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集合【勇者side】

 

 のどかな町のある食堂に若者達は顔を揃えていた。まだ昼間なので流石に酒はないが、各々にお茶やらジュースやら己の好みの飲み物を手にしている。

 所謂お誕生日席に座った勇者はパラパラと興味なさそうに『天の書』を捲っていた。今は仏頂面だが、一目を惹く金髪に青の目、そして主人公らしく整った容姿。にこりと穏やかに微笑んで見せれば女性達がうっとりと頬を染めるだろう。だが残念ながら今日の所は、へそを曲げてしまった彼が笑みを見せる事はなさそうだ。

 そんな彼の斜め右でブラウンの髪に目、おまけに中肉中背という平々凡々な容姿をした賢者はのんきな笑顔を見せた。


「今度のヒロインは誰かなぁ」

「けっ。誰だろうと関係ねぇよ。攫われた姫だろうが幼馴染の村娘だろうが、どうせ物語が終われば別れるんだ」

「……お前って、結構切ねぇのな。主人公なのに」


 勇者の不貞腐れた台詞に、奥の席を陣取った大柄の戦士が同情的な視線を向ける。赤茶の髪に目、そして頬や腕などいかにも戦士らしく古傷が多く残った体。一見強面だが、実は人の良いお人よし。そんな彼の性格を熟知している勇者は遠慮なく悪態をつく。


「うるせぇよ。って、おい。黒魔術師。お前、前回恋人になった踊り子と子供が出来てる設定になってんぞ」


 登場人物紹介のページを眺めていた勇者が仲間の黒魔術師の項目で目を留める。そこには一児の父親になり、息子へ秘伝の魔術を託そうとしている事が書かれていた。それまで天の書には興味なさそうに背を丸めてチビチビと薬草茶を啜っていた色白の黒魔術師だったが、途端に被ったローブの奥で顔を輝かせる。


「うえっ! マジで!! やったぁ!!! これで解禁だ!! じゃ、俺帰るわ!!」

「(解禁って……)って、お前マジで帰んのかよ」

「当たり前だろ!! 待ってろ! エリー!!!!」


 後のことはどうでもいいのか、一目散に食堂を出て行く黒魔術師。体を動かすのは苦手だと散々言っていたくせに、昔から逃げ足だけは速いのだ。どうやら前回の戦い(クエスト)が終わってから恋人のエリーと暮らし始めたものの、次回シナリオに反する行動は難しい為色々と我慢を強いられていたらしい。

 賢者はそんな彼の後姿を微笑ましそうに見送った。


「ははっ。何か、幸せそうで良いねぇ」

「本当にな」


 残された仲間達でひとしきり黒魔術師への祝福と羨望と文句と悪口を言い合った後、再び天の書へ話題が移る。最初は各々の設定だとか服装だとか装備だとか。段々と話は弾み、アイテムや魔法、モンスターの種類などが前回と大して変わりない事を確認して、やっとシナリオへとページを進めた。すると、そこで戦士が眉根を寄せる。


「おい、勇者これ……」

「ん?」

「今回のヒロインって、もしかしてこれじゃねーの?」


 太い指が差した先にあったのは、若い女性が描かれた絵とシナリオの一部。それを見た勇者は「げっ!」と顔を歪めた。


「あ~ぁ。これはきっと裏で金が動いたね」

「ご愁傷様」


 ぽんっと賢者と戦士のそれぞれに肩を叩かれ、勇者は顔を青くして叫んだ。


「うそだろ~~~~~!!!」


 そのページでにっこりと微笑んでいたのは豊かな赤毛を豪奢に縦ロールにしたやや釣り上った猫目が印象的な少女。前々回のクエストで一目ぼれしたと言って散々勇者にまとわり付いていた公爵家のご令嬢(ストーカー)だった。

 

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