0091 - 第 2 巻 - 第 2 章 - 08
約15分後、狩りに出ていた者たちはほぼ同時に戻ってきた。誰も獲物を獲れていない。皆が彼らに事の経緯を説明した。
千里:「…………まさかそんな事が起こるとは」
斗哉:「千里、どう思う?」
千里は周囲を観察し、少し考えてから答えた。
千里:「……昨日と一昨日もリスを見かけたが、その反応から彼らは人を恐れていると思っていた。だが、皆の話からあのリスは人を恐れず、非常に獰猛に攻撃してきた。となると、何かがそのリスを刺激したんだろう。その時、君たちの喧嘩は声が大きかったか?」
斗哉:「別に大した声じゃねえよ。強いて言うならあいつの声がでかいだけだ」
だらしない格好の男:「アあん?!」
斗哉:「このようにな」
千里:「うーん……音量で言えば昨夜の方がうるさかった。それに昨夜と違って今は火も焚いていない。煙のせいじゃなさそうだ……いや、もしかしてタバコ? 襲われたのは光多さんと……えっと?」
だらしない格好の男:「倉岡だ! おまえ、アレはタバコ吸う奴だけを狙うって言いたいのか?」
千里:「皆の話によると、あのリスは最初から最後まで他の誰も攻撃しなかった。それにあんたと光多さんがリスの降りてきた木に最も近かったわけでもない。他の人を無視してあんたらだけを攻撃した。目標が明確なように感じる」
「一理ある」
「たしかに」
「あの時わたしと目が合ってた。わたしの方に来るかと思ったらスルーされた……」
「私も!」
他の者たちも小声で同意した。
斗哉:「はは! リスですらタバコは我慢ならねえとか?」
慧子:「そういえば光多さんの傷口には肉の欠損がほとんどない。つまりリスは食べるためではなく、単純に攻撃していただけというわけだ」
倉岡:「はあ? なにアホなこと言ってやがるんだ? クソリスがんな知能持ってるわけねえだろ」
斗哉:「じゃあ今もう1本火つけてみたらどうだ? 検証にちょうどいいぜ」
倉岡:「ぐっ!」
倉岡は昨夜タバコを吸っていた時、巨木から2度物が落ちてきたことをふと思い出す。1度目はごく細い小枝、2度目は齧り尽くされた果物の芯で、果物の芯は危うく彼に当たるところだった。
千里:「実際、タバコの臭いを嫌う動物はいる。猫や犬とか。だがこれは単なる仮説だ。他にも何かの原因があるかもしれない。動物の行動は我々人間が完全に理解できるものではない。ましてここは異世界、未知のことばかりだ。だから俺たちはこれから注意しないといけない。なるべく彼らを刺激するような行動は控えよう。まあ、狩りは仕方ないが」
健一:「おおおお俺、リスに石投げたことある……う…恨まれたりしないかな……?」
千里:「わからないね」
千里のあっさりとした一言に、健一はさっと巨木に向かって跪き「あああああああリス様お許しをぉぉぉ!!」と叫んだ。
進:「それで千里、オレたちは今どうすべきだ?」
千里:「光多さんを埋葬して、ここを離れよう。元の計画通りに移動だ。それから、皆これからは木の上にもっと気を配ること」
進:「……わかった」
高木:「…………………………」
高木の団体は戻ってからずっと沈黙を守り、ただ会話を聞き、人々を観察しているだけだった。
光多を埋葬するため、皆は湧き水から離れた巨大な根元を埋葬地点に選んだ。
男性たちは地面に墓穴を掘ろうとしたが、道具がないため地面を掘るのは難しく、話し合いの末、墓穴を掘るのは断念することにした。
千里と進が光多の遺体を埋葬地点まで運ぶ役割を担った。血に触れないよう、二人は何層もの葉っぱを隔てて運ぼうとする。
宏人:「俺がやるよ、千里。君は飲食業だろう、こういうことはやめた方がいい」
千里:「……ありがとう、頼む」
進と宏人が光多の遺体を運び終えると、皆は大量の葉っぱと枝で遺体を覆い、枝と石で簡易的な墓標を作った。
最後に一部の人が光多の墓前に集まり、簡単な黙祷を捧げた。
進:「……あなたのライターを貸してください」
進は遺体を運ぶ前に光多が地面に落としたライターを拾っており、用が済むと斗哉に手渡した。
そして、48人は昨夜の計画に従い小渓流に沿って進んだ。千里と進ら狩猟チームが前を歩き、大部隊が中間、高木の6人団体が最後尾についている。全員の表情は決して明るくはなかった。
昨日十分なエネルギーを摂取できたおかげと、方向が明確でいつでも水が補給できるため、集団の移動速度は千里の予想よりも速い。故に休憩中に狩りを行う時間ができた。
移動中、狩猟中、休憩中と、皆は次々と新しい遭難者を発見するか、新しい遭難者に発見された。その数は12人に達する。
拠点を出発してから約6時間後、集団はついに比較的开けた区域に到達した。
そこには中型の池と、巨大な根元の下に隠されたテント、そして空が見えた。
「ついに着いたか!」
「おおおおおー!」
「マジで湖あるじゃん!」
「見て! 魚がいる!」
「周りで水飲んでる動物もいる!」
「あそこにテントがあるわ!」
「良かった!」
「最高!」
「……ついに着いた……足爆発しそう……」
池の水は澄んでおり、多くの魚が泳いでいるのが見えた。水面がキラキラと陽光を反射している。
資源がこれほど豊富なこと、そして空には巨木に遮られていない区域があるのを見て、皆は歓声を上げ、息も少し楽になったように感じた。
駿:「千里! 兄貴って呼ばせてくれ!」
千里:「やめろよ……駿の方が4歳も年上だろ」
彩乃:「これなら皆、君がリーダーになるのに反対しないと思う」
楓:「私もそう思う。千里はとても優秀だ」
進:「ああ!」
斗哉:「…………」
千里:「その話は後でだ。まずはあのテントの状況を確認しに行く」
進:「オレも行く」
紗奈:「私も!」
千里:「ああ。熊村さん、ウサギを焼いて新しく来た人たちに分けてくれませんか」
慧子:「わかった。誰か手伝ってくれる人探すわ……なんて言ったっけ……大谷!」
亮太:「……小谷ですぅ……」
慧子:「あらごめん。手伝ってよ、体を動すためにも」
亮太:「は…はい……」
ぽっちゃり体型の亮太は心の中で「6時間も歩いたばかりじゃないか……」と呟いたが、承知した。
千里たちがテントにもうすぐ到着するところへ、テントの所有者ともう一人が丁度森から戻ってきた。それは20代の女性と男子高校生で、焚き木を拾っている最中に喧噪を聞き、急いで戻ってきたのである。
そして双方は情報交換を行った。
20代の女性はキャンパーで、異変発生時にはたまたまキャンプ道具一式を持ち歩いており、しかも出現地点がこの池の近くだったため、他の人々に比べてとても快適に過ごしていた。
もう一人は初日に食パンを強制交換された眼鏡をかけた18歳の男子高校生だった。
あれから彼はひたすら歩き続け、砕けたインスタントラーメンをすべて食べ終えた後、2日目に池の近くで倒れ、女性キャンパーに救助された。
彼は自分の食パンを奪った者も人だかりの中にいるのを見て気分を悪くした。
女性キャンパーの話によると、池周辺の生態系は確かに千里たちが出現した場所や前の拠点よりずっと良かった。ただし注意が必要なのは、どうやら巨大な鹰に似た鳥類が池の水を飲みに来る小型動物を狩りに来るらしいということ。
交涉の末二人は集団に加わり、そして女性キャンパーは快く自分の装备を皆に提供した。例えば巨大な鹰から襲われないよう、8歳の女子小学生未羽や必要とする人がテントで寝られるようにすること、そして料理担当者に携帯のガスコンロとナイフを使わせることなど。
もし敢えて惜しい点を挙げるとすれば、塩などの调味料がないことだった。
千里:「ありがとうございます。これでだいぶ便利になります」
女性キャンパー:「いえいえ、こんなに多くの人がここにいるって知れただけでも安心したよ。それに正直言うと私たちは狩りができないから、餓死しちゃいそー。こういうウィンウィンなこと、やらない理由なんてないよ」
千里は微笑んでうなずくと、さっきの場所に戻り、ナイフとガスコンロ、そして小型の鍋を慧子に手渡した。
慧子:「わあ! ついにまともな刃物が!」
千里:「皆さん、聞いてください。これからここを拠点にします。ですがここには大きな鹰が出没するらしいので、安全のため、休む時は木の根元の下に行ってください。できれば枝や葉っぱを拾って簡易的な木の棚を作りましょう。そうすれば動物に襲われる確率を減らせます」
女性の声:「わかったわ!」
女性の声:「はいー!」
男性の声:「よおっ、大学生! 頼もしいな」
千里:「人数も増えたことだし、夜にでも自己紹介をしましょう。狩猟チームはまず近くを探索してきます。皆さんは自分のペースでやるべきことをやってください。それから、2日も経ったことだし、もし狩猟チームに加わりたい人がいたら言ってください。ここで魚を獲るのでも構いません。そうじゃないと50、60人分の獲物はさすがにキツい……」
男性の声:「はははは!」
女性の声:「ふふ……」
男性の声:「か…考えとくよ……」
颯真:「うーん――……………………」
高木:「…………」
千里:「それでは行ってきます」
そう言うと、千里は狩猟チームの他の4人を連れて森へと入った。
斗哉:「…………おばさん」
女性キャンパーから借りたナイフでウサギの処理に没頭している慧子は、すぐさま「誰がおばさんだ!」と返事した。
斗哉:「場所変えろ、あの連中から離れるんだ」
慧子:「は?」
慧子は斗哉の言う意味を理解しようと顔を上げると、斗哉の真剣な表情と、後ろで自分たち、正確には女性キャンパーが提供した道具を良からぬ目で見つめる高木の団体を目にした。
慧子:「…………わかった」
高木の団体の狩猟チームもいつしか狩りに出かけていた。
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