神代とバズ子の初デート①
入れ替え戦から数日。
会長が叶えた願い。
「羽澄京子のスケジュールを一日確保すること」
それが、今日だった。
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時計台の下。
待ち合わせの定番スポット。
神代統は約束の30分前に到着していた。
休日の広場は人で溢れ、
カップルたちの笑い声、
靴音、
遠くのストリートミュージシャンの演奏が混ざり合っている。
その中で統は、静かに目を閉じていた。
(まだ早いな)
周囲の女性たちの視線が、何度も彼に向けられる。
「ねぇ、あの人モデルかな?」
「俳優っぽくない?」
「待ち合わせかな…彼女いいなぁ」
だが統は気づかない。
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約束の20分前。
ざわめきの中に、
ひとつだけ違うリズムの足音が混じった。
統は顔を上げる。
人混みの向こう。
少し地味な色合いの服装。
落ち着いたコーディネート。
普段の“映える女王”とは違う姿。
羽澄京子が、微笑みながら立っていた。
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「統くん、はやいよ笑」
「羽澄さんだって、まだ20分前ですよ?」
「ふふ、そうだけど♡」
羽澄は軽く肩をすくめる。
「じゃあ今日は、どこに連れてってくれるのかな?」
統は少し照れたように笑った。
「おれの好きな場所、
一緒に見てもらいたいので」
「じゃあ、行きましょう」
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二人が向かった先。
そこは――
水族館。
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「わぁ……♡」
羽澄の目が輝く。
大きな水槽の中を泳ぐ魚たち。
光の揺らぎ。
静かな青の世界。
羽澄はガラスに顔を近づける。
統も隣に立ち、一緒に覗き込む。
水の揺らぎが光を歪ませ、
ゆっくりとした静けさが広がる。
色は分からなくても、
そこにある美しさは、はっきりと感じられた。
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「見て見て!あの子かわいい♡」
「本当だ…動き速いですね」
「統くん、子供みたいに見てるよ?」
「羽澄さんもですよ」
二人は顔を見合わせて笑った。
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昼のイルカショー。
統は張り切って最前列を確保していた。
「近いですね…」
「迫力あるよ!」
ショーが始まる。
五匹のイルカが跳ね、回転し、宙を舞う。
「うわぁすごい♡」
「こんなに高く飛べるんだね!」
羽澄は目を輝かせる。
統はその横顔を見て、嬉しそうに微笑んだ。
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そして、ショー最後の大技。
イルカの大ジャンプ。
次の瞬間。
巨大な水しぶきが前列を襲った。
「わぁーー!!」
「つめたっ!」
二人とも全身びしょ濡れ。
一瞬の沈黙。
そして。
目が合う。
濡れた前髪の向こうで、
羽澄は子供みたいに笑っていた。
統も吹き出す。
「ははははっ!」
「最前列、最高だね♡」
統は売店へ走り、バスタオルを買って戻ってきた。
「どうぞ」
「ありがとう♡」
二人はベンチに座りながら体を拭く。
「楽しかったね」
「はい。来てよかったです」
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羽澄は化粧直しのためトイレへ向かい、
数分後に戻ってきた。
「お待たせ」
統は軽く首を振る。
「この後、どうする?」
統は少し考えてから言った。
「羽澄さんが行きたいところ、行きたいです」
羽澄の目が少しだけ柔らかくなる。
「じゃあ――」
いたずらっぽく笑う。
「マジック、見に行こっか♡」
統も微笑んだ。
「はい」
二人は並んで歩き出す。
水族館の出口へ向かう光の中、
濡れた靴のまま、
笑いながら。




