特訓
前回の話――
クラーケン討伐のためにコーディアがアルスを特訓をしてくれるという話になった。
戦闘方法についてのコーディアの提案は、アルスの土魔法で石の槍を作るということだった。早速武器屋に行き、黒い長槍の先端の失敗作を購入したアルスたち。一応、宮廷魔法使いのコーディアによると魔法はイメージが大事だというので、アルスはそのゴツゴツしてちょうど岩石のような見た目にも見える長槍の失敗作の形を覚える特訓を始めた。
アルスが魔法についてあれこれ質問するので、面倒くさくなったのか、コーディアは散歩に行くと言いどこかに行ってしまった……。
「ねーアルス。私も何か特訓したいんだけど……どうかな」
イレアは俺の隣で海を眺めていたが、飽きてしまったらしい。
「うーん、そうか……周りに人もいないし、エクトルに聞いて見るか?」
腰に装備してあるマジックポーチから、状況報告用の円盤状の金属製アイテムを取り出し、エクトルに連絡を始めた。
「……イレア様、どうなされましたか?」
小人のようなサイズのエクトルが円盤の中心にある魔石から映し出された。
「エクトル、私も魔法の特訓がしたいの。今度海の上で戦うから」
「海の上ですか? それはそれは……」
そう言うとエクトルは手を顎に当てて、上の方を見ている。
船を借りて原初結晶を探したいのだが、そもそも、その船を安全に出すためにはクラーケンの討伐が必要だ、という状況を俺はエクトルに説明した。
「なるほど」とエクトルはしばらくぶつぶつ独り言を喋り始めた。少しの間待っていると、エクトルはいい案を思いついたのか、急に人差し指をピンと立てて、俺たちに提案し始めた。
「では水中呼吸や、水上歩行の魔法を覚えるのはどうでしょうか?」
船を沈めるほどの魔物だ、もしも船が壊されて無くなった場合を考えたら確かにいい案かもしれない。
「だが、イレアは確か水属性の魔法適正は無かったはずだよな?」
イレアの魔法適正を思い出しながら、俺は自然と質問を口にしていた。
「私の魔法適正は光と風だよ」
「あぁ、いえいえ、水上歩行や水中呼吸は水を操っているわけではなく、身体強化の分類ですので無属性魔法なのですよ。イレア様であれば数日で覚えられるかと」
そうか無属性魔法なのか。それなら魔力との親和性の高いイレアであれば、覚えるのは比較的簡単なのだろう。
エクトルとの通信を終えた後、早速、魔法の練習をすることにした。
ひとまず、水を入れられる容器が欲しかったので、近くにある漁港で桶を借りた。
「アルス、これなんか魚臭いよ」
イレアが両手で持っている大き目な桶からは、ほんのりと磯の香りと、生臭さが漂う。
「多分、普段は魚を入れるのに使用されているからだろう。浄化魔法とかで臭いは消えないか?」
そう言われ、少しハッとした表情のイレアは、桶に早速浄化魔法をかけた。桶の底に鼻を近づけ臭いを嗅いだ後、うんうんと頷くイレア。ちょうどいい具合に臭いは消えたらしい。
元の場所に戻り、エクトルから聞いた練習方法を行うため準備を始めるイレアは、ベンチに座っている俺の隣に桶を置き、近くの井戸から汲んできた水をその中に入れた。
「よしっ」と言った後、イレアは大きく息を吸い込むと頬を膨らませた状態で、バシャっと桶に顔をつけ始めた。
ん? 呪文の詠唱はしたのだろうか?
顔を付けた瞬間に違和感を感じたのか、エクトルから教わった呪文の詠唱をし忘れたことに気が付いたイレアは桶から顔を上げた。
「あ、間違えました」
顔面と前髪から水を滴らせながら、えへへと少し恥ずかしそうに笑うイレア。
気を取り直してイレアは、エクトルから教えてもらった魔法を唱え始める。周囲から白い光のようなものが集まっていき、イレアの口の前に小さい魔法陣が展開する。水中呼吸の魔法だ。
詠唱し終わると、イレアは先ほどと同じく勢いよくバシャっと水を張った桶に顔をつけた。
それから俺はというと、ずっと長槍の先端の失敗作と対峙していた。
長槍の先端をじっくりと見ていると、鉄を鍛えた金槌の跡や、叩きすぎたせいなのか金属疲労でヒビがはいっている部分も見受けられた。流石にこのヒビまでは土魔法で表現しなくてもいいだろう。大体大まかな造形は頭に入ったはずだ。
一応、時折イレアの方を確認していたが、まだ桶に顔をつけている。もうかなりの時間がたつ。少し心配になってきたのでイレアの肩を叩いてみた。
「うわ、びっくりした!」
急に肩をたたかれ、ビクッと動き、勢いよく顔を上げるイレア。
「おお、すまない。随分長い時間、顔を水につけられるんだな」
つい先ほど魔法を教えてもらったのに、もう扱えるようになっているようだ。
「結構簡単かも、でもどれくらいで効果時間が切れるのかが、まだよくわからないの。他の人にかけるときも変わらないのかな? あとでアルスにも試してもらっていい?」
「ああ、構わないぞ」
嬉しそうにニコニコ笑うイレア。
訓練に二人とも集中していたので気が付かなかったが、遠くにある建物の時計では、既に昼を過ぎていた。流石に少し腹が減ってきた。いったんここで切り上げて昼食にでもしよう。
イレアもお腹がすいたとのことだったので、街の中の飲食店街へ向かうことにした。
先ほどまで顔を水につけていたため、前髪から水が滴り落ちていたが、イレアは風魔法で髪を乾かした。……それ便利だな。
日常生活で属性魔法を生活魔法として使用するのはいい事なのだとエクトルも言っていた。日常的に感覚で魔法を使用しておくと、とっさの時にも魔法を使いやすくなるのだとか。
だが、俺の場合は土魔法だ、生活魔法としては……畑仕事でもしない限り使うところがなさそうだな。風属性が少しうらやましい。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。
初めて書いた小説なのですが、少しでもいいなと思っていただけたら、
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