邂逅【魔王side】
「『愚かな人間共め!』なんて、今時だっせぇよなぁ。いかにも魔王って感じじゃん」
「仕方が無いでしょう。天の書にはそう書いてあるのですから。今回のシナリオライターは斬新なものよりもクラシックがお好きなのではないですか? この先のシーンも所々そんな演出が見受けられますし」
終えたばかりのシーンを振り返りながら雑談をしていた魔王だったが、使い古された台詞よりも先程から気になって仕方がない事があった。その内まともになるだろうと思っていたが、元より気の長い性格ではない。流石にもう限界だった。
「……おい、ヴァンパイア」
「なんでしょう。魔王様」
「あれ、どうにかしろよ。台本の読み合わせが進まないだろ」
ヴァンパイアが魔王の示す方を確認する。それに関しては彼も気にしていたようで、軽く肩を竦めただけだった。
「そう言われましても……。困りましたね」
いつものホールに集まった魔王+四天王はこの次のシーンに備えて本読みをしようと集まっていた。けれど魔王とヴァンパイアの目線の先、ワーウルフの少女は全くそれには手が付かないようで、ぼーっとあらぬ方向を見つめては何度も溜息を吐いている。
すると二人の会話を聞いていたサキュバスがうふふっと楽しそうに口元を緩めた。
「あれは恋ですわぁ」
「恋ぃ!!?」
素っ頓狂な声を上げる魔王と絶句するヴァンパイア。そんな二人を尻目にサキュバスは両手を胸の前で組んでうっとりと語りだす。
「無意識に口から零れ出てしまう溜息。何をしていてもつい考えてしまう愛しい人。周りが見えなくなるのは恋をしている証拠ですわ」
「おいおい、マジかよ。相手は誰だ? 人狼族の若手か?」
意外にも女子高生のように恋バナに食いつく魔王にヴァンパイアは呆れたように呟いた。
「……楽しそうですね、魔王様」
「…………」
今日もデュラハンは無口である。