終幕【勇者side】
「え? 中止?」
「あぁ、まだ俺の有給消化されてないしな。次回作は先送りだ」
宿屋に併設された食堂に集まった一行は、勇者の言葉にそれぞれ頷いた。一方賢者は拍子抜けしてしまったと言わんばかりに情けない顔で座り込んでいる。
「そうなんだ……」
恐らくこのクエストがなければワーウルフに会えないとでも思っているのだろう。草食系男子過ぎる幼馴染の思考回路などお見通しだ。勇者は気の抜けた賢者の顔を眺めた。
「賢者」
「ん?」
「おまえさぁ、そろそろ賢者卒業すれば?」
「え?」
ぽかんと間抜け面を晒す賢者。勇者はテーブルに頬杖を付いて手元のコーヒーをクルクル混ぜる。
「昔から学校の先生になりたいって言ってたじゃねぇか。冒険者なんて辞めて、そろそろ地に足つけた仕事してもいいんじゃねぇの? 王都の学校ならいくらでも仕事はあるだろ」
「……うん。そうしようかな」
目を丸くした後にそれも良いかもと思い直したのか、賢者の表情にいつものような緩い笑みが戻る。それを確認して、勇者もニカッと笑った。
「さっさと可愛い嫁さん貰えよ」
「な……っ!! ……うん。ありがとう」
勇者のからかいに顔を真っ赤にして、けれど最後には仲間であり友人であり幼馴染である彼に向かって満面の笑みで感謝の言葉を口にした。
未来に希望を持った彼の表情に、仲間達はそれぞれに笑みを見せて彼を見送る。
こうして勇者一行は解散した。彼らが再び集まるのは、新たな天の書がこの世界に持たらされた時である。




