終幕【魔王side】
「え? 中止?」
本読みの途中で呼び出されたワーウルフはベッドで横になりながらヴァンパイアに腰をマッサージされている魔王の言葉に首を傾げた。
「あぁ、俺の腰の調子が悪くてな。次回作の製作はしばらく先送りだ」
「そうなんだ……。魔王ちゃんお大事に」
心配そうに耳を下げるワーウルフ。そもそもこの娘は悪役などに合わないほど真っ直ぐで嘘がつけない性格なのだ。そんな彼女を横目に、魔王はヴァンパイアを退かせると、もぞもぞとベッドシーツの中に潜り込んだ。
「あぁ。んじゃ、俺寝るから。いいかヴァンパイア。三ヵ月後にきっちり起こしに来い」
「御意に」
いつも通り冷たい声と優美な姿勢で腰を折るヴァンパイア。彼と共に部屋を出て行こうとしたワーウルフの背に魔王の声が掛かる。
「あ、そうだ。ワーウルフ」
「どうしたの?」
「お前、弟に族長譲れば?」
「え?」
突然の提案に頭が付いていかず、ワーウルフはピコピコと耳を揺らす。そんな彼女に向かって魔王はさもめんどくさそうに言った。
「あいつ今年で成人だろ? 人狼族の長は男の方が絵面もいいしな」
「ひっどーい!! ……でも、いいのかな?」
魔王の言い草はあんまりだが、弟が族長になってくれれば重荷が肩から降りる。そうすれば、もっと自分の行動は自由が利くようになるだろう。少しの期待をこめて問えば、魔王は大きく頷いた。
「あぁ。魔王の俺が良いって言ってんだから良いだろ。もし親父さんと揉めるようだったら俺が話をしてやるよ」
「うん! ありがとう。魔王ちゃん」
パァッと顔を輝かせてワーウルフは部屋を出て行く。耳はピンッと上を向き、尻尾は機嫌よさ気に揺れていた。
「ったく、分かり易い奴」
「ですがこれで、少しは前進するでしょう」
「そうじゃなきゃ困るっつーの。んじゃ、俺マジで寝るから。オヤスミ」
「お休みなさいませ」
深々と頭を下げ、ヴァンパイアは静かに退室する。その口元は珍しく緩い弧を描いていた。
恐らくそう遠くない未来に賢者は教師となって、友人の言葉通り可愛いお嫁さんを迎えるだろう。そしていつかその腕に可愛い耳と尻尾の生えた子供を腕に抱く事になるのかもしれない。それが五年後か十年後かは分からないけれど。
ここは夢と希望と冒険で出来た創造物の世界。そこで生きる者達が本気で願い求めるならば、なんだって叶う可能性がある世界なのだから。
因みに勇者が今回のクエストを強制終了させた理由の一つが、どうしてもヒロインが好みではないからだったりするのだが、それはごく一部の者しか知らない事実。次回のクエストのヒロインが勇者の望むものであるかどうかは神のみぞ知る、未来のお話。
こんなお馬鹿なお話に最後までお付き合いいただいた皆様、誠にありがとうございます。
実はこのお話、ずっと書きたいなぁと思って温めていました。せっかくの連休なので形にしてみた次第です。
設定も文章もかなり雑で、読みにくかったら申し訳ございません。
ちょっとしたおまけもご用意しておりますので、気になる方はまた覗いてみてください。
新年そうそうお目汚し、失礼致しました。
2013/1/6 橘




