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0094 - 第 2 巻 - 第 3 章 - 02


 時は正午近く。拠点では、斗哉が大鷹の攻撃を防ぐための道具を作っていた。


 斗哉:「これでいいだろ」


 それは蔓で枝を縛り合わせて作った<大きな盾>である。


 斗哉:「手に持てば盾になるし、夜寝るときに木の根元にもたれて、これを斜めにして被せりゃ獣よけにもなる。それに持ち運べるから、場所が変わる度にシェルターを作らなくて済む。どうだ、実用的だろ」


 楓:「……たまには頭使うのね」


 斗哉:「オレをなんだと思ってんだ?」


 楓:「でもシェルターは必要よ。これだとスペースが狭すぎるから」


 斗哉:「ん……」


 進:「ただいま。わあ、それ、斗哉が作ったのか?」


 斗哉:「おおよ! すげえだろ!」


 楓:「お帰りなさい」


 進、宏人、駿、健一、紗奈、そして颯真が拠点に戻ってきた。狩りの経験がある四人が、未経験の二人を連れて狩りに出たのである。


 今回の獲物は、ウサギ1羽と野鶏4羽、そして薄緑色をした野鶏の卵3個だった。


 紗奈の出来は良好。最初はやはり慣れないところもあったが、すぐに皆のペースについていけた。進と宏人の評価では、あと数回狩りを経験すれば前衛も十分務まるとのこと。


 颯真の方は並といったところだが、経験を積めば良いチームメンバーになるだろう。


 進:「千里はまだ戻ってないのか?」


 斗哉:「ああ」


 千里は単独で渓流沿いの探索に向かっていた。集団の中では彼の体力とスピードが最も高く、危険に遭っても自分を守れる。現時点では、彼が単独行動するのが効率が最も良いのだ。


 狩猟チームと慧子が小鍋で一度に何個野鶏の卵を茹でるかを話し合っていると、春が拠点に戻ってきた。


 彼女は慌てて、そして怯えながら、先ほど聞いてきたことを皆に話した。その話は集団に大きな波紋を呼び、皆は眉をひそめ討論し合う。


 斗哉:「クソったれどもが! やっぱり手を出しやがったな! 今日人数少ないなと思ったら!」


 進:「……これはいけない。今すぐ止めに行こう!」


 駿:「でもヤツら、ナイフ2本持ってるって言うじゃねえか? それに今、ヤツらは何人いるんだ? 俺たち勝てるのか?」


 斗哉:「オレらもナイフ持ってく! 男どもはエモノ持って一緒に行きゃ問題ねえ! 女と老人はここに残れ!」


 楓:「……本当バカね。それじゃここに残された人たちがより危険に晒されるでしょ? 皆で行くべきよ」


 斗哉:「ん……そうか。なら全員で行くんだ。女と老人は後ろについて来い」


 30代の魚捕り男:「よーし! 皆で行くぞ!」


 別の30代男性:「……言っとくけど、俺は奴らとやり合わないぞ。せいぜい棒持って後ろに立ってるだけだからな」


 斗哉:「誰もおまえを期待してねえよ」


 颯真:「おおー、ついにイベント発生か?」


 その後、狩猟チームが最先頭を進み、男性たちは適切な枝を武器に狩猟チームの後ろにつく。女性と老人、そして中学生2人が最後尾となり、春が教えてくれた場所へと全員で向かった。


 その場所に着くと、人々は憤慨する光景を目にした。


 そちらの男たちも誰かが来たことに気づき、続々とやっていたことを止め、ナイフや棍棒を手に、自信に満ちた表情で前に出てきた。


 男は総勢10人。もともと高木の団体にいた高木、山田、黒水、比口、倉岡の5人に加え、説得されて加わった5人がいた。それぞれ、張三、17歳の男子高校生、ハチマキをした男、斜め前髪の長い男、そしてピアスをした男青年である。


 彼らの後ろには4人の女性、ルナ、麻里香、那帆、そしてもう一人の女子高生がいる。ルナ以外の女の子たちの精神状態は非常に悪かった。また隅の方には、顔を腫らされ意識を失った敏之が横たわっている。


 那帆ともう一人の女子高生は地面に座り、苦しげな表情で泣きながら、必死に服を握りしめて体を隠そうとする。麻里香は地面に微動だにせず、目は虚ろで、胸の起伏だけが彼女がまだ生きていることを証明していた。


 三人の服は乱れ、汗と涙、そして不明な液体が泥と混ざり合い、見るに忍びない状態だった。


 大翔:「早乙女さん──ッ!!」


 斗哉:「クズどもめ!」


 倉岡:「ちっ、来んの早かったじゃねえか。高木のアニキ、どうしやす?」


 高木:「……千里って奴は居ないなぁ」


 斗哉:「テメエら、これはやっていいことだと思ってんのかっ!?」


 倉岡:「うるせえな。そんなに熱くしてんじゃねえよ。おまえの女に手ぇ出してねえじゃん」


 比口:「よーよーよー、なんでしちゃいけねんだ?」


 斗哉:「犯罪だろ!」


 比口:「いけなぁい〜 オレら、犯罪犯しちゃったー。捕まっちゃう〜。こわぁーい〜」


 「ハハハハハハハハハ!!」


 比口はおどけた口調と表情で応え、高木団体の数人を大笑いさせた。そして凶悪な眼差しで斗哉たちを睨みつける。


 比口:「だったら警察呼んで来いよ?」


 その言葉に、集団の人々は声を失った。


 ここは異世界。森の外がどうなっているのか誰も知らないが、今この森は正真正銘の無法地帯なのだ。


 高木:「法律なんざ国が人を縛るものだ。せっかく別世界に来たんだ。法律のないこの場所で、なんで自分で自分を縛らなきゃなんねえんだ?」


 斗哉:「…………テメエら、正気か?」


 斗哉たち大勢の真剣で怒りがこもった表情を見ても、高木は慌てるどころか、とても滑稽に思えた。彼は冷笑しながら言う。


 高木:「ふふふ……正気じゃないのはおまえらの方だろ」


 斗哉:「は?」


 高木:「こんな世界で『平等分配』なんてもんをやって、自分が獲った獲物を貢献してない奴にタダで分け与えるだ? それこそが正気の沙汰じゃねえわ。大人に守られすぎて、世の中の法則を知らなすぎるんだよ。おまえらは。人はなぜ動物の肉が食える? それは人がその動物より強いからだ。『弱肉強食』。弱者は強者に食われて当然、強者は弱者を支配するべきなのだ。世界はそうやって回ってる。どこの世界だって同じさ。おまえらがやってるのはな、<自分は善人だ>ってアピールして自己陶酔に過ぎないんだよ。腹いっぱい食えて、ぐっすり眠れて、女も楽しめる。全部強者が得て当然のものだ」


 斗哉:「テメエ……」


 倉岡:「アニキなに言ってんだ?」


 比口:「あいつらがバカだってわかってりゃいいんだ。お前とは種類が違うけどな」


 倉岡:「おう。あん?」


 高木:「さあ、子供のごっこ遊びは終わりだ。これからは大人の時間だ」


 斗哉が「なにする気だ!?」と叫びながらバットを構える。他の者もそれに促され、緊張してそれぞれの武器を握りしめた。


 ──「その言い分は正しい。だが忘れるな、おまえらは『人間』だということを」


 長い棒を持った男がそう言いながら後方の巨大な根本の陰から歩み出てきた。


 進:「千里っ!」


 千里と比較的親しい数人は、千里が戻ってきたことに少しばかり自信を取り戻した。


 千里:「弱肉強食の法則は大自然の中では問題ない。人間と動物の間にも適用する。だが、もし誰かがそれを人間社会に当てはめるのなら、それはその人物が自分自身の醜悪さを正当化するために利用しているとしか言いようがない」


 千里はそう言いながら、まっすぐに斗哉たちの前まで歩み出ると、高木の団体を直視した。


 千里:「……張三、おまえ…………」


 張三:「………………」


 千里はとても失望した様子で、張三は全く気にすることなく視線をそらした。


 高木:「醜悪だと? 人間も同じ動物だ。動物である以上、本能と欲望には従うべきだ」


 千里:「確かに人間は動物だ。だが他の動物と違う。人間は発達した脳を持っている。思考能力を持ち、思想を持ち、道徳を持てる。それらがあるからこそ、人は人足り得るのだ。動物としての本能だけに従うのなら、ケモノと何が違う?」


 高木:「………………」


 高木の団体に直面してひるまない千里の姿に、後ろの人々は思わず声を上げて励ました。


 「よく言った! もっと言ってやれ!」


 「そうだそうだ!」


 千里:「法律は確かに束縛だ。だが束縛するのは、おまえらのように他人や社会に危害を加える者だ。法律は人に対しての最低の道徳的要求であり、おまえらの言う弱者を守る武器だ。今俺たちがいるこの場所には確かにその国家が与える武器はない。だが、人のいるところに社会は生まれ、社会があれば必然的に道徳的要求が生まれる。そして大多数の人が他人に求める最低限の道徳的要求は、法律と同じか、あるいはそう差はない。つまり、こんな法律のない場所であっても、おまえらが人々の道徳の最低ラインに触れることをすれば、同じく歓迎されず、許されないのだ」


 高木:「……ほお。よく言うな。中国の大学生だったか? おまえの国の連中はみんなこんな感じか?」


 千里:「俺は俺。他の人は他の人だ。俺は他人を代表できない。俺に代表できるのは自分自身だけだ。いい事でも悪い事でもな。例えばそこにいる奴も中国人で大学生だ。俺とあいつが同じに見えるか」


 張三:「……チッ」


 高木:「ふっ。よかろう。俺たちは許されない。で?」


 千里:「残念ながらここには力になってくれる国家機関がない。だから俺たちは自分のやり方で自分を守るしかない。皆がどうするかは俺にはわからない。だが武力の使用を含むのは間違いないだろう」


 比口:「ケッ、くだらねえこと長々としやがって、結局拳で解決するじゃねえか」


 倉岡:「なら来いよ」


 倉岡は手にしたナイフで挑発的な動作をし、ピアスをした男青年と斜め前髪の長い男もズボンのポケットから折り畳みナイフを取り出して開いた。表情の読めない高木を除いて、高木団体の男たちは全員嗤笑している。


 その様子を見て、千里と斗哉はこの前高木の団体が後方で皆を観察していた意図を理解する。それは同類を見分け、説得して自分たちに加わらせ、勢力を増強するためだった。


 斗哉:「もう1本あったのか……クソっ」


 斗哉は小声で罵った。


 彼が以前推測していた<ピアスをした男青年がナイフを隠し持っている>は正しかった。けれどもう一人もナイフを隠し持っているとは思わなかった。





 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

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