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0099 - 第 2 巻 - 第 3 章 - 07


 慧子と交替した千里は傍らで休憩していた。時は正午近く、朝の狩りを担当していた者たちが続々と戻ってくる。


 進:「ただいま。って、何あれ? 岩板焼き?」


 千里:「おかえり。近くに岩場を見つけたんだ。大小様々な石板や石塊がたくさんあって、ちょうど良さそうだったから一枚持って帰ってやってみたんだが、なかなかいい感じだ。ここにいる間、硬い石が必要ならあそこに行けば手に入るよ」


 進:「へぇ~いいね」


 千里:「ところで、それ何?」


 進:「オレもよくわかんないから、みんなに見せてみようと思って」


 進が提げているのは2株の植物だった。主体部分は硬質の外皮に覆われ、六角形の鱗状の隆起がびっしりと刻まれている。中央が膨らみ両端に向かって細くなる長い楕円形で、長さ約20cm、直径約12cm、重さ約1.6kg。パイナップルとヤマサトイモを足して割ったような見た目。茎の長さは約120cmで、中空で節が多く、茎の先端には手のひらサイズの扁平な円形の葉が4~5枚、その下にもいくつかの小さな葉が付いていた。


 千里:「土が付いてるけど、掘り出したのか?」


 進:「ああ。リスとウサギが食べてるのを見かけて」


 千里はナイフを洗い、そのうち1株を受け取り、主体部分の真ん中を切り落とした。中身は純白で、切り口は少し湿り気を帯び、陽光できらりと輝いている。


 千里:「芋類だな」


 60代の男性:「芋じゃな」


 千里と60代の男性が声を揃えた。


 進:「あ、やっぱり? オレもそうかなと思ってた」


 みるみるうちに、イモの切り口は酸化し始め、純白から少し薄茶色がかったように変わった。


 千里:「2種類の動物が食べてるなら、多分毒はないだろう? でんぷん質がかなり多そうだ。この芋、他にもあるのか?」


 進:「あるよ、たくさん。多分……バスケットコート1面分くらい?」


 千里:「はっ!? ど…どこだ? 見に行きたい!」


 進:「あっちから20分くらいの所だよ。案内するよ」


 そう言うと、進は千里と60代の男性、そして好奇心から付いてきた男性2人を連れて、その場所へ向かった。


 千里は眼前に広がる名も知れぬイモの群生地を見て、「おおおおーっ!」と感嘆の声をあげ、目を輝かせた。


 この群生地の上空は岩場と同じく巨木に遮られておらず、陽光がイモの茎葉を直射し、とても翠緑に見えていた。周囲には動物にかじられたイモの塊や、イモを求めて掘り起こされた土が散らばっている。


 千里は外縁の1株を掘り出す。イモは地下30cmほどの位置にあり、大きなものの他、もっと深い場所には2つ3つ小さなのがあった。どれも非常に良質に見える。


 彼は再びイモを切り開き、中身は先ほどと同じだった。


 千里:「純粋な野生芋がここまで良いものだとはな。もし人工栽培できたら、食料に困ることはないんじゃないか?」


 60代の男性:「その通りじゃよ。こんな立派な芋さん、そのまま食べても良し、粉にして麺や菓子にしても良いもんになりそうじゃ」


 千里:「おじいさん、芋類に詳しいんですか?」


 60代の男性:「少しはな。昔何年かやってたもんで。だがこんなのは見たことないがの」


 千里:「それはありがたい。ここにいる皆も見たことないんですよ。どうやって食べるのがいいと思いますか?」


 60代の男性:「うーん。この硬い変な外皮、多分直接火の中に入れて焼けるだろう。だが焼きすぎて焦げたりしやすいのぉ。そうなったら勿体無いじゃよ。燻焼きにする方が良いな」


 千里:「おじいさんもそう思うなら安心です。大勢分を同時に作る必要を考えると、地面を掘って燻焼きをするのは作業量が大きすぎるし、火加減も難しい。やっぱり岩板でした方がいいと思います。岩板の上に何層か土を敷き、芋を切って包んで土の中に埋め、下から継続的に加熱して燻焼きする。どうでしょう?」


 60代の男性:「おお、賢い方法じゃなぁ」


 千里:「ではそうしましょう。進、この芋を見つけたのは君だ。名前を付けてみないか?」


 進:「いいのか? それ……」


 千里:「どうせ仮の名前だ。呼び名がないと不便だろ」


 進:「じゃあ……A芋で。そのうちBやCやDも出てくるかもだから……」


 千里:「ははは、そうかもな! よし、じゃあいくらか掘って帰って燻焼きしてみよう」


 こうして彼らは両手いっぱいになる量を掘り、拠点へ戻った。


 拠点に戻り、千里は最初A芋を燻焼きするのに十分な大きさの岩板をもう一枚運び帰ろうと考えた。


 しかし岩場で観察と計算を行った後、必要を満たす岩板は10人の男がかりでないと運べないこと、そして道具もなく素手での運搬は非常に危険だと判断した。


 そのため彼は岩板を拠点に運び帰ることを断念し、燻焼き用のかまどを直接岩場に作ることを選んだ。


 午後いっぱいをかけた協同作業の末、男たちはへとへとになりながらも、燻焼き用のかまどを完成させた。


 岩板は長さ約150cm、幅約80cm、厚さ約12cm。表面は肉を焼くのに使った岩板ほど平坦ではないが、芋を燻焼きするには問題ない。この岩板の重量が非常に大きいため、かまどの基底は肉焼き用のものよりさらに強固に積まれ、補助の支えの枝もより多めに使われた。


 千里は燻焼き用の岩板の上に5cmほどの厚さに土を敷き、その後きれいに洗ったA芋を切り、水に浸しておいたA芋の葉で包んだ。包んだA芋を岩板の土層の上に並べ、その上からさらに15cmほどの厚さに土を被せる。最後に頂部に通気孔を1つ残し、柴を燃やし岩板を加热した。


 約3時間後、頂部の通気孔からの蒸気が弱まり、香りも甘く芳醇なものに変わった。千里は出来上がったと判断し、土の山をかき分けてA芋を取り出す。


 千里:「おっと、ちょっと焦げちゃったかな。次は火加減を調整しないと」


 A芋を包んでいた芋の葉は少し黒焦げになっていたが、内部のA芋への影響は少なく、問題なく食べられる。


 彼は細い枝を削って作った箸で1塊をつまみ、吹いて少し冷ましてから食べてみた。


 千里:「うん! 芋類の食感と味そのものだ。美味しい」


 千里の樣子を見て、他の者たちもそれぞれの箸で食べ始めた。


 女性:「甘ーい!」


 男性:「まさか芋を食べられるとはな」


 男性:「ちょっと栗みたいな風味がするね」


 女性:「あああ……今日やっとまともな食べ物にありつけた…………」


 その言葉に、周りにいる皆の顔にも、ほっとしたような、そして少しばかりの笑顔が浮かんだ。


 男性:「泣くほどか?」


 進:「うまい!」


 紗奈:「甘くて美味しい!」


 千里:「完全に主食として使えるな。それにあれだけあれば、狩りに行かなくても、魚とA芋だけでここで1、2ヶ月は生きていける」


 60代の男性:「ほっほっほ、それはよかったじゃの」


 斗哉:「ハハッ、岩板焼きに燻焼き芋か。あっちに付いたあの2人の女、オレたちが満腹になるだけじゃなく、こんないいもん食ってるって知ったらどう思うだろうな?」


 宏人:「あのA芋の群生地、拠点からは結構離れてるんだよな? 一回にたくさん掘ってきて貯蔵しする? これ保存利くか?」


 皆はA芋を食べながら話し合い、その日はあっという間に過ぎた。


 今、集団はA芋の群生地と一画の岩場、そして岩板を使った調理法を手にし、野外生活の質が一気に大きく向上した。


 しかし一定の弊害もあった。A芋の群生地と岩場は同じ方向ではなく、しかもどちらも拠点からある程度離れている。もし襲撃を受けた場合、戦闘要員がすぐに駆けつけるのは難しい。


 そこで9日目の朝、千里は全員をまとめて、具体的な陣形の編成を一度行った。


 戦闘能力のない者たちは枝を束ねて作った盾と棍棒を持ち、巨大な根元に背を向けて自分自身を守る。その中には50歳以上の男性が2名、女性が30名。


 彼女たちの前が中衛である。中衛は2層に分かれ、第1層の人員は紗奈、健一、彩乃、颯真、大翔。第2層はその他の男性。中衛は前衛を突破したならず者の足止めを担当し、足止めできない場合でも前衛が引き返す時間を稼げる。


 千里、斗哉、進、宏人、駿の5名が前衛を担い、陣形の最前列でならず者と戦う。千里は刃物を持ったならず者の無力化を引き受けた。残り4人は状況を見て2対1、少なくとも1対1で対峙し、可能であれば同様にならず者を無力化する。


 陣形編成の終了後、千里は全員に常に少なくとも3人一組で行動すること、狩りを担当する15人は交替で狩り以外の時間はパトロールを行うことを要求した。


 皆は相応に真剣で千里の指示に従い、物事は順調に進み、生活のリズムも次第に安定していった。食料に余裕ができたため、干し肉の制作も始めている。





 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

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