【連載化しました】生意気な幼馴染に昔遊びで書いた遺書を見つけられた結果、急にしおらしくなって離れなくなった
俺こと松浦芹十は、ごくごく普通の男子高校生だ。
ただ一点、普通とは違う異なる点がある。
「ふわぁあ……もう朝――もがっ!!」
平日の朝、窓から差し込む朝日で目が覚めて起き上がろうとしたのだが、顔が半透明なものに包まれた。
もがもがしながらそれを剥がすと、キッチンラップと気がつく。
「あははっ! 芹十おはよ! 最高のモーニングサプラ〜イズ!!」
「お前っ……朝っぱらからこんなしょうもないことするんじゃねぇ! 夏織!!」
寝起きドッキリを仕掛けてきた張本人は、ベッドの傍でスマホを持ち、写真を撮っていたらしい。
そんな張本人の名前は汐峰夏織。ミディアムヘアーの茶髪に、青い瞳をしている容姿端麗な美少女。十人中十一人が可愛いと褒めるであろう美貌を持っている。
そんな彼女とは幼馴染という関係で、それが俺が普通とは異なる唯一の点だ。
「美少女のこの私が起こしに来てあげてるんだよ? もっと感謝してよね〜」
「頼んだ覚えはないっつーの。ってか起こすなら普通に起こせ」
「そんなのつまんなくない?」
「つまらなくて結構だ!」
面が良くて運動神経抜群、さらにはコミュニケーション能力もハイレベルと、完璧に見える。だが、欠点ももちろんある。
美少女としてちやほやされすぎたのか、先ほどのイタズラをよく行う生意気な幼馴染に育ってしまったのだ。
「ほら、早く起きて朝ごはん食べなよ」
「わかってるよ」
やれやれと思いながらベッドから降りたのだが、次の瞬間激痛が走った。
よく見てみると、床には組み立てて遊ぶ某ブロックが敷かれていたのだ。おそらく……いや、確定でコイツのイタズラだろう。
「いッッてぇええ!!!」
「あ〜あ、ちゃんと床見ないから〜♪」
「お前……! 今日という日は許さんぞ!」
「きゃー! 逃〜げろ〜〜!!」
ぴゅーっと脱兎のごとく逃げ出す夏織。
追ってやろうかと思ったのだが、先に玄関から飛び出してそのまま学校に行ってしまったため断念する。
先程までの騒々しい朝とは打って変わり、朝食は静かに食べ進めることができた。
制服に着替え、俺も高校へと登校をして自分の教室に入る。
「はぁ……。もう疲れた……」
「おはようセリヌンティウス! 朝からお疲れそうだな?」
「誰がセリヌンティウだ。黙れ、邪智暴虐なメロス」
「邪智暴虐なのは王様だろがい!」
自分の席に着くと、チャラチャラしている男が挨拶をしてきた。
コイツは友人である蓮太郎で、中学生からの仲である。
「まぁな、色々あったんだよ。代わってもらえるなら代わってもらいたいわ」
「めんどそーだから断るぜ!」
「だよな」
因みにだが、俺と夏織が幼馴染だということはごく一部の生徒しか知らない。同じくクラスなのだが、学校ではびっくりするくらい話しかけてこないのだ。
小学校まではよく話してたが、いつのまにか話さなくなっていた。
(まぁ、あいつにもあいつなりのスクールライフを送りたいんだろうし、気にしていないが)
まだ少し痛む足の裏を気にしながら、俺は自分の席で友人と駄弁り続けるのであった。
# # #
――放課後。
自分の家に帰ってきた俺は、タンスの中を漁っていた。
明日明後日は休日なので、久々に田舎のじいちゃんの家にでも一泊二日で遊びに行こうかと考えていたのだ。なので、色々と準備をしている。
「ルアーがまだ残ってたはずだけどなぁ。おっ、あったあった。……ん? なんだこの紙」
釣りをするためのルアーを見つけたのだが、同時に謎の紙を発見した。
その紙にはなんと遺書と書かれていたのだ。
「は? 誰の――って俺の!? あー……そういや昔お遊びで書いたような……?」
内容を見てみると、俺が先に死んでしまってすまないだとか、「実は花壇壊したのは俺です」などの謝罪文とかが書かれている。
中々幼稚な内容だが、習字を習っていたため今の俺と遜色ないほどの字の綺麗さだ。
「懐かしいな……。昔は死んだらどこいくんだろうとか怖がってたっけ。何も言い残せないまま死ぬのは嫌だったしなぁ」
昔に想いを馳せそうになったが、ペシッと自分の頬を叩いて中断させる。さながら年末の大掃除中、過去のアルバムを見つけて掃除どころじゃなくなるあの感じが思い浮かんだからだ。
一旦遺書(笑)は机に置き、明日の準備を進める。
「お泊まりセットヨシ! あー、スマホは……せっかく田舎に行くんだし、電源切っておくか。電子の奴隷からの解放だ」
いざという時ように一応持っていくが、二日間はつけることは多分ないだろう。
「……あ、夏織のお父さんから連絡来てる」
俺と夏織の親同士が仲良いのもあるが、なぜか俺は彼女の父親に気に入られているのだ。
マイナーゲーム(クソゲー)をお互いよくやるし、語り合う仲間が欲しいのだろう。
明日もゲーム一緒にしないかとお誘いがあったが、お泊まりのことを言って断らせてもらった。
「夏織は……まぁ別に言わなくても大丈夫か」
そう勝手に決めつけ、俺はスマホを机の上に置いた。
――この時の俺は気がつかなかった。
机上の遺書、スマホの電源、夏織の父親への連絡……。これらでまさかあんなことななってしまうとは……。
# # #
―夏織視点―
――土曜日。
私は今日も今日とて芹十に構ってもらおうと、彼の家まで足を運んだ。
芹十のお母さんに顔パスで入れてもらい、早速彼の部屋までやってきたのだが、もうすでにもぬけの殻だった。
「あれ? お出かけでもしてるのかな……。むぅ! 私に一声もかけずに出かけるなんて!」
ぷくーっと頬を膨らませた後、ボスンと音を立ててベッドにダイブする。
ふわりと舞う埃と漂ってくる芹十の匂い。それだけでは飽き足らず、掛け布団を被って存分に堪能をした。
「えへへ♡ きゃ〜! 芹十に抱きつかれちゃった〜! …………はぁ」
寂しさを誤魔化すためにそんなことをしてみたが、すぐにテンションは元通りになってため息が漏れ出る。
この静寂を切り裂くは私しかいないため、虚しさが募っていた。
正直言って、芹十は私の大切な幼馴染で、好き……なのかもしれない。自覚したら抑えが効かなくなりそうだし、自分を洗脳しているのだ。
ただ、ここ数年は気恥ずかしさが勝ってしまい、イタズラなどでしかコミュニケーションが取れていない。
まぁ芹十はエッチな本からM傾向が強いと見たし、私のイタズラにも心底喜んでいるに違いない!
「はぁあ、芹十いないなら帰ろっかな〜。……ん? 何この紙」
部屋を出ようとベッドから降りたのだが、机の上に謎の紙が置かれているのが目に入る。
引き寄せられるようにそれ手に取り、中身を見てしまった。
「え……な、なん、で……これ、芹十の遺書……?」
新しいイタズラの材料が手に入ったと思い喜んでいたのが一変、一気に血が引いて顔が真っ青になった感覚がする。
偽物かと思ったが、字が綺麗故に最近書いたものだという結論に至った。
「え? ま、まってよ。なんで……なんで――」
書かれている遺書には、命を絶つような思考に至る原因らしきものは存在していない。気が動転してうまく頭が回らない。
だがたった一つ、心当たりがあった。
「も、もしかして……私のイタズラが原因……?」
私が普段スキンシップがごとく行なっているイタズラ。最近では頻度も増えているし、芹十からしたら生意気で、迷惑か極まりない行いだろう。
息が荒くなる。目が回る。とにかく引き止めなきゃと思い、私はスマホを取り出して芹十に電話をかけた。
――プルルルッ、プルルルッ。
コール音が異様に長く感じる。お願いと心で思い続けても、芹十が出ることはない。
本当に? 本当に死んじゃった……? いや、いやだ……。嘘だと言って欲しい……。
もう芹十は……。
「っ!!」
耐えられなくなった私は、芹十の家を飛び出した。芹十のお母さんにも顔向けすることができない。
絶望した状態で自分の家に帰宅すると、ソファに座っている父親から話しかけられた。
「お帰り夏織。……やっぱり、最後に芹十くんには会えなったか」
「え、な、なんでパパ知ってんの……」
「いや、実は昨日連絡が来てな。まぁ随分遠くに行ってしまってな、一緒ににゲームしたかったが叶わなかったよ」
「そう……なんだ……」
最期に。遠くに。逝ってしまった。その三単語で、終ぞ私の心は絶望一色に染まりあげる。死体蹴りもいいところだ。
私だけに伝えていないことから、やっぱり私が原因なんだ……。
「顔色が優れないみたいだが大丈夫か?」
「うん……いや、うん……大、丈夫」
重い足取りで自分の部屋まで歩き、机に飾ってある芹十とのツーショット写真を手に取る。
そして、掛け布団にくるまりながら、ボロボロと涙を流し始めた。
「う、うぅ……! せりとぉ……やだよぉ……!! かえってきてよ……!!!」
壊れた蛇口に水を塞き止めろと言われても止まるはずがなく、私は枕を濡らし続けた。
# # #
――二日後。
俺は前日の日曜日には田舎のじいちゃん家から帰宅しており、今日は普通に学校がある日だ。
だが妙なことに、今朝は夏織のイタズラがなかった。
「あ、そうそう。夏織ちゃんがものすごい元気がないって言ってたわよ?」
「夏織が?」
朝食を食べてあると、母さんからそんなことを伝えられる。
何も言わずに出かけたから怒っているのだろうか?
「そんじゃ夏織の家寄って高校行ってくる」
「わかったわ〜」
朝食を食べた後メールを送ってみたのだが、何も返信はない。俺がじいちゃん家に行ってる時に電話を何回かかけてきたらしいが、メールは無し。
制服に着替えた後、家を出て夏織の家へと向かった。
よく夏織の父さんに招かれるため、基本的に顔パスで家に上がることはできる。
「お邪魔します。夏織ー? いるかー?」
階段を上がり、夏織の部屋の前でノックをしたのだが返事がない。
「入るぞー」
「うぅぅ……ひっぐ、だれぇ……?」
「え、か、夏織!? なんでガチ泣きしてんだ!!?」
ガチャリとドアノブをひねって中に入ったが、そこには目元が真っ赤にしながら泣いている夏織の姿があった。
「か、夏織?」
「え……芹十……? せりと!? ほ、本物なの……!!?」
俺に気がついた夏織は一気に距離を詰め、幽霊でも見ているかのような反応をし始めている。
「お、おう。どうした、俺の偽物でも現れたのか?」
「だ、だって! 遺書残してどこか行っちゃったからぁ!!」
「あ! そういや置きっ放しにしてた……」
彼女の手元にはくしゃくしゃでシワシワになった俺の遺書が握り締められていた。そして、一瞬止まっていた涙が再びボロボロと流され始める。
そういえばそれ片付けるの忘れてたな。まさか夏織が見つけるとは……。
「う、ううぅ……! せりとごめんなさい!! もうイタズラしないからぁ!! だからお願い、死なないでぇ!!!」
「え、えーっと……!?」
夏織は俺にひしっと抱きつき、引き剥がそうとしても離れないほど力強く抱きしめられていた。
普段なら邪な気持ちなどが湧いてくるが、尋常ではないほど心配してくれていたみたいだし、そんなのは微塵も湧かない。
「と、とりあえず俺は死なないから! それは昔遊びで書いた遺書だから大丈夫だ!!」
「ほんと……? ほんとのほんとに……?」
「本当だ!」
「じゃあなんで二日間いなかったり、連絡してくれなかったの……」
「じいちゃん家に行ってたんだよ。連絡は……せっかく田舎行くならってことで切ってまして……」
「うぅ……ぐすっ、よかったぁ……。ごめんねせりとぉ……!!」
どうやら誤解は解けたらしいが、謝ることはやめなかった。
夏織の普段のイタズラが嫌になって死んだとでも思っていたのだろうか?
「死ぬつもりなんかないから。ごめん夏織、不安にさせて」
「うん……。わたしもごめん」
「………えっと、誤解も解けたことだしそろそろ離れてもらっても……」
「やだ」
抱きしめる力が一段階上がったような気がする。そろそろ離してもらわないと学校に間に合わななってしまうんだが……。
「俺は学校行くから……。お前は病み上がり? かはわからんが、まぁ休んで……」
「ダメ! また芹十がどこか行くのは嫌だ……」
「どこかっていうか高校に行くんだが」
「行く。私も行くから、待ってて」
そう言うと、ようやく俺は解放された。
いやぁ、しおらしくなった夏織は久しぶりに見てなんだか懐かしい気持ちになったなぁ。
過去の夏織に思いを馳せ始めたのだが、そんなのは一気に吹き飛ぶくらいの衝撃が目に飛び込んできた。
「んしょ」
「ちょっ!? なんで俺の目の前で着替えようとしてんだお前!!?」
「ちょ、ちょっと芹十! 外に出ようとしないで!!」
目の前で制服に着替えようしている夏織が目に入り思わず吹き出す。
急いで部屋の外に出ようとしたのだが、再び抱きつかれてダイレクトにソレが伝わってきた。
「部屋から出るだけだっつーの! 破廉恥だぞ!!」
「じゃ、じゃあ後ろ向いてて。部屋から出ないでね?」
「う、うん……? わかった」
ま、まさか遺書(笑)だけで、あの生意気な幼馴染がここまで変わってしまったとは……。
夏織の両親にどうやって説明しよう。あの親父さんなら「責任とれ」とか行ってきそうだな。
無事(?)に着替え終わった夏織は再び俺の腕に抱きついて離れようとしない。彼女の母親に生暖かい目で見られながらなんとか朝食を食べてもらい、登校を始める。が……。
「あのぉ……視線とか気になるだろ? だからそろそろ」
「むぅぅ……!!」
「なんでもねっす」
今日一日は心配させた罰として、反論は許されなさそうだ。
「ねぇ芹十。今までイタズラしてごめんね」
「ん? 俺は別に気にしてないからいいぞ」
「ん……やっぱり芹十やさしい。……今まで恥ずかしくて言えてなかったけどさ、そういうとこ好きだよ」
「ほーん。………はッ!?!? それってどういう……」
「ほら、行こ」
結局、「好き」は友達としてなのか、異性としてなのか……。彼女が答えないまま、学校へと俺たちは向かった。
# # #
―夏織視点―
芹十が帰ってきてくれた。
どうやら遺書は昔遊びで書いたものらしく、私の勘違いということだったらしい。
心底安堵して、思わず涙やら鼻水やらをべったり芹十につけてしまった。恥ずかしい。
芹十がいない間、私も死んでしまおうかと考えるほどに追い込まれていた。おかげでようやく気づかされてしまったのだ。
やっぱり私は、芹十のことが好きだということに。
「芹十」
「ん?」
腕に抱きつき、温もりを感じながら彼にこう言う。
「今日から覚悟しておいてね」
連載化しました。
連載版はコチラです↓
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