表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

深夜の出会い

作者: WAIai
掲載日:2026/08/19

「ーうおりゃあ」

力いっぱいキックを食らわせると、中間は唾を吐き捨てる。

口の中は血の味が広がっていた。

相手はもう動くことはないようで、中間は最後にもう一発蹴っておく。

「くそ。はあはあ」

時刻は夜。

何故か揉め事になり、見知らぬ相手と喧嘩になった。

ハンカチで口を押さえると、中間は相手に怒りをぶつける。

「今度からは、喧嘩相手を選べ」

そう告げると、ぐったりした相手を残し、道を進んで行く。

秋の夜は暗くなるのが早く、ひんやりとした風が吹いてくるので、熱い身体にはちょうど良かった。

星よりも輝いて見えるネオン。

中間は光に群がる虫みたいに、ふらふらと光に寄っていく。

ー家に帰るか、どうするか。

迷っていたのは、家に帰っても1人だからだった。

もちろん怪我の手当てをしないといけないのだが、何だが人恋しかった。

ーSEXしに行くのもな。体力を使うからな。

さてどうしようと、迷い猫のようにしていると、ある店から制服姿の女性が出て来た。

制服といっても、店の制服らしく、青色にオレンジのエプロンをしている。

年は20代くらいだろうか。

中間は年上に見られることが多いが、もしかしたら同い年くらいかもしれないと。見当をつけていると、女性と目が合う。

大きな瞳に、小さな唇。

店の光を受け、中間には女神に見えた。

少し大げさかもしれないが、彼女に惹かれていると、何と話しかけられる。

「ーあの!!」

「へ…? お、俺?」

急なことに動揺していると、女性は店の中を指さす。

「良かったら、おにぎりを食べていきませんか?」

「お、おにぎり…? 何で…?」

「うち、おにぎり屋なんですよ。あと、豚汁もあります」

「豚汁…。あ」

ぐうと腹の音が鳴り、中間は恥ずかしそうに腹を押さえる。

喧嘩という1運動を終えた後だから、身体がエネルギーを欲しているようだった。

どうしようと迷っていると、女性は大胆にも腕を引っ張ってくる。

「入ってください。その…怪我の手当てもしないといけないし」

「!! 放っておいてくれ!!」

強い拒絶をしたのだが、女性は手を放さず、言ってくる。

「温かいご飯を食べれば、落ち着きますよ。どうですか?」

「…。どうせ金を取るんだろう?」

お金を持っていないわけではないが、警戒してそう言うと、女性は何故か凛と答えてくる。

「お金はどうでもいいです。それよりも、うちのおにぎりを食べて、元気になりませんか? ちょうどお客さんもいませんし」

「…。本当にいいのかよ」

仏頂面で中間が言うと、女性は明るく微笑む。

「どうぞ、どうぞ」

中間は誘われるまま、店の暖簾をくぐると、確かに客はいなかった。

それも狭いスペースで、正面におにぎりの並ぶケースがある。

鮭に梅干し、昆布など、色んな種類があるようだった。

「ここに座ってください」

指示されて、中間は大人しく、やはり狭いイートインスペースに座り、きょろきょろとしていると、女性は奥に入り、姿を消す。

どうやら彼女が店主らしく、1人でやっているようだった。

ー女1人で店なんて、大変なのに。

中間は女性のことを考えるのだが、今まで付き合ってきたタイプにはいない存在だった。

女性はすぐに戻って来ると、救急箱を手にしている。

「少し、しみますよ」

救急箱を開き、手当てをしようとするので、中間は手を出してストップをかける。

「悪いけど、自分でやる。いいか?」

「え、自分で…? あの別にいいですけど」

「じゃあ、ちょっと借りるぞ」

救急箱を引き寄せると、必要な薬や綿棒などを取り出す。

女性はそれを見届けると、正面のケースに向かう。

「何、食べますか?」

「…本当にいいのかよ?」

傷の手当てをしながら言うと、女性はしっかりうなずいてくる。

「私、道端に人が倒れていたら、放っておけないタイプなので。面倒くさいかもしれませんが、付き合ってください」

「…変なの」

思わずぼそりと言うと、女性は照れたように言う。

「よく言われます」

「…そうか。じゃあ…」

中間は絆創膏を貼りつつ、おにぎりのケースを見つめる。手ごろな値段で、子どもでも買えそうだった。

「ツナと明太子。とりあえず、それで」

「は、はい…!! 豚汁もつけますね!!」

女性は嬉しそうにすると、忙しそうに動き出す。

俺なんかと関わると面倒くさいと思うのだけれどもと思いつつ、救急箱を閉め、簡単だが手当ては終わりだった。

ー変わった女。

中間の彼女でもないのに、甲斐甲斐しく世話しようなんて、今の時代にあっていない気がした。

しかし悪い気はしない。

誰もいない店内は静かで、虫の声が聞こえてきそうだった。

BGMはないが、中間はテーブルに肘をつけ、ぼうっとしていると、女性が盆を持ってくる。

「はい。ご注文の品です」

「…うわ、良い香り」

思わず呟くと、中間はしまったと後悔する。

あくまでもクールに接しようと思ったのに、地が出てしまった。

女性はくすくす笑うと、救急箱を手に取る。

「ゆっくり召し上がってください」

「…おう。悪いな」

一応、礼らしき言葉を口にすると、女性はまた奥に引っ込む。

中間はどうしようか迷ったが、出されたものを廃棄するのはもったいないので、豚汁に口をつける。

ずっという音の後に、中間はほうと息を吐く。

ー塩加減がちょうどいい。心から温まる。

女性の優しさを飲み込んだみたいで、殺気がみるみるうちに、ひいていく。

気づかなかったが、秋の涼しい風を浴びすぎたのか、暖かさを求めて、豚汁を口にしていく。

「あれ、もうそれしかないんですか?」

女性が戻って来て言う。

中間は恥ずかしそうに、腕を差し出す。

「おかわり。腹が減った」

子どもみたいに言うと、女性は緊張をとき、にこりと笑う。

ー明るい笑顔だな。真っ白の存在というか、俺の住む世界にいる人間とは違う。

そう考えて彼女の動きを眺めつつ、おにぎりを手に取る。

がぶりと容赦なく噛みつくと、中間はびっくりする。

米の甘さはもちろん、握り加減が絶妙で、海苔の良い香りがし、全てが美味しく感じられた。

ー捨てる神あれば、拾う神ありか。

中間は感心していると、豚汁のおかわりがやって来る。

「どうぞ。熱いので、気をつけて」

「おう。…その、ありがとうな」

改めてちゃんと礼を言うと、女性はチワワみたいに瞳を大きくしたが、すぐに破顔する。

「おにぎり、どうですか?」

「美味い。どこの米?」

「長野のコシヒカリです。お口に合いますか?」

「長野か…。珍しい。新潟とかじゃないのか?」

「はい!! 私、これでも色んなお米を食べてきたので、自信があります」

「そうだな。美味いもん」

中間は一口、またかぶりつくと、痛む頬は無視して食べていく。

彼女との静かな夜。

女性の優しく、柔らかな感じに十分にひたり、心地の良い居場所となる。

ーこんな相手、滅多にいないぞ。

中間は2個目のおにぎりを手にすると、ふと笑った。

何だか、喧嘩した自分が馬鹿みたいに思えた。

ー俺もまだまだガキだな。大人にならないと。

そう思い、女性を側に置きつつ、手と口を動かすのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ