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月下流麗

ここではないどこか、いまではないいつか


不気味な笑いを浮かべる満月の光に見下されて

水面に映る己を喰い殺そうとする狼のように、

二人の悪鬼と夜叉が、

疾走り、舞踏り、暴れ狂う・・・・・。


夜闇に閃光が走った、眼を貫くような雷光。

それが二人の人間が打ちあった、二振りの日本刀によるものだと理解する間に、

人ならぬ跳躍力で両者は飛び離れる。

その後に来るのは疾走、たゆたう湖の水面を足場にしながら条理を無視して疾駆し、

再度の激突。に、とどまらず夜風を切り裂かんばかりに刃を鳴らす。

刃が互いの体を切り刻み、湖面に緋色の雨が降る。


その時、打ち合った刃が互いを大きく跳ね飛ばし、二人は両者ともに背を向ける格好になる

足場を失って中に浮いた軸足を、だらりと風に遊ばせ・・・・

―――――――踏み抜く!

両者ともに狙いは同じ、両者ともに躰を限界まで地に這わせ、両者ともに必滅必殺の刃を秘め、

渾身の疾さを持って叩き付ける。


斬撃の衝撃によって二人の体重を支え続けていた水面が破砕する。

散弾銃の嵐に等しい水流が夜景の風情を粉砕し、容赦なく両者の体を撃ち貫く。

荒れ狂う風が凪を取り戻し、雨雲無き驟雨が降り止み、

湖面の月光に照らされて漠然としていた二人の姿が垣間見える。


一人は少年

髪は白

体躯は長身

青白い血色のない顔色で

目は死んでいる


その手に握るのは・・・・・ノコギリ・・・・・。


だが今はこの世で最も鋭利な牙だった



一人は少女

髪は黒

体躯は矮躯

底抜けの天真爛漫な風情で

その口は異形の笑みに引き裂けていた


その手が掴むのは・・・・・ヒトの腕・・・・・。


だが今はこの世で最も堅固な爪だった



静止した時間が爆発し、少年と少女は再度激突する

人間の限界を超えた膂力を強要された両腕の筋肉が次々と断線する

実行された運動量が供給される酸素量を突破し、眼下と気道から激しい出血が吹き出す

戦闘が幾度と無く二人の心臓を停止させ、戦闘が幾度と無く二人の心臓を蘇生させる


満身創痍のボロクズとなった二人は、今度こそ戦う力を失って湖にたたずんだ

少年は背を反らして天の月を見上げ、少女は肩を落として地の月を睨んだ

人間としての闘争本能が訴えた、もう戦えないと・・・・・。

人間としての生存本能が叫んだ、もう眠らせてくれと・・・・・。

ヒトではない何かが笑った・・・・・。


―――――――まだ許さないと。


少年が目を剥いて絶叫し、少女が躰を抱きしめて喝采する

少年の体からドス黒い霧が吹き出し、少女からは白銀の錆が溢れ出した

それらは二人の体を覆い尽くし、ヒトならぬ魔人へと変貌させてゆく


立ち上がった二人は、そこで初めてお互いの顔を正面から見つめ合った

すぐにその視線は互いの頭蓋を貫通し、その先へと駆け抜けた

お互いに興味など無く、お互いに特別な感情など無く、この戦いに運命性など欠片もなかった

ただ目の前の相手が破滅的なまでに邪魔だった

その邪魔者を見逃す気は絶無だった


眼光が宙に死線を描く。目指すは眼前。その敵手。

殺せとは言わない、もうそいつは死んでいる、お前がすでに殺した

あとはその結果に現実を追いつかせるだけ

もう少年でもないものと、もう少女でもないものが

眼前の相手を目に入れずに、人智を超えた速度で走り抜けた


いつかふたりが激突する地点

天の月と地の月の視線が交差する場所


人ではない者達が、ヒトにしかあげられぬ咆哮を轟かせた・・・・・。

































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