第4章 子供たちのために未来があることを忘れるな!
うちの会社の電話を取るのはまず営業、次に総務、営業部長の順である。稀に社長が取るのことがあるが、面倒なのでやめて欲しい。
ちょっと離席したタイミングで電話があり、社長が取ってしまったようだ。
「もしもし?えっ?もし…あっ…ジャストモーメント!…下田!電話!外国から!」
取引があるので外国から電話がかかって来ることは珍しくないが、英語を話せる人は限られている。
戸惑いながらも電話を代わる。
「Hello?はい、失礼しました…いつもお世話になっております!タカガワです。営業の広瀬は只今外出しておりまして、よろしければご用件をお伺いしますが.…はい…あぁそれはご丁寧にありがとうございます。えぇお役に立てて何よりです。はい、いえいえ、こちらこそ御社にはいつもお世話になっております。ありがとうございます。広瀬には私が申し伝えます。ご丁寧にありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。はい、失礼いたします。」
「電話、あれ?日本語、話せる人?」
「笹本工業の六ヶ所営業所からでしたよ」
「なんだよ、青森かよ」
「納期で無理を言った部品が納品されたので、そのお礼でした。」
「そうなのか、フランス語かと思ったよ、というか笹本のところ青森に営業所なんかあんのか」
「知らなかったんですか?いろいろなところにありますよ」
「マジかよ、あいつすげぇな、笹本に電話しよ」
なぜいま笹本さんに電話するのか。
社長は嬉しいことや驚いたことなど、何か感情に動きがあると、すぐに笹本さんに報告する。
「もしもし!俺だよ、笹本、元気?お前のところ青森に営業所あんのな!知らなかったわ!えっ?そう!なんかお前のところが無理言ってきたのをうちがやってやったみたいね?うん、まぁね!大したことじゃねぇよ、お互い様だよ!で、この前の爪楊枝どうなったの?俺が出せって言ったら、やっぱり引き合いあったんでしょ?うん、やっぱりね、俺は持ってんだろうな、才覚?うん!もう受注したの?すげぇ、どこ?ディーオーディー?アメリカ?へぇー、すげー、うん、なんで?それじゃぁお前、口に入らねぇじゃん!恐竜か?恐竜用?はっ?危ねぇ!危ねぇじゃん!なんでそんなことすんの?うん、ユーチューバーだな、うん、それユーチューバー。アメリカのユーチューバー、スケールが違うな。しかし危ねぇよな。大丈夫なの?日本に落ちてこない?人がいないところだったらいいけど、人に当たったら大変だよ?うん、ディーオーディーな?わかった、ちょっと調べて、危ないからやめろって言うわ。笹本には申し訳ないけど、それは危なすぎる。小さな子供とかに当たったら大変だからさ。うん、あぁそう?じゃぁまた!」
一体なんの話なんだ。
「この前の展示会で笹本が出した爪楊枝、あれアメリカ人が買うらしいんだけど、サイズをデカくしろとか言って、いくら体が大きなアメリカ人でも口には入らないサイズで、おかしいと思って聞いたら宇宙から地球に落としてみるんだって」
「えっ?なんですかそれ?」
「ディーオーディーだよ」
「ディーオーディー?」
「ユーチューバー、多分アメリカでそう言う危ないことをしてるユーチューバー」
「いくらなんでもYouTuberで宇宙からモノを落とすのはないんじゃ…」
「いやアメリカならあるだろ、危ねぇからやめろってちょっと言って来るわ。そういう奴にはちゃんと言ってやらないとわかんねぇんだよな」
そうして社長は単身アメリカへ。
おそらくまた笹本さんに電話をしたのだろう。
現地では笹本工業のアメリカの代理店の方がアテンダントしてくれ、笹本工業の取引先などを一緒に回って1週間後に帰国した。
現地では笹本工業のMr.Sasamotoの大親友だということで、暖かく迎えられたそうだ。
ディーオーディーには会えなかったそうなのだが、現地の製造業の方達とものづくりに情熱を注ぐ者同士の交流があったようで「アメリカにも俺と同じスピリットの持ち主が大勢いることがよくわかったので、アメリカのことはアメリカの人たちは任せれば大丈夫だ」とやりきった顔で帰ってきた。
社長の行動はあまり関係ないと思うが、DODの『神の爪楊枝計画』は凍結された。




