集合【魔王side】
「あ、魔王ちゃん、おっはよー!!」
メインホールに入ってきた寝癖もそのままの魔王に元気よく挨拶してきたのはキャラメル色の髪をした少女だ。頭のてっぺんには犬に似た耳が揺れており、座っている為見えないが、実はお尻からはふさふさの尻尾が生えている。
「おう、狼女。お前は朝から元気だなぁ」
「あはははっ。もうお昼だよ、魔王ちゃん」
次に細長いテーブルの上座に座った魔王の横で色っぽい流し目と共に言葉を発したのは男の目線を釘付けにするであろうメリハリボディをボンテージに似たセクシー衣装で覆った紫髪の妙齢の女性だった。
「おはようございます。魔王様」
「夢魔か、お前また胸でかくなったんじゃねぇか?」
「いやですわ、魔王様。セクハラで訴えますわよ」
……いや目が笑ってないんですけど。仮にも魔王にその態度ってどうよ? そう突っ込みを入れようとした時、視線を感じてサキュバスの向かいへと目を移す。そこに座っていたのは全身甲冑を着た男。
「幽鬼。お前は相変わらず無口だな」
「…………」
「ってやっぱり無視かい!!!」
一度でいいからしゃべらせてみたい、という魔王の五年越しの願いもむなしく今回も無言を貫き通すらしい。ぶつぶつと文句を言っている魔王の横で、後から入室してきたヴァンパイアが冷たい視線を浴びせた。
「魔王様。本題を」
「わーってるよ。寝起きなんだからそう急かすな」
ヴァンパイア、ワーウルフ、サキュバス、ディラハン。部下である彼ら四天王に向かって魔王はやる気無さ気に本題を切り出した。
「あー、もう知っていると思うが、新たな天の書が届いた。ヴァンパイアがコピーを配るから目を通しておいてくれ」
するとすっと音もなく取り出した天の書のコピーをヴァンパイアがそれぞれに配っていく。前回のクエストの報酬で導入したコピー機はこの為だけに買ったと言ってもいい代物だ。
「わーい! 前回は美味しい所が全くなかったから、今回は楽しいお話だと良いなぁ」
「……結局倒されるのに楽しいもなにも無いだろ」
「私はイケメン勇者ともっと濃厚に絡みたいわぁ」
「卑猥に聞こえるように言うのはヤメロ」
「…………」
「お前、ホントたまにはしゃべれば?」
途端に雑談を始めた面々にうぉっほん、とヴァンパイアがわざとらしく咳払いをする。
「真面目にやってください、魔王様」
「だってよぉ。負けるのが分かってんのにモチベーション上がんねぇよ」
魔王とは勇者に倒されるべく生まれる存在。始まる前から負けると決まっているのだから、当然やる気など起こらない。仕事には忠実なヴァンパイアもそれには思う所があるらしく、珍しい事に魔王の意見に同意した。
「まぁ、お気持ちは分からないでもないですが……」
「あ、見て見てサキュバスー。これヤバくない?」
「あらあら、これってボーナスステージなのかしら? まぁ、ワーウルフ。今回こんなシーンまであるわよ」
「きゃー!! ウケるー!!」
「ある意味斬新よねぇ」
「おい! なんだ! どこのページだ!!?」
「……魔王様」
こうして魔王組の打ち合わせはいつもの通りちっとも進まずに時が流れる。