幕間【魔王side】
自室でデュラハンの報告を受けていた魔王は珍しく難しい顔をしていた。それは共にいるヴァンパイアも同様だ。
魔王がデュラハンにねぎらいの言葉を掛けて退室させると、ヴァンパイアが苦い顔を向けた。
「魔王様。このままでは神に二人のことがバレるのは時間の問題では? ヘタをすれば彼らの記憶を消去されて今回の物語は作り直しですよ」
「……そうだな」
人目に付かないディラハンの部下(幽鬼)に調べさせていたのは此処の所様子がおかしかったワーウルフについてだ。始めは恋の相手を見てやろうという野次馬根性からだったが、幽鬼が突き止めた相手は人狼族でも魔族でもなかった。
所詮この世界はシナリオライターによって道筋が決められている。魔王達はそれに従って求められたキャラクターを演じるのみ。天の書に反した行動は認められないのだ。天の書通りにゲームが進まなければ、シナリオライターは不要な分子を消し、作り直すことだろう。だが、ワーウルフは長年付き合ってきた元族長の大切な娘。そして自分達の仲間だ。彼女の恋を無碍にするわけにはいかない。
「仕方が無いな。奥の手使うか」
「よろしいのですか?」
「まぁ、たまにはいいだろ。ヴァンパイア、俺の携帯取って」
「どうぞ」
魔王はごてごてとした髑髏の飾りの付いた携帯を操作し、耳に当てる。すると2コールで直ぐに相手が出た。
「あー、もしもし? 俺、魔王。俺ら今回の仕事をボイコットするから。だいたいなぁ! 休みが短すぎんだよ! こき使われるこっちのみにもなってみろ! だたでさえ最近携帯ゲームだオンラインゲームだと仕事量が増えてんだ! やってられるか!!」
八つ当たり半分に電話口で吠えると、受話器の向こうからマイペースな声が返ってくる。
『このシリーズ、復刻版が出てから人気が上がったらしいからなぁ』
「ともかく! 俺は休む! お前達は他から魔王をひっぱってこい!!」
『君達が相手じゃないなら俺達も辞めるよ』
「あ? ……やけにあっさりだな」
『元々、こっちはこっちで同じ事を考えてたんだ。それに、別の魔王を倒す為に苦労するなんて面白くない』
「あぁ? そりゃどういう意味だ?」
『だって俺、アンタを倒す時が一番楽しいし』
さらりと言われた一言で、魔王の米神に青筋が立つ。魔王は電話口に向かって思いっきり叫んだ。
「…………こんの、変態サド勇者ぁぁあああ!!!!」
ごく一部の関係者しか知らされていないが、勇者と魔王のホットラインはかなり昔から存在している。
魔王に不穏なフラグが立った様です。
実は人狼族の長交代など、魔王組の事情を勇者が知っていたのはこの方法で連絡を取っていたからだったりします。
魔王が女だったら良いのに、とドS勇者が密かに思っていることは誰にも明かされない秘密です。因みに、シナリオライターがその気になれば勇者の願いが叶ってしまう事も秘密です。




