婚約者が「聖騎士に選ばれた!やった〜!」と言った時には既に
名前を借りました
名前の由来が分かる方、今日もお仕事お疲れ様です!
この国には聖女がいる。
祈りの力で、病や怪我を治す。
その聖女を守る為に、聖騎士がいる。
騎士をしている私の婚約者エキスカが、聖騎士に選ばれるかもしれないらしい。
月に1度の婚約者との交流のお茶会で、エキスカが言った。
エキスカは、聖女を崇拝し、聖騎士になるのが子どもの頃からの夢だった。
騎士になり、魔物の討伐で怪我をした際、聖女に怪我を治してもらって以来、益々聖女に傾倒していった。
聖女エイヒは美人だ。周りの聖騎士も若くてイケメン揃いらしい。逆ハーレムだ。
エキスカも若くてイケメンなので、聖騎士の候補に上がったのだろうか?
私、ヘーベルは侯爵家の長女。
エキスカは、侯爵家の次男で、我が家に婿入りする予定だ。
聖騎士になったら、どうするのだろうか?
領地経営してくれるのだろうか?
聖女第一なのに?
その時、妹のプローブがやって来た。
「ご機嫌よう。エキスカ様」
「やぁ、プローブ嬢。今日も綺麗だね」
「そんなぁ…」
イケメンに言われて顔を赤くするプローブ。
許可してないのに、エキスカの隣に座る。
プローブは、人の物が欲しくなる病気なのだ。
私は、よくプローブに、持っていたドレスやアクセサリーを「良いなぁ…欲しいなぁ…」と言われて、譲っていた。
最初の頃は抵抗していたが、プローブはしつこくて、何度もねだり、しまいには泣き喚くので、両親は根負けして「早くプローブにあげなさい」と言った。
するとプローブは調子に乗り、毎回泣き喚くようになった。
結局プローブにあげる事になるなら、何も持たない方が良い。私の持ち物は最小限になった。
成長するにつれて、なのか、私の持ち物が少ないからなのか、最近は「欲しい」は少なくなっていた。
でも、根本は変わっていなかったのか、それとも、最近言わなかった反動なのか、エキスカが欲しくなったようだ。
エキスカが来る度に、腕に絡みついている。
プローブにも婚約者がいる。伯爵家の嫡男コントラだ。
コントラは地味な見た目だったから、イケメンのエキスカに目移りしたのだろう。
コントラの家は、伯爵家とはいえ古くからある名門だ。王家の信頼も篤い。
婿入り予定なのに聖騎士になりそうなエキスカと、名門伯爵家をいずれ継ぐコントラ、どちらが良いだろうか?
聖女命のエキスカと結婚しようものなら、妻より聖女を大事にしそうな気がする。
先程も、今度2人で行く予定だったお茶会には、聖女様に仕事で呼ばれたから行けなくなった、と言っていたし。
もし聖騎士になったら、聖女にベッタリになりそうだ。
まぁ、プローブがエキスカをもらってくれるなら、嬉しいかも知れない。
会う度に、聖女の話しかしない男と、一緒にいるのはウンザリしていた。
それなら、私はコントラと交流しようかな?
月に1度のお茶会を、合同でやるのも良いかも知れない。
きっとプローブは、エキスカにアピールするだろう。
それとも、新しい婿候補を探そうか?
プローブが跡継ぎになって、領地経営するのは無理だと思う。
この国では、長男か長女が跡継ぎになれるので、私は領地経営を勉強している。
プローブは、嫁に行くからいらないと言って、勉強していない。
伯爵家に嫁に行ったら、伯爵領の領地経営の手伝いをしてもいいはずだが?
ひとまず父には、エキスカが聖騎士になるかもしれないと伝えておいた。
聖騎士になったら、聖女第一で、仕事が大事だからと、こちらの事は顧みない気がするとも伝えた。
その後の事を考えるのは父だ。私はもう知らない。
月に1度の交流のお茶会を合同でした。
コントラとは、プローブと婚約した時に挨拶したきりだったから、知らないも同然だ。
プローブは、エキスカの隣に座り、ずっとエキスカと話している。
「プローブがすみません」
私はコントラに言った。
「いえ…まぁ、僕は地味ですから…」
「眼鏡を外したら、イケメンとか無いんですか?」
小説によくあるパターンだし。まさかのイケメン説もあり得る。
「え…?」
コントラは、驚いた顔をした。
「まぁ、好みは人それぞれですから」
私は笑って紅茶を飲んだ。
コントラは、黙って私を見ていたが、プローブを見た後、紅茶を飲んだ。
数日後、父から呼ばれて執務室へ行った。
「ヘーベルとエキスカ殿の婚約と、プローブとコントラ殿との婚約を解消し、ヘーベルとコントラ殿、プローブとエキスカ殿と改めて婚約をする事になった」
父が言った。
きっと、プローブがエキスカと婚約したいと言ったんだろう。
「かしこまりました」
私は頷いてから聞いた。
「この家を継ぐのはプローブですか?」
「そうなるな」
「では、私とコントラとの婚約を早く進めて、なるべく早く結婚できるようにしてください」
「何故だ?」
「エキスカとの結婚が延ばされています。何度も婚約者が変わるのが嫌なので、早く結婚したいんです。周りの友人は、既に結婚してるんですよ」
エキスカは、騎士になるから、騎士になったばかりだから、仕事が忙しいから、と、結婚を延ばし延ばしにしている。最初の結婚予定から、既に1年経っていた。
それを思い出した父は
「分かった。早く進めよう」
と言い、手続きをしてくれた。
コントラの両親も、婚約者が変更になった事により、また変更などされたらたまらないと、早く結婚させる事に納得し、来月には結婚式を挙げる事になった。
急いで結婚式の準備をする。
婚約者との交流のお茶会は、今回は別々にした。
「結婚を急がせてごめんなさいね」
挨拶の後、コントラに言う。
「いや、気持ちは分かるよ。ヘーベル嬢は、本当は去年結婚してるはずだったんだろ?」
「そうなの」
「プローブ嬢は、知ってるんだよね?」
「…どうかしら。何も考えてないから…」
話をしたはずだが、理解していない可能性もある。
プローブは、ただ私の婚約者が欲しいだけだから。
でも、言わない。
家を継ぐのはプローブで、エキスカが婿入りして、2人で領地経営しなければいけない事も言わない。
エキスカが、聖騎士になって聖女第一になるかも知れない…とも、プローブには言わない。
私は、現実を知って、私に領地経営を押し付けるかも知れないプローブから逃れる為に、早く結婚して、実家から離れようと思ったのだ。
プローブ可愛さに、プローブの望みを叶えた両親の事も、放置する事にした。
嫁入りしたら、めったな事では実家には帰れない。
だから、さっさと伯爵家に嫁入りしてしまえ、と急いだのだ。
コントラは、嫡男として領地経営の勉強を真面目にしている。
誠実な人で、こまめに手紙や贈り物をしてくれる。
何も贈らないエキスカとは大違いだ。
婚約時の顔合わせの時に、アクセサリーを貰って感激したら、不審がられた。
仕方ない。前の婚約者が悪い。
コントラは、同情してくれた。
何度か一緒に出掛けたりもした。
1ヶ月間だったが、充実した婚約者がいる生活を送れて、コントラには感謝した。
あまり派手ではない結婚式を挙げ、新婚生活が始まった。
結婚式の時、エキスカは「聖騎士に選ばれた!やった〜!」と言っていた。
今後、どうなるかが見ものである。
「姉様、エキスカと1度も会えないの」
一月後、プローブが伯爵家にやって来た。
案の定だ。エキスカは聖女第一だから、休日も、聖女と一緒にいるらしい。
「そうなの」
私は、ゆったり紅茶を飲みながら答えた。
「聖女様に呼ばれたからって、交流のお茶会にも来ないのよ!手紙も来ないし、贈り物も無いの!信じられないわ!」
「そうなの」
元からそうなのよ。
「父様からは、領地経営の勉強しろって言われて!嫌になっちゃうわ!」
むしろ、言われないと思っていたのかしら?
跡継ぎなのに?
「そうなの」
「姉様何とかしてよ!」
プローブが喚いたが
「ごめんなさいね。今から領地の話し合いがあるの。格好いい、顔の良い婚約者がいて、プローブが羨ましいわ」
私が、心にも無いことを言うと
「まぁ、格好いいし、顔の良いのは当然よね。私の婚約者だし。それじゃ姉様、ご機嫌よう」
プローブは満足そうに帰っていった。
「格好いい、顔の良い婚約者が羨ましいのかい?」
後ろから声がした。
夫が、不満そうに後ろから抱きしめてくる。
「あら、焼き餅?」
振り向き、夫の頭を撫でる。
「そうだよ」
「ふふっ…格好いい、顔の良い聖女様第一の婚約者より、妻第一の夫の方が良いに決まってるでしょ」
私がそう言うと
「本当に?」
「妻第一の夫かしら?素敵な旦那様」
「妻第一の夫だよ。可愛い奥さん」
妹の事も実家の事も忘れて、イチャイチャする。
「プローブが、今の貴方を見たら後悔するわね」
今のコントラは、眼鏡を掛けていない。
私が、眼鏡を外したらイケメン?と聞いてから、私の前でだけ、眼鏡を掛けないようにしている。
イケメンまではいかないが、悪くはない。好みは人それぞれだ。
「奥さんの好みの顔かな?」
「そうよ。私と結婚して良かったかしら?」
「良かったよ。とっても幸せだ。可愛い奥さんは?」
「私も幸せよ」
結局、エキスカは聖女第一で、婚約したまま、結婚は延期延期が続いた。
今から新しい婚約者を探すとなると、かなりの年齢差か後妻しかない。
いつ戻るか分からないエキスカを、プローブは仕方なく待っていた。
結婚適齢期をだいぶ過ぎて30代に入り、イケメンが崩れた頃に、聖女から捨てられて、エキスカは、プローブの下に戻り、2人は仕方なく結婚した。
エキスカは普通の騎士に戻り、生活は最低限になった。
聖女にだいぶ貢いでいて、聖騎士の給料は残っていなかったらしい。
聖女は、相変わらず若いイケメンを侍らせているらしい。若くないからエキスカは捨てられた。
父は、エキスカが聖騎士になってすぐに、領地経営の勉強をしないプローブを諦め、親戚から養子をとり、教育して跡を継がせた。
聖女第一の婚約者と婚約解消できて良かった。
欲しがりの妹が婚約者を奪ってくれて、本当に良かった。
婚約者が「聖騎士に選ばれた!やった〜!」と言った時には既に、婚約を解消していたから、私は幸せな結婚生活を送れたのだった。
読んでいただきありがとうございます




