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第四話 緑の匂いに誘われて

「パパ、ママ、エド!」


 リビィはそっとリビングを覗き見ながら、家族が揃っていることを確認した。


「なんだい、リビィ?」


 本を読んでいた父・ショーンがリビィの呼びかけに一番に答える。

何かを確信したような笑顔で、リビィは見遣った。


 いつものことながら父という人は何もかも見透かしたような瞳を向けてくる。


 ヴァーンのこともう分かってる?


 父ならありそうだった。


「あのね、紹介したい人がいるの」


 それでもリビィはきちんとそうすべきだと分かっていたから話を続けることにした。


「あのね、あっちから今、ヴァーンが来てくれたの。約束通りに私を迎えに来てくれたんだよ! みんなに前から話してたでしょ?」


「なるほど、お客人ということだね。入ってもらいなさい」


 父の了承を得たのでリビィはヴァーンをリビングへと案内する。

アンもそれに習って一緒に入っていく。


 異世界の人とこっちの世界の人の邂逅か。

わくわくする。


 そう思った。


 リビィはどうやら緊張をしているようだが、ヴァーンはそんな素振りはない。


「やあ、初めまして。僕がそのお転婆さんの父で、ショーン=ウォルスングだよ」


「お初にお目にかかります。ヴァーン・サイス=バウ=ム=ヴァルツェンと申します。森の国の王ヴォート七世の息子です」


 アンにして見せたように優雅で礼儀正しい挨拶をヴァーンは再び見せた。


「うん、リビィからよく聞いているよ、ヴァーン君」


「そうね、聞かない日はないくらい。うん、そう、はじめましてね、ヴァーン様。リビィの母・ミラベルよ」


 母の物言いに少し引っかかりを感じたが、その秘密をまだ教えてはくれない。

そのうちねと誤魔化され続けて今に至る。


 ヴァーンのこと、やっぱり知ってるのかな?


 父親は境界人と呼ばれる立場の人間であることはリビィも知っているが、それだけだ。

父母ともあまり細かいことは話してはくれないのだ。

だからと言って娘の話を聞いていないわけではない。

むしろ、真剣に聞いてくれている。


 だからこそ両親については分からないことが多かった。

二人のロマンスについてだって聞いてみたことはあるのだが、それもいつかねと言われてしまったままだ。


 ラウレント先生とも関係あるのは分かるんだけどな。


 彼に託された手紙は母は当たり前のように読んでいたし、父も否定しなかった。


 我が両親ながら謎だらけだわ。


 リビィがそんなことを考えていると、ヴァーンと家族の会話は進んでいた。


「どうぞ、ヴァーンと呼んでください。リビィの家族であるあなた方に遠慮はしてほしくないので」


「それではヴァーン、ようこそ、ウォルスング家に」


 ミラがそう言い、微笑んだ。

両親の挨拶が住んだら自分の番だと思ったのだろう、はにかんでいた弟のエドが一歩進んでくる。


 いつもなら人見知りなのにとリビィは驚いた。


「ヴァ、ヴァーンさん、よろしくです! 僕、エド、エドワード=ウォルスングだよ! エドって呼んでほしいな」


 わくわくと目を輝かせながらエドはヴァーンに挨拶をし、親しげに彼の側にやって来る。

どうやらいつも聞いている姉の話の登場人物がそこにいるというので興奮しているらしい。


「よろしく、エド」


「ね、あなたの住む森の国ってすっごく綺麗なんだってね。姉さんがよく話してくれるんだ。僕も行ってみたいって思ってるけど、行けるかな」


「うちの国を褒めてくれて有り難う。そうだね、そのうち、皆様をご招待出来たらいいと思ってるよ」


「それはとても素敵だね! 今から楽しみだなあ」


 本気で嬉しいのだろう、エドは満面の笑顔だ。

リビィの話を聞いてヴァーンという存在に憧れがあったようだ。


「想像以上にかっこいいからびっくりしちゃった!」


「それはまた有り難う、エド。光栄だね」


 エドはすっかりヴァーンに夢中のようで次から次へと質問を投げかけていたが、ヴァーンはそれに優しく答えてくれていた。


 だけどヴァーンってばすっかり大人の人だなあ。


 本当に格好よくなってたから、私だって驚いたけど。


 だけど、私のことも綺麗になったって言ってくれたし。


 再会した瞬間を思い出して、リビィは頬が赤くなるのを感じた。


「リビィ、顔にやけてるよ」


 アンに突っ込まれるものの、嬉しいものは嬉しいから仕方ないのだ。


「だってヴァーンが格好いいから」


「はいはい、相思相愛でよござんすね」


 アンは揶揄い交じりにそう囁き、リビィは相思相愛という言葉に反応して更に顔が赤くなる。


「揶揄わないでよ」


「事実でしょ」


 リビィがそんなふうにアンと話しているうちにヴァーンはリビィの家族と既に打ち解けて話しているのが分かった。


 すごく自然に話していて、そうね、アンが言うように言葉が通じるのは不思議なのかもしれない。


 たとえ、それが魔法の為せる技でも悪いことではないとリビィは思う。


「ところでだ、ヴァーンくんもいい機会だから外を見てみたらどうだろうね」


「外ですか? それは有り難い話ですが、生憎この世界の衣装は持っていなくて」


 リビィたちの着ているものを見れば、彼の衣装はこの世界にはそぐ合わないことは聞かずとも分かることだ。


「なに、服は僕のを貸そう。背丈からも問題はないと思うよ。リビィやアンと一緒にこの世界を少し覗いてみてから帰還しても遅くはないだろう?」


「それは願ってもないことです。是非、リビィのいる世界を覗いてみたいと思っていたので」


「では、用意しよう。もう一度お茶にするのは、彼らが帰ってからでいいね、ミラ」


「ええ、ショーン。そうしましょう。もしかしたら夕飯の方がいいかも知れないわね」


「なるほど、そうかも知れない。ミラに任せるよ」


 ショーンはそう言って立ち上がり、ヴァーンを自分の部屋まで案内していくために彼を連れて行った。


「パパの服で合うのかな? ヴァーン」


『大丈夫よ、パパの趣味はいいんだから」


「んー、そうだね、確かに」


 長身でそつなく何でも着こなすタイプの父が選ぶわけだから、おかしい服装になるわけもない。


 さほど時間も経たないうちに二人が戻ってくれば、この世界の衣装に着替えていた。

父の衣装だと言うが、リビィには見覚えがない気がした。


 半袖の青いリネンシャツに白のスキニージーンズというさっぱりした出で立ちだが、ヴァーンの持つ独特の雰囲気を壊すことはなく、彼がこの世界にいたのならこんなふうな出で立ちだろうというそのものだった。


 靴まで揃ってるなんて!

 ヴァーンのために?


 パパもママももしかしてヴァーンが来るの分かっていたのかな?


 ありそうだとリビィは思う。


「へえ、ヴァーン、似合うね」


 リビィが見惚れているとアンが先に感想を言ってきた。

それでそうだ、言葉にしなきゃと思い、ヴァーンに向かって素直な気持ちを伝える。


「ヴァーン、格好いい……! それにすごく自然に見える」


「有り難う、リビィ、アン。初めて着たけど、面白い服だね」


 着慣れないから少し戸惑うが、リビィが褒めてくれるなら悪くないとヴァーンは思う。

この姿なら外へ出られるとショーンにも教えてもらえたので安心感もあった。


「そうだ、私も着替えてこようかな」


 せっかくだしと思ったが、ヴァーンはそれを制した。


「いいよ、リビィはそのままで十分に可愛いから」


「そ、そう?」


「うん、とっても」


 普段着ではあるが、リビィとしても気に入ってる洋服ではあったのでヴァーンに言われてとても嬉しかった。


「惚気てくれるわねえ」


「いやいや、アンもお似合いだけどね」


「そりゃどうも。もののついででも嬉しいわ」


 アンも褒められるのは悪くないと思うのでそう返した。

多少の嫌味は勘弁してほしい。


「アンは趣味がいいのよ。いつも素敵なの」


 リビィがそうフォローするので、その話はそこで終わらせることにした。


「それじゃあ、ヴァーンも用意出来たから三人で行っておいで」


「僕は?」


「エドはまだ宿題終わってないねえ」


「パパは何でもお見通しだね。その通りだけど」


「ではそちらが優先だよ。ママもそう言うさ」


「そうね、エドはまず宿題を片付けましょうか」


 そんなに手間のかかるものではないが、父母は後回しにするという行為を好まないのをよく知っているエドは三人に行ってらっしゃいと手を振る以外は出来なかった。


「また今度ね」


 それでもちゃっかりとそう付け加えるのも忘れない。


「ああ、またの機会に是非」


 ヴァーンはそう言ってエドの頭を撫でてやり、エドも大変満足した顔をした。


「行ってらっしゃい」


 ミラがそう言うとそれを合図にして、リビィたちは外へと向かうのだった。



‡     ‡      ‡


 玄関を出れば前庭が広がり、ヴァーンに心地よさを与えた。


「ずいぶん、リビィの家は緑が多いね。とても心地好い」


「ママが好きなのよ。それに植物たちもママが好きみたいでいつも生き生きしてるわね。まるで話をしているみたいなの」


「そうか、なるほど。君のお母様ならそうかもしれないね」


「? ヴァーン、ママについて何か知ってるの?」


「うーん、俺から言うのは多分よくないから。さて、案内しておくれ、リビィ」


「うん、喜んで」


 ヴァーンが言うのならそうなのだろうとリビィは納得する。

確かに父母の許可もなく話すことはタブーのような気がした。


「直ぐ納得するあたり、リビィは素直よねえ。私なら無理だわ」


 知りたくてたまらないのだろうが、当人同士が納得していることに首を突っ込むほど愚かでもないのでそれだけを伝えた。


「近くにね、エッジウッド・ヒースっていう素敵な公園があるの。だからそこに連れて行きたいな」


「公園?」


「うーん、森の国で例えると何だろう? ちょっと違うんだけど、幽光の森の小さい版かな?」


「へえ、面白そうだね」


「もっと簡単に言うならリビィの家の庭の大きい版よ」


「なるほど、それは想像しやすいな」


「そうね、両方合わさった感じかもしれないわ」


 アンのたとえの方がわかりやすいと思いつつ、リビィは賛同した。

物事を説明するのって案外難しい。


 街中を歩きながらあれやこれやを説明するが、リビィは森の国に合わせて、アンはこの世界に合わせて案内していく。

ヴァーンにしてみれば二つの情報があるわけだが、それらのお陰でとても分かりやすかった。


 リビィだけの、アンだけの説明だけでは分かりづらいところをお互いが補ってくれるのだ。


 仲がいいね。


 そう思い、目を細めて彼女たちを優しく見つめた。


「それにしても本当にまるで違うなあ」


 少し見回しても建物からして、まるで違うのだから然も有りなん。

自動で動く車やヴァーンから見て変わった服を纏う人たち。


 そのどれもが彼には新鮮だった。


「うん、あちらとこちらは違うけど、でも何処か似てるところもあるのかも」


「へえ、違うけど似てるって興味深い! ますます行くのが楽しみ!」


 アンの言葉にリビィは思わず彼女の顔を覗き込む。


「楽しみにしてくれるのはいいんだけど、アンは恐いとか思わないの? こことは全然違う世界だよ?」


「あら、リビィは恐かったの?」


「そうねえ、流石に空から落ちた時は恐かったけど、ヴァーンが助けてくれたからあんまりかな」


「いきなり女の子が降ってきた時は驚いたけどね」


「でもちゃんと抱き止めてくれたよね」


「そりゃあね」


「あら、ご馳走様」


 突然、空から少女が振ってきて、それをしっかりと少年が助ける――うーん、想像するだけで実にロマンチックねとアンは思った。


 リビィとヴァーンだから絵になるのかもしれないけど。


 自分だったらどうだろうと考えるが、リビィのようには振る舞えそうにない。


「アン、どうしたの?」


「ううん、自分ならどうしたんだろうってね」


 リビィは少し考えてからアンに答えた。


「アンは私みたいにドジをしないと思うわよ」


「ドジ?」


「無鉄砲なことしないでしょ? アンはどんな時もきっと冷静だもの。私には無理なことよ」


「どうかしらね? 私だって慌てることくらいあるしなあ」


 そんな会話を横で聞きながらヴァーンはさり気なく会話に入る。


「リビィもアンも楽しそうでいいね」


「ヴァーンも楽しい?」


「うん、こうしてリビィと歩けるし、二人の会話の中にも入れる」


「うふふ、そう? もう直ぐ公園だよ」


「そうだね、いい匂いがしてくる」


 森の国育ちのヴァーンは当然ながら鼻がいいので草木の香りをかなり遠くからでも感じられるらしい。


「うん、すっごくいい匂いするでしょ」


 リビィも小さいころから母と一緒にガーデニングをしたりしていたのでその辺は敏感に感じられた。


「リビィも分かるの?」


「え、アンは分からない?」


 不思議そうな表情をするリビィとヴァーンにアンは笑い出す。


「まったく、二人ともそんなところがよく似てるわね。残念ながらアンさんにはそこまで感じられないのよねえ」


 緑多き公園に入れば当然、その匂いは感じるだろうが、現時点だと分からないのが正解だ。


「そういうものなのか?」


「そうなのかな?」


「まあ、感覚は人それぞれってことよ。それにさ、私が森の国に行ったら変わるかもしれないし」


「そうかも!」


 リビィはその時のことを考えるだけで楽しくなる。

ヴァーンと再会出来たし、アンとも異世界について話せることが嬉しい。

小躍りしたくなる気分はきっとこうに違いないと思う。


「ほら、公園の入り口……」


 そうリビィがご機嫌で言った瞬間、足が止まった。


「トム……」


「リビィじゃないか! こんなところで会うとわね。あ? 何だ、そいつは見たことないぞ」


 初対面の相手にする態度ではとてもではないが、ない。

リビィの連れだからというのがありあり分かる。


「彼は?」


「……私の幼馴染み」


「ああ、例の……」


 ヴァーンの顔がすっと真顔になる。


「こんなところで男連れなんてお前の倫理はどうなってるんだ? 浮ついたヤツがこんなところに来るなんてね」


「あんたがいる方が変でしょうよ」


 アンが悪態をつく。

そういえばここに古い教会があったっけ。

それに来ていたのかと思うが、なんて嫌なタイミングだろうと思った。


「神聖な場所なんだぞ、ここは。神の御前でそんな振る舞いを恥ずかしくはないのか?」


 トムにしてみればただの公園ではない。

彼の崇拝する神が描かれている教会があるのだ。

確かに古びてはいるが、それを理由に放置していいわけでもない。


 観光に来るような連中は本当に腹が立つし、リビィやアンのような不届きものも許せない。

それも男連れだと?


 彼の中で一番の衝撃はそこだったのだが、それを認めることは出来なかった。

彼の信心がそれを阻むのだ。


 一方のヴァーンはリビィやアンの様子で理解をした。


 これがリビィを傷付けたヤツか。


 それは彼にとっては許し難いこと。


 神を賛美すること自体は否定しない。

ヴァーンとて信じる神はあるし、そして彼らは確かに存在するからだ。


 まだこの世界の神について知ることは少ないが、少なくとも人を傷付けることをよしとするようなものではないはずだ。


 だから目前の男のすることは間違いだと断言できた。


「リビィに無礼を働くな」


「ヴァーン……!」


「何だ、お前は? そもそも誰なんだ?!」


 トム自身が一度も見たこともない男、しかもあろうことか、当たり前のようにリビィと一緒にいるのだ。

彼が認めない己の恋心がざわつかないはずもない。


「俺か? 俺はリビィの、いや、エリザベスの婚約者だが?」


 あえてヴァーンは彼女の愛称ではなく、そう呼んだ。


「こ、婚約者だぁ? そんな話、聞いたことが……!」


 素っ頓狂な声をトムは出し、明らかに狼狽えていた。

それはそうだろう、いきなり現れた男が自分の幼馴染みの少女の婚約者だと言ってのけたのだ。

驚くなという方が無理がある。


「な、名乗れよ、何処の学校のヤツだ?」


「貴様に言う必要があるのかな?」


 名乗る必要性を感じないのか、ヴァーンはトムに己の名前を伝えない。


 婚約者……って婚約者――っ!!

 リビィは自分の顔が途轍もなく赤くなっていくのを感じたが、同時にとても嬉しかった。


「そ、そうよ、小さいころに約束したの。ヴァーンと」


 だから必死に肯定した。

それに一切の嘘はない。

別れる時に二人で約束したのだから。


 リビィの答えに安堵のため息を一息はいてから、ヴァーンは彼女の肩を抱き、自分の方に抱き寄せた。


「今後、俺の婚約者であるエリザベスを馬鹿にすることも、揶揄うことも認めない」


「お前にそんな権利が――っ」


「認めない」


 断固とした、凜々しい態度だった。

それは彼が王族であることもあるだろうが、何よりもリビィを想うからこそのものだ。


「おお、さすが王子様」


 思わずアンがそう呟くのをリビィは聞き逃さなかった。


「さあ、行こう、相手にする必要はないよ」


 ヴァーンはリビィの肩を抱いたまま、その場を去ろうとする。

アンも当然、それに従い、トムを一瞥するが、彼は何も言わなかった。


 否、言えなかったのだろう。

彼の胸中は知る由も無いが、それでもそれを鑑みる必要はリビィたちにはない。


 そのまま公園の中央までやって来ると三人は立ち止まった。

大きな噴水があり、それは森の国にあるものにデザインが偶然ではあるが、似ている。


「ああ、森の国に似てるね。噴水があるんだ」


 ヴァーンは感慨深そうにそう言うと、確かに似てるなとリビィも思ったが、今はそんなことを聞きたいのではない。


「あ、あの、ヴァーン、婚約……者って」


「俺は最初からそのつもりなんだけどな」


「嬉しいんだけど、その求婚されてるって思ってなかったというか、思ってたというか」


 再会した時に髪に口付けてくれたのはその証だと理解はしているが、言葉にしてもらったのはさっきが初めてである。


「んー、リビィを困らせるつもりはないんだけど、あいつにはそのくらい言った方が効くだろう?」


 少し悪戯めいて微笑う彼にリビィはそれについては同意しかなかった。


「うん、そう思う。有り難う、ヴァーン」


 だけど、今言いたいのはそれではない。

彼がきちんと形にしてくれたのだから自分も答えるべきだ。


「でも一番嬉しいのはね、ヴァーンが私を婚約者って言ってくれたことかな」


 リビィは頬を染めながら、でもはっきりと気持ちを伝える。


「そうねえ、婚約者はいいと思うわ。モノホンの王子様に勝てるわけもないしね」


「お褒めを有り難う、アン」


「これでリビィの悩みは一つ消えたってね」


「そうね、そう。私にはヴァーンがいるものね」


 それはどんなことよりも大事なことだ。

家族にも紹介出来たし、アンにも理解してもらえている。

何よりもヴァーンが彼女を愛してくれて、リビィも彼を愛していると実感出来た。


「ねえ、言葉でちゃんといって欲しいなって言ったらわがまま?」


 アンがその場にいることは分かっていたのだが、どうにも言わずにはいられない。

どうしてもヴァーンからの言葉が欲しかった。


「そうだね、ここに証人になってくれる友人もいることだし、改めてお願いしてもいいかな?」


 そう言い、彼は彼女に跪く。


「お願い?」


 胸をときめかせながらリビィは尋ねた。


「エリザベス=ウォルスング嬢、どうかこのヴァーン・サイス=バウ=ム=ヴァルツェンと婚姻をしていただけませんでしょうか」


 ヴァーンとしてはこんな時は花の一つでも差し出すべきだろうが、今は自らの手を差し出すことが精一杯だ。


 それでも彼の愛する少女はこれ以上ないくらいの笑顔を向け、大きく頷いた。


「……喜んで!」


 ずっと待っていてよかった!


 これまでの不安や迷いがすべて溶けていくようだった。


 その瞬間、まるで祝福するかのように噴水が大きく吹き出し、木々がざわめき、鳥たちが鮮やかに空を染めてゆく。


「――祝福ね」


 アンはそう言い、二人に向かって心からの拍手を送る。


 そうしてリビィはヴァーンの手に自分のを重ねて、そっと握り締め合うのだった。

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