奪われ続けた女は死刑が執行されるまぎわ魔女になった
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【1.魔女】
「魔女だって?」
ホスキン男爵は警備兵隊長の報告に眉を顰めた。
親父から爵位を譲られて早々、面倒な話が舞い込んできた。
「そうなんです。ホスキン男爵様。夫を殺された妻ってのが訴えてきているのです。魔女裁判をして、犯人の女を魔女だと認定してくれと。どうしましょうか」
「魔女だなんて昔の話でしか聞かねぇからなぁ。まず本当に魔女なのかい?」
「絞首台の縄を燃やしたそうですよ」
「燃やした? いまいち状況がよく分からんな」
ホスキン男爵が困惑ぎみに言うと、警備隊長は短く頷いて端的に説明した。
「その女はアラキナという名の娼婦です。客の男を殺したとかで縛り首になる予定でした。しかし、刑の直前、そのアラキナって女が何か叫ぶと絞首台の縄が燃えたそうです。それで刑吏や聴衆たちが魔女だと騒ぎ出したようで。ひとまず死刑は延期にして、アラキナも牢に戻されました。それで男爵様のところにお伺いが来たわけです、魔女裁判をやるか普通に死刑を執行するか、ご判断を、と」
判断をと言われてホスキン男爵はもっと困った顔をした。
「うーん、いろいろ腑に落ちねぇんだよなあ。何でそのアラキナって女は絞首台の縄を燃やしたんだ? 殺人で絞首刑になるのも、魔女裁判かけられて極刑になるのも、死ぬことに変わりねぇだろ? 縄燃やしたからって別に逃げられるわけでもねぇのに」
「魔女の考えなんか普通の人に分かるものですか。何か魔女なりの考えがあるのでしょう」
「……。」
「どうしますか。魔女ということで取り調べますか? 別にそのまま殺人罪で死刑を執行しても構わないと思いますが」
「それはそうだな。だが、殺された夫の妻が魔女裁判してくれって訴えてるんだろ?」
ホスキン男爵が言うと、警備隊長はため息をついた。
「それは……つまらない世間体でしょう。アラキナという女は娼婦だったわけです。娼婦に夫が殺されたというのは、つまり何らかの男女トラブルがあったと考えるのが妥当で――夫の親族にとっちゃスキャンダルですからね。魔女のレッテルでも貼り付けて、夫は何らかの被害者ってことにしたいんでしょう。でも、いまどき魔女だなんて! 真面目に取り扱わなくてもよいかと思います」
「ふぅん――おまえは魔女裁判には反対なようだな」
「ええ、まあ。私は少し心配です。『魔女』なんてものに領主が関わるかどうかってことは慎重に考えるべきかと。昔の悪評がございますでしょう。魔女裁判で魔女判決が出ると、その女の財産は神殿のものになったり領主のものになったりしたわけです。その結果、財産目当てに魔女と言いがかりをつけられた女がたくさんいましたから。また昔のようなことが起こるんじゃないかと、領民は警戒するのではありませんか?」
ホスキン男爵にも警備隊長の心配はもっともだと思われた。
「確かにな。俺は領主になって日が浅いし、まだ民の信用を得ていないからな。とはいえ、縄が燃えたのを大勢が見て騒いだんなら放っておくわけにもいかねぇな。その魔女とやらの話は聞こうか。非公式にな」
「そういうことなら仕方ありませんね。畏まりました」
ホスキン男爵の命令には警備隊長も頷くしかなかった。
【2.身の上】
ホスキン男爵は、魔女の地下牢の前にやってくると、中に声をかけた。
「おまえが魔女アラキナか?」
「私は魔女なんですかね?」
思いの外丁寧な声が自分が魔女かと聞いてくるので、ホスキン男爵は驚いた。
「絞首台の縄を燃やしたんだろう?」
「ええ。燃えましたね。じゃあ私は本当に魔女になったんだ……」
「魔女になった?」
「私の国じゃ、愛する男を自らの手で殺したら魔女になるという言い伝えがあった気がします、それかな」
アラキナが半信半疑な調子で呟くので、ホスキン男爵はいったいどういうことかと思った。
「そんな話は聞いたことはねぇぞ。どこの国の話だ」
「……ザルハ」
「ああ、ザルハ……。そりゃあ……あんな貧しい国だったら、そんな噂も立つもんかな。んで、おまえは、ええと、仕事を求めてこの国に来たってわけかい?」
「……」
アラキナが答えなかったので、ホスキン男爵は少し言いにくそうに言葉を変えた。
「娼婦だったな。売られたか?」
「……」
「何も答えんか。まあ、身の上話す気がねぇならそれでもいい。おまえの身の上なんぞ興味ねぇからな。だが、魔女になったという話は少々気になる。今後もおまえのような者が出てくるかもしれんし、人を殺すと魔女になるってのは不穏だ。それは領主として話聞いとく必要がありそうだ。なあ。魔女になるってぇのはザルハじゃ普通のことかい?」
ホスキン男爵が聞くとアラキナは首を横に振った。
「……知らない」
「知らないって。魔女は見たことないのかい?」
「見たことない……。ザルハは貧しくて何もなかった。魔女になったとしてもどうしようもないくらいに。絶望しかなかった」
アラキナはポツンと答えた。
ホスキン男爵は、魔女に関わる情報がなくて頭を掻いた。
「まあ、ザルハは貧しい国だもんなぁ……。だが、貧しさに同情はできんな。ザルハはここより暖かく雨量も多い。真面目に耕作すれば作物は採れるだろう。飢えることはないと思うのだが」
同情はできんと言われてアラキナの目が少し鋭くなった。
「真面目に働くことが無意味なのです。土地は全て国王のものです。我々国の民は土地を借りて耕しています」
「それが何だ? そんな国はたくさんある。税が重いのか? だが、一生懸命働けば多少は蓄えくらいできるだろう」
すると、アラキナは感情的に滔々と話し出した。
「蓄え? とんでもない。汚職にまみれた役人は好き勝手やっています。春、私が一生懸命畑を耕し、ふかふかの土にたっぷり穀物の種を蒔くでしょう。夏になり、穀物が元気よく育つと、怠け者の隣人が役人に賄賂を渡し、隣人の畑を私の耕した畑と取り換えてしまうのです。新しく与えられた畑が状態が良かったためしがない。隣人はサボっていたのだから。腹立たしい――けれど、育ちの良い畑を奪われたと文句を言ったって仕方ありません。新しく割り振られた畑が悪くても、それでも少しでも穀物がとれるよう手入れをするしかありません。そこからまた、汗水たらして草を抜き、重い水桶を毎日運び……。しかし、秋になり、悪い畑でもそれなりの収穫がという段階になると、今度は別の隣人が、役人に賄賂を渡し、その人の畑と私の畑を取り換えてしまうのです。新しく私に与えられた畑は、土も悪く手入れもされておらず、穀物はやせっぽちです。たいした収穫にはなりません。なのに、私が頑張って手入れした畑は他人のものに……。それが毎年繰り返される。頑張ったって報われません。他人に奪われるだけ。無気力とあきらめ。ザルハには何もない――それは私のせいでしょうか?」
私のせいかと言われると、ホスキン男爵は言葉に詰まった。
「んー、他国のことはあまり言えんがな。まあ、問題ないとは言えねぇかな」
確かに、そんなふうに頑張っても他人に奪われてしまうようでは、民が働く気力がなくなると思った。働く気力がなくなる分、収穫量は著しく低下するだろう。ザルハの貧しさはそういうことか……。
「で、おまえは、売られたのか。貧しさのあまり……」
ホスキン男爵が多少気の毒になりながら聞くと、アラキナは頷いた。
「はい。人買いに買われて。私にはどういう経緯か分かりませんが、連れられるままこの国に来ました。娼婦として働けと言われましたが、来る途中、この国の畑がどこも金色に美しくさざめき立っているのを見たとき、込み上げてくるものがあって、泣けてきました。故郷ではこんな畑、とんと見なかった……。働いている人々はひどく忙しそうに玉の汗を噴き出していましたが、それでもあれだけみごとな畑、頑張った甲斐があっただろうと、彼らに拍手を送りたくなった。きっと作ったものを奪われないのでしょう。できることなら、こんな場所で一生懸命働きたかったが、でも私はもう娼婦として売られた身でした。どことなく悔しさを感じ、境遇を惜しみながら空を見上げたら、ばかばかしいほどあっけらかんとした真っ青な空で、白い雲がふわふわと漂っていました。何だこれ、と思いました。境遇なんてくだらないこと言ってられないと、私は希望を感じました。娼婦として頑張ろう。借金を返し、また自由を手に入れたら、今度こそ一面の豊かな畑を作るのだと! まだ人生捨てたもんじゃないはずだと、私は思いました」
アラキナの声は凛としていて、殺人を犯した魔女の声とは思えないほどだった。
なるほど、それほどに人が真面目に作る畑に感動したのだ。だが、アラキナは人を殺した魔女だ。ホスキン男爵は戸惑っていた。
「よい心がけだ。この国じゃ他人が畑を横取りしたりせん。だが、そんな『希望』を持ったおまえが、なぜ殺人なんかした? なぜ魔女なんかになった?」
アラキナはすぐに目を伏せた。
「男なんか愛するつもりはなかったのに……」
「ああ、そうだな、娼婦なんかとっととやめて自分の田畑を持つつもりだったら、男なんかにうつつを抜かしてる場合じゃないな」
とホスキン男爵が言うと、アラキナは少し黙った。
しかし、仕方のなかったことだったと諦めるようにため息をついた。
「ええ。そうですよね。でも、彼が現われてしまったのです」
「客か?」
「ええ。客です。顔ばっかりいいだけのやさ男。ただの客だと思っていたのに――年季が明けたら一緒になろうと言われて愛してしまった――」
アラキナの声は震えていた。
【3.不実な男】
アラキナは、愛した男のことを思い出していた。
本当に碌な男じゃなかった!
愛した男が別の娼館に入り浸っているのを見かけたという話を聞いたとき、
「ねえ、あなた、他に好きな人いるんでしょう?」
とアラキナはその男に聞いた。
「いないよ。俺が好きなのはおまえだけだ」
「嘘よ。あなたが別の店の娼婦のとこに通ってるって聞いた」
「聞いたって誰に? そんなの見間違えだって。俺はおまえの男なんだから、他の店なんか行くわけないだろ」
「本当?」
アラキナがまだ疑いの残る目で男を見ると、男はそれを吹き飛ばすように笑った。
「本当さ! ところで、金は用意してくれたか?」
「……。用意はしましたが、私だってお金ないから、無心されても困るのよ……」
「でも金がないと俺は暮らしていけないし。おまえにも会いに来れないのだよ。俺の絵が売れればいいんだがね。なかなか才能を見出してもらえなくてさ、ははは。おまえも俺には才能がないと思うかい?」
「そんな! 才能のことは分からないけど、あなたの絵は好きよ」
「なら、俺が絵を描き続けられるように、おまえも手助けしてくれよ。なに、ちょっと余分に借金が増えるだけさ」
「でも……。私が援助したお金であなたは別の娼館へ……」
男はギクッとしたが、すぐに取り繕った。
「そ、そんなことしない! おまえの援助には感謝しているよ」
「……。」
アラキナがまだ疑いのはれない顔をしていると、男はアラキナの手をやさしく取り、手の甲を撫でた。
「頼むよ、俺はおまえがいなきゃ生きていけないんだ」
「……。」
「本当だよ! おまえだけが頼りなんだ。一緒に暮らせる日を今か今かと楽しみに待っているのだから!」
「……。」
「よし、じゃあ、おまえの絵を描いてやるよ! ヌード画にしよう、おまえの商売が繁盛するようにグラマーに描いてやる! さあ脱げ!」
男がふざけた仕草でアラキナの服に手をかけるので、アラキナはついつい笑ってしまった。
「仕方ないわねえ」
「お金くれる? ありがとう! 愛しているよ!」
馬鹿だなあー、とアラキナは思った。
でも、なんだか憎めないのだ。いつの間にか大事な人になっていた。
彼と娼館のおかみさんくらいだ、私の本名を知っているのは、とアラキナは思った。アラキナは娼館での名だ。
彼はただの客だったのに、どことなく人懐っこくて、きゃっきゃと笑ってくれて、彼が来るのを楽しみに待つようになっていったのだ。
彼の腕の中で眠るのが一番安心する。
嫌な客がいっぱいいる中で、彼の顔を見るとほっとした。この世に味方なんて一人もいないと思っていたのに、彼がいると一人じゃないと思えるのだ。
彼がお金に困っているのは小さな問題じゃないけど、それでも彼に「お金がないから会いに行けない」と言われると「それは困る!」と思うのだ。
自分がお金を工面してでも会いに来てほしい。
アラキナはいいかげん孤独がつらかったことに気づいたのだった。
ふと、別の娼館の女の疑惑が浮かんだが、アラキナは急いで振り払った。
私だけだと言ってくれたではないか! 大丈夫。そう、きっと大丈夫に違いない!
例え嘘でも、自分が真実を知らなけりゃ、信じたものだけが真実だ。その間は彼は私のものじゃないか、私の心の中では。
私には彼が必要なのだ。その事実だけで一緒にいる理由になる。お金を工面してやる理由になる。私が生きるためには彼が必要――。だって、今彼がいなくなったら、真面目に娼婦として働く意味が薄れてしまう。借金を返して、奪われない田畑で一生懸命働くのだという希望は、彼の笑顔の前では力不足だった。だって、彼が「娼館なんか逃げよう」と言ってくれたら、一生表社会で生きられないと分かっていても、一緒に行ってしまうと思うから。
しかし、アラキナは、そう自分を分析してきたのにも関わらず、実は元となる前提がそもそも間違っていたことを知ってしまったのだった。
男はベッドの中で別の女の名を呼んだのだった。
「誰の名前?」
とアラキナが聞くと、男は酷く取り乱して、見るからに狼狽えたのだった。
その慌てっぷりがダメだった。本命が別にいると白状しているようなものだった。
【4.無関心な雲】
アラキナは、牢の外でこちらを見下ろすホスキン男爵に向かって、希望のない声で言った。
「男に裏切られても、まあそんなもんかと思ったんです。ああ、そっか、最初っからお金のためだったのか、騙されたなーって。不安材料だって目に見えてあったのに、目を瞑ってたのは私だなーって。そもそも私はとりえのない普通の娼婦でしかないんだし、わざわざ私を愛してくれる男なんているわけないじゃないか。世の中そーゆーもんだ、傷つきすぎる必要はないって」
「よく分かってるじゃねぇか。そんだけ分かっててなんで殺人なんかしたんだよ?」
「ええ、不思議ですよね。でも頭ん中じゃそう思いながら私の体は無意識に果物ナイフを引っ掴み、男を刺していました。めった刺しでした。不気味なほど冷静でした。頭の半分で、世の中そーゆーもんなのになんで私はこの男を刺しているんだろうって思いながら、その一方で、これでこの男は私だけのものになる、私の腕の中でこの男は死ぬんだって満足したり。よく分かんなかったですね。一瞬が永遠のような気がしました」
アラキナが口の端を歪めて笑ったので、ホスキン男爵は一瞬ぞっとした。
感情と行動をコントロールできない人間の狂気をまざまざと感じたからだ。
アラキナは続けた。
「気がついたら辺り一面血の海で。あれ? なんかやっちゃったかな?なんて思っていたら、娼館のおかみさんが飛んできて、そんで私は捕まりました。警備兵に取り調べられて、色々話も聞いて、びっくりしました。私の愛した男は既婚者で、いいとこの商家の娘婿で、自由に遊ぶお金がなかったから私を含めて数人の娼婦からお金を引っ張ってたって聞いたから。そんなクズ男だとは知らずに、私は彼の甘い言葉にただただ騙されて、心を許して、彼の腕枕で仮初の安眠をとってたってわけ」
「そいつは気の毒だ。でも、だからといって人殺しは容認されねぇよ」
「ええ、縛り首になるのは仕方ないなと思ってます。やってしまったことだし」
「そこまで腹くくってんなら、なんで絞首台の縄を燃やしたよ?」
「私、魔女になったつもりはなかったです。愛する男を自ら殺したら魔女になるって聞いたことはあったけど、そんなの覚えてなかったし」
「だが燃やした」
ホスキン男爵が言うとアラキナは首を竦めた。
「……私は裁判とも呼べないようなもので一瞬で殺人罪が確定して、男の妻だの親族だのに罵られました。48時間以内に縛り首だとか言われて、あーしかたないなーって思ってました。後ろ手に縛られ、絞首台の前に引き出され、これで終わりだと思ってふと空を見上げたら、空は真っ青。のどかな白い綿雲がふわふわ浮かんでました。私は、気持ちのよい春のある日、一生懸命畑を耕して、種を蒔こうとしてたときの空を思い出しました。それから、毎日汗水たらして草抜いて水を運んで、ああ、よく実ったねって思って見上げた空を思い出しました。やっぱり白いふわふわの雲が浮かんでました。その畑は役人に賄賂を渡した隣人の太ったおばさんにとられちゃったけど。ああ、白い雲だ。無責任な雲だ。私に無関心な雲だ。死刑になる今日も現れるのか。ただふわふわと漂って私を見降ろす。『人間って大変だねー』『雲は気楽でいいよ』って。……私、人間で悪かったわねって思いました。急にとてつもなく腹が立ちました。人間大変だよ! 何一つうまくいかない。私は真面目に働いていただけなのに! ただ身近で笑ってくれる男を愛しただけなのに! なぜ! 私ばっかりから奪わなくてもいいじゃないか! ――気づいたら、私の口から呪いの言葉が漏れていました。するといきなり縄がめらめらと燃えました。それで、私は魔女と呼ばれ、ここにいます」
「雲? いきなり抽象的だなぁ……」
ホスキン男爵が困惑気味にぽりぽりと頭を掻いた。
「八つ当たりしたい気持ちも分からんでもないがなァ……。んー、どうすっかな。今の話じゃ、魔女ってことにしなくてもいい気がするよな」
ホスキン男爵がそう言うので、アラキナは目を驚いたように目を上げた。
「魔女だろうが魔女じゃなかろうが、あまり今の私には関係ない気がするのですが。魔女ってことにしなくていいというのは?」
「ああ。魔女だろうとなかろうと、どうせ殺人で死刑だもんな。だから俺は面倒くせぇ魔女裁判なんかいらんだろと思ったんだが、殺された男の妻が訴えてるらしいんだ。魔女だと認定しろって。婿が娼婦騙して金を引っ張ってたなんてスキャンダルは商売に響くからな、魔女に誑かされたことにしたいんだろう」
それを聞いてアラキナの顔が曇った。
「なるほど。クズ男に泣かされた娼婦がいても、保身が大事ですか。ここでも私は同情されないんですね。まあ殺人犯だし当然ですけど。どうせ死刑なら私に全部押し付けて、その妻は自分の暮らしを守りたいってことですか……とことん世界は私に無関心なのですね」
「だなー。でも、おまえが魔女ってことになれば、その男がクズだったという事実まで消えてしまうってことだ。それはちょっとおまえに気の毒な気もする」
「気の毒に思ってくれるんですか」
「まあな。その男がどれくらい金をせびってたかは借金の帳簿からも分かるだろうし、他にも金を引っ張られてた娼婦の証言も出りゃ情状酌量の余地がある。減刑できるかもな」
アラキナは目を見張った。
「え? でも魔女は極刑では?」
「俺が魔女みたいな超常現象を信じなきゃいいんだろ?」
「……!」
「おまえは囚人として畑仕事に就けよ。金色の豊かな畑を作れ。もう世界はおまえに無関心だとは言わせん。おまえは人を殺した分恨まれているし、魔女と噂される分監視の目もきつくなる。ほら魔女だやっぱり殺せと、些細なことで揚げ足取られるぞ。白い雲は気楽そうだなんて言うようじゃ、次こそ俺が縛り首にする」
ホスキン男爵の言葉にアラキナは深く頭を垂れた。
「一生懸命働け。俺は、頑張って働く者が報われる領地にするから。そして一生反省しろ、そんな男だって殺されるのは理不尽だ」
ホスキン男爵は力強く言った。
アラキナは、こんな大罪を犯した後にやり直しを許されたことに感動し蹲った。
世界は無関心ではないと、声を押し殺して泣いた。
(終わり)
最後までお読みくださいまして、どうもありがとうございました。
こんな話を書いたら「作者、嫌なことでもあったんかな~」と思われるかも(笑)
ははは、リアルの方でちょっとムカっとしたことありまして(*´ω`*)
できるだけ遠回しにしましたけど、だめですね。勢いに任せたら暗い話になっちゃった、精進します!(汗)
本作に、かぐつち・マナぱ様(https://mypage.syosetu.com/2075012/)より素敵なイラストを賜っております!
畑の中でアラキナが幸せそう! 「頑張る人には救いがある」を感じさせてくださるイラスト!!
どうもありがとうございました!
こちらのお話、もし少しでも面白いと思ってくださいましたら、
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