神代とバズ子の初デート③
静かな照明の下。
葉子がカウンターの奥から戻ってくる。
「じゃあ少しだけ、ショータイムにしましょうか」
トランプが宙を舞う。
一枚、また一枚と消え、
バズ子の手の中から現れる。
「えっ!?なんで!?」
統が目を丸くする。
次の瞬間、
シルクの中から白い鳩が羽ばたいた。
「うわっ!!」
二人同時に声を上げる。
続いてリングが貫通し、
グラスの中の氷が一瞬で色を変える。
どれも目の前数十センチで起きている。
現実なのに、魔法みたいだった。
「すげぇ……」
ショーが終わると、
統とバズ子は思わず立ち上がり拍手した。
「いやぁ、こんな目の前でマジック見たの初めてです!
ありがとうございます!」
葉子は優雅に微笑む。
「ふふ、どういたしまして」
バズ子が胸を張る。
「葉子さんは世界一のマジシャンだからね♡」
葉子は肩をすくめた。
「ありがとう。
じゃあ、二人でゆっくりしてって」
静かに席を外した。
⸻
少し落ち着いた空気。
バズ子が統を見つめる。
「ねぇ、統くんってなんでSNSやらないの?」
統は苦笑する。
「おれ機械操作苦手ですし……
なんかSNSは苦手なんですよね」
「そっかぁ」
一瞬、考える。
「じゃあ私もやめようかな♡」
「え?」
統が目を瞬かせる。
「羽澄さん、フォロワーとかすごいって聞いたことあるんですけど……」
バズ子はスマホを取り出し、
にこっと笑った。
「えい♡」
タップ。
「アカウント削除♡」
「えぇぇぇ!?!?」
「なんでですか!?」
統の声が裏返る。
バズ子はまっすぐ統を見る。
「統くんとさ、一緒になりたいの」
静かな声。
「お揃いの物でもいいし、
趣味でも、食べ物でも、
なんでもいい」
一拍。
「だから、もうアカウントなんていいの」
統は言葉を失う。
バズ子は少し照れたように笑った。
「統くんは、私にとって主人公だから」
⸻
その言葉で、
統の胸が揺れた。
かつて憧れたアニメの主人公。
明るく、
前向きで、
仲間を大切にして、
周りを笑顔にする存在。
(……自分は)
(そんな風になれたのかな)
気づくと、
涙が溢れていた。
⸻
統の視界。
白黒の世界。
涙が頬を伝い、
白と黒が、
ゆっくり溶ける。
絵の具のように混ざり、
崩れ、
ほどけていく。
そして――
世界に、
色が生まれた。
揺れる光。
暖かい木の色。
グラスの琥珀色。
最初に目に入ったのは、
隣にいる羽澄だった。
「あれ……」
震える声。
「色が……ある……」
涙を流したまま、
羽澄を見る。
「え?統くん大丈夫?
見えるの?」
驚きと心配が入り混じった声。
統は息を震わせる。
「羽澄さん……」
一瞬の沈黙。
そして。
「ずっと好きでした。
付き合ってください」
涙のままの告白。
バズ子の目が揺れる。
そして――
「よろしくお願いします」
つられるように涙がこぼれた。
統は、泣きながら笑う。
「初めて……
色のついた羽澄さんを見れました」
バズ子が涙を拭いながら笑う。
「感想は?」
統は少し首を傾げて、
微笑んだ。
「聞いてたより、地味ですね」
「ばか笑」
二人は笑い合う。
BAR『プリンセス』の灯りが、
静かに揺れていた。




