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ラゼル一行 ダンジョン探索一日目終了

 ラゼル一行とのダンジョン探索は、無事に一日目を終えた。ノルドは彼らと共に冒険者ギルドへ戻り、副ギルド長の部屋へ直行した。


「ドラガンさん、ただいま戻りました」

「おお、ノルドか。入ってくれ。ラゼル王子様たちも、お疲れ様でした」

「いや、疲れてはいない。それに、噂ほど強い魔物もいなかったな」


 ラゼルは立ったまま腕を組み、余裕を漂わせていた。

 そこへ、受付嬢のミミが慌ただしくお茶を運んでくる。ラゼルは彼女に目をやり、にやりと笑った。

「可愛いギルド職員さんだね」


 その瞬間、ドラガンが前に出てミミの前に立ちはだかる。

「すみません、彼女は仕事中でして」

 そう言ってミミを外に誘導し、ヴァルも静かに後に続いた。去り際にラゼルを一瞥し、小さく鼻を鳴らす。


 ラゼルの同行者である女性陣は対照的に疲れ切った様子でお茶を口にしていた。新たなダンジョン探索で精神を削られたのだろう。特にカリスの疲労は明らかだった。


 あれほど魔力を使えば当然だ。ノルドも同情の眼差しを向けた。採掘作業の多くが、彼女の魔法頼りだったのだから。


「マジックポーションをどうぞ」

 ノルドは自家製の中級ポーションをそっと差し出した。

「でも……お金が。それに、私も作ってあるし」

 カリスは自分の薬を袋から取り出そうとしたが、魔力切れで手が震えて上手く取り出せない。

「ギルド持ちです。薬師の私のポーションの方が効きますよ」


 ノルドは囁くように言い、震えている手に握らせた。カリスは一瞬迷ったが、静かにノルドのポーションに口をつけた。


「ありがとう。さすがね……すぐ効いてきたわ」

 青白かった顔色が少しずつ戻っていく。

「いえいえ、ご利用ありがとうございました。次もぜひどうぞ」

 ノルドは柔らかく微笑んだ。


 魔力の回復はできても、精神の疲労までは癒せない。それでも、文句も弱音も吐かないカリスの姿に、ノルドは感心せざるを得なかった。


「今日回収した魔石を出します」

 ノルドは収納魔法で魔石を取り出し、机の上に整然と並べた。

「これで全部だな。お前の収納にあるものをすべて出せ」

 ラゼルが鋭い声で命じた。


「申し訳ありませんが、他のお客様の大切な預かり物もございますので」

「そんなはずはないだろ!」

「本当です、ラゼル様。聖王国のグラシアス商会などの物もあります」

 カリスが疲れた声で口を挟んだ。


「聖王国……それは本当ですか?」

 今まで無言だったフィオナが驚いたように声を上げた。

「ははは、ノルド君の後見人の一人だと島主様から聞いてますよ」

 ドラガンが余計な一言を添える。


「ラゼル様、私が数を数えております。換金でよろしいのですね?」

「ああ、それなら任せる。金は後で持ってこい。明日は休みだったな?」

「はい、休養日です」


「わーい、休みだぁ!」

 犬女族のサラが跳ねて、尻尾を振った。

「じゃあ俺は港町に行く。フィオナ、いつものところだぞ」


 そう言い残し、ラゼルは部屋を後にした。彼が姿を消すと、空気がほんの少し緩んだように感じられた――誰もそれを口にしなかったが。

「それじゃ、疲れたから宿に戻るわ。処理は任せたわね」

 カリスが重い腰を上げた。


「じゃあ私も帰る~。お腹減った!」

 サラも元気に立ち上がる。

「買取金額とか、確認しなくていいの?」フィオナが尋ねた。

「貴女だけなら心配だけど、ノルドがいるなら大丈夫。それじゃ、ポーションありがとう、ノル」


 扉の向こうに、重たい足音と軽やかな足音が消えていく。

「それでは、数えましょう」

 ノルドは魔石を種類ごとに丁寧に並べていった。

 フィオナは黙ってその様子を眺めていたが、ふと身を寄せてくる。その体温と、ふわりと香る匂いが気になった。


「フィオナさん、合ってますか?」

「さあ。全部出したなら、合ってるんじゃない? で、いくらになるの?」


 彼女はラゼルに嘘をついた――ノルドは迷いながらも正直に答える。

「販売方法によります。このままギルドの商人に売る方法と、私の知人の商人に売る方法です。後者のほうが高くなりますが、即金は難しいかと」


 その知人とは、グラシアス商会のことだ。他の冒険者にもしていることで、隠したくはない。

「実はあまり持ち合わせがなくて……モディナ村で使った支払いは、島主様かラゼル王子と聞いてるんだけど……」

「いえ、そんな訳が。本日の収入から頂きたいのです」


 実際、ギルドは数百ゴールドの立て替えをしていた。

「島主様に請求してくださいね。じゃあ、安心したわ。ノルド、即金でもらえる?」強引に話を進めるフィオナ。纏う雰囲気とは正反対でノルドは驚いた。


 ドラガンは渋い顔をしたがそれ以上何も言わなかった。

「では、下の商人カウンターへ行きましょう」

「あら、ノルドが知人の商人に売ってくれたら即金で私が受け取れるじゃない。薬師さんなんだから、お金いっぱい持ってるんでしょ?」


「すみません、小銭しか持ってないんです。お金の管理は他の人がしてまして……」

「ノルドは嘘ついてないよ。ニコラ孤児院が管理してるから!」

 ドラガンが口を挟んだ。


「あら……ごめんなさい。ノルドって、修道院の奉仕者だったのね。偉いわ」

 フィオナは勘違いしていたが、ノルドはあえて訂正しなかった。

 ドラガン立ち会いのもと、商人に換金を依頼する。ノルドが普段売る価格よりは高かった。


「きっかり百ゴールドだ。これで勘弁してくれ」商人は苦々しい顔をした。

「こんなに大量なのに?」


 上層で採れる鉱石では珍しいものは出にくい。だが、数と質が揃っていたからこその額だった。普通の冒険者なら二十ゴールドがいいところだ。


「普通の荷運び人は、管理費も交渉費も取るんだ。でも、ノルドは取らない」

「助かるわ、奉仕人ノルド。私はこれから港町に行くの。ラゼル王子のツケを払わないといけないから。これ、カリスに渡してくれる?」


 二十ゴールドをノルドに預けると、フィオナは用が済んだとばかりにギルドを出て行った。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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