第3章 宇宙は人類のフロンティアであることを忘れるな!
社長が今日も笹本さんと電話をしている。
「ユーミンっているんじゃん?松任谷由実!そう、この前さ、あれにそっくりなやつを見つけてさ!荒井由美っていうの!やべぇよ、どういうこと?うん、わからん。同じ人って言われても分からないレベル。あれは100パー同じだね、なんなんの?クローン?えっ?怖い!怖いって!えっ?あぁそう?はい、じゃっまた」
社長がよくわからないことを言い始めた。
「社長、すみません...」
「なに?」
「松任谷由実と荒井由美は同じ人です」
「えっ?なんで?」
「なんで?なんでって…旧姓が荒井で、結婚して松任谷になったんです」
「えっじゃ、ユーミンはどっちなの?」
「どちらもユーミンです」
「はっ?3人いんの?」
「いや1人です。」
「でも加勢大周と新加勢大周は2人だよ?」
「それは関係ないと思います。」
「そうなの?まぁいいや、それより笹本だよ!」
「笹本さんがどうしたんですか?」
「笹本のとこ、JAXAに製品を納めたとか言って、自慢してくんだよ」
「へぇ、すごいですね」
「うちもなぁJAXAの仕事してぇな」
「あの…失礼ですが、JAXAが何かはご存知の上で、仰ってますよね?」
「はっ?バカにすんなよ!知ってるよ!宇宙だろ!宇宙!ロケットとか人工衛星とか!」
「そうですよね、失礼しました。」
「俺は工学部出てるから!その辺りは詳しいんだよ!」
「なるほど」
「そうだよ?俺のことをバカだと思わないで欲しいな!」
「いえ、そんなことは.…」
「そんなことより、JAXAだよ、JAXA!かっこいいよなぁ ナスダから名前変えてよかったよな」
「茄子だ?」
「えっ?お前何?ナスダ知らないの?知らない?ナスダ?」
「はい、なんですか?」
「勉強不足だな、お前!まぁおれは工学部出ってから!その辺りは詳しいんだけどね、ナスダ知らない?」
「はい」
「うーん、お前みたいな素人にも分かりやすくするにはどうやって説明したらいいかなー俺さ、工学を学んでっから、つい専門的な言い方になっちゃうんだよな、えーとね…」
「JAXAの以前の名前ですね」
「えっ?なんでわかったの?」
「スマホで調べました」
「はっ?お前、人と話してる時にスマホいじんなよ!」
「すみません、長くなりそうだったもので」
「長くなりそうってなんだよ」
「JAXAの仕事を受けたいってお考えなんですね」
「そうだよ」
「技術力のアピールになって宣伝効果が期待できそうですね、利益を出すのは難しそうですが」
「JAXAの仕事は金じゃないって思ってる。日本の、いや人類の科学技術の発展に貢献したい、その一心でやってるから」
「まだなにもしてないですよね?」
「うるせぇな!それぐらいの思いでやりたいってことだよ」
「うちの製品で何かJAXAに買ってもらえそうなものはありますかね?」
「そりゃあんだろ!うちはいろいろやってるから!宇宙にも通用する製品が1つや2つあるに決まってるだろ」
「いきなりロケットや人工衛星の部品はハードルが高そうですから…例えば宇宙飛行士向けの生活用品辺りはどうでしょう?」
「生活用品?うーん、あまりかっこよくないな…ロケットのエンジンとか作れないかな?」
「無理ですよ」
「あっ!あれは?うちのレーザー加工機あんじゃん!あれを改良してレーザービーム!人工衛星につけてもらおう」
「レーザービームって…JAXAが誰にレーザービームを撃つんですか?」
「それは地球を侵略しに来る宇宙人とか…」
「というか、あのレーザー加工機はうちのっていうか、うちの所有物ですけど、うちの製品ではなくて、他所から購入したものなんで、勝手に改造したらメーカーに訴えられますよ」
「そうだよな、ドイツ人は融通が気がねぇからな」
「日本のメーカーのでもダメですよ」
「じゃぁうちでレーザーを開発したらいいんだろ?」
「自社開発したものなら」
「レーザービームだ!」
「ちょっと待ってください、もしうちがレーザービームの開発に成功してもJAXAが必要としてなかったら買ってくれませんよね?相手は役所なんですから予算の兼ね合いもあるでしょうし」
「そうなの?」
「例えばどうでしょう?JAXAが抱えている課題、それを解決する方法として、うちの製品や技術を提案するのは?」
「なんだかコンサルタントみたいでムカつくな、でもあれこれ考えるより、その方がいいな」
「まず笹本さんにどういうアプローチの仕方をしたのか聞いてみたらどうですか?」
「えっ?笹本に?あいついい奴だから教えてくれるだろうけどバカだからなー人類の発展に貢献するという俺たちの崇高なミッションを理解できるかな…まぁどうせあいつ暇だから電話してみるか」
社長は笹本さんのところへ電話をかける。
「あーもしもし?俺だけど、笹本?えっ?違うの?笹本います?笹本!社長の笹本!息子の方の!えっ!俺だって言えば分かるから.…」
私は受話器をひったくった
「失礼いたしました。いつもお世話になっております。タカガワの総務部の下田です。いつもお世話になっております。突然申し訳ありません。はい、あのーうちの社長の高川が、御社の笹本社長にご相談させていただきたいことがあり、お電話をさせていただきました。突然申し訳こざいません。失礼ですが、笹本社長はいまいらっしゃいますでしょうか...?はい、すみません、ありがとうございます…あっいつもお世話になっております。タカガワの下田です。はい、ご無沙汰しております。うちの社長の高川が笹本社長にご相談がありお電話いたしました。いま高川に代わります。」
社長は不満げな顔で受話器を受け取る。
「俺だよ!なんですぐ電話出ねぇんだよ!知らない人が出たからびっくりしたよ!えっ?事務の人?お前のとこ、お前とお前の親父さん以外に人がいたのか!知らなかったよ!でさ、JAXAなんだけど、どうやったら入れんの?うん、へぇ、そういうのがあんの?いいね、来月?うちも出るわ!どこで申し込むの?そう?じゃぁ紹介しといてよ!助かるわ!やっぱりお前いい奴だな。で、ちなみにお前のところJAXAに何入れてんの?えっ?あーうーん、ふーん、あぁそう、それで?うん、そうなの。ふーん。今度のそれには何出すの?えっ?レーザービーム?うわっお前バカだなぁレーザービームなんか作ってどうするの?地球に攻め込んで来る宇宙人なんていないよ?大丈夫?レーザービームなんかやめとけって!人工衛星に搭載すんの?うわっお前なに?宇宙で戦争を起こすつもり?やめろよ!そういうの!宇宙はそういうんじゃないって!国の枠を超えて人と人が手を取り共に切り開いていく人類のフロンティアなんだよ?戦争とかやめなよ!あれだよ、あれ出せよ!あのお前のところはあれ、チタンだかタングステンの爪楊枝、あれ宇宙飛行士が使うんじゃない?うん、あぁそう?はい、じゃあまた!ありがとう!」
「笹本さんのところレーザービーム作ってるんですか」
「そうだよ、笑っちゃうよな、やっぱあいつバカだわ。いい奴だけど」
「来月って何かあるですか?」
「そう!展示会だって。宇宙産業の展示会があるんだって!そこに出て、JAXAとかそういう宇宙関係のところと繋がりを持ってやるんだって」
「出すんですか?」
「出しますよ」
「来月ですよ?」
「だから?」
「何日ですか?」
「10日とかかな?」
「今日31日ですよ」
「えっ?」
それから展示会の運営会社の営業がやってきて、直前で時間がないので、相見積で比較する余地もなく、装飾やらなんなやすべて言われるがままでお願いすることになり、とても立派なブースが用意された。
肝心の展示品は無計画な夏休みの宿題の有り様で、その辺のものをかき集め、宇宙◯◯として並べた。その中で以前に間違えて作ってしまった『ねじ山が途中でDINとJISになってしまっているボルト』にブラジルの会社が興味を持ち、翌月に500本の注文が来た。
笹本さんのところが出したレーザービームはいま地球の軌道上で、スペースデブリの軌道を変え、国際宇宙ステーションを守っている。律儀な笹本さんはうちの社長から言われたタングステンの爪楊枝も出し、それはDODから注文を受けたそうだ。




