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雪平試験管 後編

一次試験、開始。


会場に、硬い音が響く。


コイン投入。

ボタンの操作音。

アームがゆっくりと降りていく。



ルールは、シンプルだった。

左右に分かれた二つのエリア。


左右5名ずつ

計10名が同時に行う。


それぞれに、三つの箱。

裏表で色が異なる箱。


白、黒、白。


三つの箱を同色にできれば合格。

制限は、五手。

つまり、一人一手。

この五手で、


それぞれの三つを“同じ色”に揃えれば合格。

それだけ。


(……簡単だ)


誰もが、そう思った。

そして、

ほぼ全員が同じ結論に辿り着く。


真ん中の黒を、白に変えればいい。


最初の受験者が動く。

アームが、黒い箱を掴む。

持ち上がる。


が、滑る。

ひっくり返らない。


「……え?」


二人目。


角を狙う。

引っ掛ける。

変わらず。


三人目。


押す。

揺れる。

だが、返らない。


(重い……?)


(違う、バランスが……)


(裏重心……!?)


黒い箱は、明らかに“普通じゃない”。

極端に重心が裏に寄っている。


ひっくり返すには、

“完璧な当て方”が必要になる。


だが。

五手。


その中で、それをやるのは、

難しすぎた。


「くそっ……!」


焦りが、空気を変える。


一手の重みが、急に増す。


誰かがミスをすれば、

その時点でほぼ詰み。


だが。

だからこそ、全員が同じ行動を取る。

黒を白にする。


結果。


失敗。

脱落。

また、失敗。


その中で、一人。

苦し紛れに。


白、黒、白の並びを

黒、黒、白に変えた。


「おい、それ意味ないって!」


後ろから声が飛ぶ。


「まだ向こうも黒にしなきゃだぞ!」


誰もが分かっている。


“白に揃える”ことが正解だと。


だから、その行動は無駄に見えた。



結果。


左側チーム:黒、黒、白

右側チーム:黒、黒、白


不合格。



ざわめきが広がる。


「無理だろ、これ」


「五手であの黒ひっくり返せとか、運ゲーじゃねぇか」


「試験官、何考えてんだよ」


不満が、はっきりとした言葉になる。

雪平は、それを聞いていた。


反論はしない。

ただ、


“どう考えたか”を見ている。


(……みんな、同じ方向を見てる)


黒を白にする。

それ以外を、考えていない。


(それが悪いわけじゃない)


むしろ、自然だ。

盤面を見れば、そう思うように作っている。


(でも)


それだけでは、届かない。

次のグループ。


継世瞳(つぐせひとみ)

ゆっくりと、台の前に立つ。


視線は、盤面に固定されたまま。


白、黒、白。

白、黒、白。


(……さっきと同じ)


当然だ。

だが、違和感が残る。


(なんで、こんな配置なんだろう)


ただ難しくするだけなら、

もっと露骨にできるはずだ。


(雪平さんが、こんな意地悪なことする?)


思い出す。

さっきの言葉。


“試験に集中しなさい”


あれは、突き放す言葉じゃなかった。


(ちゃんと見ろってことだ)


盤面を、もう一度見る。



(白、黒、白……)


(白、黒、白……)


(ひっくり返して色を変える……)


(……オセロ?)


その瞬間、思考が繋がる。


(オセロなら)


挟んだ色は、変わる。


(でもこのゲームに、そんなルールは――)


一瞬、否定しかける。

だが。


(……本当に無い?)


ここで初めて、

“疑う”という選択が生まれる。


顔を上げる。

周りを見る。


左に五人。

右に五人。


(……五人?)


違う。


(十人)


この瞬間、視点が変わる。


「聞いて」


継世(つぐせ)が言う。

少し震えている。

だが、止まらない。


「白白白にするんじゃない」


周囲がざわつく。


「は?」


当然の反応。

でも、続ける。


「これ、5人の試験じゃない」


一拍。


「10人で一つの盤面」


全員の動きが止まる。



「黒を白にするのは、難しい」


「でも」


息を吸う。


「白を黒にするのは、できる」


沈黙。

理解が、ゆっくり広がる。


「……挟めばいいのか」


誰かが呟く。

右側のチームも、顔を上げる。


視線が交わる。

敵じゃない。


同じ盤面を使う、もう半分。


「やるぞ」


小さく、誰かが言った。

プレイ開始。


一手目。


白を、黒に変える。


二手目。


反対側は失敗。


三手目。


左右のタイミングが合う。



黒、黒、白。白。黒、黒。



中央を、“挟んだ”。


その瞬間。

雪平が、静かに口を開く。


「裏ルール、発動。」


景品が、ゆっくり回転する。

ギギ、と音を立てて。

白が、反転する。



黒、黒、黒。黒、黒、黒。



一瞬、誰も動けなかった。

理解が追いつくまで、わずかな時間がかかる。


そして。


「……っしゃあああ!!」


歓声が爆発する。


雪平は、その光景を見ていた。


(……見えた)


誰か一人の正解じゃない。

考えて、疑って、繋げた結果。



結果。


合格者、九十名。


その中には、

五人だけで黒を白に変えきったグループ。

全てを5手以内に黒に変えきったグループ。

裏ルールに触れずに合格したグループも

何組かあった。


それもまた、一つの“志”。


雪平は、全てを否定しない。



試験終了後。


継世(つぐせ)は、立ち止まる。

胸の奥が、まだ熱い。


(……声、かけたい)


でも、足が動かない。

その時。


継世(つぐせ)さん」


呼ばれる。

振り向く。


雪平が、そこにいた。


「いい洞察力と判断でした」


一拍。


「次も、頑張ってください」


それだけ言って、去る。


継世は、その場に残る。


(……名前)


名乗っていない。


それでも。


(覚えてくれてた)


胸の奥が、じんわりと満たされる。

さっきまでの不安も、


迷いも、

全部、意味があった。


そう思えた。

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