0095 - 第 2 巻 - 第 3 章 - 03
千里:「……全員冷静になるんだ。おまえらは、ナイフもあるしケンカ慣れしているから、俺たちが怖がるだろうと思って、そんなに自信を持ってるんだろう。ナイフは俺たちにもある。それに人数は多い。もし俺たちの中におまえらより強い者や、命を賭けてもおまえらを倒したい者がいれば、おまえらにとってもリスクは大きい。昨日の光多さんの件も見ただろう。何の医療設備もないこの森で、万一急所を傷つけられたら、死を待つだけだ。本当に戦いになるのは望んでないだろ?」
倉岡:「オレらがビビるとでも思ってんのか?」
千里:「………………」
倉岡ののさばった態度に、千里は返答せず、鋭い目つきで睨みつける。
倉岡:「テメーらみてえな雑魚が、数が多いからって……んあ? うおッ!!」
倉岡の言葉が半分ほど出たところで、突然高木に肩を掴まれ振り返らされる。同時に腹に拳を食らった。
倉岡:「……ぐっ……ウおぉ……うっ…………」
比口:「た…高木の兄貴、なにを……?」
高木:「おまえらは黙れ。こいつは多分武術やってる。おまえらじゃ敵わん」
千里:「……」
千里も以前、高木の体格を見て普通のフィットネス愛好家ではないと考えていた。今、高木が外見だけで自分に武術の経験があると判断したことで、千里は高木にも何らかの武術の経験があると確信する。高木の癖や筋肉の付き方から、ボクシングだろうと推測した。
高木:「で、どうするって言うんだ?」
千里:「交渉だ。こちら側では事前に相談はしていない。さっきも言ったように、俺は自分以外の誰も代表できない。だからまずは<みんながそう思っているだろう条件>を言う。まず、あの女の子たちとおっさんを解放しろ」
「そうだ! 解放しろ!」
「ああ、普通皆そう思う」
「これが大前提だな」
集団の中からあちこちで同意する声が上がる。
高木:「いいだろう。だが、その代わり同数の女をよこせ」
千里:「……」
斗哉:「なに言ってやがる! それじゃ同じじゃねえか!」
他の者も「そうだ! 何を言ってるんだ!」などと口々に言う。
高木:「まあーそう焦るなよ」
そう言うと高木は、千里の後ろにいる人だかりに向かって声を張り上げだ。
高木:「おい、おまえらさんよー。周りの連中がどうしてるかで自分もどうするか決めてんじゃねえよ。堂々と自分らしくやろうぜ。俺らがスカウトした野郎ども以外にもいるんだろ? あっちにいたくない奴が。あっちじゃ他人に貢献することを強制される。人数も多い。タダとはいえ、食える量は少ないだろ? この忌々しい場所には殺人リスだの大鷹だのがいて、警備が2人そこらじゃ心もとないだろ?」
人だかりの声は小さくなり、多くの者が顔を見合わせる。
高木の言うことが事実だからだ。
もしかしたら、彼の言う『弱肉強食の法則』に賛同する者や、毎食満足できない現状に不満を持つ者、または何か別の考えを持つ者が他にもいるかもしれない。皆知り合ってから日が浅く、他人についての理解は浅く、不確実性はまだ大きかった。
高木:「昨夜、俺らが獲った2頭の鹿は見ただろ? 俺らはそいつらよりずっと強い。こっちへ来い。女は毎食腹いっぱい食えることを保証する。その上俺らが守ってやる。男どもを体で満足させさえすりゃ他は何もしなくていい。男は狩りを教えてやる。タダ飯喰らいの役立たずじゃない限り女を楽しめる」
顔を見合わせる人々。斗哉たちは後ろの人々に視線を向ける。皆の眉間はここに来てからずっと曇ったままだ。
高木:「悪くない話だろ? 女は怖がるな。俺らもとても紳士だ。さっきはただこいつらが我慢できなかっただけさ。ほら、あの娘たち傷負ってないだろ。ああそうだ、この話、誰でもいいわけじゃない。価値のない老いぼれや無能な奴は来るな。女も25歳以下だけな」
ピアスをした男青年:「そうだそうだ! 老害は切腹でもすべきだぜ!」
比口:「普段なら同意するけど、今はあっちに残って足を引っ張ってくれてちょうどいいや、ハハハ!」
ピアスをした男青年:「たしかに! ハハハハハ!!」
高木:「……さあ、どうする?」
人だかりの中では小声がくすぶる。「だ……誰が……お前たちみたいになりたいか……」といった声が時折聞こえるも、高木団体の方へ行きたいという者はいないようで、高木の計画は失敗に終わった。
皆、そう思っていた。
人だかりの中から、ほぼ同時に2人の女性が歩み出る。一人は20歳前後の風俗嬢、もう一人は19歳の女子短大生亜衣美だった。
駿:「お…おい……」
亜衣美:「……私、行ってもいい」
比口:「おおおっ! これも可愛いじゃん!」
亜衣美:「でも条件が2つある。一つは、あなたたちの言うことが全部本当だって保証すること。もう一つは、あの人たちを解放すること」
高木:「…………おまえは?」
風俗嬢:「もちろんあんたたちが約束守れるって保証してもらうわ。あんたの言う通り、あっちは人数多すぎて、もらえる食べ物少なすぎるの。どうせあんな事別に抵抗ないし、腹いっぱいになれる方選ぶわ。あの子たちは放してあげて。抵抗する女ってあんたたちも好きじゃないでしょ」
高木:「……いいだろう。他にはいるか」
高木団体の男たちは卑猥な目で人だかりの女性たちを舐めるように見る。女性たちは視線を逸らすか、ゴミを見るような目で彼らを睨んだ。
高木:「男はいらんでいい。だが女の数が合わねえな。3対3だ、もう1人よこせ」
依然として返答はなく、今度ことは応える人が誰もいないようだ。
千里:「……それならこうしよう。その代わりとして、俺たちはあの池から離れる。近くの資源を争奪しない。これでどうだ?」
高木:「駄目だ。それは当然の条件だ。交渉材料にするな」
千里:「…………」
高木:「ふっ、一歩譲ろう。物で賄ってもいい。おまえらはなんか良いもん持ってたよな。あのナイフとテント、それに鍋、とにかくキャンプ用のもんを置いてけ」
千里は振り返って女性キャンパーを見る。彼女はあまり気が進まない様子だったが、うなずいて同意した。
千里:「キャンプ用具は渡す。だがあのナイフはダメだ。俺たちも獲物を捌くのに使う」
高木:「駄目だ」
千里は、高木が自分たちに威脅となり得る武器を持たせたくないのだと分かっている。
千里:「……俺たちは人数が多い。ナイフがなければ捌く效率が低すぎる」
高木:「駄目だ。それはおまえらの都合だ」
千里:「……そこまで言うなら、俺も清算させてもらう。おまえらは一昨日の午後、俺たちの水を飲み、俺たちが獲った鹿の肉を食い、俺から多くの情報を聞き出した。もしあの時、俺たちがおまえらの水を飲むことを許可しなければ、同行を許可しなければ、おまえらは今のようにやっていけたと思うか?」
高木:「…………」
千里:「…………」
双方の眼差しが鋭くなった。二人は気迫の駆け引きをしている。
比口:「は? 自分たちでタダって言ったんだろが? それにオレらだってウサギと鳥を食わせただろ?」
千里:「おまえらが分けた肉の量が、食った量よりずっと少ないのは置いとくとしても、あの時の水がおまえらにとって重要じゃなかったと思ってるのか? あの情報に価値がなかったと? 誠実さもそこまでなら、約束を守れるとは思えんな」
亜衣美:「…………」
風俗店嬢:「…………」
最後の言葉は、亜衣美と風俗嬢へのメッセージでもあった。
高木は軽く「ふん」と鼻を鳴らし、千里に一本取られたことを認めたようだ。
高木:「よかろう。そういうことで。じゃあ女を連れてどっか行け」
千里:「……」
大翔:「まだだ! あんなひどいことをしたのに、こんな簡単に済ませるわけにはいかないっ!」
「そうだ! アイツらにあんなに有利な条件で終わらせてたまるか!」
「この件の責任を取らせなくていいの!?」
「そうよ! 私たちは……」
高木:「去れと言っている」
高木のその言葉は、これまでで最も低く力強いものだった。彼の野球帽とマスクの間から見える大きく見開かれた目には凶暴さが宿り、殺意さえも感じられる。
高木:「今すぐだ。さもなくば今まで話したことは全部無しだ。俺たちの方法でこの件を終わらせる」
高木団体の男たちは再び威勢を上げ、手に持った武器を弄り始める。
「ぐっ…………」
「………………」
人々は威圧された。
千里:「……なら、そういうことで」
大翔:「……くっ! 早乙女さんッ!!」
大翔は依然として放心状態で地面に横たわる麻里香へ駆け寄った。
高木団体に拉致された3人の女子学生と、気絶させられた敏之は皆に支えられ集団に帰った。
その後、集団は後方を警戒しながら拠点へ戻っていく。
比口:「兄貴、後をつけて監視しないすか? 奴らがテントとか持って逃げたら……」
高木:「ふっ、奴らはそんなことしねえよ。もし本当に持って行ったらなおさら都合がいい。理由が増えるからな」
比口:「お…おう、そうすか」
高木:「次の手を打つまで、女を楽しんでいいぞ」
ピアスをした男青年:「ヒューー! じゃ遠慮なくいただくぜ」
風俗嬢:「……まだ明るいんだけど……」
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