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密室の会談


 それから、当初の目的であるエルフツリーへ向かって歩き出した。


 フロンティア――ノルドたちがそう呼ぶ最初の精霊の木を素通りし、冒険者たちが切り拓いた一本道を進んでいく。森の中央にそびえる、あのアルテアを目指して。


「さっきのエルフツリーはどうして無視するの?」

「あの木はまだ若いんです。木に負担をかけたく無いのと、一番良い樹液が取れるのが、アルテアなんですよ」

「へえ、ノルドはやはり優秀な薬師なのね」カリスは関心の表情を浮かべた。


「薬師なのを知ってるんですね?」

「当たり前じゃない。あなた有名人だもんね。冒険者ギルドに顔を出して、消火薬を手に入れて試してみたわ」

エルフツリーの周囲の芝生には、変わらず二つの立て看板が立っていた。


〈冒険者ギルドより通達〉

◆ エルフツリーの樹液の採取について

 ギルドからの正式な依頼以外での採取は禁止する。ただし、緊急事態の場合は例外とする。

◆ ダンジョンの森最深部の探索について

 行方不明となる冒険者が後を絶たない。

 探索は各人の能力をよく見極め、自己責任で行うこと。


「あれ、採取ダメじゃなの?」

「いえ、大丈夫です。冒険者ギルドの許可ももらっています。カリス様の分もです」


 ノルドは、彼女が規則を守ることに驚いた。立て看板なので守らない冒険者も少数いるがいる。ただ規則を破ったのがばれると冒険者ギルドの資格を剥奪される。


「良かったわ。貴方が言うなら間違いないわね」

 彼女は手慣れた手つきで、樹液を採取ボトルに集め始めた。


「カリスさんも、薬師なのですか?」

「いいえ、学者よ。だから高レベルの調薬はできないわ」


 その一言で、ノルドの彼女に対する見方が変わった。母セラと同じ学者だったのが大きい。だが、何故、あんな王子のいいなりになっているのか不思議だった。



 ノルドたちが森から戻り、冒険者ギルドに顔を出すと、ちょうどラゼル王子が、例の新米冒険者の女たちと楽しげに話しているところだった。


 その一人、弓手のシルヴィアが狩猟の話を自慢げに語ると、ラゼルは巧みに話を合わせ、場を軽やかに盛り上げている。


「いいねぇ。今度、君たちの村に遊びに行くよ!」

「ぜひ来てください! リーヴァが宿屋をやるので、泊まってほしいです」

「そうさせてもらうよ!」


 軽い調子の話しぶりと洗練された身のこなしに、女たちはどこかうっとりとした様子で、ラゼルを見つめていた。


「只今、戻りました」

ノルドが声をかけた。

「ああ、カリス、サラ。お帰り。荷運びは役に立ちそうかい?」


 ラゼルは二人に笑顔を向けて尋ねたが、その隣に立つノルドには、一切視線を寄越さない。

「ええ、問題ありません」

「へへっ、投げ矢、教えてもらったよ!」

「へえ、そうなんだ。じゃあ、明日から潜るからよろしく!」


 ようやくラゼルはノルドの方に視線を向けたが、それもほんの一瞥。形だけの言葉を残すと、すぐに背を向けて、再び新米冒険者の女たちとの会話へと戻っていった。


 ノルドがギルドホールを見回すと、新米冒険者の男たちは酒場の隅で、面白くもなさそうに黙って酒をあおっていた。


「すみません、ダンジョン攻略の打ち合わせを……」


 ノルドが再び声をかけるが、ラゼルは応じる気配すら見せない。聞こえていないのか、それとも。


 一歩、近づこうとしたところで、カリスがそっと服の裾を引いた。

「私が代わりに聞くわ。製薬のことも相談したいし」

「……わかりました」


 本当は、リーダーであるラゼルと直接、方針をすり合わせておきたかった。


――俺は聞いていない、俺のやり方とは違う――

 それで何度か、痛い目にもあっている。

 そのとき、リコがこっそりと近づいてきて、低い声で耳打ちした。


「あいつ、なんかゾワッとする。ここにいたくない。先に迷宮亭、行ってるね」

 ラゼルの方を、顎で示す。


 彼女は踵を返すと、そのままギルドの扉を押し開ける。

 ぱたん、と扉が閉まる音だけが、あとに残った。


 副ギルド長室を借りて打ち合わせをすることにした。

「悪いけど、二人だけで話がしたいの」

 カリスは、ノルドにもたれかかり、ドラガンに出て行けと目線を送った。

「ご自由に。ノルド、変なことをされたら訴えてこい!」


 副ギルド長は、バタンと扉を閉じて鍵をかけて出て行った。

「全く、下手な芝居ね」カリスは姿勢を正すと、魔道具を取り出した。


 魔道具を起動させると、彼女はノルドに尋ねた。

「これが何か聞かないのね?」

「遮音機ですよね。そして、この部屋は盗聴器が起動してる」


「頭がいいのね。鍵をかけると作動するようね。それじゃあ打ち合わせをしましょう。ラゼル王子も入って来れないし丁度いいわ」


 彼女から、示された答えは、ノルドの作ってきた案よりもさらに消極的な案だった。


「これだと、三ヶ月でとダンジョンの完全制覇は愚か、制覇も難しいですよ!」

「そうね。でも、ノルド。あなたの案だって、制覇までしか考えてないわよね」


 図星だった。あの「東方旅団」ですら、制覇の手前で歩みを止めたのだ――飛び抜けた実力を持つ冒険者たちであるにもかかわらず。


 彼らの実力が本物だったことは、荷運び人として同行していたノルドがよく知っている。


「目的は……採掘よ。私たちが狙うのは、地下に眠る資源――そのためにあなたの力が必要なの」

それは、ラゼル王子の目的とは違うものだった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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