめん、私も社会に出ていないからそんなことわかんないや、社会には色々な人がいるらしいし。ましてやこいつは、多種多様ということに関してはスペシャリストだった。この世の高校生でこいつほどの経験をしている奴はいるまい。頭の中で色々と考えを巡らせていると、話が途切れた事を気にしたのか、あいつが話しかけてきた。

 「まだ、右足は痛む?捻挫大丈夫?」

 一昨日の土曜日にくじいた私の足の心配をしているらしい。気にかけてくれるのは嬉しいな。私にとって人生初体験の、USJのアトラクションがかすんで見える、奇怪かつ大興奮の体験をした代償なのだ、この捻挫は。こいつとは知り合って一週間ほどだけど、この一週間は何よりも濃い一週間だった。粉が溶けきらないほど入っているココアのようだった、うん、我ながらあまりうまくないなこの例え。うまくないを上手いと美味いでかけたところまでがオチなのだけれどもね。こいつは、何も関係なかったのに、私の問題に首を突っ込んできてくれて、助けてくれたのだ。人間社会を生きてるだけだと、一生出会わない、怪異の問題に。

 「そういや天狗のじいちゃんが、時間があるなら波瑠野の御嬢さんを、また遊びに連れてきなって」

 それだー!私がしたかった話はその系統の話だよ!そう、怪異とは妖怪の話である。こいつこと、囃子祭と、わたしこと、波瑠野春子の、先週の月曜から始まった物語。只今開演!



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